溟の魔法使い

ヴィロン

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第二章 許嫁……!?

体育祭に忍ぶ悪意 その3

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 なんだかんだあって、昼休み。……え?競技中のことはって?そりゃ、誰が好き好んで自分の惨めな姿を語りたいのさって話だよ。僕はただ味方ゴールの横でゴールキーパーの奴と喋りながら主力の伯彦に魔法で指示してただけ。お陰であまり楽できたよ。当然ながら皆には動けって怒られたけどさ……はは。
「いや、助かりましたよ結人さん。お陰で楽にサッカーできましたし」
「それについてはひとえに伯彦の運動神経の良さゆえだよ」
「それは否定しません」
 現に伯彦はサッカー部よりサッカー部してた。競技終わりにトイレに行った時になにやら伯彦のファンクラブだか作ろう……みたいな話も聞こえてきたし、これから先こいつは苦労するだろうな。
「瑠々美さんにも俺のかっくいー所見せれたんでいいんですけどね!」
「彼女の応援、こっちまで聞こえてきたよ?」
「おっ、やっぱり結人さんにも聞こえてたか!いやああの透き通るような声!聞くだけで耳が癒やされ、身体中の疲れが取れていく!そしてしまいには気力まで湧いてくる!最高の応援でしたよ、ええ!」
「あ、うん」
 話半分で聞いておいた。
「んで……」
 僕達は今置かれている状況を改めて話すことにする。
「どうして俺は、女性陣に囲まれた上で正座を?」
「さあ、なんでだろうね?」
 案の定というかなんというか、伯彦は全員にいじられている。
「ねえ、伯彦さん?お口、開けてください?」
 野薊さんは笑顔で怒りながら、卵焼きを伯彦の口に運ぼうとしている。
「見損なったよ伯彦さん……瑠々美さんって人がありながら、ソフィアさんと仲良く笑ってるなんて……」
 静梨は面白そうに悲しんでいる。ちょっと笑ってるのがバレバレなんだけど。
「紗代君、最近結人はどうだい?」
「いつも通りですよ?特段変わりなく、です」
 紗代は父上と談笑している。
「ル、ルルミ?落ち着いて、落ち着いて……」
「放っておきましょう、ソフィア様」
 ソフィアはあわあわしているし、そんなソフィアをなだめているアクセリナ。そしてそんな僕はと言うと。
「困ったのを持ったものですね」
「はい」
 依留葉さんと困っていた。今日はスーツじゃなく、半袖ワイシャツに首にタオルを巻いて、長ズボンだけど薄手っぽいものを履いている。面がイケメンだからか、ちょくちょくこの人への視線が周囲からするのが分かる。
「結人」
「どうしたの、父上」
 急に父上が話しかけてきて、少し驚いた。
「そんな結人は、ソフィア君とはどうなんだい?」
「僕?いやー、特に伯彦みたいに浮いた話はないけどね」
「そうなんだよ、お父さん!問題なのはおにいとソフィアさんの方だよ!」
 うわなんか来た。伯彦いじりは飽きたのか?
「いいじゃないか、私としては健全な方がいいと思うよ。それに……」
 父上がそこまで言いかけてちらりとソフィアの方を見る。
「彼女にも使命があるらしいし、ゆっくりと期を待ってもいいじゃないか」
 しみじみと言う父上。あれ、ソフィアのことまだ詳しく話してないような気がするけど……そもそも、ソフィアの『使命』?そんなの聞いた記憶ないけど……あれ?
「それより結人。いい加減弁当を食べないのかい?」
「あ……うん」
 僕はなんとか引き伸ばしにしていた弁当を食べる事になってしまう。ソフィアの作った弁当……うーん、本人が嬉しそうに作っているのも見えるし、なんならその本人も目の前に居るしで……正直食べたくは無いな……
「……ユイト、食べてくれないんですか?まだ包みも開けてないじゃないですか」
「あ、あはは」
「あはは、じゃないです。さぁ、早く早く♪」
 言われて、僕は渋々弁当の包みを解く。
「……ぐ」
 少し覚悟をしてから、蓋を開けた。
「……あれ?」
 中身は、思ったよりも普通だった。前に見た時はもっとなんか、こう、壊滅的な料理とは言えないなにかだったような?ってことは、つまりだ。これはアクセリナが事前に入れ替えたやつだな?
 そう思って、僕はアクセリナの方をちらりと見る。やっぱりそうだったらしい。ちょっと安心した。でもその場合、本来のソフィアの作った弁当はどこに……?
