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エピソード3

憂いの二カ月⑤

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洗い物を終えて久世さんの座るソファのそばにいくと手を引っ張られて膝の上に座らされた。



「……重くないですか」



(出来たらソファに座らせてほしい)



「平気」



そう言われても私が平気ではない。



「重いと思うから降ろしてください」

なるべく真剣に伝えるとため息をつかれて、足が広げられたと思うとその中にお尻が落ちる。



「これはこれで恥ずかしいんですけど」

包み込まれるような位置に落ち着かない。



「何しても文句いうのな」

「文句じゃなくて意見です」



「充電中」

「……なんの?」

「千夏の。やっと落ち着いて抱きしめられるし。もうごちゃごちゃ言うのやめて」

ギュッと抱きしめてそんなセリフを吐く。



(そ、そんな言い方ズルくない?)



「ていうかさ」

久世さんが顔を覗き込んでくる。イケメンの至近距離はあいかわらず心臓に悪い。



「また敬語に戻ってるな。名前も」

「あ、無意識です、ね」



「二人で過ごす時間が少ないと仕方ないのかなぁ。上司として絡んでる方が長いもんな」

「……うん」



「まぁ、もう品管の仕事は終わったからこれからは仕事、少し落ち着くと思う」

「え?」

「さっき終わらせてきた。もう品管に行くこともないし、貴島さんと絡むこともないから」

安心してください、と胸に顔を埋めてきた。



「柔らか」

ギュッとまた強く抱きしめてくる。

抱きしめられると胸がきゅんと締め付けられて私も腕を首に回して抱きしめ返す。

二人の身体が密着して熱を感じる、その熱が心地よくて瞳を閉じたら胸の中で声がした。



「嫌になった?」

「なにがですか?」



静かな声は不安になる。



「付き合うの」



胸に顔を埋めたまま言われた言葉に心がざわついてしまう。



「……どうして?」

「いや、仕事ばっかでほったらかしだし。変な女も出てくるし」



(なんか……拗ねてるみたいな言い方なんだけど)



「……仕事できてモテるんだから仕方ないじゃないですか」

「……」



「久世さんがじゃなくって、そういう人を好きになった私の問題だと思います」



そんな人だから好きになった、久世さんが自分を責める必要は何にも感じない。

仕事が出来てモテることをそんな風に卑下するなんて可笑しくて、笑ってしまった。



「こっち、みて?」



顔が見たい。サラリと髪を撫でると顔がゆっくりこちらを向いた。



「好きになった人が久世さんなんだからしょうがないもん」

それが私の本心。そしてそんな人が私を好きだと言ってくれている。それ以上に嬉しいことなんかない。



「久世さんのせいじゃないでしょ?そんな風に、言わないでほしいです」





―――――――――――――――――





今までは責められるばかりだった。

仕事ばっかり、自分を見てくれない、考えてくれない、自分より仕事が大事だ。

――愛してくれない。

そんな風に否定されることの方が多くて恋愛の仕方がだんだんわからなくなっていた。



向き合っているつもりでも向き合えていないのだと、言われるとそうなのかと納得するしかなかった。

前の彼女に、結局自分のことだけが大事なんだろう、そう言われて別れを切り出された。

否定できなかった、何も言い返せなかった。

けれど今千夏の言葉に気付かされた。今まで相手だって、俺を大事に思ってくれていなかったのではないかと。



「久世さんがじゃなくって、そういう人を好きになった私の問題だと思います」



そう切り返してくる相手は今まで一人もいなかった。

俺じゃなく、自分だという。



責めたっていい、構ってないのは事実で知らないところで嫌な思いだってしてる。我儘だって言っていいのに。

「久世さんのせいじゃないでしょ?そんな風に、言わないでほしいです」

そんな言葉を笑って言うのか。



胸がじわっと熱くなって、今までにない気持ちが芽生える。

人を愛しいと、そう思うのは初めてで、キスしたくなって顔を近づけると千夏の口が控えめに動く。



「久世さんって……いつも何時に寝てるの?」



(……この状況でなんでそんな質問なんだよ)



甘い空気とはてんでズレた内容に拍子抜けする。



「……1時までには寝てる」

「1時?!遅い……」



「日付が変わる前に寝る日もあるよ」

「それでも24時?そんなに遅いの?」

そう言って時計を見て声を上げた。

時計は今21時半を回ったところ。何を思っているのか知らないけれど、そろそろ我慢の限界がきていた。

服の裾を引っ張り上げると千夏の手がまたそれを静止した。



「もう我慢できないんだけど」

「……お風呂、入ってないから」



「別にいいよ」

「全然良くないです、明日も仕事だし」



「一回だけ」

「一回って……無理。絶対無理。お風呂も入ってないのに無理すぎる。絶対イヤ」



「……イヤとか言う?」

「えー、だってイヤだもん」



(イヤとか言っても可愛いとか思うの重症だよな)



