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エピソード6
思い出の四カ月③
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うつらうつらと目を閉じそうだけれど、今日は寝落ちずかろうじてまだ起きている。
「誕生日、なにほしい?」
問いかけたその言葉にぼんやりしていた瞳がゆっくりだけど確実に開いた。
「――え」
「ちゃんと言えよな、ほっといたら気づかずに日が過ぎてるだろ」
千夏の誕生日が今月末にくるというのは偶然知れた、それも人伝にだ。
今まで恋人に対してのイベントとかに疎い俺のただの失態なだけだけど。
「……誠くん誕生日いつ?」
「二月三日」
「節分なんだ……」
「俺の話してないし。なんかないの?欲しいものとかしてほしいこととか」
なんでも聞いてやりたい気でいる。
「……ほしい、もの」
身体を起こして俺の胸にくっついてきてなにか考えている。
頭の下に腕を通して抱えるようにしてやると肌をさらに擦り寄せた。
「なんでもいいよ」
迷っている風なのでそういうとまた迷った声で呟いた。
「……なんでも?え、なんだろ」
付き合いだしてあっという間に四カ月ほどが過ぎた。その期間でわかったのは、千夏は物欲がかなり低いということだ。
(食い物に関しては貪欲だけどな……)
服とかは好きそうだけど、装飾品を身に着けているイメージがあまりない。
たまにシンプルなネックレスをしてる時はあるが、決まっていつも同じやつだ。ピアスは……耳元の髪を撫でるようにかきあげてみたが――開いていない。
千夏が俺のものだというわかりやすい証が欲しい。
「――指輪、とかは?」
こんなこと初めて聞いた。
だから変に緊張して、静かに高鳴る胸に気づかれないようにサラッと言った。
どう反応するだろう、とか思う前に一瞬でぶった斬られてしまう。
「いらないかな」
「……なんで?」
スルーしたら良かったのに思わず聞いてしまった。
「えー、だって」
(重いとか?縛られてるみたいで嫌だとか?)
そう思ったのは俺が昔感じた気持ちだ。そんなモノに縛られて所有物感を持ちたいのかと冷めた自分がいた。
そんな自分がいたのに、わざわざ聞いていらないと言われてしまう。
(なんか滑稽だな……)
客観視したらむしろ笑えてきたところに千夏が恥ずかしそうに言った。
「指輪は、ね?結婚する時のために大事にとっておきたい、から……って、ごめん!昔からの変なこだわりなだけ!妄想癖が強いの!重く受け止めないで!変な意味にとらないで!」
(……いらない理由もだけど、必死に弁解するのが可愛すぎるんだが)
「……結婚は、左の薬指だろ?」
「え?」
千夏の右手を取り白い指先にくちびるを這わせた。
「右手も空いてる」
その言葉にカァッと顔が赤くなる。
「欲しいもんがすぐ見つからないんなら、虫除けのためにつけてて」
もうこの手を他の誰にも触られたくないから。
――――――――――――――――
内緒にしてたわけじゃなく、単純に失念していたに近い。
年々誕生日が特別嬉しいものでもないからだ。
親友がお祝いにヒルトンホテルのケーキバイキングに行こうと誘ってくれてそれが楽しみと高田さんにこぼしていた。
「高田さんから聞いてビビった俺の気持ちを察しろ」
「誕生日の話というよりケーキバイキングの話をしてたから……ねぇ、ここ?た、高いよ?」
翌日、早速指輪を買いに行くと言う誠くんに手を引かれて入ろうとする店に足が止まってしまう。
年相応の女子が憧れる、王道のブランドブルーカラーに白い文字、この店に最初に入るあたり慣れすぎでしょう、と思う。
「誕生日だしいいだろ」
そういう問題でもない。
(今までの彼女たちにもこんな風に贈っていたのかな……とかせっかく連れてきてくれてそういうこと考えるのダメだよね)
多少悶々した気持ちを抱えつつ、店内に入ってガラスケースを覗いていたらそんな気持ちぶっ飛ぶほどに思考が目の前に切り替わった。
(……た、高くない?!)
