木曜日の内緒のレッスンは恋のはじまり~触れられるたび好きになってしまいます~

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エピソード・太刀川編

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「瑠衣ちゃん、この後もう一軒行かない?」
 一次会が終わって二次会の流れになっている。声を掛け合ってどこの店にしようかなんて周りが言う中、國枝は瑠衣の手を引いていた。

「え、あ……私はもうこれで……」
「なんでー?もう一軒行こうよ、俺、瑠衣ちゃんともっと話がしたいよ」
「いや、でも……ごめんなさい。もう帰ります」
 そっと手を添えて掴まれた手を離された。ひどく振り払うようではなく優しく、國枝を傷つけないような自然な払い方で、國枝はその控えめさが無性に可愛いと感じてしまった。

「待ってよ」
「きゃ……」
 振り払った手がまた絡んできたから、瑠衣は驚いて小さな悲鳴をあげた。

「瑠衣ちゃん、まだ帰んないでよ……お願い、もう少しだけ一緒にいよ?」
「國枝さん?よ、酔ってます?」
「酔ってないよ。すげー真面目、超真剣」
 真っ直ぐに見つめられて瑠衣は困惑した。真面目に言われる方が困る、そう思う。

「ごめんなさい、私本当にもう帰りま……「瑠衣ちゃん、待ってよ」
 國枝がそう言って瑠衣に近づいた、その距離がいきなり縮まって瑠衣が身構えた時だ。

「触んなカス」

 はぁ――、と息を乱した太刀川が瑠衣を掴んでいた國枝の手を振り払う。顔つきはさほど切れた風には見えないのにその払い方は明らかに乱暴な払い方だった。

「なに人の女馴れ馴れしく名前で呼んでんだ?お前舐めてんの?」
「太刀川、え、なんで?」
「こそこそ近づいてんじゃねぇよ。いい加減にしろよ、お前。マジ腹立つわ」
「……追いかけてきたの?瑠衣ちゃんのこと取られると思った?」
「あぁ?!」
「ほんとに変わったな、太刀川……マジになってさ、どうしちゃったの?」
 殺気立ち始めた太刀川に國枝は焦ったが今まで溜めていた気持ちもある、太刀川に対して言いたかった不満や嫉妬が山ほどあった。また目の前で欲しいと思ったものを攫われそうになる、それが余計國枝の心を焦らせてもいた。

「仕事もさっさと決められなくて、女追っかけてまで必死になって……もっとなんでもあっさりこなす奴じゃなかったっけ?」
「仕事と瑠衣は関係ねぇだろ。余計なことこいつに吹き込むな、クソ迷惑だわ」
「どうだか。太刀川が瑠衣ちゃんと付き合って変わったのは事実だろ?いい影響与えてんのかな、彼女。瑠衣ちゃんだって言ってたよ?自分が重荷になるのは嫌だって」
「それはっ――」
 瑠衣が口を挟もうとしたら太刀川がゆらっと振り返る。漆黒の瞳は冷めたように揺れている。その瞳の色に瑠衣は一瞬息を呑んだ。

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