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続編/高宮過去編

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 ベッドの上で汗ばんだ額を撫でられて髪の毛をかきあげられた。その小さな子を撫でるように優しい手つきに気持ちがふわふわとする。激しく抱かれた後の優しさがひどい。どんな風に抱かれても、きっとそのあとの優しさですべて帳消しにされるのだろう、そう思うほど優しい。


「お母さんね……」
 ぽつりとつぶやいたら撫でていた手がピクリとした。

「チョコレートが好きって知ってたよ」
「――へぇ」
 少し驚いたような表情、でもそれくらいでは彼の表情は崩れない。


「初めて食べたのは三歳のお誕生日にチョコレートケーキを食べた時なんだって。その時の駿くんの顔、今でも覚えてるって言ってた」
「三歳?覚えてないし」
「でもお母さんは覚えてらっしゃったよ」
「燈子さんってさ……なんかほんと、かなわないよね……」
 そう言いながら体が彼の胸の中に引き込まれてぎゅっと包み込まれる。胸の高鳴りが聞こえる、胸に耳を当てているわけでもないのに彼の体中が波打っているように感じる。


「どんなこと、話した?」

 聞いてくれたことだけで胸がいっぱいになった。はじめて、彼の心の中に踏み込むことを許されたような気持ちになる。


「駿くんは誤解してるよ、お母さんはずっと駿くんのこと思って暮らしてたんだよ」



「颯の病状が私の過失だったことで私は自分を責めました、病院の先生や主人、主人の両親にも責められて、苦しむあの子を見ているだけで罪悪感に襲われて必死であの子に付き添いました、そうしている時だけが自分が許されるのではないかとそれに縋っていた気がします。颯に向き合ってさえいれば自分のした罪が軽くなる気がしていました。その時駿はまだ八歳、小学二年生で今思えばずっとずっと幼い子供です、なのにあの子に言い聞かせたのです。お兄ちゃんだから平気よねって、あの言葉はきっと呪いだったでしょう。あの子は自分の気持ちを吐き出してはダメだと悟ったんだと思います、それに気づいていたのに私は見て見ぬふりをしました。あの子の優しさと我慢する気持ちに甘えました、甘えたくせに何もしてやらなかった。見て見ぬふりは気持ちだけじゃない、あの子の暮らしにも大して気にかけてやれず、学校でどんなことをしてどんな友達がいるか、子供らしく過ごしていい時間を何も与えてやれず構ってやることもしていない。それでもあの子は何も言いませんでした、言えなかっただけでしょうが……その気持ちさえ私は無視したのです」


 はぁ、と震える息をひとつ吐き出してお母さんは続ける。苦しそうな表情と、涙が滲む瞳が揺れていたんだ。

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