「千夏?」
「はい!」
「いいのない?他の店行く?」
「……いや、その……高くて、気後れしてるだけ」理由に笑われた。
「それは気にしなくていいから。今までも物欲とか全然ないじゃん。大してどこかにも連れてってないし、甘えるのも大事」慣れようか、と頭をさすられた。
(店先でイケメンがこんな甘かすのとか色んな意味で死ねる!!)
「気になる物ございましたらぜひはめてご覧になってくださいね」
落ち着いた綺麗なお姉さんが声をかけてきた。
「あ、じゃあ彼女に似合いそうなの何個か出してもらえますか?」
誠くんがサラッと店員さんにそう告げた。あわあわする私の横でなぜそんなスマートにこなすのか。
イケメンは何をしてもイケメンすぎる。
(一緒にいて恥ずかしくなるんだけど、大丈夫か、私)
「ご結婚指輪でしょうか?」
「ちがいます!」
即座に全力で否定してしまった。
誠くんと店員さんがビックリして私を見つめている。
「あ、ぅ、えっと……」
しどろもどろな私を見て、誠くんがプッと吹き出した。
「プライベート用で。普段も軽くつけられそうなやつお願いします」
笑いながら定員さんに告げてくれて店員さんも笑顔で対応する。
「かしこまりました、少々お待ちくださいませ」
ガラスケースを開けて体をかがめたのを見てからこそっと腕を引っ張る。
「普段使いにできる金額じゃな……「しつこい。あ、ちょっとまた電話。ごめん、見てて?」
意見しようにも聞いてくれそうにない。
だって高い、高いしか思えなくて金額にしか目がいかない。
(慣れてないのももちろんだけど貧乏性な自分が情けないけど、こんなに高いものもらえないよぉ)
色んな意味で恥ずかしくなっていると、「素敵な彼氏さんですね」店員さんの柔らかな声に顔をあげた。
「……はい、その、もう……素敵すぎて」
(ついていけません……)
「よろしいじゃないですかぁ、あんな風に言ってくださるように、素直に甘えられたら~。むしろその方が可愛いと思ってもらえますよ?」
「そ、そうでしょうか?」
(でも高い、ってそれしか言えない私ってどうなんだろう)
「贈りたいという気持ちは値段でははかれないでしょお?彼女さんも彼にしてあげたいことがある時そんな算段されます?」
「それは……」
「彼がしたいとおっしゃることなら素直に甘えられたらよろしいかと」ニコッと微笑まれる。
(さすが商売上手……うまく乗せられてしまう)
「一度指にはめてみてゆっくりご覧になってください。こちらのVバンドリングはいかがですか?指先を綺麗に見せてくれます。お色もピンクゴールドでお客様の柔らかい雰囲気によくお似合いですよ。シンプルですがデザインがとても洗練されていておすすめです」
促されるまま手を伸ばして指先にスッと差し込まれる。
(キレイ……)
アクセサリーをつけるとしても指輪はしない。指も細くないし付ける理由がそもそもなかったからだ。彼氏なんかいなかったし、歳を重なるたびにつけるのに気が引けて、ファッションリングさえつける気にはならなかった。
「単独でつけられても重ね付けされても可愛らしいですよ。それこそ将来……ね?」
店員さんの言葉に一瞬ポカーンとして、ニコッと微笑まれて意味を理解した。
顔がカァーっと熱くなる。
「とてもよくお似合いです」
そう告げた店員さんの視線は私には向いていなかった。
「ごめん、いいのあった?」
「あ、電話大丈夫だった?」
「うん、また明日考える。もう考えたくないし。どれ?」
指輪をはめた手を掴まれた。
「シルバーよりそっちの色のが似合いそう。たまに付けてるのもゴールドじゃない?」
言われる通り、昔からゴールドが好き。
普段身につけるアクセサリーはゴールドにしても、マリッジリングだけはシルバーがいいなとか夢見る頃から考えていた。
(現実にないから妄想と夢だけで生きてきたよな……)
指輪を見つめながらしみじみと思う。
