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番外編
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その言葉の意味って――そう考えていたら彼が言うのだ。くすりと少し悪だくみするみたいな茶目っ気全開の笑顔を添えて。
「燈子さんが俺にめんどくさくなって離れていくかもしれないって漠然とした不安がありましたけど、もうそこはわかりました。この俺のうっとうしい感じも母親くらいの広い心で可愛いって思って受け止めてくれてるなら大丈夫ですね、開き直ることにします」
「あ、はい……え?」
「燈子さんの前ではガキみたいになってもいいんでしょ?」
「……どうぞ」
「はー、それってすっごい幸せじゃないですか」
そう言ってぎゅうっと抱きついてくる。
「俺、今までそんな風に子供みたいでいれたことないですよ、付き合ってた子たちの前で」
「……そう、ですか」
「自分の素直な気持ちを吐くだけでも幸せなのに、それを受け止めてもらえるって本当にあるんですね」
それは私だって思っている。我慢しなくていい、ありのままの自分をさらけ出せることがどんなに難しくて当たり前ではないのか。それを自分以外の誰かが受け入れて認めてくれるなんて奇跡に近い。
「私は……私を幸せにできる、私の幸せは私次第。そうやって思ってきたし、今でもその気持ちはあります。一人でいても幸せだって、そう思ってきたけど、もう一人はいや」
彼がそっと腕の力を緩めて私の顔を見つめてくる。頬に触れる手が優しくて、壊れ物を撫でるように丁寧に指先だけで触れてくるから身体がピクリと反応してしまう。
「もう一人になんか戻れない、この幸せは一人じゃ見つけられなかった。いつまでも一緒にいたいから、あなたを大事にしたいから。だからもっとあなたもあなたを大事にして?私を大事に思ってくれるなら私の気持ちもわかるでしょ?」
そう問いかけたら困ったように笑っておでこを突き合わせてきた。
「……燈子さんは、ずるい」
「なにがですか?」
「可愛すぎて、ずるい」
「可愛いのはあなたの方。私ももう気持ちを晒したから開き直りますよ」
ふん、っと拗ねたように言ってしまうと嬉しそうに笑うから、結局その無邪気な可愛い笑顔にほだされてしまうのだ。
「離れようはただの言葉の綾ですからね?本音を言わせるためにあえてそう言っただけ。共依存の心配は嘘じゃないけど、離れて解決するかもわからなかったし、離れた方がちゃんと生活しなさそうでむしろ心配が増しそうだし……」
「――お母さんですね」
「だから!そういうことをいちいち言っちゃいそうで嫌だったの!私の方がよっぽどうっとおしい気がします……もう、一緒に暮らしたら絶対口うるさいなとか思われそう」
「――え?」
背筋を伸ばして目をキラキラさせておやつをもらえる前みたいな反応をして言葉を待つゴールデンレトリバー。もう本気で毛並みのいい綺麗な大型犬にしか見えなくなってきた。
「これも言ってなかったですけど。友達のお店はここからすごく近いんです。アパートの更新もどうしようか迷ってて、距離もあるし、その……女性専用アパートだったし。だから……そのぉ……こんな干渉する口うるさい母親みたいな女でもいいなら……「燈子さん!!」
大型犬の抱きつきは勢いがあってタックルみたいだ、なんて何かの記事で読んだことを脳裏で思い出した。それくらいいきなり飛びついてくるから受け止めきれずそのまま後ろに倒れこむ。見上げるとそれはそれは嬉しそうな笑顔で目を輝かせている彼がいた。しっぽがついているんじゃないかと確認したくなる。
(だから、もうなんでこの人こんなに可愛いの)
「口うるさい燈子さんも可愛いだろうな」
「そんなこと言ってられるの今だけかもしれないですからね」
「どうしよう、楽しみすぎて寝れない」
「だからちゃんと寝て?そういうところから直しましょうね」
これから心配が尽きない感じの彼に、私がきっとますます翻弄される。それでもあなたといると幸せ、昨日より今日が、今日より明日がもっと幸せ。その幸せを二人でこれからも作っていきたいのだ。
ーーーーー
番外編までお付き合いくださりありがとうございます!
一旦完結とさせていただきたいと思います!引き続き続編も連載したいと思います。準備が整い次第投稿始めますのでお待ちいただけると嬉しいです!!
