愛を知らないAランク冒険者は最愛を手に入れる

気になること-3

　ハッキリ聞けない理由、私の心の中に宿るこの後ろめたい気持ち……。

　ジルと少しだけ持ってしまった二人だけの時間。酔って寝てしまったとはいえ朝まで同じベッドですごしてしまったらしい時間……そのことをエリザには言えないままだ。後ろめたいはそうだけど、自分の口から言葉にするには躊躇われていた。言葉にしたらあの時の感情が思いが、自分でも取り返しのつかないことになりそうだから単純に……怖かったのもある。


　――俺の命……アリシアにやるよ。


　今でも耳に残っている。脳裏の裏に沁みついてしまった。ふとした時に、ジルのあの声が蘇ってくる。


（やめて……）


　ジルが脳内に住んでるみたい。頭の中に響かせて身体中を震わせてくる。そうするとどんどん思い出していてもたってもいられなくなるこの衝動をなんて表現すればいいんだ。
　抱きしめられて包まれた腕の中で見つめられながらあんなセリフを言われてなかったことになんか簡単に出来るわけがない。でもだからって蒸し返すにはハードすぎて……。


（だめだ、だめだ！思い返すと全身の毛穴から汗が噴き出る！）


　エリザが本気でジルを好きならあの時のあの時間は絶対言葉にしちゃいけない。出来るわけがない。エリザに変な誤解も与えたくないし、自分自身があの時間を素直に受け止めちゃだめなんだ。


（あの時のジルは……ただの欲求不満の塊だったんだよ、絶対そう）



　そう思って何度も自分を納得させている。あの日のあの後……エリザが二階にあがってくる気配が足音で分かってあっちもこっちも体が慌ててばたつかせた足が……運悪く（良く？）ジルの脛に当たってしまった。


「――っ！」

　Aランクでも普通の人間と弱い部分は同じらしい。


「あ、ごめ、ごめん！でもジルも悪いんだから！」
「はぁ？なんで俺が悪い……「とにかくこの隙に帰って！今すぐ家出て！」
「えぇ？！」

　エリザに気づかれることなく（多分）ジルを追い出すことに成功したのだった。

　それでもやっぱりエリザの様子が気になるんだ。悩んでいそうな少しだけ落ち込んだ顔。


「エリザ……何か悩んでる？」

　前なら「ジルのこと好きなの？」くらい直球で聞いてげんなりさせていた。


「……別にぃ」

　そういう割に悩んでいそうに俯いたまま。目を、合わせてくれない。そう……エリザがちゃんと私と目を合わせてくれなくなってしまったのだ。