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第二章 許嫁……!?
体育祭に忍ぶ悪意 その4
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「…………」
「うわぁ」
戻って来ると、ソフィアがニコニコの笑顔で待っていた。
「だいぶご立腹だよおにい……」
「ソ、ソウナンダ……」
静梨に耳打ちをされ、僕は冷や汗を垂らす。
「ずいぶんと、アクセリナと、仲が、良かったようで・す・ね?」
「あ、あはは……」
そっか、アクセリナは途中で抜け出してきて、それで僕と同じタイミングで帰ってきたわけだから。
「……伯彦さんが変なこと言わなければよかったのに」
「俺ぇ!?」
野薊さんが溜息を吐きながら言った言葉に僕は興味を持つ。
「何言ったのさ、伯彦」
今度は僕が伯彦にずいと迫る。
「い、いや……俺はただ『まるで逢引みたいだな』って言っただけで……」
笑顔を作る。
「あ、あー……」
数秒の静寂。
「…………すんませんしたあぁっ!」
そして、伯彦は土下座をした。注目集まるからやめてほしいんだけど。ただでさえソフィアとアクセリナ、更には静梨や紗代、野薊さんっていうメンツが揃っているせいで注目されてるのにさ。
「アクセリナも、結構話しこんでたの、気づかなかったんですか?」
「いえ、その……洗い場が、混んでまして……」
「その『こんで』じゃないんですけど?」
……ソフィアが珍しくアクセリナに敬語使ってる。こりゃ相当怒ってるな。
「いやあ、懐かしいね。別の女の子と遊んできて帰ったら、母さんが激怒してたことを思い出すよ」
「父上の昔のやんちゃな話はもう聞き飽きたって……」
「おや、そうかい?私としては何度でも話しても楽しいんだけれどね」
「いつか生霊飛ばされて恨まれても知らないよ?」
「その時は愛を囁いて帰してあげるさ」
「うわぁ……」
父上、本当に尊敬できる人だとは思っているけど、どうも人としてなんだかなぁ……って思う。それを制御している母上も母上だけど。
と、そんなこと思っている場合じゃないんだった。
「まぁまぁ、皆落ち着いて、ね?」
言いながらも、僕はあまり関わりたくないので弁当を頬張ろうとする。
「ユイトがお弁当美味しいって言ってくれたら許してあげましょう」
うまく演技をすることを心がけて、先程食べられなかった唐揚げを頬張る。
「……美味しい」
「やった♪」
ソフィアは目に見えて喜んでいる。今食べている弁当が本当に自分が作ったものかどうか気づいているかは知らないけど……
「……そうだ、瑠々美さんの弁当も美味いっすよ?」
いつの間にか土下座から復帰してしれっと弁当を食べている伯彦。誰から見ても分かるような幸せそうな表情をしている。
「あ!なんだったら、私があれをして差し上げましょうか?」
「「アレ?」」
僕と伯彦は声を揃えて言う。僕達以外はなんとなく察している雰囲気だったけど……なんだろう?
「その……あ、あーん、を」
「……ほう」
なかなかやるな、この人。ちょっと恥ずかしがってるけど、多分やる。
「…………」
「あ、あれ?伯彦さーん?伯彦さーん?」
よく見ると、伯彦はフリーズしていた。あまりにも驚きすぎて思考停止したか?
