木曜日の内緒のレッスンは恋のはじまり~触れられるたび好きになってしまいます~

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キスは好きな人と-1

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 ぼーっとただひたすらベッドに寝ていたら休みが終わろうとしていた。
 瑠衣はあれから何も手につかず、途方に暮れていた。窓から聞こえた夕暮れに鳴る公園の音楽で17時だとわかり、自分が本当に今日なにもせず過ごしていたのだとぼんやり思った。

 色々終わってしまった。
 始まる前に終わる、人生の中でそんな瞬間はたくさんあるだろうけど、恋愛においては初めてで。瑠衣にとってはもっと大事にしたい瞬間だったが、太刀川からしたら大したことではない、瑠衣はただの気晴らしの遊び相手みたいなものだったのだろう。

(最初からそうだったもんね……不感症に興味あっただけだったじゃん……)

 出会い方を思い出すとどんどん心が冷静になって自分と太刀川の関係性が恋愛とはかけ離れていたことを思い知らされる。

 ――お前の気持ち次第だよ。俺がじゃない、お前がどうしたいかだけ。

 太刀川の声が脳裏に響く。ベッドに横になっていると太刀川の体が覆いかぶさってくるような錯覚までしてくる。妄想が過ぎる、自分で嘲笑うがどうしようもない。


 ――本気じゃなきゃできねぇだろ。

 あの言葉が胸を締め付けた。
 本気だった、本気で……知りたかった。自分の体がおかしいのか、自分は本当に好きな人にも誰にも受け入れてもらえない身体なのか。


 ――私なんかって……言うな。

 鼻の奥がツンッとする。こめかみ部分がきつく押し付けられるみたいに痛い。あんな言葉を言って抱きしめないでほしかった。誰よりも否定して受け入れられなかった私を包み込むみたいに抱きしめないでほしかった。


 抱きしめるなら――離してほしくなかった。
 最初から離す気なら――抱きしめてくれなくて良かった。


「ひっ……」

 我慢していた涙が溢れ出した。拭っても拭っても溢れて止まらない。思うたび涙がこみ上がってくる。自分の体からこんなに湧き出てくるような感覚は初めてだった。彼氏に背を向けられた時でもこんな風に泣けなかったのに。ほろほろと涙をこぼすだけだったのに。こんな嗚咽がこぼれるような苦しい胸の痛みは知らない。

 太刀川だけが自分をこんな風に締め付ける。胸を――焦がす。


 ――もう……囚われることねぇよ。

 そう言ってくれたのは太刀川なのに、今度は太刀川が自分を縛るのだ。囚われて、自分はこれからも生きていく。太刀川を想って、きっとこの叶わない思いを抱えて生きていかねばならない。


「ひどいよ……」

 勝手なのは自分じゃないか。勝手に太刀川を好きになった、それを太刀川のせいにしている。

「好きに、なるななんか、無理に決まってるっ――」

 
 ――すげー可愛いよ。

 嘘みたいだった。自分に自信なんかなくて、体のことでますます自信をなくしていた。初めてできた彼氏にもひどい言葉で捨てられて、もう自分は誰かと恋愛だってできないだろう、それくらい諦めていたのに。

 抱きしめられて、見つめられて、可愛いと囁かれた。
 それが一時の言葉でも、たとえ太刀川からしたら言い慣れた言葉だったとしても。誰のものにもならない人の言葉だとしても――嬉しかった。

 太刀川の特別な存在になりたいと――望んでしまった。

 ベッドの中に顔を埋めて声を殺して泣きまくった。太刀川から告げられた終わりを受け入れるにはまだ時間が必要だ。でも今だけは、せめて今日だけは涙が枯れるほど泣いてしまいたい。もしまた太刀川と社内で出会っても、毅然として迷惑になる様な事にはなりたくないから。瑠衣はそう思って泣きじゃくった。

 
 
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