溟の魔法使い

ヴィロン

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第二章 許嫁……!?

不穏な影 その8

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「ゼェ……ゼェ……」
「ハァ……ハァ……」
「どうして二人共息が切れているんだい……?」
「色々あったんでしょ?大方、閉店時間を気にしてとか」
 到着したのは、私達の始まりとも言える場所、ナガメジュエリー。けど、息切れしながら入ってきたので店の中の椅子で少し小休止しました。
「とりあえず、いらっしゃい。野薊さんから聞いているよ」
「ゼェ……瑠々美さんから?」
「そうそう。ほら伯彦さん、手ぇ出して」
 先に息が整ったと思しき伯彦さんの指に、静梨さんが持っていたリングがはめられる。
「んだこりゃ」
「それはね、指のサイズの計測をしてるんだよ」
「いや、それは分かってるんですけど……どうして?」
「あれ、野薊さんから説明されていないのかい?」
「ちょっとお父さん。野暮なこと言わないの」
「おっと、失礼」
 今回のことを一切伯彦さんに説明していない、いわばサプライズ。当の本人は理由が分からなくて当然です。
「あ、先に言っておくけど伯彦さん。『今回は』こっちが本題じゃないから」
「は?どういうこったよ」
「野薊さんの希望でね、今日は少し特別な物を用意させて貰ったよ」
 そう言って、当主様……霖成人様がアクセサリーをトレーに乗せて持ってきました。
「これだ」
「んー……?」
「ペンダントだよ」
「いや、それは分かってますって。宝石が何かを考えてたんですよ」
「おっと、失礼失礼」
「……距離感が近いと、人を小馬鹿にする癖。ホント親子そっくりで」
「お褒めいただき光栄」
「そういうところも」
 伯彦さんが成人様と話している間、今度は私が指のサイズを測られていた。
「どうだったんですか、今日のは」
「え?それは勿論……まずまずでしたけど」
「でも仲良く出来たんじゃないんですかぁ~?」
 小声で静梨さんとやり取りする。
「それはいつもじゃないですか」
「そうでしたねぇ」
 凄くニヤニヤしながら話される。
「はい、終了。瑠々美さんもこれつーけて」
 そう言って、静梨さんがもう一つのペンダントを渡しに慣れた手つきで着ける。
「伯彦君の方はバイカラートルマリンと言う名の宝石のペンダント、野薊さんの方はガーネットだ」
「ほえー」
「さてここで静梨に問題。この二つの宝石の宝石言葉を」
「え”っ」
 唐突に静梨さんが物凄い声を上げる。それから腕を組んで唸って、必死に考え始めました。
「えーと………………バイカラートルマリンが、『平和』、そして『安定』で……ガーネットが『真実』と『友愛』……だったっけ」
「正解。よく出来ました」
「よかったぁ~……お父さん、急に問題出さないでよ」
「こういうのをパッと答えられるようになると役立つからね」
 その会話をよそに、私と伯彦さんはまじまじとそのペンダントを眺める。
「にしても綺麗っすね……」
「ですね……」
 私も家の都合上、色んなアクセサリーを持ってはいますが……今まで見たどのアクセサリーよりも、なんだか高級感があります。
「ちなみに、伯彦君の方は静梨が作ったんだ」
「マジ?静梨ちゃん上達したな」
「上達?」
「昔からよく作ってて、それで」
 前に伯彦さんから本家には工房があるとは聞きましたが……まさかここまでの腕前だとは……
「んで、代金は」
「ああ、もう事前に野薊さんから払って貰っているから平気だよ」
「……マジ?」
 それを聞いて、伯彦さんが焦ってこっちを見てきました。
「る、瑠々美さん?俺、お金……払うんで、ね?」
「いえ、いいんですよ」
「女性にお金を出させるなんて、それもこんなお高いものを……!」
 焦っている伯彦さんは可愛く見えましたが、ちょっとかわいそうなのでここまでにしてあげましょう。
「これは私からのプレゼントなので。それに、今までのお礼も兼ねていますから。それでいいですか?」
「んー…………何となく納得はしましたが何となく納得はしていません」
「どっちですか」
 私達は少し笑いあった。
「伯彦君」
「あはは……なんすか」
「お似合いだね」
「そりゃ当然!」
 伯彦さんが胸を張って言いました。
「むしろお似合いじゃないほうがおかしいですって」
「……若いねぇ。昔は母さんともあんな感じだったよ」
 成人様がしみじみと呟きました。そこで私はふと思いました。
「そういえば、当主様の奥方様は?」
「ああ、彼女は日本各地や海外を飛び回っていてね。色んなところで宝石を採取したり買い付けたりしているんだ」
「前に帰ってきたのはおにい達が高校に入るちょっと前くらいかな?」
「なるほど」
 伯彦さんのご両親にはもう挨拶しましたし、今度は本家の方々にも挨拶しなければと思っていたのですが……この状況だと難しそうですね。
「もしかして、彼女にも挨拶したいのかい?」
「あ、はい。一応、本家の方ですし」
「ふむ……」
 私がそう言うと、成人様はスマホを取り出して何かを確認し始めました。
「次に帰って来るのは……ちょうど夏休みくらいかな」
「でしたら、その時に改めてお伺いしても?」
「ああ、勿論。こちらからも是非お願いするよ」
「あ、それとも会食の方が良いでしょうか?」
「野薊さん側にお任せしますよ」
「分かりました、では追って連絡させて頂きます」
 気丈に振る舞いましたけど、私の心臓は今緊張でバクバクしています。とっても。
「ところで伯彦君、ちょっといいかな」
「なんですか?」
「ここでは何だから、少し離れた場所で」
「あー、はいはい」
 そう言って、二人はお店の奥に入っていってしまいました。
「何のお話でしょう?」
「まぁ、私は思い当たりますけど」
「教えて下さ……ったりはしませんね、きっと」
「知りたいです?」
 静梨さんがいたずらな笑顔で聞いてきました。う、とても知りたい……
「……なーんて。多分話してるの、霖家と菫岡家のことですから」
「なるほど、なら外部に漏らせないのも納得です」
「でも伯彦さんも大変そうだなぁ」
「何がですか?」
 急に話が変わったので、私は少し混乱しました。
「いや、野薊さんって社長令嬢なわけじゃないですか。ならいつか会社経営するんでしょうし、伯彦さんもそれに付き添ったりしたりとかするのかなぁって」
「そういうことでしたか。大丈夫ですよ」
 私は少し微笑んで静梨さんに返しました。
「私には優秀なお姉様も居ますし、有望な妹も居ますから。困った時は色んな人が助けてくれます」
「うーん、なんか答えがズレてる気がするけどまぁいっか」
「?」
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