溟の魔法使い

ヴィロン

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第二章 許嫁……!?

正体 その7

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「くそっ……そんなっ……」
 俺の前で、依留葉……いや、ロベルトがナイフを落として項垂れる。
「これでひとまずは危機は去りましたが……」
 横でアクセリナもナイフを下ろした。
「……んで、どうすっかねぇ、コレ」
「さあ?」
 意気消沈しているロベルトの処分をどうするか、俺達は決めかめていた。
「もう、いいでしょう……いっそのこと、私を殺してくださいよ」
「何でだよ」
「私は貴方達の主人の命を狙った族。警察に突き出すなりなんなりされても文句は言えません」
 だが、正直瑠々美さんのことを考えると、処分はあまり重たいものにしたくないんだがな……そもそもが未遂だし、今のところ誰も怪我してないし。
「とは言ってもな、あんたも脅迫されてやったんだろ?俺達も協力するから、そいつを一緒に潰してくれるってなら赦してやる」
「……なぜ?」
 顔を上げたロベルトに言われる。心底困惑しているような表情だった。
「本当だったら警察に突き出してぇけどよ……瑠々美さんが悲しむだろ?」
 あえて俺は瑠々美さんのことをあげてみる。
「私はどうなってもいいのです、取り返しのつかないことをしたのですから……ですが、どうか瑠々美様だけはお救いください!」
 当然としてある程度の反応は期待していたが、まさかこんなにも地に頭をこすりつけて懇願をされたらなぁ。
「分かった分かった、とりあえず頭だけでも上げてくれって。それに立って話そうぜ?」
 いつの間にかアクセリナさんがナイフを回収していたので、ひとまずは体術をかけられない限りは安全だろう。
 とは言ったものの、抵抗の意思はないしなぁ。
「ほらよ」
 俺はロベルトに手を差し伸べる。
「ありがとうございます」
 案外すんなりと手を取られた。ので少々ビビっている。とりあえずそのまま立ち上がらせた。
「んで?契約……ってのはどうすんだ?失敗したとなると確実にお前の処分が重くなると思うが」
「それは……」
 雇い主のことは前に結人さんから聞いた。それに、ソフィアさんの話しぶりにだいぶ性格も姉妹間で違う……というか、歪んでしまった、というか。
「テクラ様は……少々苛烈なお方です。無事で済むとは思いません」
「流石、従者なだけあってお詳しい」
「……今の私は、ソフィア様にのみ仕えます」
 全くもって事情を知らない俺からしたら右の耳から左の耳。聞こうにもなんか話したくなさげだし……
「ところであんた……なんで今までコソコソとやった?そんだけ強いなら、堂々と来いよ」
 以前の霖家への襲撃、そして結人さんが言ってた毒入り弁当……脅されていたとはいえ、用意周到すぎる。
「私は非魔法使い。本気で魔法を使われたら私は到底太刀打ち出来ないでしょう」
「その点で言ったら、俺もアクセリナさんもだけどな」
「はい」
 一応、俺は使えないこともないが、攻撃に転用できるわけじゃないし、アクセリナさんは知らん。
 そもそも、聞いた話じゃ外国の魔法と日本の魔法はだいぶシステムが違うって聞いたが?
「はぁ……私はこれからどうすればいいのでしょうか」
「どうするったってなぁ……本心からの行動じゃないんだろ?」
「私としても、これ以上の争いは避けたいところです」
「ですが……」
 ロベルトは俯く。
「野薊には恩もあります。ですが、やはり瑠々美様の……くっ、婚約者の……身内を殺めようとしたのは事実。やはり私は、本国に帰って野薊とは無縁の生活を送るしかないようです」
 婚約者、という単語を言うのに躊躇したのは引っかかるが、まぁいいだろう。
「……これは個人的な興味なんだがよ、あんたの過去知りてぇんだけど」
「私は興味ないのですが」
「はぁ……じゃあ先にアクセリナさんは例の場所行ってていいんじゃないですかね?あまり遅く行くのも心配させますし」
「分かりました。くれぐれもお怪我の無いように」
 アクセリナさんはロベルトをひと睨みだけしてから、成人さんの店へと向かっていった。
「立ってるままじゃなんだし、座って話そうや」
「はい」
 近くの公園に移動してから、俺はロベルトがなぜ野薊の家に仕えることになったのかの経緯を聞いた。
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