「おーい、伯彦ー?」
「……むぅ」
あ、まずい。ちょっと野薊さんが不機嫌になってきた。
「結人」
「うわっなんだよ父上」
耳元で唐突に囁かれて驚く。
「もう少し放置してたら面白そうじゃないかい?」
「えー……?」
明らかに不機嫌になってると思うんだけど、いいの?と僕は思う。
「……こうなったら、強硬手段です!」
すると、野薊さんが伯彦の持っている箸をひったくり、具材をつまんで持つ。
「結人さん。口を!」
「え!?あ、はい!」
急に呼ばれて驚いたけど、なんとか反応できた。言われたとおりに伯彦の口を無理やり開ける。
「それっ!」
と同時に、野薊さんが具材を放り込む。最後にこぼれないように口を閉じて終了。
「………どうだ?」
伯彦は依然としてフリーズしている。何か反応したらどうなんだ、と思う。
「……ここは……天国か……?」
「あ、復活した」
理由のわからない言葉を発しながら、伯彦は含んだ物を咀嚼し始める。
「こんな調子で今後大丈夫なのかな……」
「羨ましいなら、結人さんもソフィアさんにあーんして貰えばいいじゃないですか」
「だってさ」
「はい」
僕は口を開ける。そこにソフィアが箸で食べ物を突っ込む。
「むぐむぐ……ほら、これぐらい出来るでしょ」
「えぇ……おかしいっすよ……」
僕とソフィアは首を傾げる。
「別に、そこまで恥ずかしがることじゃなくない?」
「そうですねぇ」
同意を求めようと見回すけど、誰一人として共感してくれなかった。
「おにいってさ、大胆なのかそうじゃないのかわからない時あるよね」
「はい」
最初に口を開いたのは静梨と紗代だった。
「だってさ、正直まだ付き合ってから二ヶ月しか経ってないんだよ?なのにこの距離感って」
「まだそんなだったんだね」
「一度頭の病院をお勧めしてもいい?」
笑顔だけど、思いっきり怒筋が浮かんでいる。
……そうだなぁ、ソフィアと出会ってから色々出来事が濃すぎてもっと長いかと思ってたよ。そうだったそうだった、まだ二ヶ月か。
「でも、お楽しみはこれからっすよ?」
「?」
やけに楽しそうな伯彦。
「だって……だって!もうすぐで夏休み!楽しい楽しい夏休みっすよ!?遊ばにゃ損でしょうよ!」
「遊ぶことしか頭にないんですか」
「ぐっ……」
アクセリナが横から伯彦を刺してくる。
「いくら一年次とはいえ、来年再来年を見据えて勉強はしっかりとしたほうがよいのでは?」
「ぐぐっ……」
「そもそも、菫岡様?いずれ訪れる野薊家との交流を考えれば、テーブルマナーだったり言葉遣いだったりを学習したほうが良いのでは無いのかと思いますが」
「うぐぐっ……」
放置していると、伯彦をどんどん現実と言う名の正論で刺していくアクセリナ。正直僕にも耳が痛い話だ……
「アクセリナ?たまには休暇も必要ですよ?」
「ソフィア様のように明るくて優しい人ばっかりだったら、伯彦様も随分生きやすい世の中なのでしょうね」
「褒め言葉にしか聞こえないよー?」
「別に、褒めたわけでは……」
ソフィアの反撃に、アクセリナがたじろぐ。
「もう、正直に伝えてくれればいいのにー」
うりうりと言いながら、ソフィアがアクセリナの頬を人差し指でぐりぐりとする。それでもアクセリナはあまり先ほどより動揺していなかった。ただ、めんどくさそうな顔はしていたけど。
「依留葉」
「なんでしょう」
「主従関係って、あれぐらい仲いいほうがいいんでしょうか?」
「お嬢様、我々と違って皆様は主従の年齢が近いのです。その点を考慮なさってください」
「そうですかー……」
今度は野薊さんがしゅんとする。
「そこの伯彦さんも自称従者ですけどね」
紗代が急に伯彦に対抗してくる。
「確かに。伯彦君は霖家の従者とは認めてないね。というのも菫岡家の開祖のご意向だけど」
「ほら!なので、結人様と静梨様の従者の座は渡しませんよ?」
「いや、別に俺争ってないんだけど……」
「じゃあ私の勝ちですね?」
「……なんか負けたってのも癪だな!?」
こっちはこっちでなんか楽しそう。
「従者って、主人よりも争うものなんだろうかね」
「どうなんでしょうかね?」
「私もわかりかねます」
「まあ、面白いことには変わりないからいいんじゃない?と私は思うけど」
対して主人組はわりとのほほんとした会話内容だった。雑に言えば、だいぶ投げやりな会話、とも言う。
「それは、それとして」
父上が弁当を仕舞ながら言う。
「午後の競技、楽しみだね」
「えーと……?」
僕はプログラムを懐から出して出場する競技を見始める。
「午後明けて二競技目が借り物競争」
「はい!」
ソフィアが元気よく手を挙げる。口の端に米粒ついてたけど。
「んで、三競技後に騎馬戦。僕がうちの組の大将なんだよね……」
「そりゃもう、ゴリ押しさせて頂きました!」
クラスごとに、ではなく複数クラスで一つの組なので、計3クラス分指揮しないといけない。しかも相手の戦略を見抜いたり戦況を読み解かないといけない。こりゃきついよ……
