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本編

Karte-19

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 三次元の世界でときめくのは慣れていない、先生に変にときめくのはやたら現実離れした人だからだ、百合はそう思っていた。

 三嶌はいつでも百合に大丈夫、と声をかけてくれた。その言葉は実は百合にとっては究極の癒しフレーズなのだ。地味で目立たない百合はいつでも人一倍努力して影で頑張ってきたタイプだった。そんな自分のしていることはなかなか人の目に触れることがなく、当たり前にスルーされてきた。頑張る自分は認めてもらえないのに出来ていないとがっかりされる。誰も気にかけない、百合のしていることは気にも留めてもらえない。

 ――誰も声をかけてくれない、寄り添われることに慣れていない。

(バカみたい、先生は患者相手だから言ってくれてるだけなのに。みんなに言っているし治療の一環、歯医者だよ?大丈夫って宥めるのなんか常套句じゃん)

 けれど15時を回ると痛みがひどくていちいち仕事の手が止まりだした。百合は迷った末にクリニックへの電話番号を押した。



「あぁ、そうでしたか。いえ、大丈夫ですよ~、お忙しいのにご連絡ありがとうございます。次回のアポイントはどうされますか?はい、はい、では来週の同じ時間でご予約お取りしておきますね。はぁい、またお待ちしております~」
 桃瀬は受話器を置いて今日のアポイント表を見てほくそ笑んだ。

(18時のでかいフラップオペが飛んだ……!これって今日の診察もう17時半のデンチャー調整で終わりってことじゃない?ラッキー!!)


「あ、先生FOPキャンセルになりました」
「そうなの?じゃあもう今日閉めれちゃうな。カルテ整理もしたいしちょうどいいなぁ」
「結局はやく終わっても先生は病院にいるんですよね~。たまには早く帰って下さいね」
 三嶌とそんな会話をしていたら電話が鳴った。

「はい、みしまデンタルクリニックです。――笹岡様、はい、はい……はい」
 チラリと横にいる三嶌を見る。三嶌もカルテを見てはいるが桃瀬の方に神経が寄っているのがわかった。

「少々お待ちくださいね……――先生、笹岡様、腫れてきたのか痛みがあるみたいで薬だけ処方してほしいそうですけど……「アポ取って」
 三嶌はカルテから目は反らさなかったが、ぴしゃりと言い放ったので、桃瀬はキャンセルの出た18時で百合に来院を伝えた。

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