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続編/高宮過去編
風が吹き抜けるように(燈子)―1
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「颯は、ずっと駿に憧れていました、自分の出来ないことをなんでもこなしてかっこいい、よくそう言っては駿のことを意識していました。小学校の高学年くらいになると学校にも徐々に通いだせて颯の生活環境が変わり始めました。その頃、駿は高校を受験するような時で、全寮制の高校を受けたいと主人に相談していたようです。主人は反対しました、家を空けがちな自分の代わりを駿に求めていたのでしょう、それを颯は偶然聞いてまた胸を痛めてしまって……駿ばかりが我慢している、どうにかしてやれないのかと。駿にも声を掛けました、進路のこと、考えている本音を聞きたいと思ってもあの子とうまく気持ちが絡まなくて、言葉だけが独り歩きしてしまい、駿が言うのです。迷惑かけないからと、自分は自分の出来る範囲のことしかしないし、私にも主人にも迷惑をかけることはしないから自分で考えると。悩みどころか、もう心配さえさせてももらえないのか……ショックを受けてはいけない、受けられるわけがない、でもショックでした。怒って拒否でもしてくれればもっと話せることもあったのかもしれない、けれどそれさえもできない、私はもうあの子にとってただ同じ屋根の下で暮らしているだけの人間なのだと思いました」
――駿にとって私はもう母親としてなんの役にもたてないのね……。
「思わず言ってしまいました。散々母親らしいことをしてきていないのによくも言えたものだと未だに思います。いまさらあの子の何になりたいのだと、小さいあの子に大丈夫よねと黙らせてきて、自分に余裕が出来てきたら甘えてほしいだなんて虫のいい話です。駿が私を受け入れないのは当たり前、駿だってあの頃のような子供ではないのです、高校の進路くらい自分で決めたらいい、あの子のすることに迷惑だなんて思うことなんかない、そう言う気持ちで言いました。やりたいことを我慢せずやっていいのよと、行きたい場所があるならそこで自分の道を見つけたらいいって。駿はその時とても困惑した顔をしていました。いきなり母親みたいに何を言っているんだ、そんな感じでした。結局あの子は希望する学校ではなく、進学校に進みました。あぁ、ここでもやはり私たちの思いを汲んでしまうのかと、何も望まず、受け入れて諦めさせている……それだけが本当に悲しくて、あの子に申し訳がたちません」
「中学に通いだした颯から駿の噂を聞きました。颯も当時から在籍されている先生方によく聞かされたそうです、優秀で欠点などない素晴らしい生徒だと。颯もそんな話を聞かされて憧れは募るようでした。人より遅れていた勉強も家庭教師をつけて励んで駿を追いかけていたんでしょうね。高校も駿の通う進学校に行きたいと私に言うようになりました。そんな話は本当は駿としたかったのでしょう、高校生になったころの駿は帰りも遅く何をしているのかよくわかりませんでした、食事を用意していても食べていたり食べなかったり……家にいるのが苦痛だったのか、私と顔を合わせたくなかったのか。お互い避けて暮らしてしまいそれは颯にも気を遣わせることになりました。あの子たちだけでもわかり合ってほしい、私のせいで仲たがいをするなどおかしな話、そう思っていても駿にうまく声をかけれない私はやはり母親失格で……情けなかったです」
――駿にとって私はもう母親としてなんの役にもたてないのね……。
「思わず言ってしまいました。散々母親らしいことをしてきていないのによくも言えたものだと未だに思います。いまさらあの子の何になりたいのだと、小さいあの子に大丈夫よねと黙らせてきて、自分に余裕が出来てきたら甘えてほしいだなんて虫のいい話です。駿が私を受け入れないのは当たり前、駿だってあの頃のような子供ではないのです、高校の進路くらい自分で決めたらいい、あの子のすることに迷惑だなんて思うことなんかない、そう言う気持ちで言いました。やりたいことを我慢せずやっていいのよと、行きたい場所があるならそこで自分の道を見つけたらいいって。駿はその時とても困惑した顔をしていました。いきなり母親みたいに何を言っているんだ、そんな感じでした。結局あの子は希望する学校ではなく、進学校に進みました。あぁ、ここでもやはり私たちの思いを汲んでしまうのかと、何も望まず、受け入れて諦めさせている……それだけが本当に悲しくて、あの子に申し訳がたちません」
「中学に通いだした颯から駿の噂を聞きました。颯も当時から在籍されている先生方によく聞かされたそうです、優秀で欠点などない素晴らしい生徒だと。颯もそんな話を聞かされて憧れは募るようでした。人より遅れていた勉強も家庭教師をつけて励んで駿を追いかけていたんでしょうね。高校も駿の通う進学校に行きたいと私に言うようになりました。そんな話は本当は駿としたかったのでしょう、高校生になったころの駿は帰りも遅く何をしているのかよくわかりませんでした、食事を用意していても食べていたり食べなかったり……家にいるのが苦痛だったのか、私と顔を合わせたくなかったのか。お互い避けて暮らしてしまいそれは颯にも気を遣わせることになりました。あの子たちだけでもわかり合ってほしい、私のせいで仲たがいをするなどおかしな話、そう思っていても駿にうまく声をかけれない私はやはり母親失格で……情けなかったです」
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