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本編

15話・突然のメール(燈子)

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 バタバタとしていてそのメールに気づいたのは二日経ってからだった。

 基本的に転送メールとかしか来ないから滅多にメールボックスを開けない。契約社員といっても個人パソコは持たされておらず、実験室に置かれている共有パソコンを使わせてもらっている。でも、共有パソコンと名の通り、誰もが使えるものは人が使っていたら使えない。メールの確認をするのなんかタイミングを逃すと後回しになるのがしょっちゅうだった。

 案の定メール確認が放置気味になっていて開けるのは二日ぶり。放置にしててもそこまで気にならなかったのは私宛にメールが届くのは稀なことだから。そんなのは言い訳だけど、十数年勤務してそれは自分が誰よりも理解しているはずだった。



 ―――――――――――――――

【品証の高宮です】

【お疲れ様です。

 折り入ってお話ししたいことがあります。お忙しいところ恐縮ですが、ご都合の良い時にお時間いただけませんか。

 私はいつでも構いません、美山さんに合わせますので連絡お待ちしております。】

 ―――――――――――――――



(まってまってまってまってまって―――!)



 これはどうしたらいいのか。


(いつ?いつ届いていた?)


 日にちを確認すると二日前、しかも朝いちに届いているから実質ほぼ三日を経過しようとしてしまっているではないか。早急に返事をしないと高宮さんがどう思うかとか脳内がいきなりフル回転で考え始めた。


(どど、どうしよう、どうしよう、えっと、どうしよう!)


 話したいこととはなんだろう、なにを話したいんだろう。例のこと?例のこと以外でむしろあるか?考えろ考えろ、高宮さんが例のこと以外で私と連絡を取らないといけないような何かがあるか?


 仕事のこと……?いや、ないだろう。あっても私に直接言う話ではない。

 折り入って話したいこと……。


(いや!!ない!!!折りいらないといけないことはなにもない!!!)


 考える間もなく瞬殺で答えが出る。忘れてくださいで終わっていた話ではなかったのか?終わった話だったでしょう?もうあれから半月以上経ってるし私たちは会社ですれ違いはもちろん、会うことすら一切なかった。


(本音は極力会わないように時間とかめちゃくちゃ意識して避けまくっていたけれども)


 今さらこんなメールを送ってきて彼は何を言いたいのだろう。誰にも話してないから迷惑をかけてることはないはずだけど……信用されていないのだろうか。もう一度念押しをしたいとか?口止めしたいほかのなにかでもあったのか?頭の中で悶々と考えつつ返事を打たないとと頭を抱えた。


(話すことはないので――と、お断りもありじゃない?)


 フトそんなこともよぎったが、それも瞬間で吹っ切る。


(いやいや、仕事関連のことだったらどうするの?わざわざあの日のことを匂わせといて、はぁ?なにあの日のこと言い出して勘違いしてんだよ、ってなるんじゃない?なるよ、なるに決まってる、やめよう、話題をこちらから振るのはタブーな気がする!)


 会うのは避けられないかもしれない、なんにせよ職場である以上、本体の社員さんの意見は基本絶対だ。聞かないのも立場的に悪い、そうとりあえず自分を納得させて(ほぼ諦めて)その手でメールを返信した。

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