あの夜をもう一度~不器用なイケメンの重すぎる拗らせ愛~

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本編

37話・伝えたい事(高宮)

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 こんなに落ち着いて楽しく食事をしたのは久しぶりだった。大した話はしてないけれど、こういう味が好きとかこれが苦手とか。好きな音楽や映画の話、普段はどんな風に過ごしているかなど些細だけど当たり前に知らないことばかりで時折くだけた話をしたりした。

 話すと似たようなものが好きだったりして彼女は喜んだ。こんな風に話す時間が必要だった、お互いをもっと知る時間を持つべきだったのに俺たちはいきなり境界線を越えすぎていた。


「真鍋さんのことはすみませんでした」
 嫌な思いをさせた。今日だけでなくコンビニでも。あんな言葉を聞かせたかったわけじゃない。

「高宮さんが謝ることじゃ……「謝らせてください。俺、いつも美山さんにそう言われてちゃんと謝れてない」
 そう言ったら彼女は気まずそうに黙ってしまった。

「忘れてくださいって言葉に甘えてズルズルと逃げてました。もっと早くに話すべきでした。俺の気持ち、ちゃんと聞いてもらうべきだったのに」
 逃げた。逃げて、逃げ続けて……でも逃げたくなくなった。

「今さらですけど、聞いて欲しい。美山さんに伝えたいことがいっぱいあります」
 そう言うと彼女は何も言わずに静かに言葉を待ってくれたから、遠慮なく気持ちを伝えることにした。


「昔からなるべく人との距離を詰めないように、当たり障りなく害にもならないように接してて。それがもう身についちゃってるんですけど、それは、その、女性関係もそうで。そうなっちゃったのは、好きになる子に気持ちを理解してもらえずにきたせいなんです」
 その発言に彼女はそんなバカなといった疑いの表情を向けてくる。


(自分を棚に上げてよくそんな顔するよ……)


「過去に本気の気持ちを伝えても受け止めてもらえなくて、線を引かれたことがトラウマになってました。それからは自分の気持ちを晒すのが嫌になって……どう言っても伝えたい気持ちが伝わらないなら本気になる必要ないなって、諦めることを知ったら楽になってしまったんです。無駄に傷つかなくてもいいし、本気にならないから神経をすり減らすこともない、楽だなって。そしたらもうずっとこんな感じです」
 カッコ悪いですよね、自虐気味にそう言ったら彼女はまだ何も言わずに静かに聞いてくれている。


「あえて同じような感覚の人ばかりを選んできたんでそれなりにうまくは行くんですけど……やっぱり続かなくて。結局ずっとなんて言うか――虚しいですよね。誰とも繋がれてない、みたいな」
 それは自分のせいで、自分で選んできたのに勝手な話だ。

「下心があったり表面的なことだけで寄ってくる人も多いから色々面倒になってて、最近はずっと彼女とかできずにいたんです。自分もそこまで若くないし、遊ぶにはしんどい、でも本気にもなれないし、自分の都合のいい相手もそういない、恋愛の仕方なんかもうずっとわかりません――俺、どうやって人のこと好きになるのか忘れちゃったんです」

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