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第二章 許嫁……!?
正体 その9
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「ほーん」
色々聞いたが、ともかく一つ気になる点を。
「改めて聞くがよ、これからどうするつもりなんだよ」
瑠々美さんや野薊の事だから、ロベルト……もとい、依留葉との雰囲気が違うことにはすぐ気づかれるだろう。俺も毎度顔を合わせるたびに今日のことを思い出してピリピリするのも嫌だしな。
だが、放浪の旅をするにしても瑠々美さんが悲しむだろうな……
「私は……一度野薊を離れようと思います」
「瑠々美さんの事を考えてか?」
「それもありますが、私自身の問題です。心構え、というか……」
言いたいことは分かる。俺達に一度敵意を向けて、明日から素知らぬ顔で会えと言われても急に切り替えなんて出来ねぇだろうからな。
「どこに行くんだ?せめて手紙くらいは瑠々美さんに寄越してやれよ」
「当然です」
……やっぱり、こいつも瑠々美さんにだいぶ心を奪われているようだな。その点では安心できる。
「日本を一周してみようかと。なんだかんだ、このあたりしか知らないものですから」
「いいんじゃねぇのか?どうせ心休めなんだ、堪能しろ」
「それと……」
「ん?」
気まずそうに依留葉が言う。
「この件は、どうか内密にお願いしたいです」
「分かってるよ」
当然俺からも言うつもりはない。せいぜい俺の武勇伝にさせてもらうだけだ。
「では、そろそろ」
「だな」
あまり長く話しても結人さん達を心配させるだけだ。なので、さっさと解散しよう。
同時に、俺達は立ち上がる。
「あ」
「どうしました?」
俺は立ち上がってから、一つ思い出した。
「……そらよ!」
一発だけ、依留葉の顔を思いっきり殴る。
「これでチャラだな。結人さんなら何もしなかっただろうが、な」
殴ったのに、何故か依留葉はニヤリと笑っていた。
「ふ……それじゃあ、こちらも!」
今度は俺が思い切り顔を殴られる。
「これで任務終了としますか」
「っ……なかなかいいパンチするじゃねぇか。一度本気で戦ってみたかったぜ」
「それはまたの機会に、ということで」
俺達は、何も言うでもなく握手をしていた。さっきまで殺されそうになっていたというのに、何故だろうな。
「それでは。いつかまた会える日まで」
「ああ」
依留葉が去ろうとして背を向けた途端、こちらを向き直した。
「瑠々美様を……よろしくお願いいたします」
「当然だ」
丁寧に礼をされた後、今度は本当に去っていった。俺はその姿が見えなくなるまで、見続けていた。
姿が見えなくなってから俺はベンチに座り直す。
「……はぁ~~~」
大きなため息を吐いた。疲れもあるが、一番は緊張だ。
とりあえず、スマホで結人さんに連絡だけしておく。
『終わりました、少し休んでからそっち行きます』、っと。
送信して、スマホを戻す。そしてベンチの背もたれに寄りかかり、空を仰ぐ。
あー、めっちゃ綺麗に見えるなぁ。特に、一番よく見える……夏の大三角だっけか?それ。それが綺麗に見える。
こんな時に、瑠々美さんが隣に居たらさぞロマンチックだったろうにな……
――――プルルルルルルル……
「ん?」
電話が鳴ったのでスマホを取り出すと、俺の思考を読み透かしたかのように瑠々美さんからの電話だった。
「はい、伯彦ですけど」
困惑気味に俺は電話に出る。
『伯彦さん!朗報ですよ!』
いきなり大声で話し始めたので、びっくりして耳から一瞬スマホを遠ざける。
「い、いきなり大声でどうしたんですか瑠々美さん。何かいいことでも?あー、朗報って言ってましたね」
『はい、そうなんです!実は今日依留葉が休暇を取る前に、お父様を説得してくれたらしくて』
説得?一体何の説得だ?
「らしくて?」
『それで……伯彦さんと……ど、同棲、の許可、を頂きまして……』
俺は耳に飛び込んできた単語が理解出来ず固まった。
同棲……?
Do-Say…………?
同姓………………?
『の、伯彦さん?いや、でしたか?』
どういうことだ?俺と瑠々美さんの同棲?付き合い始めて一ヶ月だぞ、まだ。いやいや嬉しいことに気持ちの偽りはないんだがな?
「えっと……急すぎません?流石に」
とりあえず、真っ先に思ったことを言っておく。
『で、ですよねぇ。あはは……は……』
しばらく瑠々美さんが無言になる。この時間が一番恥ずかしいんだが。
「いつからとか決まってるんですか?」
『出来れば、来週中にはと』
「来週中ぅ!?」
うぉーん、こりゃ参った。そんなこと急に言われても心構えが全然出来ねぇよ。
「ま、まぁ俺はいつでも大丈夫っちゃあ大丈夫なんですけど……だいぶスピード展開ですね?」
今朝に依留葉が話して、それで今日のうちに決まるだなんて。そもそもがもう近かったとかか?いや、そりゃないな。なんせまだ一ヶ月だし。……一ヶ月だぞ?本当にいいのか?
『お父様、快く許可して頂きましたし』
「押しきった、とかではなく?」
『当然です』
うーん、さっき依留葉が話したみたいな考えは浮かんだが、あいつが俺に瑠々美さんを任せたのは依頼が果たせなかったからであって……
ん?よくわかんなくなってきたぞ?
