25 / 50
第二章 許嫁……!?
不穏な影 その1
しおりを挟む
「ふあぁ……」
土曜日、深夜。時刻的に言えば、もう日曜日です。木曜日から私はユイトの家に連泊をしていました。思ったよりも居心地がよくて、もう少し居たいとアクセリナに駄々を捏ねたら、なんとかOKを貰いました。
それで、なんでこんな時間に起きているのかと言うと。ふと目が覚めてしまった、とでも言うべきでしょうか?
そんな私は、アクセリナを起こさないようにそっと部屋を出て、庭に向かっていました。ここの庭、一度一人でゆっくり眺めてみたいな、って思っていたんです。
昼に比べて涼しめの夜。程よい夜風が身体に当たって気持ちいい……これが、フウリュウ、ってやつなんでしょうか?
「えっと……ここでしたね」
いつも私達がご飯を食べている場所からも庭には行けますが、今日はその隣……魔法の修行に使っている場所から庭を見ます。
「よいしょ、っと」
縁側に座り、庭を見る私。庭の中央には、緑の木が一本。ユイトが言うには、アレは桜の木、らしいです。
「ふぅーっ……」
次に、月に視線を。半月よりちょっと膨らんでいる月です。ハタチになっていたら、月見酒、というのをやってみたかったのですが……あと五年、待たないとですね。
月を見たなら、次は星を。この辺りは光が少ないからかよく星が見えます。私は指を指しながら、一つ一つ星座を確認します。
まず見えるのが、Var Triangel……春の大三角、でしたっけ。デネボラ、アークトゥルス、スピカ……一節には、コル・カロリという星を含めて春のダイヤモンド、とも言う場所があるそうです。
それと、もう一つ。そろそろ見えてきたのがSommar Triangel、夏の大三角。デネブ、アルタイル、ベガ。ニホンではこれのうちアルタイルをヒコボシ、ベガをオリヒメボシと言うそうで。体育祭の当日……7月7日に日本の人はササにタンザクというものをぶら下げるそうです。それに願いを書いて捧げると、願いが天に届くとかどうとか……一種のお祭り事なので、買い物をしに行くとちらほら見かけ始める、とアクセリナが言っていました。
「こうやって星を見たのは……初めてこの家に泊まった時以来ですね」
思えば早いものであれからもう一月が経とうとしているのですね……楽しい時間は、あっという間に過ぎていってしまいます。
「……」
ふと、私は故郷……ヴェステルマルク邸で見た星のことを思い出しました。あの時は……一番印象に残っていたのは、やっぱりあの日……家を襲撃された時の日の星でしょうか。まだ今年のことなのに、物凄く前のように思えます……それもこれも、きっとユイト達と出会って……辛いことを忘れるぐらいに楽しかったからだと思います。
「……ふふ」
いつかは、ここで暮らすようになりますし……そうしたら、いつでもこの光景を見られると思うと、それもとても楽しみです。一番楽しみなのは勿論、皆と暮らせる事ですけどね、ふふ。
それにしても、後一週間ちょっとで体育祭、ですか……向こうでは学校に行かず家庭教師で、こういう行事を体験したことが無いものですから新鮮です。ユイト達……特に、ノリヒコの反応を見るにとても楽しいものなんでしょう。せっかくのお祭りですし、楽しみたいですね。
と、そんなことを思っていると。
「……うっ!?」
突如、物凄い耳鳴り。私は耳を抑え、うずくまります。
「な、なんですかこの音……!?」
自然現象として、人は耳鳴りするものですが、明らかにこれは不自然な金切り音に近いものでした。
「うぅ……とりあえず、部屋の中に……」
私は這うようにして、修行場に戻ります。
――どこだ!?
「ユイト……?」
――おにいは修行場の方!私は工房の方見てくる!
「シズリ……?」
ドタドタという音と共に、物凄い鬼気迫った二人の声が聞こえてきました。私は急いで、と言っても遅いですけど、這っていきました。
「……ソフィア!大丈夫!?」
「ユイト……はい、耳鳴りがするぐらいで……」
「そっか、説明してなかったね。でも今はとりあえず説明している暇はないから。ほら、手を」
ユイトが私に向かって手を伸ばしてきました。私はその手を取り、立ち上がります。
「うう……頭が……」
立ち上がりながら、私はユイトの肩に寄りかかりました。気を抜くと、また耳鳴りのせいで倒れてしまいそうになります……
「ユイトは、大丈夫なんですか?」
「うん、まぁ……とりあえず、ソフィアにも解除する魔法を」
ユイトが私の首筋に触れると、魔力が流れてくるのが分かりました。そして……
「……あら、本当に耳鳴りが無くなって……」
「どう?自分の力で立てる?」
「は、はい」
ユイトの肩から離れ、自分の足で立ちます。まだ、頭は耳鳴りのせいでクラクラしますけど……
「……向こうには居ないみたい」
「向こう、って……工房の方ですか?」
「うん。静梨がそう言ってた」
ああ、なるほど。『心』の魔法で連絡しあっていた、というわけですね。
「とにかく今は緊急事態だ。僕から離れないで」
「わ、分かりました」
言われて、私はユイトの後ろに隠れます。
「それにしても、良くも堂々と……」
「あの、そろそろ説明を……」
「ああ、そうだった。説明を――」
と、その時。
――きゃぁっ!?
