あの夜をもう一度~不器用なイケメンの重すぎる拗らせ愛~

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続編/高宮過去編

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 公衆の面前で俺は――一体何を叫んだのか。固まった俺に兄が呆れた声で言ってきた。

「お前さ……こんな人がいる駅前で何叫んでんの?」
「……ごめん」
「ふふ……おかしっ」
 恥ずかしさや後悔で俯いていた頭の上からそんな穏やかな笑い声が振ってきて思わず顔を上げると兄がくすぐったそうに笑っている。


「お前、引くわ。何の告白だよ」
「……ごめん」
「ちがくて。颯が謝るようなことはひとつもない。俺がもっとお前にいろんな言葉をかけてきたら良かったのに、何も言ってやれなくて……ごめんな」
 まさか兄から謝られるとは思わなくて言葉が出なかった。


「もう体、平気なのか?」
「……うん、もう、平気」
「そっか、よかったな」


(やばい、泣きそう)


「何で泣くの」
 泣きそうと思っていたら俺、マジで泣いてるのか!?
 そう思って思わず目元を手で探ろうとしたが、兄の視線が俺ではなく美山さんの方に向いている。メガネの下の目元をハンカチで覆ってグズグズと泣いているその様子を兄が呆れたように見つめながら宥めていた。


「ごめん、泣くつもりなかったんだけど……なんか胸がいっぱいで……」
「なんかこの後も泣きそうじゃない?大丈夫?」
「うう、わからない……もうなんか情緒が……」
「おかしいわー、燈子さんちょっと感情移入が異常ー」
「駿くんがドライすぎるのぉ……どうしてそう……もうやだぁ、うう」
「メイク取れちゃうよ?」
「うう、ごめん、ちょっとトイレ行って直してきていい?これでご両親に会うとかちょっと精神的に耐えられないし」
 そのまま慌てて駅に戻ってしまったから気が抜けて、空気がすっかり変わってしまった。


「ごめんな、あの人ちょっと度が付くほどお節介でさ。普段はもう少し冷静なんだけどなぁ、なんか家族のことになると熱量が上がるっていうか……」
「……いい人だね、優しそうな感じ。なんかちょっと母さんっぽい」
「――うそ、マジ?」
「え?」
「いや、そう?そんな雰囲気あるの?」
「なんとなく……過保護そうな感じが?」
 そう言ったらおかしそうに笑うから……。


「颯がそう言うならそうなのかもなぁー」
 こんな風に兄と話せる日が来るなんて思ってもみなかった。他愛もない話をしたかった、どんなことでもいい、ささやかでつまらないことでも、向き合ってお互いの気持ちを通わせ合いたかった、その願いが今目の前で叶っていく。


「……おかえり」
 自然と言葉になった、待っていた、兄が帰ってきてくれるのを。ずっと、待っていたから――。


「――ただいま」
 俺の言葉に兄がそう返してくれる、喧嘩して別れたあの日から初めて聞くその言葉は俺の胸を震わせた。これからはきっと何度でも聞ける、そう思えたら嬉しくて今度こそ泣きそうになったけど、「お待たせ!」駆けるように戻ってきた美山さんの言葉に兄と二人で振り向いてなんとか涙は引っ込んだ。

 二人が俺の前を歩いて行くからその姿を少し遅れて見つめていると、兄が振り向く。


「颯ー、はやく来いよ」


 二人が立ち止まって俺を待ってくれる、そのそばに駆け寄って兄の横に並んだらフッと笑われた。


「なんかお前、でっかくなったね」
「……もう二十七だし」
 横に並べる幸せを嚙みしめる。憧れて、追いかけ続けた兄と肩を並べて歩いていける。


 そんな未来をずっと俺は待っていた――。

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