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白鹿が自分を認知していたとは、それにまず驚いた。顔くらいは知られていたかもしれない。総務部で何度か顔を合わせている。それでも対応した回数など一度きり、ほぼ接触などない。なのに、白鹿は自分のことなんかを知っていてくれたのか。それを知って胸がときめく、それだけで舞い上がって泣きそうになった。同時に真緒に言われた言葉が蘇る。
――好きな人に好きって言えないままで本当にこれから幸せ?
幸せなわけがない。
本人に言えないよりも、自分で自分の気持ちさえ認めてやれないのは悲しい。自分だってまだ誰かを思って生きていきたい、それを強く願う瑠衣がいた。
それから数日、太刀川と会う日はおろか、すれ違うことさえなくあの日のあの出来事は夢だったのではないかと思い始めていた。いつも通り、やるべき業務を終えて入荷された備品を倉庫に運んでいたところだ。倉庫の扉を開けたら瞬間でこの部屋に太刀川がいると香りで感じた。瑠衣はもう太刀川の香りを覚えてしまっていた。それほど会っていないのに不思議だった、瑠衣にとってはもう忘れられない匂いになりつつあるのかもしれない。
作業を始める前に奥まで足を進めた。ソファからは相変わらず長い足がはみ出している。寝ているのかは見るだけではわからない、瞳は閉じられて整った顔は静かに息をしているだけだ。
「……覚悟決まった?」
やはり寝ていなかった。けれど瞳を閉じたまま瑠衣にそう投げてきたので、瑠衣もそれに応えた。
「太刀川さんこそ本気なんですか」
そう聞き返されて太刀川の閉じられた瞳がぱちりと開かれる。長い足が横に流されて体を起こすとソファに座り直して真っ直ぐ瑠衣を見つめてきて言った。
「本気だよ」
「社内の私なんかと……迷惑になりませんか」
「だったら頭から声かけるわけねぇよな?」
それはそうだ、そうは思うものの瑠衣の中ではまだ納得できていない。
「でも、私なんかと……「あのさぁ」
自虐的な瑠衣の言葉に太刀川がめんどくさそうに言葉を遮って言うのだ。
「お前の気持ち次第だよ。俺がじゃない、お前がどうしたいかだけ。あほらしいって思うならやることねぇよ。こんなこと」
「……あほらしい?」
「本気じゃなきゃできねぇだろ」
「……」
「お前が本気なら俺も本気でやってやるよ」
太刀川の言葉は真っ直ぐ瑠衣の胸に突き刺さってきた。同時に響いた、胸に。そして瑠衣もまた、その真っ直ぐにその漆黒の瞳を見つめ返した。
――好きな人に好きって言えないままで本当にこれから幸せ?
幸せなわけがない。
本人に言えないよりも、自分で自分の気持ちさえ認めてやれないのは悲しい。自分だってまだ誰かを思って生きていきたい、それを強く願う瑠衣がいた。
それから数日、太刀川と会う日はおろか、すれ違うことさえなくあの日のあの出来事は夢だったのではないかと思い始めていた。いつも通り、やるべき業務を終えて入荷された備品を倉庫に運んでいたところだ。倉庫の扉を開けたら瞬間でこの部屋に太刀川がいると香りで感じた。瑠衣はもう太刀川の香りを覚えてしまっていた。それほど会っていないのに不思議だった、瑠衣にとってはもう忘れられない匂いになりつつあるのかもしれない。
作業を始める前に奥まで足を進めた。ソファからは相変わらず長い足がはみ出している。寝ているのかは見るだけではわからない、瞳は閉じられて整った顔は静かに息をしているだけだ。
「……覚悟決まった?」
やはり寝ていなかった。けれど瞳を閉じたまま瑠衣にそう投げてきたので、瑠衣もそれに応えた。
「太刀川さんこそ本気なんですか」
そう聞き返されて太刀川の閉じられた瞳がぱちりと開かれる。長い足が横に流されて体を起こすとソファに座り直して真っ直ぐ瑠衣を見つめてきて言った。
「本気だよ」
「社内の私なんかと……迷惑になりませんか」
「だったら頭から声かけるわけねぇよな?」
それはそうだ、そうは思うものの瑠衣の中ではまだ納得できていない。
「でも、私なんかと……「あのさぁ」
自虐的な瑠衣の言葉に太刀川がめんどくさそうに言葉を遮って言うのだ。
「お前の気持ち次第だよ。俺がじゃない、お前がどうしたいかだけ。あほらしいって思うならやることねぇよ。こんなこと」
「……あほらしい?」
「本気じゃなきゃできねぇだろ」
「……」
「お前が本気なら俺も本気でやってやるよ」
太刀川の言葉は真っ直ぐ瑠衣の胸に突き刺さってきた。同時に響いた、胸に。そして瑠衣もまた、その真っ直ぐにその漆黒の瞳を見つめ返した。
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