続・ゆびさきから恋をするーclose the distance

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エピソード4

誠の葛藤①

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週末は何をするでもなくただ千夏といるだけの時間を過ごした。

出かけたりするのが好きそうに見えていたけどかなりインドア派らしい。人混みがあまり好きではない俺的には嬉しいことで、千夏が家にいたいというならなにも言うことはない。

たわいもない話をしてはキスしたり、テレビを見ていたらなんとなく触ってそのまま抱いたり、隙あらば千夏に触れては抱いてを繰り返すだけのダラダラした週末。

それのおかげで千夏は完全に敬語が取れて職場では見せないような素の顔も見せはじめた。



「あン!なんでぇ!やめて」

「……」



「もう、なんで……ねぇ、あ、やだ、だめっ」

「……」



「だめっ、あっ、あ、あー死んじゃう、死ぬ、やだ、ダメだってばぁ!あ!ちょっとぉ!!」



千夏の動かすキャラが死んだ。

昔ハマってから気分転換と脳内整理でゲームはたまにやる。千夏もやりたいとコントローラーを手に取ったもののゲームセンスはあまりない。



「何で今胸とか触るの!みてた?今行けそうだったのにぃ!!」

「だってなんかもう……千夏の声がやらしすぎて」



「……何言ってんの?」

「ヤッてるときとおんなじような事いうからさ」

「……変なこと考えるからそんな風に聞こえるんだよ?誠くんの頭のなか絶対変」



冷静に言われて否定できない。

いや、でも大半の男から賛同を得られる自信はあるけれど。



「千夏が目の前にいるとダメだわー、触りたくなる」

「――もういっぱい触ってるじゃん」



困ったように言うけど嫌そうではない。

やわやわと腹や胸を触ると体をよじらせたが、その手を掴まれてでかい瞳がジッと見つめてくる。



「……なに?」

「……お腹減った」

時計を見るともう12時前だった。千夏の腹時計が常に正確で心底感心する。



「なんか食べに行く?」

聞くと顔をパァと輝かせて身を乗り出す。



「コンビニ行きたい!」



千夏はどういうわけかコンビニが好きらしい。







――――――――――――――







グレーのTシャツに黒のパーカーとスウェットで白いスニーカー。

髪の毛はなにもセットされてなくて薄いフレームメガネのイケメンがコンビニで雑誌を立ち読みをしている。

フラッと今コンビニに来てその人をみても会社の久世さんとは多分誰も気づかないんじゃないかな、そう思うくらいオフな感じ。

ただイケメン雰囲気は変わらない、むしろラフでオフモードなイケメンなだけ。



(何しててもイケメンってかっこいいんだな、すごいな、それしか言えない)



心の中でつぶやきつつ、そんな人が彼氏なのかと思うと二ヤついてくるので気持ちを落ち着かせてから彼に近寄る。



「これにする」

「決まった?」



「うん。これテレビでやってたやつ」

「ふぅん?」

誠くんが絶対に見れないような時間にやってる番組なんだから知るわけないんだろう。さほど興味なさそうにカゴを覗いて相槌程度の返事をされた。



「私が決めてよかったの?誠くんの分」

「いいよ」

まだ雑誌を流し見しながらそれもあまり興味なさそうな返事。

「これも買お」

カゴにその雑誌が放り込まれてそのままレジに持って行かれた。



電子マネーでサラッと買われたので、店を出てからお礼を言った。



「ありがと」

「千夏コンビニ好きなー。なんでそんな好きなわけ?」



「楽しいもん」

「フッ、楽しいか?」



「普段あんまり行かないし。高いから」

「行かないとそういうもんかな」



「そういうもん。あと、お休みに彼氏とコンビニとかめっちゃいい」

真面目に言ったのに笑われた。

「どのへんが?」



「今まではそんなカップルを見る側だったけど、自分がそれをしてると思うと感慨深いの」

「千夏の頭の中も十分変」



「エッチなことばっかりする人に変とか言われたくないし」

「俺は別に普通な方だ。性癖なんてもっとヤバい奴絶対いるから」

言い切られても何と返せばいいのか。家に着くと炭酸水をプシュっと開けて飲む誠くんの姿に見惚れていた。



「ん?飲む?」

「炭酸飲めないもん」

フッと笑う顔とかなに?メガネ姿ももうだいぶ落ち着いて見れるようになった。



「何言っても可愛いなって」

腰に手が回って耳元でそんなことを言われると照れるしかない。しかも内容は炭酸が飲めないと言っただけではないか。



「可愛いわけない」

「もう少し自覚したほうがいいな。千夏、可愛いから」

「自覚って。モテないんだから自覚もなにもないでしょ」

そう言ったらなにも言わないから肯定ととっておく。



「チンしよ」と、レンジに向かって中にいれる。



「このパン美味しそうだった、ちょっとハード系。ハードパン好き、あ、もう少し歩いたらパン屋さんあったね。あそこ今度行きたいな」

「パン屋?あったっけ?」



「そこの角曲がってもう少し奥、知らない?」

「あんまり記憶にない。てか角曲がらないのになんで曲がった」



「私一回迷ってるから」グルッとしちゃった、と照れながら言うと笑われた。



「可愛いのれんの小さなお店だけど、なんか海外ぽくて。今度行こ?」

そう言ったら、いいよと笑ってくれた。



(幸せすぎるーー)



