愛を知らないAランク冒険者は最愛を手に入れる

優しい抱擁-1

　私よりずっと大きくて逞しい身体。私なんか片腕でも抱きあげられる力強いジルを私の細腕が抱きしめている。ぎゅっと抱きしめてあげたいけど、どうしてかな。もっと包み込むみたいに抱きしめてあげたい。息を吐いてホッとできるようにここでだけは安心していいんだよ、そう思えるように抱きしめる。


「……おかえり」
「……」
「ここが、ジルの帰ってくる場所だよ？」

　私の胸の中が、ジルの安らげる場所、そうなりたい。


「ここに……帰ってきて」

　もうどこにも行かないで。


「私のところに、帰ってきて。誰のところでもない、私のところ」
「……帰る、場所？」
「そうだよ……ジルの帰る場所……会いたいって思って帰ってきてくれたんだよね？」

　誰でもない、私を思い出して、死を選ばずに帰って来てくれた、戻って来てくれた。


「ありがとう。嬉しい、嬉しいの……ジルが生きることを選んでくれたのが」

　死を前にしたとき天秤にかけられた。きっと今までならジルは迷わず死に飛び込んでいたのかもしれない、それを迷わせられた、踏みとどませられた。その理由が――。


「私はジルのものだよ。もうずっと、ジルに捕らえられてる」

　この腕に、この金眼に包まれて、どこにも行けずにいる。


「だから離さないで。離したりしないで……」

　ぎゅっと抱きしめて伝える。この気持ちがどこにも零れ落ちないように抱きしめて包み込みたいから。


「ジルに全部あげる。私の全部」

　私のすべて……この身体も心も見えない想いも全部。この胸の中にある温もりだって、ジルにあげたい。抑えきれないこの想いをジルにどうやったら伝わるのか。そう思っていたら体がフワッと浮いてジルの足の上に抱きあげられていた。


「え」
「アリシアの全部俺のもん？」
「……う、ん」

　ジルの長い人差し指がくちびるに触れてそのまま顎下に首筋を伝っていく。


　――ツツーッ


　指の腹が肌に押し付けられると胸がドキドキしてそのドキドキ高鳴る谷間で止まってただ胸にかぶさっているだけの様な下着に指が引っかかった。釣り上げるみたいに下着が持ち上げられて肩からずり落ちていくストラップ部分。それでも袖が邪魔して腕が一緒に持ち上げられるだけで取れることはない。ただもう胸はジルの目に晒されているけれど。


「ジ、ル……」
「全部見たい」
「は、恥ずかしい、から」
「……だから、それだけが理由なら無理だって」
「目、閉じて……」
「いいよ？」

　見たいという割にあっさり目を瞑ることを了承してくれてジルは素直に目を閉じる。一瞬呆気に取られるもののその端正な顔をまじまじと見つめるチャンスに私の方が舞い上がってしまった。