店員さんが誠くんに説明とかをしていた気がするけど、綺麗に指におさまるリングに見惚れてちゃんと耳に入ってこない。
「気に入った?」誠くんが覗き込んでくる。
「……うん」
頷く私に微笑んで店員さんに言う。
「これください」
(相変わらず仕事が早い)
「あの」店員さんに声をかけて呼び止めた。
「……このままつけて帰りたいです」
「かしこまりました、一度クリーニングしてお箱も用意してきますので少々お待ちくださいませ」
――――――――――――――
贈った指輪をはめて帰りたいと言ったのは千夏らしいとはいえ可愛かった。
「ありがとう、大切にするね」
「ちゃんとつけろよ」
大切にすると言葉通り箱にしまっておきそうだからそこはちゃんと指摘しておく。
「……つけます」
頬をピンクに染めて嬉しそうに微笑む。
「素敵な彼氏さんですねって言われた、店員さんに。他の人も誠くんのこと見てたよ」
「知らないし、そんなん」
「お店にも慣れてたもんね~」
その言葉に振り向いたら、バツが悪そうな顔をした。
「――ごめん、せっかくプレゼントしてもらってるのに、可愛くないこと言った。ただの、ヤキモチ。その……ごめんなさい」
まだほんのりと頬を染めて言いにくそうに謝る。
「――言いたいことは、なんとなくわかるけど」
(過去のことを言い出したらキリないだろ)
「千夏よりそりゃN数はあるからなぁ」
意地悪を言いたくなった。
「N数っ!」
その反応に笑ってしまった。
「言い方ひどいよ?失礼だよ?ねぇ」
「責めたいのか庇いたいのかどっちだよ」
「だって、付き合ってた人のこと……N数て、個数扱いする?ひどぉ!」
「買って欲しいって言われたことはあっても買ってやりたいて思ったのは初めてかな」
あんまりうるさく噛み付いてくるからそう言ったら、あっという間に千夏の口は塞がった。
「欲しいって言われて買いたかったわ、どうせなら」
「そんな……こと、言えません」
「なんで?」
「指輪なんて……簡単につけちゃダメです。その、自惚れるから」
(いちいち真面目だなぁ)
けれどこれで彼女の指に俺がずっと欲しかった証がついた。
そんなことがこんなに多幸感を得られるなんて知らなくて、多分千夏より俺が満たされている気がしていた。
「誕生日、なにほしい?」
問いかけたその言葉にぼんやりしていた瞳がゆっくりだけど確実に開いた。
「――え」
「ちゃんと言えよな、ほっといたら気づかずに日が過ぎてるだろ」
千夏の誕生日が今月末にくるというのは偶然知れた、それも人伝にだ。
今まで恋人に対してのイベントとかに疎い俺のただの失態なだけだけど。
「……誠くん誕生日いつ?」
「二月三日」
「節分なんだ……」
「俺の話してないし。なんかないの?欲しいものとかしてほしいこととか」
なんでも聞いてやりたい気でいる。
「……ほしい、もの」
身体を起こして俺の胸にくっついてきてなにか考えている。
頭の下に腕を通して抱えるようにしてやると肌をさらに擦り寄せた。
「なんでもいいよ」
迷っている風なのでそういうとまた迷った声で呟いた。
「……なんでも?え、なんだろ」
付き合いだしてあっという間に四カ月ほどが過ぎた。その期間でわかったのは、千夏は物欲がかなり低いということだ。
(食い物に関しては貪欲だけどな……)
服とかは好きそうだけど、装飾品を身に着けているイメージがあまりない。
たまにシンプルなネックレスをしてる時はあるが、決まっていつも同じやつだ。ピアスは……耳元の髪を撫でるようにかきあげてみたが――開いていない。
千夏が俺のものだというわかりやすい証が欲しい。
「――指輪、とかは?」
こんなこと初めて聞いた。
だから変に緊張して、静かに高鳴る胸に気づかれないようにサラッと言った。
どう反応するだろう、とか思う前に一瞬でぶった斬られてしまう。
「いらないかな」
「……なんで?」
スルーしたら良かったのに思わず聞いてしまった。
「えー、だって」
(重いとか?縛られてるみたいで嫌だとか?)
