溟の魔法使い

ヴィロン

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第二章 許嫁……!?

不穏な影 その5

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「お”よ”め”に”い”け”ま”せ”ん”~~~~~~~~~~~!!!!!!!!」
「あの……お、落ち着いてください、野薊さん……?」
 唐突に僕の家に突撃してきた野薊さん。珍しくあの執事さんも居ないし、どうしたんだろう……ていうかなんでこんなボロボロ泣いてるんだろう?
「とりあえず中に入ってください……」
「う”ぅ……」
 紗代に促されてリビングに通される野薊さん。まさか伯彦と喧嘩した……?
「ぐすっ、ぐすっ…………」
 最初に比べて泣き止んではきたが、どうしたものか……
「あの、結人様……?一体これはどういう……」
「僕にも分からないんだよ。伯彦も今日特におかしいところなかったし」
「当人同士の問題なのでは?」
「いやぁ……流石に泣きつかれて門戸叩かれたらねぇ?」
「……まぁ、一応私も一緒に聞きますけど」
 紅茶を三人分持ってきた紗代と小声で話す。正直女子視点の話も聞きたかったから、一人居るのはありがたい。ちなみにソフィア達は静梨のアクセサリー作りの材料を買いに行っている。刺客のことが心配ではあるけれど、のんびり楽しんできてほしい。
「おまたせしました、それで、一体何があったんですか?」
「はい、その、ですね……」
 僕と紗代は固唾を飲む。どんなものが飛び出してくるのか……
「昨日、伯彦さんをお家に招いてお勉強会をしていました」
「へぇ、あいつの頭はどうでした?」
「はい、私も分からないところがあったのですが、教えて貰いまして、逆に伯彦さんが分からないところを私が教えたり……じゃなくて!」
 ああ、なんだか小動物を見ているみたいで癒やされる。と思っていたら机の下で横に座っている紗代からゲシゲシと蹴られる。うん、ソフィアが居るからそういうの思うなってことなんだろうけど、ね。この光景はちょっと思っちゃうよね。
「その、ですね……実は、お菓子を食べながらやっていたんです。ああいうの、憧れで……」
「分かります、お友達と一緒にお菓子をつまみながらお勉強するの、とても楽しいですから」
 僕は一人でやっている方が集中出来るからあまり共感できないんだけど、やっぱりみんなそういうの好きなんだね。最近夜にソフィア達の勉強しているらしき話し声が聞こえてくるし。
「で、それがなにか問題あったんですか?」
「そうなんです。実は……」
 緊張して、僕と紗代は同時に紅茶を飲む。
「そのお菓子がウイスキーボンボンで、私酔ってしまったんです」
「「!!!!!?????」」
 吹きはしなかったものの、僕達は紅茶で蒸せた。
「ゲホッゲホッ、え”?ウイスキーボンボン?それで酔うの?」
「よ、酔う方は酔うかと……ちなみに、いくつ食べたんですか?」
「えーと……」
 野薊さんが指を折って数え始める。
「後から依留葉に聞いたところ、21個入りのを伯彦さんが3つ、私が15個ほど……」
「……わぁ」
 ささっと今調べてみたけど、多くても3%ぐらいらしい。だけど、たくさん食べたらそりゃ酔うよね……
「ちなみに酔った時のことは覚えてるんですか……?」
「えっ、それ聞くの紗代!?」
「大丈夫です、話せる内容ですので……」
 けど、言っている割には顔を真っ赤にしてない?
「えっと……その、伯彦さんの……ふ、服を脱がして……」
「スト―ップ!!!」
「もう話さなくていいから!ね!?」
「えっ?あの、まだ本題じゃ……」
「いいからいいから、ね」
 なんとなくオチが読めたので、僕達はそれを止める。
「……依留葉さん、苦労したんだね」
「そうですね……」
 にしても、偉いぞ伯彦。据え膳食わぬはなんとやらとは言うけれど、酔った勢いでなんて後々後悔するからね。しかもまだ高校生同士だし。
「それで、記憶にその光景がしっかり残ってて、どうにも伯彦さんと上手く話せなくて……ど、どうすればいいでしょうか?」
「どうする、かぁ……紗代、なんかいいアイデアある?」
「なんでそこで私に振るんですか」
 と言いつつも、紗代も一緒に考えてくれる。
「うーん、伯彦は野薊さんバカだからなにしようが喜びそうだけどね?」
「でも、どうしたら……」
「ですから、いつもどおりにしていればいいんですよ。菫岡さん、何でも許してくれますって」
 なんだろう、僕より紗代の方がひどいことを言っているような気がする。
「そうだ、またデートでもしてあげればいいんじゃないですか?」
「また……?私、今までそういう遊びに行くの、プランニングをしたことがなくて」
 確かに、あの日は伯彦が率先してリードしてたと思う。まあ男として当然だろうけど。
「でも、ただのデートじゃまた伯彦にリードされて終わってしまう……あいつ、空気を読む能力はダントツですから」
「え?菫岡家って結構なノンデリな気が」
「あれはわざとそうしてるんだよ、一種の好感度調整」
「うわぁ……」
 更にこれを意識してやっているときと意識してやっていない時があるからタチが悪い。
「……分かりました、やってみます」
「おっ」
「ので!」
「ので?」
「一緒にそのデートコースを考えてくださりますと助かります!」
 頭を下げられてしまった。困ったな、僕はあまりそういうの得意じゃないんだけど……
「それじゃ、紗代。僕はソフィア達を呼んでくるから――」
「 ダ メ で す よ ? 」
 立ち上がろうとすると足を踏まれ腕を抑えられ笑顔の怒りでこちらを向かれる。
「サ、サヨサーン。ボクヨウジヲオモイダシタナー」
「こんなにも可憐なお嬢様が頭を下げてお願いしているのに、自分は逃げるんですか?え?」
 あ、これは逃げられないやつだ。
「一緒に考えてくださらないのですか……?」
 加えて、悲しそうな目をする野薊さん。
「……もー、うるさいなー。なにしてんのおに……」
「あっ」
 そこに予期せぬ援軍、静梨。
「お邪魔してます~」
「あ、どうもどうも……じゃなくて!」
 今の静梨は夕飯も食べていないのにパジャマ姿。どう考えても客人を出迎えるような格好ではない。
「なんで何も言ってくれないの!?人が来るなら言ってくれないと困るでしょ!?」
「あの、私が勝手に押しかけてきただけですので」
 それを聞いて、静梨は少し考える。
「ふーん……それじゃ仕方ないか。話し終わったら呼んで。私見たいテレビあるから」
 そう言って戻っていった。なんなんだ本当に……
「あー……ごめんね、妹が」
「大丈夫ですよ、妹様も元気そうで楽しそうです」
「そう言って貰えると助かります」
 ある意味誰の前でもあの態度できるってのは強みなのかもしれない……?まぁ、今はそんな事考えてる場合じゃないか。
「それじゃあ、会議を始めよう」
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