愛を知らないAランク冒険者は最愛を手に入れる

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閑話-ジルの始まる新しい日々-3

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 胸の中で湧き上がるバカみたいな感情。この時はちゃんとわかってた、バカなこと思ってるなって。

 
「でも切れてる!深いし見るだけで痛そう!」
「薬は?ちゃんと手当しました?毒とかは?本当にちゃんと……」


 (いや、心配しすぎじゃね?)

「良かった……痺れも……ひどくならなくて……良かった……」


 (だから、心配しすぎじゃね?)


「おかえりなさ……」

 そんなセリフ泣きながら言うの、なに?
 ヴェリル自身も心配しすぎだと笑っているけどすげー嬉しそうな顔してる……なにこれ。


 おかえりってなんなんだよ!


「俺も行ったんだけど」
「え?」


 (おかえり言ってくれてねぇ!)


「俺も!行ったんだけど!」
「あ……無事で、何よりです」
「軽っ!なんか態度違いすぎねぇ?俺とヴェリルの態度全然違うことねぇ?!」
「え、だって……えっと、なんか……元気そうだし」


 (いや!ヴェリルだって普通に元気だし!なんならこいつ今すげー調子いいし!ほっぺ切れてるだけじゃん!はぁ?なんだよ、こんな傷一個つけてるだけでこんな態度変わんの?んだよ!それぇ!)


「怪我とか、あるんですか?」
「ねぇけど!」


 (ねぇけどさぁ!ないとダメなわけ?!怪我してねぇとおかえりないわけ?!)


 俺にもおかえり言えよ!俺だって!おかえり言ってほしいっ!


 そんでヴェリルはいつのまにかアリスのことをアリシアと呼んでいる。いつのまに……いつから?俺の知らない間に二人に何があったんだ?

 イラつく。イライラする。どうしようもなくイライラする!

 そんな苛つきが収まらない俺を面白おかしく見つめるカルロは俺にアリスを送って帰れと命じてきて、いつもなら絶対こんなカルロの下世話なお節介は蹴り飛ばしてやるけれど……。


「い、いいです!」

 俺に送られるのがそんなに嫌かよ。ヴェリルになら素直に送られんのか?

 イライラだけが増していく、アリスを見ていると、今まで知らない感情に襲われる。


 (くそ、イラつく……なんなんだよ、こいつ……イラつくのに……クソ可愛い顔して俺のこと見やがる……)


 頬を少し赤く染めてゴニョゴニョと言い訳並べる青い瞳を見つめてたら手を取っていた。アリスの手は小さくて細い、そして少しだけ冷たいから……握ってるとなんだろう、温めたくなる。冷たい指先が俺の熱に交わって温くなってだんだん熱くなるのがなんだか無性にくすぐったくて……。


 (なんだこの気持ちは、なんなんだ、この温かさは……)

 
 俺は、こんな熱を知らない。なのにどうしてこんなにもこの熱を恋しく思うんだろう――。


 
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