「とりあえず、来週中からでいいんですよね」
『はい、そうです』
「じゃあ……改めて、これからもよろしくお願いします」
『はい、こちらこそ』
ひとまず区切りだけつけてから、電話を切る。
「……ウソだろ」
一人で呟いて、しばらくは喜びと驚きでベンチから立てなかったのだった。
色々聞いたが、ともかく一つ気になる点を。
「改めて聞くがよ、これからどうするつもりなんだよ」
瑠々美さんや野薊の事だから、ロベルト……もとい、依留葉との雰囲気が違うことにはすぐ気づかれるだろう。俺も毎度顔を合わせるたびに今日のことを思い出してピリピリするのも嫌だしな。
だが、放浪の旅をするにしても瑠々美さんが悲しむだろうな……
「私は……一度野薊を離れようと思います」
「瑠々美さんの事を考えてか?」
「それもありますが、私自身の問題です。心構え、というか……」
言いたいことは分かる。俺達に一度敵意を向けて、明日から素知らぬ顔で会えと言われても急に切り替えなんて出来ねぇだろうからな。
「どこに行くんだ?せめて手紙くらいは瑠々美さんに寄越してやれよ」
「当然です」
……やっぱり、こいつも瑠々美さんにだいぶ心を奪われているようだな。その点では安心できる。
「日本を一周してみようかと。なんだかんだ、このあたりしか知らないものですから」
「いいんじゃねぇのか?どうせ心休めなんだ、堪能しろ」
「それと……」
「ん?」
気まずそうに依留葉が言う。
「この件は、どうか内密にお願いしたいです」
「分かってるよ」
当然俺からも言うつもりはない。せいぜい俺の武勇伝にさせてもらうだけだ。
「では、そろそろ」
「だな」
あまり長く話しても結人さん達を心配させるだけだ。なので、さっさと解散しよう。
同時に、俺達は立ち上がる。
「あ」
「どうしました?」
俺は立ち上がってから、一つ思い出した。
「……そらよ!」
一発だけ、依留葉の顔を思いっきり殴る。
「これでチャラだな。結人さんなら何もしなかっただろうが、な」
殴ったのに、何故か依留葉はニヤリと笑っていた。
「ふ……それじゃあ、こちらも!」
今度は俺が思い切り顔を殴られる。
「これで任務終了としますか」
「っ……なかなかいいパンチするじゃねぇか。一度本気で戦ってみたかったぜ」
「それはまたの機会に、ということで」
俺達は、何も言うでもなく握手をしていた。さっきまで殺されそうになっていたというのに、何故だろうな。
「それでは。いつかまた会える日まで」
「ああ」
依留葉が去ろうとして背を向けた途端、こちらを向き直した。
「瑠々美様を……よろしくお願いいたします」
「当然だ」
丁寧に礼をされた後、今度は本当に去っていった。俺はその姿が見えなくなるまで、見続けていた。
姿が見えなくなってから俺はベンチに座り直す。
「……はぁ~~~」
大きなため息を吐いた。疲れもあるが、一番は緊張だ。
とりあえず、スマホで結人さんに連絡だけしておく。
『終わりました、少し休んでからそっち行きます』、っと。
送信して、スマホを戻す。そしてベンチの背もたれに寄りかかり、空を仰ぐ。
あー、めっちゃ綺麗に見えるなぁ。特に、一番よく見える……夏の大三角だっけか?それ。それが綺麗に見える。
こんな時に、瑠々美さんが隣に居たらさぞロマンチックだったろうにな……
――――プルルルルルルル……
「ん?」
電話が鳴ったのでスマホを取り出すと、俺の思考を読み透かしたかのように瑠々美さんからの電話だった。
「はい、伯彦ですけど」
困惑気味に俺は電話に出る。
『伯彦さん!朗報ですよ!』
いきなり大声で話し始めたので、びっくりして耳から一瞬スマホを遠ざける。
「い、いきなり大声でどうしたんですか瑠々美さん。何かいいことでも?あー、朗報って言ってましたね」
『はい、そうなんです!実は今日依留葉が休暇を取る前に、お父様を説得してくれたらしくて』
説得?一体何の説得だ?
「らしくて?」
『それで……伯彦さんと……ど、同棲、の許可、を頂きまして……』
俺は耳に飛び込んできた単語が理解出来ず固まった。
同棲……?
Do-Say…………?
同姓………………?
『の、伯彦さん?いや、でしたか?』
どういうことだ?俺と瑠々美さんの同棲?付き合い始めて一ヶ月だぞ、まだ。いやいや嬉しいことに気持ちの偽りはないんだがな?
「えっと……急すぎません?流石に」
とりあえず、真っ先に思ったことを言っておく。
『で、ですよねぇ。あはは……は……』
しばらく瑠々美さんが無言になる。この時間が一番恥ずかしいんだが。
「いつからとか決まってるんですか?」
『出来れば、来週中にはと』
「来週中ぅ!?」
うぉーん、こりゃ参った。そんなこと急に言われても心構えが全然出来ねぇよ。
「ま、まぁ俺はいつでも大丈夫っちゃあ大丈夫なんですけど……だいぶスピード展開ですね?」
今朝に依留葉が話して、それで今日のうちに決まるだなんて。そもそもがもう近かったとかか?いや、そりゃないな。なんせまだ一ヶ月だし。……一ヶ月だぞ?本当にいいのか?
『お父様、快く許可して頂きましたし』
「押しきった、とかではなく?」
『当然です』
うーん、さっき依留葉が話したみたいな考えは浮かんだが、あいつが俺に瑠々美さんを任せたのは依頼が果たせなかったからであって……
ん?よくわかんなくなってきたぞ?
「とりあえず、来週中からでいいんですよね」
『はい、そうです』
「じゃあ……改めて、これからもよろしくお願いします」
『はい、こちらこそ』
ひとまず区切りだけつけてから、電話を切る。
「……ウソだろ」
一人で呟いて、しばらくは喜びと驚きでベンチから立てなかったのだった。
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