そう思ったのは俺が昔感じた気持ちだ。そんなモノに縛られて所有物感を持ちたいのかと冷めた自分がいた。
そんな自分がいたのに、わざわざ聞いていらないと言われてしまう。
(なんか滑稽だな……)
客観視したらむしろ笑えてきたところに千夏が恥ずかしそうに言った。
「指輪は、ね?結婚する時のために大事にとっておきたい、から……って、ごめん!昔からの変なこだわりなだけ!妄想癖が強いの!重く受け止めないで!変な意味にとらないで!」
(……いらない理由もだけど、必死に弁解するのが可愛すぎるんだが)
「……結婚は、左の薬指だろ?」
「え?」
千夏の右手を取り白い指先にくちびるを這わせた。
「右手も空いてる」
その言葉にカァッと顔が赤くなる。
「欲しいもんがすぐ見つからないんなら、虫除けのためにつけてて」
もうこの手を他の誰にも触られたくないから。
――――――――――――――――
内緒にしてたわけじゃなく、単純に失念していたに近い。
年々誕生日が特別嬉しいものでもないからだ。
親友がお祝いにヒルトンホテルのケーキバイキングに行こうと誘ってくれてそれが楽しみと高田さんにこぼしていた。
「高田さんから聞いてビビった俺の気持ちを察しろ」
「誕生日の話というよりケーキバイキングの話をしてたから……ねぇ、ここ?た、高いよ?」
翌日、早速指輪を買いに行くと言う誠くんに手を引かれて入ろうとする店に足が止まってしまう。
年相応の女子が憧れる、王道のブランドブルーカラーに白い文字、この店に最初に入るあたり慣れすぎでしょう、と思う。
「誕生日だしいいだろ」
そういう問題でもない。
(今までの彼女たちにもこんな風に贈っていたのかな……とかせっかく連れてきてくれてそういうこと考えるのダメだよね)
多少悶々した気持ちを抱えつつ、店内に入ってガラスケースを覗いていたらそんな気持ちぶっ飛ぶほどに思考が目の前に切り替わった。
(……た、高くない?!)
「千夏?」
「はい!」
「いいのない?他の店行く?」
「……いや、その……高くて、気後れしてるだけ」理由に笑われた。
「それは気にしなくていいから。今までも物欲とか全然ないじゃん。大してどこかにも連れてってないし、甘えるのも大事」慣れようか、と頭をさすられた。
(店先でイケメンがこんな甘かすのとか色んな意味で死ねる!!)
「気になる物ございましたらぜひはめてご覧になってくださいね」
落ち着いた綺麗なお姉さんが声をかけてきた。
「あ、じゃあ彼女に似合いそうなの何個か出してもらえますか?」
誠くんがサラッと店員さんにそう告げた。あわあわする私の横でなぜそんなスマートにこなすのか。
イケメンは何をしてもイケメンすぎる。
(一緒にいて恥ずかしくなるんだけど、大丈夫か、私)
「ご結婚指輪でしょうか?」
「ちがいます!」
即座に全力で否定してしまった。
誠くんと店員さんがビックリして私を見つめている。
「あ、ぅ、えっと……」
しどろもどろな私を見て、誠くんがプッと吹き出した。
「プライベート用で。普段も軽くつけられそうなやつお願いします」
笑いながら定員さんに告げてくれて店員さんも笑顔で対応する。
「かしこまりました、少々お待ちくださいませ」
ガラスケースを開けて体をかがめたのを見てからこそっと腕を引っ張る。
「普段使いにできる金額じゃな……「しつこい。あ、ちょっとまた電話。ごめん、見てて?」
意見しようにも聞いてくれそうにない。
だって高い、高いしか思えなくて金額にしか目がいかない。
(慣れてないのももちろんだけど貧乏性な自分が情けないけど、こんなに高いものもらえないよぉ)
色んな意味で恥ずかしくなっていると、「素敵な彼氏さんですね」店員さんの柔らかな声に顔をあげた。
「……はい、その、もう……素敵すぎて」
(ついていけません……)
「よろしいじゃないですかぁ、あんな風に言ってくださるように、素直に甘えられたら~。むしろその方が可愛いと思ってもらえますよ?」
「そ、そうでしょうか?」
(でも高い、ってそれしか言えない私ってどうなんだろう)
