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続編/燈子過去編
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不安でたまらなくて焦る私に声を掛けてくれた一人の男性。濡れた視界の先にいたのはスーツを着こなした落ち着いたその姿は無意識に見惚れるほどで。素敵な人だった。単純な言葉だけれど、素敵だった。
低いけど甘く響くその声はなぜか懐かしさを感じてしまい、それくらい心地よく聞こえたから瞬間で気持ちが緩んでしまう。
(いやだ、失くしたくない……)
気持ちが搔き乱されて思わずこぼしてしまった。
「落としてしまって……」
「なにを?」
「――ピアスを……」
どうしてそんなことを初めて会う人に言ってしまったのか。
「どんな?」
「小さいんですけど……石の、青い石の……」
「青い石?」
「ブルートパーズ……」
そこまで言ったら彼は黙って一緒に探してくれた。スーツが濡れちゃいます、大丈夫です、そう言ったのにニコッとだけ笑って一緒に濡れてくれた。ここで落としたのかもわからない、本当に大丈夫です、そう言ったら彼が言った。
「あなたが諦めるなら僕もやめます、どうします?」
(それは……)
ここで落としたかわからないのは本当だ。今気づいただけでもっと前からなかったかもしれない。でも、ここで探さないともうどこにもない気がした。見つけられるチャンスはここしかない、そう思ってしまう。
「もう少し一緒に探してなかったら諦めたらよくないですか?タイミングは大事ですよ」
そんな優しい言葉を掛けられて、諦めたくなくなった。探し始める私の傍で彼も一緒に雨に濡れてくれた。しばらく探していたら彼は本当にピアスを見つけてくれて、彼の手の中に光るブルートパーズを見たら私は込みあがる涙を止められなくて、子供みたいに彼の前で泣いてしまった。
泣いてしまう私に何と声を掛けることはない、でも傍にいてくれた。何も言わず、そばに……それが私の心をどれだけ救ってくれたか。もちろんそんな思いは伝えられなかったけれど。
それが、その人との出会い――。
落としたピアスに気づいてその場ですぐに見つけることができた場合……それは吉兆になり、素敵な出会いをすることになる……そんないわれが胸を巡っていた。そのスピリチュアルな運命を私は感じてしまっていた。
低いけど甘く響くその声はなぜか懐かしさを感じてしまい、それくらい心地よく聞こえたから瞬間で気持ちが緩んでしまう。
(いやだ、失くしたくない……)
気持ちが搔き乱されて思わずこぼしてしまった。
「落としてしまって……」
「なにを?」
「――ピアスを……」
どうしてそんなことを初めて会う人に言ってしまったのか。
「どんな?」
「小さいんですけど……石の、青い石の……」
「青い石?」
「ブルートパーズ……」
そこまで言ったら彼は黙って一緒に探してくれた。スーツが濡れちゃいます、大丈夫です、そう言ったのにニコッとだけ笑って一緒に濡れてくれた。ここで落としたのかもわからない、本当に大丈夫です、そう言ったら彼が言った。
「あなたが諦めるなら僕もやめます、どうします?」
(それは……)
ここで落としたかわからないのは本当だ。今気づいただけでもっと前からなかったかもしれない。でも、ここで探さないともうどこにもない気がした。見つけられるチャンスはここしかない、そう思ってしまう。
「もう少し一緒に探してなかったら諦めたらよくないですか?タイミングは大事ですよ」
そんな優しい言葉を掛けられて、諦めたくなくなった。探し始める私の傍で彼も一緒に雨に濡れてくれた。しばらく探していたら彼は本当にピアスを見つけてくれて、彼の手の中に光るブルートパーズを見たら私は込みあがる涙を止められなくて、子供みたいに彼の前で泣いてしまった。
泣いてしまう私に何と声を掛けることはない、でも傍にいてくれた。何も言わず、そばに……それが私の心をどれだけ救ってくれたか。もちろんそんな思いは伝えられなかったけれど。
それが、その人との出会い――。
落としたピアスに気づいてその場ですぐに見つけることができた場合……それは吉兆になり、素敵な出会いをすることになる……そんないわれが胸を巡っていた。そのスピリチュアルな運命を私は感じてしまっていた。
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