上 下
39 / 72
エピソード8

我慢の六カ月⑤

しおりを挟む
改札を出たら一瞬で目につく千夏がいた。



(なんか無駄に可愛いな、なんだこれ)



いつもより気合を入れました、みたいな千夏が何か考えるように立っていたのでとりあえず声をかけた。



「待ってられなくて。お帰りなさい」



(待ってられないってなんだ、どんだけ可愛いんだ)



「……ひとり?」

また変な事を聞く。



新幹線乗り場で列を作っていたトンカツ屋の弁当を見せたら不安そうだった目の色がいきなり輝いて、あぁ、いつもの千夏だと安堵した。



もう多分今日理性に負ける、そう思っていた矢先の事だ。

玄関からなかなか入ってこない気配に気づいて振り向くと千夏がいきなり声を荒げた。



「名古屋で誰といたの?」

「……え?」



「仕事って思ってる。思ってるけど、わかってるけど……ほんとに帰れなかったのは地震だけ?」

話がよく見えない。



「地震がなくてもなんか理由つけて名古屋に残ってた?」

「え?なんで?」

「なんでって……女の人と一緒だったよね?」



(……おんな?)



「見ちゃったの、木曜、駅の改札で。女の人にチケット渡してた」



(……チケット?)



記憶を遡らせてハッとたどり着く。



「一緒に行ったの?向こうでその人と過ごしてた?どういう関係?」

くちびるを震えさせて今にも泣きそうな千夏にすぐに安心させてやればいいものの……。



(すげー勘違い。何言う気だろうか)



腹黒い俺が出てきてしまった。



「疑ってる、とかじゃないけど。でも見ちゃったから……どうしても気になって。聞きたくないけど、知りたくて。あの人がなんなのか……なんであの人と名古屋に行ったのか、どういう関係なのか……頭から離れない」

ボロっと涙がこぼれ落ちた。



泣かせてようやくハッとして千夏のそばに歩み寄る。



「千夏……」

名前を呼ぶと大きな瞳を潤ませて見つめてくる。



「あの人だれ?私より好きな人?」



揺れる瞳は昔とは違う。

前なら身を引こうとしてたのになとフト思い出した。けど、今この瞳は仕事してる時と同じような自分の気持ちを揺るがせない強い意志を持っている。



(馬鹿だなぁ、でも馬鹿すぎで可愛すぎる)



「……あれ、佐藤の奥さん」

「……ん?」



「だから、佐藤の嫁、同期の夏目。佐藤も出張で嫁も行くってほんとに来ただけ。改札で二人が待ち合わせてるところに俺が先に着いただけの話」

そう言うと千夏の目が困惑したように彷徨う。



「…ち、チケットは?」

「俺と佐藤は会社で取ってるんだから連番になるだろ?俺の分を夏目と替えてやった」



「………えっと、ほ、ほんと?」

「嘘のつきようがないけど。浮気してると思ったって?」

頬を伝った涙の跡をぬぐいながら聞くと眉毛がへにゃんと下がった。



「だって……一緒にいたからぁ、チケット……渡してたからぁ」

涙がまたポロポロとこぼれ始めた。



「浮気……て、思ったわけじゃ、ないけど」

「火遊びでもしてるって?お前ひどくない?それ」笑うと睨まれた。



「そうだよ!ひどいよ!私が……変なこと言った私のせいなんだけどっ」

「変なこと?」



「……面倒くさいこと、いう私より応えてくれる人のがいいのかって……自分のせいなのに、誠くんのこと疑って、自分にひどいと思って……ひっく、ぅ」

嗚咽混じりで千夏が話しだして止めるに止めれなくなった。



「エッチ、したくないなんて言ったつもりじゃ……なかったっ、恥ずかしくてっ、ただ……それだけ、なのに変な風に言っちゃって……どうしたらいいかわかんなくなっ、でも、出張行っちゃうし……女の人、いて。もう、私なんかよりもっとちゃんと応える人のこと、好きになるのかなぁって――」

そこまで言った口を塞ぐ。啄むように甘く噛むと熱い息をこぼした。



「……はぁっ、ぁ」

「……泣きすぎ。とりあえず上がって弁当食うか」



ギリッギリの理性でなんとかそう言ったのに千夏がまだ煽り始める。



「――したい」

「……いや、ここ玄関…「いい」

「……千夏、トンカツ弁当だぞ?名古屋の有名な……「いい」



千夏の腕が首に巻きついて口びるを重ねてきた。



「えっち、してほしい。したいの、だめ?」



(トンカツに勝った……)