それ以上言い合っても千夏が首を縦に振る気配がないからその時間がもったいなくて風呂に行かせた。寝る時間を聞いたのは早く寝たいって事なんだろうか。千夏が何時に寝ているのか聞かなかったけれど、電話してるといつも22時を過ぎるととたんに眠そうな声になるから23時までには寝てるのかなとぼんやり思った。

多分今日はそんな早くには寝させてやれない、そう思いながら千夏の戻りを待っていた。







翌朝、6時過ぎに目が覚めた。



いつもと違う違和感に起きてすぐ気づいたのは、腕の中に気持ちよさそうに寝息を立てる千夏が寝ていたから。起こさないようにソッと体を離してベッドから抜け出す。

コーヒーを入れるのにケトルをセットして洗面所で歯を磨きながら昨夜のことを思い返していた。

思うことが一つしかない。





(千夏が――可愛過ぎる)





「ンあんっ!ぁ、あっ、やぁぁん!」



抱かれることにまだ慣れない千夏はいちいち恥ずかしがって、なのに身体はどこも敏感に震えさせて感じまくる。



「だめ、それやだ、おねが……やめてっ」



「んー、無理かなぁ」

「ぅ、あっ、ヤダァ」



「だって、ヤダって言いながら感じてるし、身体は喜んでるよ?」

「よろっ……言い方ぁ、あ、も、だめぇ!」

中が溶けるように熱くて気持ち良すぎる。



「ん!あっんぁ!」

奥に当たると身体がビクリと跳ねた。



「今の気持ちよかった?」

「や、だめ、こわい――!」

涙を滲ませて怖がる姿に余計興奮する。片足を持ち上げると千夏の涙が目から弾け飛ぶ。



「やだぁ!やめ、や、あっ!あっあっ!」

奥を突くと悲鳴のような喘ぎ声をあげた。



「ぁ、やぁーっ、も、やめてっ、それやだ」

「なんで?」

「やなの!ヤダァ、バカァ!あんっ!」



(バカとかかわいすぎか)



「なん、ぁ、そんな……イジメるのっ」

「いじめてなくて可愛がってる」

「いじめてるよぉ、恥ずかしくて死ぬぅっ」

ボロボロ泣くから笑えてくる。



「わかった、ごめん」



足を下ろして身体を起こすと足の上に座らせた。



「あっ、ぅんっ、ん」

「これは?」

対面で座る形になったら少し落ち着いたが身体はピクピクと反応している。



「ぁ、これ……だめ」

「これもダメ?」腰を掴んで前後に揺すると「ふあ!」可愛い声で鳴いた。



「だ、めっ、これ……おく、さ、ささる」



(ささるってなんだよ)



「だめだめ、中いっぱい、くるしぃ……奥、ぅあっ」



(言うことがなんというか……直球で感覚的すぎてやばい)



「も……おわりにして、も、むり」

泣きながら訴えられても応えにくい。



「そうだなぁ、もう少し頑張ろうか」

「んぁっ、あ、なんでぇ、も、いい、もぅだめ。も、あ……ぁっもう、ねるぅぅ」

プッと吹き出してしまった。



時計がもうすぐ日付を変えようとしている。



「千夏?」

グッと奥を突くように揺すると「ンあっ」と飛びかけている意識を呼び起こす。



「はぁ、あっ、も、むりっ」



半分寝落ちかけてる様子を見ると本気で無理なんだろうと感じて今日はもう諦めることにした。



「じゃあ最後だけがんばって?」

ころんと寝かせて上からかぶさる。



「あっ……」

ベッドに転がされて気が抜けたのか千夏の開放されたような声が漏れたがすぐにそうじゃないことに気づいて目を剥いた。



「え、なんで?なに?」

「俺、イってないもん」



「え、や、あ!ちょ!あんっ!や、あっあ!」

「最後まで付き合って」

「あん!あっ!はっ、あっあっ――ん!」



善がりまくる千夏の中で果てて最高だった夜。

慣れない身体が徐々に俺に解きほぐされて、開花していく感じが堪らなくて、イヤだと抵抗されても離せるわけがなかった。



コーヒーを飲みながら時計を見ると6時半。

家から会社まで30分も有れば着けるから7時半に出れば間に合うけれど、準備のことを考えたら起こした方がいいのか。寝室を覗きに行くと規則正しい寝息、その呼吸は深くてすぐに起きそうもない。

寝かせてやりたいなと単純に思った。昨日の朝の進捗では今朝急がないといけない業務をしていた記憶はないし、俺から渡す急な案件もない。



(――まぁいいか)



職権濫用もいいところだけど、午前休を取らせるか。

普段有休消化も全然してないしなんなら休めばいい。真面目に仕事してる千夏だから起きたら焦って怒るかもしれないけど怒られればいいかと、起こすこともせず時間通りに出勤した。

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