溟の魔法使い

ヴィロン

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第二章 許嫁……!?

正体 その5

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「あれ、伯彦?」
 修行場には、先に伯彦が来ていた。
「来ることないと思って使ってたのに、全く」
「不機嫌になられても……」
 伯彦は影で努力したいタイプなので、要は自分が裏で頑張ってる姿を見られると恥ずかしがる。その結果がコレってわけ。
「結人さんは何をしにここに?」
「ちょっと英気を養いにね」
 伯彦のスペースの為に、僕は縁側に座った。
「確かっ……そこの庭のデケェ木って、魔法の源的なのが詰まってるんでしたっけ……っと」
 おそらく後ろで筋トレをしているであろう伯彦が言った。
「うん、そうだよ。だからここらへんに居れば一番身体の中に魔力が吸収できる」
 言うなれば、『魔力の木』とでも名称されるのだろう。僕達はこの木の中にある魔力を使って魔法を発動しているわけだ。
「でも、最近めっちゃ使ったのって先月頭のあの件ぐらいじゃないですか?」
「あれはなかなか疲れたね、久々に魔力切れ起こしそうだった」
 先月頭……そう、ソフィアの心の中に精神だけ入るというだいぶ行き当たりばったりの事をやったあの時。
「あれからちょくちょくここで補給してるけど、普段ちょくちょく使うのもあってね。まだ本調子じゃないんだ」
「ん?完全100%になるまで補給を?」
「普通は70%ぐらいあればいいんだけどね。今は大体……77%ぐらい?」
 そもそもの話、どうやら僕は少しだけ魔力の許容量が多いらしい。それでも普通の魔法使いよりはあるので、僕の70%は普通の100%ぐらいだ。ちなみに父さんはもっとあるらしい。
「いついかなる時も十全にしておきたいからね」
 現実はそうはいかないのが大半だけど。
「あーあ、瑠々美さんが魔法使いだったらなー!何も隠し事しなくていいのになー!」
「そんなまさか。あるわけないって」
 野薊さんからは魔法の力は全く感じられない。けど、力を封じているアクセサリーをつけている感じもしない。
 もしかしたら僕が知らないだけで、『魔力阻害』のアクセサリーと似た『魔力封印』みたいなアクセサリーが外国にあるのかもしれないけれど……少なくとも今の段階では野薊さんは魔法を使えないはず。
「野薊さんって、何かアクセサリーとか他につけてたりする?」
「この前の成人さんの店で買ったやつ以外は……うーん、何もつけて無かったような気がします」
 考えすぎかもしれないけど、一つだけ思い当たるのはある。
 それは、何かしらの物に自分の魔力を封じ込めて、キーワードでそれを元に戻すと言うもの。この何かしらは何でもいい。
 お気に入りのぬいぐるみだとか、時計だとか、言っちゃえばスマホなんかにも封じ込められる。
 この方法を使っているとは正直考えにくいけれど、可能性の一つとして、だね。
「まぁ考えすぎじゃないですか?今どき、もう魔法使いなんて日本には全然居ませんよ。せめて瑠々美さんがハーフだとか、クォーターだとかだったらありますけど」
「そうだよね、考えすぎだよね……うん」
 伯彦の事だから魔法の事を漏らすことは絶対無いと思っている。思っているんだけど、一回考えて解決しないとずっと気になっちゃう自分のほうが心配だ。
「そんな都合のいいことあったら、俺は大笑いしてあげますよ」
 そう言って伯彦はまた別の筋トレを始めた。対して僕はやっぱり野薊さんのことが引っかかっていた。
 確かに、野薊さんは魔法の力を全く感じられない。それは事実だ。普通の人は全く感じられないかちょっと感じられるかの二つだからね。
 だから……
「はいはい、考えすぎですって。顔見なくても分かるんですよ」
「んえ」
 思索に耽っていると、後ろから伯彦に小突かれた。
「今一番考えなくちゃなのはそのことじゃなくて今夜の事でしょう?」
「あ……うん、そうだね。切り替えなくちゃ」
 自分の頬を叩いて、一時的にその悩みを捨てる。
「今夜を越えれば、ひとまずは休めるんですから」
「安心できる暮らしの為にも、頑張らないとね」
 襲撃者に怯えて暮らすよりはさっさと撃退してしまえば安息だ。争いごとはあまり好きじゃないけど、仕方ないよね……
 なんて、思ってたら。
「……ん」
 なんだかいい匂いがしてきた。
「おっ、もしかして静梨ちゃん達起きたか?」
「かもね」
 後で自分で作ろうとは思ってたけど、まさか作ってくれるとは。
「野薊さんも一緒にやってるのかな」
「おぉ、俄然頑張る気になってきました」
 確定しているわけじゃないのに、調子のいいヤツ。
「じゃあその頑張りを夜まで維持してくれるとありがたいね」
「ぐ……頑張ります」
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