「今すぐ、誠くんに抱かれたい」



どストレートな言葉に理性なんかもう瞬間で切れた。

噛み付くようにキスしたら回された腕により力が入ってしがみついてきた。





――――――――――――――――――





熱いくちびるが、舌が、息が身体中を刺激する。



「……ここ、玄関だぞ?」

「どこでもいい」

そう言ったら笑われた。



「場所考えろって、言ったのお前じゃん」



誠くんにお前って呼ばれるのが実はすごい好き。



「い、のっ……もう、んんっ」



骨張った手が胸を鷲掴んでもう片方の手が腰を抱きかかえる。



「時間もいいの?まだ昼だけど」



この状態でまだ聞いてくるの本当に性格悪いと思う。



「嫌なの?」

「言っとくけど、俺は嫌なんか一回も言ってないんだけど」



「……そうでした、ンッ」

「千夏のさ……」

くちびるが触れるような距離で言われてうっすらと目を開けると、優しい目とぶつかる。



「嫌がることは、したくないって思ってるんだけどさ。だんだん……」

「……え?んっ」

誠くんのくちびるが鎖骨に胸の谷間に落ちてくる。



「ふ……ぅんっ」

「ダメなんだよ、もう。お前のこと、自由にしてやれない」

「え……っんんっ」

ブラウスのボタンがいつのまにか外されて上半身があらわになる。



「ふぁ!」

一瞬でブラのホックが外された。



「なに?その声」

フッと笑われて睨む。



「だって、早技すぎる……から」

そう言うとまた笑って胸の先端をペロリと舐められた。



「んあ!」

「……感じやすいなぁ、千夏は」



「ちが、ぁうっん、まこと、くんの……せぃだも」

「えー?俺のせいかな」

腰をぐっと引き寄せられて見下ろされる。



「……でも、俺のせいでいいや」

「ぁんっ!」



「ちなつが、はぁ……」誠くんの声が……。

「俺に支配されていくの……」息が……。

「いいな……」



「あんっっ、は、ぁっ」何を……今更言っているのか。



「ずっと、そうだよ……」



誠くんの首に腕を回してギュッと抱きしめる。

こんなに好きになったのも、何もかも許せるのも、許してくれるのも――。



「もう、最初から誠くんだけだもん、全部全部……誠くんのものだもん」



「――それ、今ここで言ったらダメだろ」

「なんで?」



「……なんでって」はぁ、とため息をつかれたと思ったら腕を引っ張られて部屋に上げられた。



「わ、ちょ、誠くん?!」



上の服が剥がれるように脱げ落ちていく。寝室の扉を開けられてグイッと引っ張られるとそのままベッドに押し付けられた。



「んんっ!」

「お預けくらってるところにそんな可愛いこと言うのはダメ。何されても文句言えないぞ」



(何されてもって……)



「な、なにするの?」

「……なにしようか?」

ニヤリと笑われて顔が赤くなる。足をグイッと持ち上げられて膝上にキスされた。



「ぁっ……」

膝からうち太ももにくちびるが這われて体がびくりと反応した。



(は、恥ずかしい……)



羞恥心から開かれた足が勝手に閉じようとするけれど我慢した。



「……っん」

恥ずかしさで鼻から息が漏れた。



「恥ずかしいの?」

誠くんが見上げて聞いてくるから素直に頷くけれど心の中で溜めていた気持ちを吐き出した。



「は、ずかしぃ……けど」

「……けど?」

ちゅうっと太ももに口付けられて体が跳ねた。



「ひやぁっ!」



柔らかい太ももに赤い跡がつけられる。その刻印が誠くんのモノだと言われているようで胸が締め付けられて、私が誠くんに隠せるものなんかなにもないじゃないかと思う。



「……嫌とかじゃ、ないから。その、恥ずかしいだけで……嫌じゃ……ないの。誠くんにされること、ぜんぶ……すき」



気持ちを吐くと誠くんがベッドに突っ伏してしまった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

甘やかしてあげたい、傷ついたきみを。 〜真実の恋は強引で優しいハイスペックな彼との一夜の過ちからはじまった〜

泉南佳那
恋愛
植田奈月27歳 総務部のマドンナ × 島内亮介28歳 営業部のエース ******************  繊維メーカーに勤める奈月は、7年間付き合った彼氏に振られたばかり。  亮介は元プロサッカー選手で会社でNo.1のイケメン。  会社の帰り道、自転車にぶつかりそうになり転んでしまった奈月を助けたのは亮介。  彼女を食事に誘い、東京タワーの目の前のラグジュアリーホテルのラウンジへ向かう。  ずっと眠れないと打ち明けた奈月に  「なあ、俺を睡眠薬代わりにしないか?」と誘いかける亮介。  「ぐっすり寝かせてあけるよ、俺が。つらいことなんかなかったと思えるぐらい、頭が真っ白になるまで甘やかして」  そうして、一夜の過ちを犯したふたりは、その後…… ******************  クールな遊び人と思いきや、実は超熱血でとっても一途な亮介と、失恋拗らせ女子奈月のじれじれハッピーエンド・ラブストーリー(^▽^) 他サイトで、中短編1位、トレンド1位を獲得した作品です❣️

同居離婚はじめました

仲村來夢
恋愛
大好きだった夫の優斗と離婚した。それなのに、世間体を保つためにあたし達はまだ一緒にいる。このことは、親にさえ内緒。 なりゆきで一夜を過ごした職場の後輩の佐伯悠登に「離婚して俺と再婚してくれ」と猛アタックされて…!? 二人の「ゆうと」に悩まされ、更に職場のイケメン上司にも迫られてしまった未央の恋の行方は… 性描写はありますが、R指定を付けるほど多くはありません。性描写があるところは※を付けています。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

処理中です...