「贈りたいという気持ちは値段でははかれないでしょお?彼女さんも彼にしてあげたいことがある時そんな算段されます?」
「それは……」
「彼がしたいとおっしゃることなら素直に甘えられたらよろしいかと」ニコッと微笑まれる。
(さすが商売上手……うまく乗せられてしまう)
「一度指にはめてみてゆっくりご覧になってください。こちらのVバンドリングはいかがですか?指先を綺麗に見せてくれます。お色もピンクゴールドでお客様の柔らかい雰囲気によくお似合いですよ。シンプルですがデザインがとても洗練されていておすすめです」
促されるまま手を伸ばして指先にスッと差し込まれる。
(キレイ……)
アクセサリーをつけるとしても指輪はしない。指も細くないし付ける理由がそもそもなかったからだ。彼氏なんかいなかったし、歳を重なるたびにつけるのに気が引けて、ファッションリングさえつける気にはならなかった。
「単独でつけられても重ね付けされても可愛らしいですよ。それこそ将来……ね?」
店員さんの言葉に一瞬ポカーンとして、ニコッと微笑まれて意味を理解した。
顔がカァーっと熱くなる。
「とてもよくお似合いです」
そう告げた店員さんの視線は私には向いていなかった。
「ごめん、いいのあった?」
「あ、電話大丈夫だった?」
「うん、また明日考える。もう考えたくないし。どれ?」
指輪をはめた手を掴まれた。
「シルバーよりそっちの色のが似合いそう。たまに付けてるのもゴールドじゃない?」
言われる通り、昔からゴールドが好き。
普段身につけるアクセサリーはゴールドにしても、マリッジリングだけはシルバーがいいなとか夢見る頃から考えていた。
(現実にないから妄想と夢だけで生きてきたよな……)
指輪を見つめながらしみじみと思う。
店員さんが誠くんに説明とかをしていた気がするけど、綺麗に指におさまるリングに見惚れてちゃんと耳に入ってこない。
「気に入った?」誠くんが覗き込んでくる。
「……うん」
頷く私に微笑んで店員さんに言う。
「これください」
(相変わらず仕事が早い)
「あの」店員さんに声をかけて呼び止めた。
「……このままつけて帰りたいです」
「かしこまりました、一度クリーニングしてお箱も用意してきますので少々お待ちくださいませ」
――――――――――――――
贈った指輪をはめて帰りたいと言ったのは千夏らしいとはいえ可愛かった。
「ありがとう、大切にするね」
「ちゃんとつけろよ」
大切にすると言葉通り箱にしまっておきそうだからそこはちゃんと指摘しておく。
「……つけます」
頬をピンクに染めて嬉しそうに微笑む。
「素敵な彼氏さんですねって言われた、店員さんに。他の人も誠くんのこと見てたよ」
「知らないし、そんなん」
「お店にも慣れてたもんね~」
その言葉に振り向いたら、バツが悪そうな顔をした。
「――ごめん、せっかくプレゼントしてもらってるのに、可愛くないこと言った。ただの、ヤキモチ。その……ごめんなさい」
まだほんのりと頬を染めて言いにくそうに謝る。
「――言いたいことは、なんとなくわかるけど」
(過去のことを言い出したらキリないだろ)
「千夏よりそりゃN数はあるからなぁ」
意地悪を言いたくなった。
「N数っ!」
その反応に笑ってしまった。
「言い方ひどいよ?失礼だよ?ねぇ」
「責めたいのか庇いたいのかどっちだよ」
「だって、付き合ってた人のこと……N数て、個数扱いする?ひどぉ!」
「買って欲しいって言われたことはあっても買ってやりたいて思ったのは初めてかな」
あんまりうるさく噛み付いてくるからそう言ったら、あっという間に千夏の口は塞がった。
「欲しいって言われて買いたかったわ、どうせなら」
「そんな……こと、言えません」
「なんで?」
「指輪なんて……簡単につけちゃダメです。その、自惚れるから」
(いちいち真面目だなぁ)
けれどこれで彼女の指に俺がずっと欲しかった証がついた。
そんなことがこんなに多幸感を得られるなんて知らなくて、多分千夏より俺が満たされている気がしていた。
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