ゆびさきから恋をする

sae

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年下の部下は避け始める(side誠)1

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 もっと仕事の手を抜けと言ったのに全然抜かず、その上ほぼ残業もしないで試験件数だけを伸ばしていく彼女。仕事を振る俺も悪いけどさすがにやりすぎだ、と思いつつ忙しくて話す時間がないを理由に少し避けていたが、彼女も同じように俺を避けている気がしている。

 一度倉庫で閉じ込められてからなんとなく距離ができた。気まずいとも違うなんとなくできた距離感。
 それはきっと彼女だけでなく俺自身にできたのかもしれない。ふいに見せられた弱さと甘えに上司として受け止められなかった気がしていたからだ。

 あの日から数日後のことだ。
 渡された試験結果は彼女の表情を固くしていた。試験値にどこか不安そうな、そんな表情だったから問いかけた。

「納得いかない?」
「いかないというか……いいのかなって」
 渡された試験結果をもう一度見ながら答える。

「いいと思うよ。突っ込まれるかもしれないけど……(これくらいが妥当だろうな。N数もデータもとってばらつきがここまでなら十分対応できてるし)は、頭の中での独り言で。

 彼女は黙った俺に余計に不安になったのか顔を上げて焦った声を出した。

「まだやります、やらせてください」
「え?」
「この結果で久世さんが頭を下げないとだめならまだやりたいです」
 その言葉に息をのんだ。

「私じゃ責任取れないから……だから余計にちゃんとしたいんです。できることさせてください」
 この瞬間、部下として最高の子だなと思った。


 同時に言われたセリフが俺の心を強く打つ。
 彼女自身が持つ仕事への責任感とプライドを真っ直ぐぶつけられて胸が震えた。


「突っ込まれるって言ったのは試験の理解度が低い人間が言うことで値どうこうへの文句を言われるわけじゃない。だいたい現場は自分たちの欲しい値が出ない限り文句言うよ。だからこれで十分、うちとしてはできる限りの事をして値を出せてる。だから追加の必要はない」
「……本当ですか?」
 まだ不安そうに聞くから言い返す。

「簡単に頭なんか下げないし、俺」
 そう言えばプッと吹き出した。

「わかりました……じゃあこれで報告書作ります」
 そう笑った顔をとても可愛いと思ってしまった。

 彼女は俺よりも若いし、顔だって可愛い部類だ。でもこの時俺が持った感情はその客観的な気持ちではなかった。


 倉庫に閉じ込められたとき誤魔化した気持ちがよみがえる。
 あの時も思った、言い聞かせたんだ、この子は部下だと。


(部下に思うことじゃない、上司として思うことじゃない)


 今もそう言い聞かせる。
 言い聞かせないと駄目だ、自覚したら、この気持ちを認めたら、俺はもう上司ではいられなくなる。

 彼女が信頼してくれる上司になれない――そう思っていた。

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