「で、最後に学年対抗リレー。アンカーがアクセリナだね」
「勝ってみせます」
「期待してますよ?アクセリナ」
一度練習を見たけど、あの速さが本当に人間に出せるんだ……と思った。陸上選手でも目指したらいいんじゃないかなって思うぐらいだ。
「結人が大将か……ふむふむ。母さんにも見せたかったよ」
「最近どうなの?」
「うーん、聞いた話によると大きな商談中だとか。あと宝石をたくさん売りさばいてるらしいよ」
「うへえ……」
いつものことながら、母上は仕事もできるし商才もある。僕らからしたら本当に雲の上に居るような人だよ。
「いつ帰ってくるの?ほら、ソフィアとかも紹介したいし」
「少なくとも夏は帰ってこないね」
「大変そうだなぁ」
「おにいはいいじゃん。多分だけど私が大変になるんだから」
「静梨も海外行く予定あるの?」
「違う違う」
疑問に思っていると、静梨が手をちょいちょいとしてきたので、耳を近づける。
「私に店継がれたらお父さんも海外絶対行くでしょ?帰国のたびにのろけ聞かされるんだよ?」
「……あー」
その頃には僕も忙しいだろうし、必然的に静梨が全部聞くことになる。それは……まぁ、別に僕に被害がないからいいか。可哀想とは思うけど仕方ない。
「海外かぁ……」
「ユイトがその気なら、いつか皆で一緒に私の国に行きましょう?」
「ソフィアの国に?」
「はい!とってもいい国ですよ?」
「あはは、まあ、いつかね」
高校に居る間は色々忙しいだろうし、長い休みとかもなんだかんだゴタゴタしそう。だから、本当に『いつか』なんだけどね。
「ところで、皆」
そんな事を考えていると、父上が口を開く。
「あと休み時間、20分も無いけど急がなくていいのかい?準備とかもあるんだろう?」
その言葉に僕達はスマホの時間を一斉に確認する。
「……まずい」
対して、僕達の弁当はまだ半分近く残っている。しれっと父上と依留葉さんは食べ終わっている。
「……みんな、急ごう!」
焦りながら、僕達は急いで弁当を食べる。野薊さんも急いで食べてたけど、別に野薊さんは急いで食べなくてもいいんじゃないかな……?
と。僕は思ったけどそんなことを指摘している余裕はない。急いで食べた結果、咳き込んだり歩いた時に脇腹が痛くなったりしてある意味地獄を見たのはまた別の話。
「うわぁ」
戻って来ると、ソフィアがニコニコの笑顔で待っていた。
「だいぶご立腹だよおにい……」
「ソ、ソウナンダ……」
静梨に耳打ちをされ、僕は冷や汗を垂らす。
「ずいぶんと、アクセリナと、仲が、良かったようで・す・ね?」
「あ、あはは……」
そっか、アクセリナは途中で抜け出してきて、それで僕と同じタイミングで帰ってきたわけだから。
「……伯彦さんが変なこと言わなければよかったのに」
「俺ぇ!?」
野薊さんが溜息を吐きながら言った言葉に僕は興味を持つ。
「何言ったのさ、伯彦」
今度は僕が伯彦にずいと迫る。
「い、いや……俺はただ『まるで逢引みたいだな』って言っただけで……」
笑顔を作る。
「あ、あー……」
数秒の静寂。
「…………すんませんしたあぁっ!」
そして、伯彦は土下座をした。注目集まるからやめてほしいんだけど。ただでさえソフィアとアクセリナ、更には静梨や紗代、野薊さんっていうメンツが揃っているせいで注目されてるのにさ。
「アクセリナも、結構話しこんでたの、気づかなかったんですか?」
「いえ、その……洗い場が、混んでまして……」
「その『こんで』じゃないんですけど?」
……ソフィアが珍しくアクセリナに敬語使ってる。こりゃ相当怒ってるな。
「いやあ、懐かしいね。別の女の子と遊んできて帰ったら、母さんが激怒してたことを思い出すよ」
「父上の昔のやんちゃな話はもう聞き飽きたって……」
「おや、そうかい?私としては何度でも話しても楽しいんだけれどね」
「いつか生霊飛ばされて恨まれても知らないよ?」
「その時は愛を囁いて帰してあげるさ」
「うわぁ……」
父上、本当に尊敬できる人だとは思っているけど、どうも人としてなんだかなぁ……って思う。それを制御している母上も母上だけど。
と、そんなこと思っている場合じゃないんだった。
「まぁまぁ、皆落ち着いて、ね?」
言いながらも、僕はあまり関わりたくないので弁当を頬張ろうとする。
「ユイトがお弁当美味しいって言ってくれたら許してあげましょう」
うまく演技をすることを心がけて、先程食べられなかった唐揚げを頬張る。
「……美味しい」
「やった♪」
ソフィアは目に見えて喜んでいる。今食べている弁当が本当に自分が作ったものかどうか気づいているかは知らないけど……
「……そうだ、瑠々美さんの弁当も美味いっすよ?」
いつの間にか土下座から復帰してしれっと弁当を食べている伯彦。誰から見ても分かるような幸せそうな表情をしている。
「あ!なんだったら、私があれをして差し上げましょうか?」
「「アレ?」」
僕と伯彦は声を揃えて言う。僕達以外はなんとなく察している雰囲気だったけど……なんだろう?