よろしくお願いします!
「燈子さんが俺にめんどくさくなって離れていくかもしれないって漠然とした不安がありましたけど、もうそこはわかりました。この俺のうっとうしい感じも母親くらいの広い心で可愛いって思って受け止めてくれてるなら大丈夫ですね、開き直ることにします」
「あ、はい……え?」
「燈子さんの前ではガキみたいになってもいいんでしょ?」
「……どうぞ」
「はー、それってすっごい幸せじゃないですか」
そう言ってぎゅうっと抱きついてくる。
「俺、今までそんな風に子供みたいでいれたことないですよ、付き合ってた子たちの前で」
「……そう、ですか」
「自分の素直な気持ちを吐くだけでも幸せなのに、それを受け止めてもらえるって本当にあるんですね」
それは私だって思っている。我慢しなくていい、ありのままの自分をさらけ出せることがどんなに難しくて当たり前ではないのか。それを自分以外の誰かが受け入れて認めてくれるなんて奇跡に近い。
「私は……私を幸せにできる、私の幸せは私次第。そうやって思ってきたし、今でもその気持ちはあります。一人でいても幸せだって、そう思ってきたけど、もう一人はいや」
彼がそっと腕の力を緩めて私の顔を見つめてくる。頬に触れる手が優しくて、壊れ物を撫でるように丁寧に指先だけで触れてくるから身体がピクリと反応してしまう。
「もう一人になんか戻れない、この幸せは一人じゃ見つけられなかった。いつまでも一緒にいたいから、あなたを大事にしたいから。だからもっとあなたもあなたを大事にして?私を大事に思ってくれるなら私の気持ちもわかるでしょ?」
そう問いかけたら困ったように笑っておでこを突き合わせてきた。
「……燈子さんは、ずるい」
「なにがですか?」
「可愛すぎて、ずるい」
「可愛いのはあなたの方。私ももう気持ちを晒したから開き直りますよ」
ふん、っと拗ねたように言ってしまうと嬉しそうに笑うから、結局その無邪気な可愛い笑顔にほだされてしまうのだ。
「離れようはただの言葉の綾ですからね?本音を言わせるためにあえてそう言っただけ。共依存の心配は嘘じゃないけど、離れて解決するかもわからなかったし、離れた方がちゃんと生活しなさそうでむしろ心配が増しそうだし……」
「――お母さんですね」
「だから!そういうことをいちいち言っちゃいそうで嫌だったの!私の方がよっぽどうっとおしい気がします……もう、一緒に暮らしたら絶対口うるさいなとか思われそう」
「――え?」
背筋を伸ばして目をキラキラさせておやつをもらえる前みたいな反応をして言葉を待つゴールデンレトリバー。もう本気で毛並みのいい綺麗な大型犬にしか見えなくなってきた。
「これも言ってなかったですけど。友達のお店はここからすごく近いんです。アパートの更新もどうしようか迷ってて、距離もあるし、その……女性専用アパートだったし。だから……そのぉ……こんな干渉する口うるさい母親みたいな女でもいいなら……「燈子さん!!」
大型犬の抱きつきは勢いがあってタックルみたいだ、なんて何かの記事で読んだことを脳裏で思い出した。それくらいいきなり飛びついてくるから受け止めきれずそのまま後ろに倒れこむ。見上げるとそれはそれは嬉しそうな笑顔で目を輝かせている彼がいた。しっぽがついているんじゃないかと確認したくなる。
(だから、もうなんでこの人こんなに可愛いの)
「口うるさい燈子さんも可愛いだろうな」
「そんなこと言ってられるの今だけかもしれないですからね」
「どうしよう、楽しみすぎて寝れない」
「だからちゃんと寝て?そういうところから直しましょうね」
これから心配が尽きない感じの彼に、私がきっとますます翻弄される。それでもあなたといると幸せ、昨日より今日が、今日より明日がもっと幸せ。その幸せを二人でこれからも作っていきたいのだ。
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番外編までお付き合いくださりありがとうございます!
一旦完結とさせていただきたいと思います!引き続き続編も連載したいと思います。準備が整い次第投稿始めますのでお待ちいただけると嬉しいです!!
よろしくお願いします!
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