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エピソード・太刀川編

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 苛々を募らせつつもなんとか仕事を終えらせた。時間は20時半を回ったところだった。飲み会に出ているならそろそろ終わりになっているかもしれない。太刀川はパソコンを切りながら瑠衣に電話をかけた。
 何度かコール音を鳴らしたが電話に出ない。せっかちすぎる太刀川は懲りずにすぐかけ直す。気持ちがそうさせた。どうしても瑠衣と連絡が取りたい、その思いが止まらないのだ。

 声が聞きたい、瑠衣の居場所を確認したい、どこにいるのか、誰といるのか、何をしている……執着がひどい。それがひどいのだと気づけていないのがひどい。それくらい太刀川は余裕をなくしている――こと、瑠衣に関しては。


『もしもし?』
 そんな太刀川を知る由もない瑠衣の声はいたって呑気だ。酒を飲んだからかなんならいつもよりふわ付いた声にテンションが少し高めにも感じる。それにより焦る、普段とは違う瑠衣が自分の知らないところで誰にと分からない人間の前に晒されているのだ。

「何やってんだ、俺からの電話にはさっさとでろ!」
 まるでモラハラの様な言い方だ。

『え、ごめん。何回かかけてくれてたの?気づかなくって……』
 声の向こうはざわついている。まだ店にいるのか、それを音で太刀川は察知する。

「お前どこで飲んでる?」
『え?』
「迎え行く、どこ」
『え、なんで?いいよ!大丈夫!』
「だめ、行く。言え、どこ?」
『……でも、柾、忙しいでしょ?迎えとかほんとに……「うるせぇ!行く!言え!」
 瑠衣の声を遮るように怒鳴ってしまった。声を荒げてから気づく、瑠衣をこんな風に責める必要はなにもないのに、と。自分が想像以上に荒れていることにその時初めて気づく。
 結局瑠衣は太刀川の剣幕に押されて店の名前を告げたので、それを聞いた太刀川はすぐにそこへ向かった。その間も全く落ち着かない心の中にだんだん自分で嘲笑いだしていた。

 今まで誰かのことでここまで感情が荒れたことはない、だから戸惑う、困惑する、自分がどんな行動を起こすのか予測できない。

 太刀川はいつのまにか店まで走りだしていた。
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