「その……あ、あーん、を」
「……ほう」
なかなかやるな、この人。ちょっと恥ずかしがってるけど、多分やる。
「…………」
「あ、あれ?伯彦さーん?伯彦さーん?」
よく見ると、伯彦はフリーズしていた。あまりにも驚きすぎて思考停止したか?
「おーい、伯彦ー?」
「……むぅ」
あ、まずい。ちょっと野薊さんが不機嫌になってきた。
「結人」
「うわっなんだよ父上」
耳元で唐突に囁かれて驚く。
「もう少し放置してたら面白そうじゃないかい?」
「えー……?」
明らかに不機嫌になってると思うんだけど、いいの?と僕は思う。
「……こうなったら、強硬手段です!」
すると、野薊さんが伯彦の持っている箸をひったくり、具材をつまんで持つ。
「結人さん。口を!」
「え!?あ、はい!」
急に呼ばれて驚いたけど、なんとか反応できた。言われたとおりに伯彦の口を無理やり開ける。
「それっ!」
と同時に、野薊さんが具材を放り込む。最後にこぼれないように口を閉じて終了。
「………どうだ?」
伯彦は依然としてフリーズしている。何か反応したらどうなんだ、と思う。
「……ここは……天国か……?」
「あ、復活した」
理由のわからない言葉を発しながら、伯彦は含んだ物を咀嚼し始める。
「こんな調子で今後大丈夫なのかな……」
「羨ましいなら、結人さんもソフィアさんにあーんして貰えばいいじゃないですか」
「だってさ」
「はい」
僕は口を開ける。そこにソフィアが箸で食べ物を突っ込む。
「むぐむぐ……ほら、これぐらい出来るでしょ」
「えぇ……おかしいっすよ……」
僕とソフィアは首を傾げる。
「別に、そこまで恥ずかしがることじゃなくない?」
「そうですねぇ」
同意を求めようと見回すけど、誰一人として共感してくれなかった。
「おにいってさ、大胆なのかそうじゃないのかわからない時あるよね」
「はい」
最初に口を開いたのは静梨と紗代だった。
「だってさ、正直まだ付き合ってから二ヶ月しか経ってないんだよ?なのにこの距離感って」
「まだそんなだったんだね」
「一度頭の病院をお勧めしてもいい?」
笑顔だけど、思いっきり怒筋が浮かんでいる。
……そうだなぁ、ソフィアと出会ってから色々出来事が濃すぎてもっと長いかと思ってたよ。そうだったそうだった、まだ二ヶ月か。
「でも、お楽しみはこれからっすよ?」
「?」
やけに楽しそうな伯彦。
「だって……だって!もうすぐで夏休み!楽しい楽しい夏休みっすよ!?遊ばにゃ損でしょうよ!」
「遊ぶことしか頭にないんですか」
「ぐっ……」
アクセリナが横から伯彦を刺してくる。
「いくら一年次とはいえ、来年再来年を見据えて勉強はしっかりとしたほうがよいのでは?」
「ぐぐっ……」
「そもそも、菫岡様?いずれ訪れる野薊家との交流を考えれば、テーブルマナーだったり言葉遣いだったりを学習したほうが良いのでは無いのかと思いますが」
「うぐぐっ……」
放置していると、伯彦をどんどん現実と言う名の正論で刺していくアクセリナ。正直僕にも耳が痛い話だ……
「アクセリナ?たまには休暇も必要ですよ?」
「ソフィア様のように明るくて優しい人ばっかりだったら、伯彦様も随分生きやすい世の中なのでしょうね」
「褒め言葉にしか聞こえないよー?」
「別に、褒めたわけでは……」
ソフィアの反撃に、アクセリナがたじろぐ。
「もう、正直に伝えてくれればいいのにー」
うりうりと言いながら、ソフィアがアクセリナの頬を人差し指でぐりぐりとする。それでもアクセリナはあまり先ほどより動揺していなかった。ただ、めんどくさそうな顔はしていたけど。
「依留葉」
「なんでしょう」
「主従関係って、あれぐらい仲いいほうがいいんでしょうか?」
「お嬢様、我々と違って皆様は主従の年齢が近いのです。その点を考慮なさってください」
「そうですかー……」
今度は野薊さんがしゅんとする。
「そこの伯彦さんも自称従者ですけどね」
紗代が急に伯彦に対抗してくる。
「確かに。伯彦君は霖家の従者とは認めてないね。というのも菫岡家の開祖のご意向だけど」