「……ん?」
 よく見ると、アクセリナは少し体調が悪そうだった。本当によく見ないと分からないレベルだったので一瞬僕も分からなかった。さては、身を持って処理したんだな……
「それじゃ、食べるね?」
「はい!」
 僕は箸で具を持ち上げる。これは唐揚げだ。疲れた体にはいいスタミナの補給源だ。
「よし、いただきま――――」
 その瞬間、都合が悪く風が吹いてきた。
「うわっ」
 そしてまたこれもなんとも都合が悪く、僕の持っている箸が吹き飛ばされてしまった。近くで弁当を食べている人たちも同じ事が起こったようだ。
「あー……」
 僕は箸を拾う。
「ティッシュで拭くかい?」
「いや、どうせ水道近いし洗ってくるよ」
「分かった」
 父上がティッシュを差し出してくるけど、なんか雑菌とか落ちた時に付いてたらやだしね。
 とりあえず、近くの校舎の中の水道に箸を持って向かう。
「はぁ、なんでまたこんなことに」
 ぶつくさ言いながら僕は箸を洗う。
「結人様」
「うわっ、アクセリナ!?急に話しかけないで……って、もしかして着いてきた?」
「お伝えしたいことがありまして」
 アクセリナの手にも箸が握られていたが、多分それはあそこを離れる口実だったのだろう。
「実は、ですね」
「体調、悪いんでしょ?リレー、出れるの?」
「それはもちろん問題ないのですが」
 さらりと言ってのける。さすが、と言いたいけど……今回はちょっと事情が違いそうだ。
「実はですね……」
 言いかけて、アクセリナは周囲を見渡す。つられて僕も見渡すけど、特に誰かが居るわけでもないし、気配も僕達以外に感じない。
「実は、ソフィア様の弁当を私が処理させていただいたのですが」
「あーうん、お疲れ様、そしてありがとう……」
 僕は申し訳無さそうに言う。でもアクセリナはそうじゃないと言わんばかりの表情をしていた。
「ソフィア様の弁当、毒入りでした」
「そ、そこまで言わなくても」
「いえ、真面目な話です。正真正銘、毒でした」
 アクセリナは依然として真面目な顔をしている。まさか、本当に毒が?
「毒の種類からして、複数の植物を混合したもの。それが料理に混ぜられていました」
「ちょ、ちょっと。じゃあなんでアクセリナは生きてるのさ」
「これでも、毒は色々食べてきたもので。多少は抗体が出来ていたようです」
 それで済むの、全国の毒の血清作ってるどっかの団体が渇望しそうな体質でしょ……
「それで、毒の味と一緒に種類や毒の名前、原材料等を一通りですが覚えまして」
 うん、もうこれ以上はツッコまないことにしよう。どうやら僕とはだいぶ格が違うみたいだ。
「少なくとも、この国にあるような原材料ではありませんね」
「うーん、でも今時そんなのをアテにしてもさ、輸入品とかあるし国外ってのを決めつけるのはあまりよくないんじゃない?」
「それは、そうですが……」
 僕が反論すると、アクセリナは苦々しい顔をする。
「どうも、なんだか食べ慣れた味でして……」
 食べ慣れた味……つまりは、アクセリナ達の故郷に由縁がある毒物、ということ。
「可能性としては3つ。現地人、またはたまたま使ったのがそうだった、最後に偽装……あえて上げるならば、どれを重きに置く?」
 条件を提示すると、アクセリナは考え始めた。しばらくしてから、決断を下す。
「私は……最初の選択肢を取ります」
「なるほど、まぁそれが妥当だけどね」
 こう話している最中にも、僕の頭の中には当然、アクセリナの頭の中にも一人の人物が思い浮かんでいる。考えたくはないけれど、容疑者の第一候補でしかない。というか、なんならアクセリナの方はほぼ確定で考えているだろう。けどあえて言わないのは多分……彼女の中でも迷っているのだろう。
「……もし、僕達の中に同じ名前の人物が思い浮かんでいるのなら、の話だけど」
 なので、僕はアクセリナに発破をかけてあげる。
「腹、括らないといけなさそうだね」
 アクセリナがぎゅっと拳を固く握る。僕の推測はどうやらあっていたっぽいね。
 ……と、そこに。僕のスマホが鳴った。
「げ、結構話し込んじゃったみたい」
 気づけば、すでに五分近く時間が経っていた。ので、僕達はなるべく平静を装って戻ったのだった。
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