チンっと機械音が鳴ってレンジに近づく。お皿を取り出す時思いのほか熱くて指を引っ込めた。



「あつ!」

「大丈夫?」



「平気」

袖をのばしてお皿をつまんで取り出す時ジッと手を見つめられてお皿を置いたら腕を引っ張られた。



「そういや傷どうなった?」

あの日のガラスで切ったことを言っているのか。まだ指には絆創膏をつけたままだ。



「もう平気と思う。外そうかな」



ペリペリと剥がすと少し指がふやけて白くなっている。指を洗ってタオルで拭いたらまだ身は開くけれどもう傷としては大した感じはない。



「結構しっかり切ったんだな」

指でつままれて誠くんが呆れた声で言った。



「ごめんなさい、ビーカーだめにしちゃった」

「そんなんどうでもいい。物なんか壊れるもんだし、ビーカーなんか大したもんじゃないよ。それより千夏の体のが大事」



また大事と言い、「傷つけんな」そんな風に言われてただ照れてしまった。







―――――――――――――







余計なことで無駄な傷をつけさせたことが自分としては悔やまれた。こんな些細な傷でももうつけさせたくない。



「大事とか言われたら照れる」

「言わないと信じないだろ。千夏はすぐ疑うからなるべく言うようにする、これからは」



「言われすぎるとそれはまた信じがたいというか」

照れながらそう言うから笑った。



「結局なにしても信じないんだな」

「慣れないだけ!耐性がないの、それをわかってよぉ」

モテないと本気で言うからさっきは呆れて言葉にならなかった。



モテるの意味は千夏にとったら恋愛経歴とイコールなのか。周りに自分がどう映っているのか全然わかってない、それを自覚しろと言っているのに。



「あの時から好きなのかなー」

傷ついた指をいじりながらポツリと呟いたら千夏が顔を上げた。



「あの時って……いつ?」

「結構最初」



「最初って?」

「俺が配属されて……五カ月?半年は経ってないか?」



「……うそでしょ?」

めちゃくちゃ疑った顔でそう言った。



「いや、そんなもんだと思うけど。なんでそんな顔なるの?」

「だって、そんな最初の頃って私のことなんか派遣の生意気な女くらいにしか思ってないよね?」





(どんな印象だ)





「生意気……とまでは思わなかったけど。まぁ噛み付いてきたりして可愛くはなかったよな」

笑うと少し拗ねた顔をした。



「でも最初誠くんも感じのいい人ではなかったよ?怖かったし」

「それは今でも言われてる。実際俺って別に感じのいいヤツでもないし当然じゃない?」



「そんなことはないよ?」

フォローする様に言われても、説得力はない。



「そんなことはいいんだけど、別に。まぁ、好きっていうか、落ちてたのかもしれないなぁ」

ぼんやり思い出しながら言うと千夏が口を開けて驚いている。



「ど、どの辺に?自分で言うのもなんだけど、最初っから私の態度もなかなかいいものではなかった気がするよ?いや、よくなかったよ?自覚あるもん」

「そうだよな、顔には出すし言いたいことは言うし媚びるとか全くなかったもんな。俺に意見してくる奴あんまりいないから根性あるよ」



「……根性って。ていうか、すみません」

「なんで?実際言うだけの仕事はしてるし、内容も筋が通ってるし、むしろ気に入ってたけどな」



「そ、それなら良かった……でいいのかな」

不安そうな千夏が面白い。



「千夏がさ、言ったんだよな。自分が責任取れないからちゃんとやりたいって。その時感動してさ」

覚えてる?と聞くと覚えていないと言う。



「……でもそれ当たり前のことじゃない?」

「そんなことない。責任感持って仕事してる人間ばっかじゃないし、誰も責任なんか取りたくないって思って仕事してるよ。逃げたいもんには逃げたい、それが普通。俺だってそう思う」

千夏は黙って聞いている。その顔は真剣な表情で。



「俺に頭を下げさせないといけないならやるって言った。その時にもう手離せないてなってたんだろうなぁ。部下としてもそうだけど人として、千夏自身をさ」

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