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番外編

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 予想外の彼女の言葉に一瞬言葉を失った。仕事を辞めたい、というか辞めるといきなり告げられて何と返せばいいのか……そんな俺にお構いなしで彼女は淡々と話し続ける。

「だからそんなに言いたいのならもう私が辞めてから……「なにそれ、初めて聞きますけど」
「初めて言います。だから今さらそんな話を周りに言う必要ない……「なにそれ!なんで?!いつ?!」
 なんでもかんでも淡々と話すから思わず彼女の肩を掴んで揺すっていた。

「セラピストの友達が独立した話は前にちょっとしたと思うんですけど……その子のお店でパワーストーンの販売も考えてるらしくて。そこのスタッフに私がどうかって相談してきてくれたんです。ちょうど私がパワーストーンの資格を取ったところだったのもあるから講師も兼ねてって」
「燈子さんも今の仕事をやめてやりたいと?」
 俺が聞くと頷く。
 何も言えない俺を真っ直ぐ見つめる彼女の意志は固まっているように見えた。

「とりあえず、そういうことを考えています。またいろいろ事情が変われば……お話します、ね?この話は終わり……で、いい?」
「――はい」

 俺はすっかり彼女に主導権を握られるようになっていた。



 転職したいと思ってたなんて知らなかった。俺より三つ歳上で今年三十五歳の彼女。やりたいことや頑張りたいことがあるなら全力で応援したいけれど、モヤる気持ちがあるのも事実だ。


(今から新しいことに挑戦して仕事したいってこと?……結婚とか全然考えてないんだろうか)


「やだぁー。もう誕生日きてほしくないーー明日で二十七になっちゃうー、もう三十だよぉー」
 同じ部署の子が事務所でそう嘆いているのがタイムリーに耳に入る。

「もう今年中に絶対彼氏作って結婚しなきゃやばい、焦る、やばい!」


(燈子さんに焦りは全く感じないな……なんでなんだろう。結婚願望がそもそもない?)



 三十五歳で転職?しかも自分のやりたい大好きなことを始める?



(あれ?もしかして俺って彼女にとってお荷物になってないだろうか?)


 よぎり出す不安が心の中を支配し始める。年上と付き合うのは実は初めてだった。キャピキャピした子よりかは落ち着いた子を選んできたけど、基本甘えられることが多くて。自分からお願いしたりしつこく気持ちを主張したりなんかはしてきたことがない。


(燈子さんと付き合ってから、俺って結構うっとーしーんだよなぁ……自分で思うもん)


 ①付き合い出してすぐに一緒に暮らしたいと申し出た→当然断られて無理と言われる。
 ②週末だけは泊まりに来てと頼んだ→行ける時は行くけれど毎回は無理と言われる。
 ③俺が彼女の家に行きたい→女性専用アパートで無理と言われる。
 ④職場で関係をオープンにしたい→絶対無理と言われる。


(基本無理なんだよな。それに俺がしつこく駄々をこねて、嗜められてる)


 繋がりを持ちたい俺とは対照的で、いつもどこか距離を感じる。だからこそ余計に繋がりたい俺は必死になってしまっていたのだ。

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