あの夜をもう一度～不器用なイケメンの重すぎる拗らせ愛～

本編

10話・ヘタレな俺（高宮）

　完全に面白がっているような久世。それでももう久世頼りな俺は問いかける。

「……彼女、仕事来てる？」
「来てるよ、事務所では見かける」
「ど、どんな感じ？」
「どんなって……俺絡まないし」
「雰囲気！見た感じ！」
「そんな見ないし」


（この事知ってて意識しないの逆にすごいわ、ちょっとくらい見てくれよー）


「会ってないの？」
「会わんよな……」
「そうか」
　久世はそれ以上突っ込んでこない。沈黙がやたら胸を抉ってくる。会わずにグダグダ言ってんだな、そう言いたいんだろう、わかっている。わかっているのだ。

「だって会わねぇんだもん！よっぽどのことがない限り接点なんかないんだって！」
「なんも言ってねぇよ」
「……なんか言ってよ」
　泣きそうだ。情けなくて……そう思っていたらフッと頭の上で笑われた。

「笑うな」
「だっておもしれーし」
「……くそ」
　何も言い返せない。


「あー、そういえば千夏がこないだ言ってたな」
「え、なにを？」
「高宮と美山さんは仲良いのか？って」
「え」
　そこの接点を問うてくるタイミングがタイムリー過ぎる。菱田ちゃんがわざわざそこの疑問をなぜ久世に投げてくるのか。ただの世間話のネタにしては違和感しかない。

「なな、なんで？」
「しらねぇよ」
「菱田ちゃんって美山さんと仲良いの？歳近いっけ？」
「知らん」
　こいつは本当に他人に興味がない。

「お前、自分の彼女のことじゃん」
「千夏の歳は知ってるよ。美山さんは知らん」
　だからさ。


「千夏は適度な距離感で職場の人間とツルんでるよ。美山さんも契約社員だよな？お互い似た様なポジションだけど、だからこそ馴れ合ってない気もするけど。だから世間話くらいなんじゃね？」
「……そう」
　その世間話のネタに俺がなるのか……余計気になる。

「ペラペラ話さねぇだろ、こんなこと」
　久世の言葉に頷くしか出来ない。

「不用意に話す人って思ってないけどさ……」
　なんなら俺の方が不用意に人にこぼしている。美山さんの気持ちも考えずに。

「ごめん、やっぱ聞かなかったことにして？この話」
「今さら無理だろ。お前マジでいい加減にしろ」
　久世に怒られてガチで肩を落としてしまう。そんな情けない俺に久世は待ったなしに言ってきた。


「引き伸ばしても同じだろ。早くちゃんと謝れよ。まぁ謝ってすむのかって話だけど」


（そうなんだよな……謝るってそれはそれでどうなんだろ）


　謝るってことがそもそも正解なんだろうかと思いだしている。俺たちは謝り合わないといけないことを本当にしたのだろうか。


「けど……」
　久世が一旦言葉を切って思いついたように言うから顔を上げると、久世の切れ目にジッと見られて息を呑む。

「どうすんだよ」
「な、なにが？」
　静かな圧が怖い。何を言う気だ。

「美山さんが望んでたことだったらどうすんの？軽い感じはしないから……結構本気で」
「え……」


　それは――全く想像していなかった質問だった。