「ほら!なので、結人様と静梨様の従者の座は渡しませんよ?」
「いや、別に俺争ってないんだけど……」
「じゃあ私の勝ちですね?」
「……なんか負けたってのも癪だな!?」
こっちはこっちでなんか楽しそう。
「従者って、主人よりも争うものなんだろうかね」
「どうなんでしょうかね?」
「私もわかりかねます」
「まあ、面白いことには変わりないからいいんじゃない?と私は思うけど」
対して主人組はわりとのほほんとした会話内容だった。雑に言えば、だいぶ投げやりな会話、とも言う。
「それは、それとして」
父上が弁当を仕舞ながら言う。
「午後の競技、楽しみだね」
「えーと……?」
僕はプログラムを懐から出して出場する競技を見始める。
「午後明けて二競技目が借り物競争」
「はい!」
ソフィアが元気よく手を挙げる。口の端に米粒ついてたけど。
「んで、三競技後に騎馬戦。僕がうちの組の大将なんだよね……」
「そりゃもう、ゴリ押しさせて頂きました!」
クラスごとに、ではなく複数クラスで一つの組なので、計3クラス分指揮しないといけない。しかも相手の戦略を見抜いたり戦況を読み解かないといけない。こりゃきついよ……
「で、最後に学年対抗リレー。アンカーがアクセリナだね」
「勝ってみせます」
「期待してますよ?アクセリナ」
一度練習を見たけど、あの速さが本当に人間に出せるんだ……と思った。陸上選手でも目指したらいいんじゃないかなって思うぐらいだ。
「結人が大将か……ふむふむ。母さんにも見せたかったよ」
「最近どうなの?」
「うーん、聞いた話によると大きな商談中だとか。あと宝石をたくさん売りさばいてるらしいよ」
「うへえ……」
いつものことながら、母上は仕事もできるし商才もある。僕らからしたら本当に雲の上に居るような人だよ。
「いつ帰ってくるの?ほら、ソフィアとかも紹介したいし」
「少なくとも夏は帰ってこないね」
「大変そうだなぁ」
「おにいはいいじゃん。多分だけど私が大変になるんだから」
「静梨も海外行く予定あるの?」
「違う違う」
疑問に思っていると、静梨が手をちょいちょいとしてきたので、耳を近づける。
「私に店継がれたらお父さんも海外絶対行くでしょ?帰国のたびにのろけ聞かされるんだよ?」
「……あー」
その頃には僕も忙しいだろうし、必然的に静梨が全部聞くことになる。それは……まぁ、別に僕に被害がないからいいか。可哀想とは思うけど仕方ない。
「海外かぁ……」
「ユイトがその気なら、いつか皆で一緒に私の国に行きましょう?」
「ソフィアの国に?」
「はい!とってもいい国ですよ?」
「あはは、まあ、いつかね」
高校に居る間は色々忙しいだろうし、長い休みとかもなんだかんだゴタゴタしそう。だから、本当に『いつか』なんだけどね。
「ところで、皆」
そんな事を考えていると、父上が口を開く。
「あと休み時間、20分も無いけど急がなくていいのかい?準備とかもあるんだろう?」
その言葉に僕達はスマホの時間を一斉に確認する。
「……まずい」
対して、僕達の弁当はまだ半分近く残っている。しれっと父上と依留葉さんは食べ終わっている。
「……みんな、急ごう!」
焦りながら、僕達は急いで弁当を食べる。野薊さんも急いで食べてたけど、別に野薊さんは急いで食べなくてもいいんじゃないかな……?
と。僕は思ったけどそんなことを指摘している余裕はない。急いで食べた結果、咳き込んだり歩いた時に脇腹が痛くなったりしてある意味地獄を見たのはまた別の話。
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※ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
※連載中も随時、加筆・修正をしていきます。(第1話~第161話まで修正済)
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