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本編

9話・堂々巡りな日々(高宮)

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 あれから数週間。同じ社内でも部署も違えば建屋も違うと会うことなんかほぼないのだ。それほど彼女とは絡むことはないし、意識したところで気軽に会えることもない人だったのだと今になって実感している。

 結局あの日から俺は彼女と接触さえできず、ただ日だけが過ぎていた。


「これってさー、俺が聞いてもいいわけ?」
 久世は飲みながら自分の納得のいく着地点を見つけようとしている。

「いいか悪いかで聞かれたら悪い。でももう俺言っちゃったしお前は聞いちゃったし諦めて聞けよ」
「その自分本位な意見なんだ?全部お前の都合。美山さんと俺の気持ちどうでもいいのな」
「ごめん」
「いや、素直か」


(その通りなんだけど、もう久世の前でしか自分を正当化できないから受け止めてほしいんだよ、それもすごい自分勝手で、情けなくて泣きそうー)


 そこまでの本音は言えずにいる。

「だからって、久世が彼女と絡むことはそうないし、知ってるからって誰かに話したりもしないわけだろ?あ、菱田ちゃんには言う?言った?言う気?」
「いや、言わんけど」
「お前良い奴だよな、口悪いけどさぁー」
 肩を抱いたらウザがられた。

「肝心なところが全く思い出せなくてさ。じゃないと謝るにも謝れないっていうか……」

 結局どうやって家に帰ったのか、なぜ彼女が家にいたのか、そこだけが未だに記憶にないままだ。付き合いもしていない女性を家に招くようなことは経験上したことがないし、基本する気もない。彼女が俺の家に押しかけてきそうにも全く見えないし、そもそも理由もなく来そうになんかない。
 考えても考えても、俺が彼女と家にいる理由が見つからなくてやっぱり記憶に頼るしかないのに脳みそは全然役に立ってくれないままだ。


「人間酔って記憶なくすとかマジあるんだな。なんでそれが今回なんだよ、終わってる」
 その現実を思い出して背筋が震えた。

「高宮が誘って連れ込んだんだろ」
「わー、そうなのかな。でもそれしかないよな?彼女が誘うとか天地がひっくり返ってもないよな」
「そもそも同意なの?」
「わーー、どうしよう、同意なかったらどうしよう」

 ――忘れてください、忘れるので。つまり、忘れたいので忘れてください、という意味で?

「――レイプ、した?俺」
「うわー、ゲスー」


(笑いながら言うな、しかも絶対面白がってるな、こいつ!)



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