37 / 145
本編
37話・伝えたい事(高宮)
しおりを挟む
こんなに落ち着いて楽しく食事をしたのは久しぶりだった。大した話はしてないけれど、こういう味が好きとかこれが苦手とか。好きな音楽や映画の話、普段はどんな風に過ごしているかなど些細だけど当たり前に知らないことばかりで時折くだけた話をしたりした。
話すと似たようなものが好きだったりして彼女は喜んだ。こんな風に話す時間が必要だった、お互いをもっと知る時間を持つべきだったのに俺たちはいきなり境界線を越えすぎていた。
「真鍋さんのことはすみませんでした」
嫌な思いをさせた。今日だけでなくコンビニでも。あんな言葉を聞かせたかったわけじゃない。
「高宮さんが謝ることじゃ……「謝らせてください。俺、いつも美山さんにそう言われてちゃんと謝れてない」
そう言ったら彼女は気まずそうに黙ってしまった。
「忘れてくださいって言葉に甘えてズルズルと逃げてました。もっと早くに話すべきでした。俺の気持ち、ちゃんと聞いてもらうべきだったのに」
逃げた。逃げて、逃げ続けて……でも逃げたくなくなった。
「今さらですけど、聞いて欲しい。美山さんに伝えたいことがいっぱいあります」
そう言うと彼女は何も言わずに静かに言葉を待ってくれたから、遠慮なく気持ちを伝えることにした。
「昔からなるべく人との距離を詰めないように、当たり障りなく害にもならないように接してて。それがもう身についちゃってるんですけど、それは、その、女性関係もそうで。そうなっちゃったのは、好きになる子に気持ちを理解してもらえずにきたせいなんです」
その発言に彼女はそんなバカなといった疑いの表情を向けてくる。
(自分を棚に上げてよくそんな顔するよ……)
「過去に本気の気持ちを伝えても受け止めてもらえなくて、線を引かれたことがトラウマになってました。それからは自分の気持ちを晒すのが嫌になって……どう言っても伝えたい気持ちが伝わらないなら本気になる必要ないなって、諦めることを知ったら楽になってしまったんです。無駄に傷つかなくてもいいし、本気にならないから神経をすり減らすこともない、楽だなって。そしたらもうずっとこんな感じです」
カッコ悪いですよね、自虐気味にそう言ったら彼女はまだ何も言わずに静かに聞いてくれている。
「あえて同じような感覚の人ばかりを選んできたんでそれなりにうまくは行くんですけど……やっぱり続かなくて。結局ずっとなんて言うか――虚しいですよね。誰とも繋がれてない、みたいな」
それは自分のせいで、自分で選んできたのに勝手な話だ。
「下心があったり表面的なことだけで寄ってくる人も多いから色々面倒になってて、最近はずっと彼女とかできずにいたんです。自分もそこまで若くないし、遊ぶにはしんどい、でも本気にもなれないし、自分の都合のいい相手もそういない、恋愛の仕方なんかもうずっとわかりません――俺、どうやって人のこと好きになるのか忘れちゃったんです」
話すと似たようなものが好きだったりして彼女は喜んだ。こんな風に話す時間が必要だった、お互いをもっと知る時間を持つべきだったのに俺たちはいきなり境界線を越えすぎていた。
「真鍋さんのことはすみませんでした」
嫌な思いをさせた。今日だけでなくコンビニでも。あんな言葉を聞かせたかったわけじゃない。
「高宮さんが謝ることじゃ……「謝らせてください。俺、いつも美山さんにそう言われてちゃんと謝れてない」
そう言ったら彼女は気まずそうに黙ってしまった。
「忘れてくださいって言葉に甘えてズルズルと逃げてました。もっと早くに話すべきでした。俺の気持ち、ちゃんと聞いてもらうべきだったのに」
逃げた。逃げて、逃げ続けて……でも逃げたくなくなった。
「今さらですけど、聞いて欲しい。美山さんに伝えたいことがいっぱいあります」
そう言うと彼女は何も言わずに静かに言葉を待ってくれたから、遠慮なく気持ちを伝えることにした。
「昔からなるべく人との距離を詰めないように、当たり障りなく害にもならないように接してて。それがもう身についちゃってるんですけど、それは、その、女性関係もそうで。そうなっちゃったのは、好きになる子に気持ちを理解してもらえずにきたせいなんです」
その発言に彼女はそんなバカなといった疑いの表情を向けてくる。
(自分を棚に上げてよくそんな顔するよ……)
「過去に本気の気持ちを伝えても受け止めてもらえなくて、線を引かれたことがトラウマになってました。それからは自分の気持ちを晒すのが嫌になって……どう言っても伝えたい気持ちが伝わらないなら本気になる必要ないなって、諦めることを知ったら楽になってしまったんです。無駄に傷つかなくてもいいし、本気にならないから神経をすり減らすこともない、楽だなって。そしたらもうずっとこんな感じです」
カッコ悪いですよね、自虐気味にそう言ったら彼女はまだ何も言わずに静かに聞いてくれている。
「あえて同じような感覚の人ばかりを選んできたんでそれなりにうまくは行くんですけど……やっぱり続かなくて。結局ずっとなんて言うか――虚しいですよね。誰とも繋がれてない、みたいな」
それは自分のせいで、自分で選んできたのに勝手な話だ。
「下心があったり表面的なことだけで寄ってくる人も多いから色々面倒になってて、最近はずっと彼女とかできずにいたんです。自分もそこまで若くないし、遊ぶにはしんどい、でも本気にもなれないし、自分の都合のいい相手もそういない、恋愛の仕方なんかもうずっとわかりません――俺、どうやって人のこと好きになるのか忘れちゃったんです」
12
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。


【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
独占欲強めな極上エリートに甘く抱き尽くされました
紡木さぼ
恋愛
旧題:婚約破棄されたワケアリ物件だと思っていた会社の先輩が、実は超優良物件でどろどろに溺愛されてしまう社畜の話
平凡な社畜OLの藤井由奈(ふじいゆな)が残業に勤しんでいると、5年付き合った婚約者と破談になったとの噂があるハイスペ先輩柚木紘人(ゆのきひろと)に声をかけられた。
サシ飲みを経て「会社の先輩後輩」から「飲み仲間」へと昇格し、飲み会中に甘い空気が漂い始める。
恋愛がご無沙汰だった由奈は次第に紘人に心惹かれていき、紘人もまた由奈を可愛がっているようで……
元カノとはどうして別れたの?社内恋愛は面倒?紘人は私のことどう思ってる?
社会人ならではのじれったい片思いの果てに晴れて恋人同士になった2人。
「俺、めちゃくちゃ独占欲強いし、ずっと由奈のこと抱き尽くしたいって思ってた」
ハイスペなのは仕事だけではなく、彼のお家で、オフィスで、旅行先で、どろどろに愛されてしまう。
仕事中はあんなに冷静なのに、由奈のことになると少し甘えん坊になってしまう、紘人とらぶらぶ、元カノの登場でハラハラ。
ざまぁ相手は紘人の元カノです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる