溟の魔法使い

ヴィロン

文字の大きさ
上 下
32 / 50
第二章 許嫁……!?

不穏な影 その8

しおりを挟む
「ゼェ……ゼェ……」
「ハァ……ハァ……」
「どうして二人共息が切れているんだい……?」
「色々あったんでしょ?大方、閉店時間を気にしてとか」
 到着したのは、私達の始まりとも言える場所、ナガメジュエリー。けど、息切れしながら入ってきたので店の中の椅子で少し小休止しました。
「とりあえず、いらっしゃい。野薊さんから聞いているよ」
「ゼェ……瑠々美さんから?」
「そうそう。ほら伯彦さん、手ぇ出して」
 先に息が整ったと思しき伯彦さんの指に、静梨さんが持っていたリングがはめられる。
「んだこりゃ」
「それはね、指のサイズの計測をしてるんだよ」
「いや、それは分かってるんですけど……どうして?」
「あれ、野薊さんから説明されていないのかい?」
「ちょっとお父さん。野暮なこと言わないの」
「おっと、失礼」
 今回のことを一切伯彦さんに説明していない、いわばサプライズ。当の本人は理由が分からなくて当然です。
「あ、先に言っておくけど伯彦さん。『今回は』こっちが本題じゃないから」
「は?どういうこったよ」
「野薊さんの希望でね、今日は少し特別な物を用意させて貰ったよ」
 そう言って、当主様……霖成人様がアクセサリーをトレーに乗せて持ってきました。
「これだ」
「んー……?」
「ペンダントだよ」
「いや、それは分かってますって。宝石が何かを考えてたんですよ」
「おっと、失礼失礼」
「……距離感が近いと、人を小馬鹿にする癖。ホント親子そっくりで」
「お褒めいただき光栄」
「そういうところも」
 伯彦さんが成人様と話している間、今度は私が指のサイズを測られていた。
「どうだったんですか、今日のは」
「え?それは勿論……まずまずでしたけど」
「でも仲良く出来たんじゃないんですかぁ~?」
 小声で静梨さんとやり取りする。
「それはいつもじゃないですか」
「そうでしたねぇ」
 凄くニヤニヤしながら話される。
「はい、終了。瑠々美さんもこれつーけて」
 そう言って、静梨さんがもう一つのペンダントを渡しに慣れた手つきで着ける。
「伯彦君の方はバイカラートルマリンと言う名の宝石のペンダント、野薊さんの方はガーネットだ」
「ほえー」
「さてここで静梨に問題。この二つの宝石の宝石言葉を」
「え”っ」
 唐突に静梨さんが物凄い声を上げる。それから腕を組んで唸って、必死に考え始めました。
「えーと………………バイカラートルマリンが、『平和』、そして『安定』で……ガーネットが『真実』と『友愛』……だったっけ」
「正解。よく出来ました」
「よかったぁ~……お父さん、急に問題出さないでよ」
「こういうのをパッと答えられるようになると役立つからね」
 その会話をよそに、私と伯彦さんはまじまじとそのペンダントを眺める。
「にしても綺麗っすね……」
「ですね……」
 私も家の都合上、色んなアクセサリーを持ってはいますが……今まで見たどのアクセサリーよりも、なんだか高級感があります。
「ちなみに、伯彦君の方は静梨が作ったんだ」
「マジ?静梨ちゃん上達したな」
「上達?」
「昔からよく作ってて、それで」
 前に伯彦さんから本家には工房があるとは聞きましたが……まさかここまでの腕前だとは……
「んで、代金は」
「ああ、もう事前に野薊さんから払って貰っているから平気だよ」
「……マジ?」
 それを聞いて、伯彦さんが焦ってこっちを見てきました。
「る、瑠々美さん?俺、お金……払うんで、ね?」
「いえ、いいんですよ」
「女性にお金を出させるなんて、それもこんなお高いものを……!」
 焦っている伯彦さんは可愛く見えましたが、ちょっとかわいそうなのでここまでにしてあげましょう。
「これは私からのプレゼントなので。それに、今までのお礼も兼ねていますから。それでいいですか?」
「んー…………何となく納得はしましたが何となく納得はしていません」
「どっちですか」
 私達は少し笑いあった。
「伯彦君」
「あはは……なんすか」
「お似合いだね」
「そりゃ当然!」
 伯彦さんが胸を張って言いました。
「むしろお似合いじゃないほうがおかしいですって」
「……若いねぇ。昔は母さんともあんな感じだったよ」
 成人様がしみじみと呟きました。そこで私はふと思いました。
「そういえば、当主様の奥方様は?」
「ああ、彼女は日本各地や海外を飛び回っていてね。色んなところで宝石を採取したり買い付けたりしているんだ」
「前に帰ってきたのはおにい達が高校に入るちょっと前くらいかな?」
「なるほど」
 伯彦さんのご両親にはもう挨拶しましたし、今度は本家の方々にも挨拶しなければと思っていたのですが……この状況だと難しそうですね。
「もしかして、彼女にも挨拶したいのかい?」
「あ、はい。一応、本家の方ですし」
「ふむ……」
 私がそう言うと、成人様はスマホを取り出して何かを確認し始めました。
「次に帰って来るのは……ちょうど夏休みくらいかな」
「でしたら、その時に改めてお伺いしても?」
「ああ、勿論。こちらからも是非お願いするよ」
「あ、それとも会食の方が良いでしょうか?」
「野薊さん側にお任せしますよ」
「分かりました、では追って連絡させて頂きます」
 気丈に振る舞いましたけど、私の心臓は今緊張でバクバクしています。とっても。
「ところで伯彦君、ちょっといいかな」
「なんですか?」
「ここでは何だから、少し離れた場所で」
「あー、はいはい」
 そう言って、二人はお店の奥に入っていってしまいました。
「何のお話でしょう?」
「まぁ、私は思い当たりますけど」
「教えて下さ……ったりはしませんね、きっと」
「知りたいです?」
 静梨さんがいたずらな笑顔で聞いてきました。う、とても知りたい……
「……なーんて。多分話してるの、霖家と菫岡家のことですから」
「なるほど、なら外部に漏らせないのも納得です」
「でも伯彦さんも大変そうだなぁ」
「何がですか?」
 急に話が変わったので、私は少し混乱しました。
「いや、野薊さんって社長令嬢なわけじゃないですか。ならいつか会社経営するんでしょうし、伯彦さんもそれに付き添ったりしたりとかするのかなぁって」
「そういうことでしたか。大丈夫ですよ」
 私は少し微笑んで静梨さんに返しました。
「私には優秀なお姉様も居ますし、有望な妹も居ますから。困った時は色んな人が助けてくれます」
「うーん、なんか答えがズレてる気がするけどまぁいっか」
「?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

次男坊と言っても末っ子です。

もちた企画
ファンタジー
人類において環境に準じるのは容易くは無いファンタジーな世界で集落より少し外れると魔物が溢れかえり人類存亡の危機がそこにはあった。 主神メガイス様の力で増えすぎた魔物を封じることに成功したがそれは当時の話、今は封じた空間に穴が空いて魔物が一部姿を表していた。 名称は「ダンジョン」 主神の妻で豊穣の女神アストレアは人類に加護を与えた。四大属性「火・水・風・土」。 人々は体内に流れる魔力を感じ精霊に感謝をして魔法を使えるようになった。 特に強い属性魔法の使い手を王の側近貴族として囲い込んだのが今の魔法至上主義だ。 自分の属性に合った生活をする人々で構成され、それぞれの生活を送っていた。 時はヴァルデン四世治めるウェストヴァルデン。 その首都から西に進んだ伯爵領地の首都カイランで生まれたシティーボーイ次男坊が6歳で執り行われる祝福の儀で土属性を扱えるようになったお話。 主要な国 ウェストヴァルデン (Westvalden) - 古い森と堅牢な城塞が特徴の西部の王国。長い歴史を持ち、貴族階級と騎士道が重んじられる国。 イーストリア (Eastria) - 東方に位置する、交易と文化が栄える国。多くの学者や魔法使いが集まり、学問や魔術が発展している。 ノルデンヘイム (Nordenheim) - 北方にある寒冷な地域に広がる王国。厳しい自然環境の中で強靭な戦士たちが育ち、騎士団が国を守っている。 ルミナス (Luminis) - 女神アストレア信仰を中心とする宗教国家。教会の影響力が強く、神聖な儀式や聖騎士団による巡礼が盛んに行われている。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

何の取り柄もない営業系新入社員の俺が、舌先三寸でバケモノ達の相手をするはめになるなんて。(第2.5部)幕間 あるいは新年会の宴の席にて。

二式大型七面鳥
ファンタジー
青葉五月救出に成功し、スナック「轆轤」のリニューアル改装も成功裏に終わった年の瀬を経て明けた新年。関係者一同は、新装開店なった「轆轤」にて、新年会を催していた…… 今回はいわゆる「日常回」、何か事件が起こるわけでも、オチがつくわけでもありません。 ただ、どうしても書いておきたかった、文章の形にしておきたかったネタがありまして。 その意味で、この話は、むしろ「龍の卵 ー時代遅れの風紀総番長「巴御前」、曲者の新入生に翻弄されるー」及び「雨降り狼さん夢の中」の後日談にあたります。 ぶっちゃけ、信仁と巴の関係が完成されるところが書きたかっただけです。自己満足です。 ラブなロマンスが書きたかったんです……言うほどロマンスか?って言うのは言わないお約束で。 ※なので、カテゴリは悩みました。 ※派手な展開は、16話目から始まります。8~9話は小手調べ。 唐突に無意味に脇役の設定が増える部分がありますが、脇役の方が世代としては古いキャラクターだったりするので、まあそのあたりは大目に見てやって下さい。いずれそいつらでも書きます、書きたい。 ※カクヨムさんにも重複投稿してます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

EIGHT

千代
ファンタジー
こんにちは。 御感想・御指摘お待ちしております と、いいますよりください!!!(笑) 🙇‍♀️🙏🏻 ※半分ポエムです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界起動兵器ゴーレム

ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに 撥ねられてしまった。そして良太郎 が目覚めると、そこは異世界だった。 さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、 ゴーレムと化していたのだ。良太郎が 目覚めた時、彼の目の前にいたのは 魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は 未知の世界で右も左も分からない状態 の良太郎と共に冒険者生活を営んで いく事を決めた。だがこの世界の裏 では凶悪な影が……良太郎の異世界 でのゴーレムライフが始まる……。 ファンタジーバトル作品、開幕!

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

処理中です...