「静梨!?」
遠くからシズリの悲鳴。
「ソフィア、静かに僕に着いてきて。落ちついて、ね」
「は、はい……」
いつになく真剣なユイトの顔に、私は何が起こっているのだろうと考えつつ着いていきました。
土曜日、深夜。時刻的に言えば、もう日曜日です。木曜日から私はユイトの家に連泊をしていました。思ったよりも居心地がよくて、もう少し居たいとアクセリナに駄々を捏ねたら、なんとかOKを貰いました。
それで、なんでこんな時間に起きているのかと言うと。ふと目が覚めてしまった、とでも言うべきでしょうか?
そんな私は、アクセリナを起こさないようにそっと部屋を出て、庭に向かっていました。ここの庭、一度一人でゆっくり眺めてみたいな、って思っていたんです。
昼に比べて涼しめの夜。程よい夜風が身体に当たって気持ちいい……これが、フウリュウ、ってやつなんでしょうか?
「えっと……ここでしたね」
いつも私達がご飯を食べている場所からも庭には行けますが、今日はその隣……魔法の修行に使っている場所から庭を見ます。
「よいしょ、っと」
縁側に座り、庭を見る私。庭の中央には、緑の木が一本。ユイトが言うには、アレは桜の木、らしいです。
「ふぅーっ……」
次に、月に視線を。半月よりちょっと膨らんでいる月です。ハタチになっていたら、月見酒、というのをやってみたかったのですが……あと五年、待たないとですね。
月を見たなら、次は星を。この辺りは光が少ないからかよく星が見えます。私は指を指しながら、一つ一つ星座を確認します。
まず見えるのが、Var Triangel……春の大三角、でしたっけ。デネボラ、アークトゥルス、スピカ……一節には、コル・カロリという星を含めて春のダイヤモンド、とも言う場所があるそうです。
それと、もう一つ。そろそろ見えてきたのがSommar Triangel、夏の大三角。デネブ、アルタイル、ベガ。ニホンではこれのうちアルタイルをヒコボシ、ベガをオリヒメボシと言うそうで。体育祭の当日……7月7日に日本の人はササにタンザクというものをぶら下げるそうです。それに願いを書いて捧げると、願いが天に届くとかどうとか……一種のお祭り事なので、買い物をしに行くとちらほら見かけ始める、とアクセリナが言っていました。
「こうやって星を見たのは……初めてこの家に泊まった時以来ですね」
思えば早いものであれからもう一月が経とうとしているのですね……楽しい時間は、あっという間に過ぎていってしまいます。
「……」
ふと、私は故郷……ヴェステルマルク邸で見た星のことを思い出しました。あの時は……一番印象に残っていたのは、やっぱりあの日……家を襲撃された時の日の星でしょうか。まだ今年のことなのに、物凄く前のように思えます……それもこれも、きっとユイト達と出会って……辛いことを忘れるぐらいに楽しかったからだと思います。
「……ふふ」
いつかは、ここで暮らすようになりますし……そうしたら、いつでもこの光景を見られると思うと、それもとても楽しみです。一番楽しみなのは勿論、皆と暮らせる事ですけどね、ふふ。
それにしても、後一週間ちょっとで体育祭、ですか……向こうでは学校に行かず家庭教師で、こういう行事を体験したことが無いものですから新鮮です。ユイト達……特に、ノリヒコの反応を見るにとても楽しいものなんでしょう。せっかくのお祭りですし、楽しみたいですね。
と、そんなことを思っていると。
「……うっ!?」
突如、物凄い耳鳴り。私は耳を抑え、うずくまります。
「な、なんですかこの音……!?」
自然現象として、人は耳鳴りするものですが、明らかにこれは不自然な金切り音に近いものでした。
「うぅ……とりあえず、部屋の中に……」
私は這うようにして、修行場に戻ります。
――どこだ!?
「ユイト……?」
――おにいは修行場の方!私は工房の方見てくる!
「シズリ……?」
ドタドタという音と共に、物凄い鬼気迫った二人の声が聞こえてきました。私は急いで、と言っても遅いですけど、這っていきました。
「……ソフィア!大丈夫!?」
「ユイト……はい、耳鳴りがするぐらいで……」
「そっか、説明してなかったね。でも今はとりあえず説明している暇はないから。ほら、手を」
ユイトが私に向かって手を伸ばしてきました。私はその手を取り、立ち上がります。
「うう……頭が……」
立ち上がりながら、私はユイトの肩に寄りかかりました。気を抜くと、また耳鳴りのせいで倒れてしまいそうになります……
「ユイトは、大丈夫なんですか?」
「うん、まぁ……とりあえず、ソフィアにも解除する魔法を」
ユイトが私の首筋に触れると、魔力が流れてくるのが分かりました。そして……
「……あら、本当に耳鳴りが無くなって……」
「どう?自分の力で立てる?」
「は、はい」
ユイトの肩から離れ、自分の足で立ちます。まだ、頭は耳鳴りのせいでクラクラしますけど……
「……向こうには居ないみたい」
「向こう、って……工房の方ですか?」
「うん。静梨がそう言ってた」
ああ、なるほど。『心』の魔法で連絡しあっていた、というわけですね。
「とにかく今は緊急事態だ。僕から離れないで」
「わ、分かりました」
言われて、私はユイトの後ろに隠れます。
「それにしても、良くも堂々と……」
「あの、そろそろ説明を……」
「ああ、そうだった。説明を――」
と、その時。
――きゃぁっ!?
「静梨!?」
遠くからシズリの悲鳴。
「ソフィア、静かに僕に着いてきて。落ちついて、ね」
「は、はい……」
いつになく真剣なユイトの顔に、私は何が起こっているのだろうと考えつつ着いていきました。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる