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第二章 許嫁……!?
体育祭に向けて その1
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「体育祭の出場選手を決めるぞ」
土日明けて、月曜日のこと。五限目と六限目を利用して、7月初頭にある体育祭の競技の選手割り振りが始まった。
「面倒だなぁ」
「何言ってるの伯彦。ここでいいところ見せるチャンスかもしれないよ?」
「……それは盲点でした。けど、瑠々美さんここに来れるんですかね?体育祭とはいえ、平日なわけですし」
「あの自由お嬢様なら休んででも来そうだけどな」
「お嬢様学校がどんな感じなのか知りませんけど、多分家の事情で休むとか会食で休むとかあるんだろうなあ……」
担任の話を程々に聞き流しながら、僕と伯彦は話していた。
「それで、伯彦はどの競技に出るの?」
「勿論俺が目立てる競技に決まってるじゃないですか」
「一年坊が目立てる競技なんてあんまないよ?大抵三年生の先輩が目立つでしょ」
「そりゃそうですけど」
配られてきたプリントを見る。競技の一覧が載っており、僕達はそれを一通り眺める。
「うーん、やっぱりリレー……は三年のアンカーが目立つだろうし、障害物競走もなんか地味そうだし……」
「騎馬戦はどう?大将にでもなればいいじゃないの」
「俺は大将なんてタマじゃないんですよ、サポートで輝くタイプなんで」
「そこは謙虚なんだね」
いまいち目立ちたいのか目立ちたくないのかよくわからない。目立ちたいなら大将やればいいのに……
「……そうだ。借り物競争なら!」
「違う意味で目立ちそうだけどね」
おそらく伯彦が求めている「目立ちたい」は、面白い方の目立ちたいじゃなくてかっこいい方の目立ちたい、なんだろうけど。
「て、あれ。このプリント裏面があるけど」
「おっ、本当だ……っ!?」
裏面を見て、僕達は驚く。
「なんじゃ、こりゃあ……サッカーとバスケ、それにドッジボールの競技があるじゃねえか!」
伯彦の驚く声を聞いて、担任がニヤニヤしながら話し始める。
「そうだ、うちの学校はな、体育祭を一日目に、球技大会を二日目にやるんだよ。面白いだろう?」
「つまりは、二日間で目立てるチャンスがあるってわけだな……燃えてきた」
勝手に燃えててほしいけど、それとして僕もどの競技に出るか決めておかないと。伯彦と協力するために一緒に同じ競技に出るか、それとも伯彦の応援のために別競技に出るか。
「結人さんは何に出るんですか?」
「そうだねぇ……どうしようか、全然決めてない」
「俺より目立たないでくださいよ?瑠々美さんに俺の勇姿を見せるんですから」
「はいはい」
ぶっちゃけ、伯彦の方はどうでもいい。僕はソフィアとアクセリナがどんな競技に出るのか気になっていた。アクセリナは運動神経抜群だからなんでも余裕でこなしそうだけど、ソフィアの方は運動しているところが想像できない。なんか……三歩歩いただけでコケてそう。
そう思いながら左前の方のソフィアの方を見ると、こちらの視線に気づいたらしくはにかんで手を振ってきた。
「……学校でもいちゃつかないでもらえませんかね」
「何もしてないんだけど」
横から人のことを言えてないやつから言われながらも、僕は手を振り返しておいた。まぁ、ソフィアはソフィアで後ろの席のアクセリナから小声で注意されてたんだけど。
「ねえ、ソフィアの運動してる姿って想像できると思う?」
「いや、全然。アクセリナさんは無双してそうですけど」
「だよねぇ。僕はそっち目当てで見ようと思う」
「小動物じゃないんですよ、ソフィアさんは」
「どうせ体育祭は男より女の子の方が注目されるんだから皆も同じこと思ってるよ」
シャーペンを取り出し、プリントに書かれている競技にアリナシで印をつけていく。
徒競走。走るのはめんどくさいからパス、ナシ。
障害物競走。バレない程度に魔法使えばなんとかなるかも、アリ。
二人三脚。伯彦ならともかく、他人と息を合わせるのはちょっと苦手だからパス、ナシ。
騎馬戦。大将で司令塔やるのも悪くない。アリ。
借り物競争。残念ながら僕はそういうキャラじゃないからパス、ナシ。
綱引き。力ないからパス、ナシ。
リレー。足は速いとは思うけど、出るほどではないかなぁ、ナシ。
マルバツゲーム。変わり種だけど、面白そうだから出てもいいかも。知識勝負なら勝てそう、アリ。
裏面に行って、球技の方。サッカーとバスケとドッジボール……うーんどれも出たくないけど、まぁやるならサッカーだね。
「よし、こんなもんでしょ」
「お、決まったんですか?どれどれ」
ペンを置いた瞬間、伯彦にひったくられる。
「ほうほう、これに出るんですね……」
「人の見て楽しい?」
「俺だって結人さんやソフィアさん、アクセリナさんを応援したいですからね。出来るだけかぶらないようにすれば、全員を応援出来そうですし」
「じゃあ応援団に入って応援合戦すればいいんじゃないの?体育祭の花形その二って感じじゃん」
色別応援合戦は、組の色の生かした衣装とかに身を包んで応援してたりするから、僕は応援されると言うより舞踊を楽しんでいるに近い。同じ楽しみ方をしている人も居るだろうけど、少数派だろう。
「応援団、かぁ……朝早くに応援練習とか、昼休みにまで応援練習とかだるいんですよね」
「それこそ勇姿を見せる」
「おおっと騙されませんよ、それとこれとは全く別のお話です。俺は運動している姿でかっこいい姿を見せたいんです。ま、普段の俺はかっこよさが溢れまくってますんで」
言いながらカバンからお茶を取り出し、飲み始める伯彦。変なところに入ったのか、むせてたけど。
「……どこが『かっこよさが溢れまくってる』だって?」
「……すんませんした」
プリントを取り返して、改めて競技を見る。
「で?そっちは決まったの、出る競技」
「勿論。俺は騎馬戦に出ることにします。というわけで結人さん、一年騎馬の大将立候補、よろしくお願いします」
「はぁ……まぁ、いいけど」
「俺は結人さんに指示されて動くのが性に合ってますよ、舎弟精神ってやつです」
「司令塔やるのも悪くないって思ってたしね」
というわけで、僕と伯彦は騎馬戦に出ることになった。正式に決まったわけじゃないけど、まぁ人数的には余裕あるし、本決定で考えていいと思う。
「球技はどうしようかなぁ。やるとしてサッカーだけど、司令塔っぽいことはサッカー部に任せなきゃだしさ」
「あー、そうですね。俺達は球技に関しちゃあいつらと比べればズブの素人みたいなもんですからね」
「いざとなったら『転移』の魔法で……」
「はーいストップストップ。そういうのに使っちゃだめですよ」
まぁ、使うことはしないだろうけど。そんなことしてみれば反則負けになる可能性だってあり得るしね。
「とにかく、今回は伯彦を立てるとしてサッカーにも出てあげようかな」
「よっしゃ!じゃあ決まりってことでよろしくお願いします」
さて。僕達が決まったところで、『音』の魔法を発動してソフィアに出る競技を聞いてみる。
『ソフィアとアクセリナは何の競技に出るか決まった?』
ちらりとソフィアの方を見ると、少し驚いていたけどすぐに魔法を返してくれた。
『……えーと、借り物競争に私が、アクセリナがリレーの、それもアンカーに立候補する予定らしいです』
「だってさ、伯彦。聞こえてた?」
「え?ああ、聞こえてましたよ。ソフィアさんが借り物競走、アクセリナさんがリレーアンカーですよね?」
「正解」
ありがたいことに、ソフィアはわざわざ伯彦にも『音』の魔法で伝えてくれていたみたいだ。別にそんなことしなくても口頭で言う予定だったけれど。
それにしても、ソフィアも日本の魔法、上手になったなぁ。僕が教えている、ってのもあるけれど。いや、これは少し自信過剰すぎるか?ソフィアに隠れてるけど、伯彦も少しだけど上達が見える。人の成長を見るのは楽しいね、やっぱり。
「よーし、じゃあそろそろお前ら決まったかー?黒板にやりたい競技書くから、出たいところに名前書いてけー」
担任の言葉で、一斉にクラスの生徒が立って黒板にぞろぞろと集まってくる。
「じゃ、俺の分も頼んます」
「逆逆。伯彦が書いてくるんだよ。『従者』、なんでしょ?」
「こういう時に都合よく使って……」
なんだかんだぶつくさ文句を言いながらも、伯彦は黒板に書きに行ってくれる。その間、僕はソフィアの方に向かっていた。
「ソフィア、借り物競争に出るんだね」
「カリモノキョウソウ……アクセリナから内容だけ聞いて、面白そうと思って」
「なるほど、ね」
その当のアクセリナはリレーアンカーっていうとんでもないものに立候補してるけどね……
「にしても、ソフィアの仮装姿……想像できないな」
「あれですよね、アフロヘアーのウィッグを着ける」
聞いて、アフロヘアーを着けたソフィアを想像する。……なんか、無駄に似合ってる気がしなくもなくて驚きだ。
「うん、きっとソフィアは何着けても大丈夫だと思うよ」
「え?」
分かっていないソフィアをよそに、もう決め終わったのか戻ってきた伯彦とアクセリナが戻ってくる。
「無事希望通りになりましたよ」
「こちらもです」
「ありがとう、伯彦」
「ありがと、アクセリナ」
二人にお礼を言いながら、僕は周りを見渡す。どうやらまだ決まっていない競技もあるみたいだ。
「いやー、アクセリナさんがリレーのアンカーとか、絶対勝ち確定でしょ」
「油断は禁物です、伯彦様。私も走力には自信がありますが、上が居るかも知れない、そう思っております」
「ストイックなんだからさぁ……」
もうちょっとで会ってから三ヶ月立つのに、二人の間、というより伯彦の方がまだアクセリナに苦手意識があるみたいだ。そろそろ慣れればいいのに……
「そんなユイトは、騎馬戦に出るらしいじゃないですか」
「勿論、俺らの大将として出てもらいますよ!」
「だから、まだ決まったわけじゃないんだって」
「そこも話をつけてきました」
「早」
あの短い時間でどうやって納得させたんだ?
「あとは俺のかっこいいところを見せるために今から研究しないとな……」
「……ああ、そういうことですか」
アクセリナが伯彦が言った意味を理解したらしく、呆れた顔になった。
「よし、今のうちに瑠々美さんにメッセ飛ばしとくか……」
伯彦はすぐさまスマホを取り出し、おそらく野薊さんにメッセージを送ろうとスマホを操作し始めた。
「……ねえ、ユイト」
「ん?」
周囲の声で聞こえにくかったけど、ソフィアが小声で話しかけてきた。
「ユイトのかっこいいところ……楽しみにしてますね」
「……どうして皆僕に期待するかなぁ」
そう言って、ソフィアは机の下で僕の右手をきゅっと握ってきた。期待されるのは嬉しいけど、どうせ家に帰って言っても静梨も紗代も同じこと言うだろうし、もっと別のことで、しいて言うなら魔法のことで期待されたいんだけどなぁ。
「アクセリナも、よくアンカーになれたね」
「入学してすぐの体力テストの結果からして、当然の結果です」
僕はそう言われて、4月の入学したばかりの頃にやった体力テストのことを思い出す。アクセリナ、女子で一番早いタイムだったらしいし。男子のタイムと比べても上位の方だし、本番はもっと早くなってくるだろう。
「アクセリナも期待してますよ?」
「ご期待に応えられるよう、尽力致します」
「まあ」
「いいなあ、こんな礼儀正しい従者っていいなぁ」
僕は愚痴ったけど、当の本人には聞こえてないみたいだ。
「……よし、終わり。で、なんか言いましたか結人さん」
「いーや?別に」
「そっすか。あっ、そうそう、瑠々美さん、ここに来てくれるらしいですよ!」
「え?本当?」
やっぱり無茶言って休むんだろうな……それも二日間も。
「てことは……あの執事もやってくるのか」
「?」
僕は先日二人に言われたことを思い出す。ソフィアに敵意を向けているのか、それともアクセリナなのか、どちらにせよあの執事は警戒しなければいけない。考え過ぎと言ったけど、放置して何かあってからじゃ遅い。
「伯彦、アクセリナ。くれぐれも気をつけてね」
「はい」
「ん?よく分かんねえけど分かりました」
雑談していると、どうやら他の競技のメンバーも正式に決まったようだった。僕達は自分の席に戻り、翌日から練習を始めるとのことで、今日はもう帰っていいことになった。ので、四人揃って帰路についた。
「くー、ねみぃ」
「家に帰っても習い事あるんでしょ?」
「ねみぃ、は口癖みたいなもんですから」
「そう」
「ノリヒコの習い事って、なんですか?」
ソフィアが聞いてきた。そういえば言ってなかったな。本人があまり語りたがらないのもあるけど、伝えるタイミングが無かったか。
「……俺の家の習い事、というか開いている道場はですね、武道の道場なんですよ」
「ブドウ……」
「先に言っておきますが、果物のブドウではありませんよ」
「も、もう。分かってますよそれぐらい」
この反応的に、絶対武道じゃなくて葡萄を思い浮かべてたんだろうなぁ……日本語って、同音異義語が多いから難しいよね。
「剣道から柔道、それに空手、合気道……色々やってますよ」
「へぇ、凄いですね!じゃあじゃあ、ノリヒコは強かったり?」
「いや、まだ俺は強くなれますからまだ全然ですよ」
「いつかアクセリナと競ってほしいです」
「やめてください、俺の命が危ないです」
「潜ってきた場数が違うもんね」
なんてことを話していると、後ろから駆けてくる音がした。
「おにいー!」
「待ってください静梨様―!」
ああ、このハイテンションの声。名前を呼ばれなくても静梨って分かる。
「はいどーん!」
僕は直前で避けて伯彦に静梨をぶつけた。まあ、ご褒美だろ。
「痛えっ!?」
「あ、ごめんなさい伯彦さん。ちょうどいい感じにおにいを騙して衝突できると思ったんだけど」
「い、いいんだけどさ……」
ちょっとしてから、息を切らした紗代が合流する。
「ぜえ、ぜえ、ぜえ……もう、静梨様ってば結人様の姿見た瞬間あくどい笑顔して、絶対ろくなこと起きないと思ったんですよ……」
「結果的に僕に何も起こってないから平気」
「俺には起こってるんですけどね!?」
やっぱり静梨と伯彦が揃うとやかましくて面白い。
「そういえば、今日おにいの学校で体育祭の競技決めたんだって?」
「そうだけど、なんで知ってるの?」
「あ、合ってたんだ。だいたい体育祭の競技決めるのってこの時期だからそうかなって思っただけなんだけど」
「そうだね、確かに」
僕は静梨と紗代に今日決まったことを話す。
「へぇ、おにいが司令塔で騎馬戦やるの?面白そうじゃん」
「私達も見たかったですけど、学校がありますから……」
「父上にビデオ撮影を任せればいいさ」
「あー、そうだね」
そもそも別学校だから都合よく体育祭の日が休日とか無いでしょ。
「あ、そうそう。なんだか野薊さんも来るらしいよ?」
「婚約者の勇姿をわざわざ見に来てくれるんだぜ?健気だなぁ……」
「今からでも遅くないし、徹底的に伯彦がカッコ悪くなるようにしようかな」
「慈悲の心をくださいな」
伯彦を立てるとしても、どうしたものかなあ……
「……結人様」
「どうしたの、アクセリナ」
さっきとは違い、今度はアクセリナが小声で話しかけてきた。
「先程から、遠くから何者かの視線を感じます」
「それは確か?誰からの……まではわからないか」
「確実に言えることは、あの執事ではないことです」
「なるほど、ね。じゃあ別の人の可能性もあるけど警戒はしよう。敵意は無いんだね?」
「はい」
じゃあ、監視、ってところか。
「もし襲ってきても、アクセリナが守ってくれるでしょ?」
「当然です」
「じゃあ、とりあえずどっしりと構えてよう。あえて相手に油断をさせてあげよう」
「分かりました」
どうやら、やはり僕達に不穏な影が迫っているのは確からしい。狙われるとして……体育祭か?しかし一体誰を?一番考えられるのはソフィアだから、その方向で考えてもいいけど。
「これは困ったね」
ソフィアの家の事情からして、これからの僕の人生が波乱万丈になることは分かってはいたけれど、いつかはケリをつけないといけないな。
土日明けて、月曜日のこと。五限目と六限目を利用して、7月初頭にある体育祭の競技の選手割り振りが始まった。
「面倒だなぁ」
「何言ってるの伯彦。ここでいいところ見せるチャンスかもしれないよ?」
「……それは盲点でした。けど、瑠々美さんここに来れるんですかね?体育祭とはいえ、平日なわけですし」
「あの自由お嬢様なら休んででも来そうだけどな」
「お嬢様学校がどんな感じなのか知りませんけど、多分家の事情で休むとか会食で休むとかあるんだろうなあ……」
担任の話を程々に聞き流しながら、僕と伯彦は話していた。
「それで、伯彦はどの競技に出るの?」
「勿論俺が目立てる競技に決まってるじゃないですか」
「一年坊が目立てる競技なんてあんまないよ?大抵三年生の先輩が目立つでしょ」
「そりゃそうですけど」
配られてきたプリントを見る。競技の一覧が載っており、僕達はそれを一通り眺める。
「うーん、やっぱりリレー……は三年のアンカーが目立つだろうし、障害物競走もなんか地味そうだし……」
「騎馬戦はどう?大将にでもなればいいじゃないの」
「俺は大将なんてタマじゃないんですよ、サポートで輝くタイプなんで」
「そこは謙虚なんだね」
いまいち目立ちたいのか目立ちたくないのかよくわからない。目立ちたいなら大将やればいいのに……
「……そうだ。借り物競争なら!」
「違う意味で目立ちそうだけどね」
おそらく伯彦が求めている「目立ちたい」は、面白い方の目立ちたいじゃなくてかっこいい方の目立ちたい、なんだろうけど。
「て、あれ。このプリント裏面があるけど」
「おっ、本当だ……っ!?」
裏面を見て、僕達は驚く。
「なんじゃ、こりゃあ……サッカーとバスケ、それにドッジボールの競技があるじゃねえか!」
伯彦の驚く声を聞いて、担任がニヤニヤしながら話し始める。
「そうだ、うちの学校はな、体育祭を一日目に、球技大会を二日目にやるんだよ。面白いだろう?」
「つまりは、二日間で目立てるチャンスがあるってわけだな……燃えてきた」
勝手に燃えててほしいけど、それとして僕もどの競技に出るか決めておかないと。伯彦と協力するために一緒に同じ競技に出るか、それとも伯彦の応援のために別競技に出るか。
「結人さんは何に出るんですか?」
「そうだねぇ……どうしようか、全然決めてない」
「俺より目立たないでくださいよ?瑠々美さんに俺の勇姿を見せるんですから」
「はいはい」
ぶっちゃけ、伯彦の方はどうでもいい。僕はソフィアとアクセリナがどんな競技に出るのか気になっていた。アクセリナは運動神経抜群だからなんでも余裕でこなしそうだけど、ソフィアの方は運動しているところが想像できない。なんか……三歩歩いただけでコケてそう。
そう思いながら左前の方のソフィアの方を見ると、こちらの視線に気づいたらしくはにかんで手を振ってきた。
「……学校でもいちゃつかないでもらえませんかね」
「何もしてないんだけど」
横から人のことを言えてないやつから言われながらも、僕は手を振り返しておいた。まぁ、ソフィアはソフィアで後ろの席のアクセリナから小声で注意されてたんだけど。
「ねえ、ソフィアの運動してる姿って想像できると思う?」
「いや、全然。アクセリナさんは無双してそうですけど」
「だよねぇ。僕はそっち目当てで見ようと思う」
「小動物じゃないんですよ、ソフィアさんは」
「どうせ体育祭は男より女の子の方が注目されるんだから皆も同じこと思ってるよ」
シャーペンを取り出し、プリントに書かれている競技にアリナシで印をつけていく。
徒競走。走るのはめんどくさいからパス、ナシ。
障害物競走。バレない程度に魔法使えばなんとかなるかも、アリ。
二人三脚。伯彦ならともかく、他人と息を合わせるのはちょっと苦手だからパス、ナシ。
騎馬戦。大将で司令塔やるのも悪くない。アリ。
借り物競争。残念ながら僕はそういうキャラじゃないからパス、ナシ。
綱引き。力ないからパス、ナシ。
リレー。足は速いとは思うけど、出るほどではないかなぁ、ナシ。
マルバツゲーム。変わり種だけど、面白そうだから出てもいいかも。知識勝負なら勝てそう、アリ。
裏面に行って、球技の方。サッカーとバスケとドッジボール……うーんどれも出たくないけど、まぁやるならサッカーだね。
「よし、こんなもんでしょ」
「お、決まったんですか?どれどれ」
ペンを置いた瞬間、伯彦にひったくられる。
「ほうほう、これに出るんですね……」
「人の見て楽しい?」
「俺だって結人さんやソフィアさん、アクセリナさんを応援したいですからね。出来るだけかぶらないようにすれば、全員を応援出来そうですし」
「じゃあ応援団に入って応援合戦すればいいんじゃないの?体育祭の花形その二って感じじゃん」
色別応援合戦は、組の色の生かした衣装とかに身を包んで応援してたりするから、僕は応援されると言うより舞踊を楽しんでいるに近い。同じ楽しみ方をしている人も居るだろうけど、少数派だろう。
「応援団、かぁ……朝早くに応援練習とか、昼休みにまで応援練習とかだるいんですよね」
「それこそ勇姿を見せる」
「おおっと騙されませんよ、それとこれとは全く別のお話です。俺は運動している姿でかっこいい姿を見せたいんです。ま、普段の俺はかっこよさが溢れまくってますんで」
言いながらカバンからお茶を取り出し、飲み始める伯彦。変なところに入ったのか、むせてたけど。
「……どこが『かっこよさが溢れまくってる』だって?」
「……すんませんした」
プリントを取り返して、改めて競技を見る。
「で?そっちは決まったの、出る競技」
「勿論。俺は騎馬戦に出ることにします。というわけで結人さん、一年騎馬の大将立候補、よろしくお願いします」
「はぁ……まぁ、いいけど」
「俺は結人さんに指示されて動くのが性に合ってますよ、舎弟精神ってやつです」
「司令塔やるのも悪くないって思ってたしね」
というわけで、僕と伯彦は騎馬戦に出ることになった。正式に決まったわけじゃないけど、まぁ人数的には余裕あるし、本決定で考えていいと思う。
「球技はどうしようかなぁ。やるとしてサッカーだけど、司令塔っぽいことはサッカー部に任せなきゃだしさ」
「あー、そうですね。俺達は球技に関しちゃあいつらと比べればズブの素人みたいなもんですからね」
「いざとなったら『転移』の魔法で……」
「はーいストップストップ。そういうのに使っちゃだめですよ」
まぁ、使うことはしないだろうけど。そんなことしてみれば反則負けになる可能性だってあり得るしね。
「とにかく、今回は伯彦を立てるとしてサッカーにも出てあげようかな」
「よっしゃ!じゃあ決まりってことでよろしくお願いします」
さて。僕達が決まったところで、『音』の魔法を発動してソフィアに出る競技を聞いてみる。
『ソフィアとアクセリナは何の競技に出るか決まった?』
ちらりとソフィアの方を見ると、少し驚いていたけどすぐに魔法を返してくれた。
『……えーと、借り物競争に私が、アクセリナがリレーの、それもアンカーに立候補する予定らしいです』
「だってさ、伯彦。聞こえてた?」
「え?ああ、聞こえてましたよ。ソフィアさんが借り物競走、アクセリナさんがリレーアンカーですよね?」
「正解」
ありがたいことに、ソフィアはわざわざ伯彦にも『音』の魔法で伝えてくれていたみたいだ。別にそんなことしなくても口頭で言う予定だったけれど。
それにしても、ソフィアも日本の魔法、上手になったなぁ。僕が教えている、ってのもあるけれど。いや、これは少し自信過剰すぎるか?ソフィアに隠れてるけど、伯彦も少しだけど上達が見える。人の成長を見るのは楽しいね、やっぱり。
「よーし、じゃあそろそろお前ら決まったかー?黒板にやりたい競技書くから、出たいところに名前書いてけー」
担任の言葉で、一斉にクラスの生徒が立って黒板にぞろぞろと集まってくる。
「じゃ、俺の分も頼んます」
「逆逆。伯彦が書いてくるんだよ。『従者』、なんでしょ?」
「こういう時に都合よく使って……」
なんだかんだぶつくさ文句を言いながらも、伯彦は黒板に書きに行ってくれる。その間、僕はソフィアの方に向かっていた。
「ソフィア、借り物競争に出るんだね」
「カリモノキョウソウ……アクセリナから内容だけ聞いて、面白そうと思って」
「なるほど、ね」
その当のアクセリナはリレーアンカーっていうとんでもないものに立候補してるけどね……
「にしても、ソフィアの仮装姿……想像できないな」
「あれですよね、アフロヘアーのウィッグを着ける」
聞いて、アフロヘアーを着けたソフィアを想像する。……なんか、無駄に似合ってる気がしなくもなくて驚きだ。
「うん、きっとソフィアは何着けても大丈夫だと思うよ」
「え?」
分かっていないソフィアをよそに、もう決め終わったのか戻ってきた伯彦とアクセリナが戻ってくる。
「無事希望通りになりましたよ」
「こちらもです」
「ありがとう、伯彦」
「ありがと、アクセリナ」
二人にお礼を言いながら、僕は周りを見渡す。どうやらまだ決まっていない競技もあるみたいだ。
「いやー、アクセリナさんがリレーのアンカーとか、絶対勝ち確定でしょ」
「油断は禁物です、伯彦様。私も走力には自信がありますが、上が居るかも知れない、そう思っております」
「ストイックなんだからさぁ……」
もうちょっとで会ってから三ヶ月立つのに、二人の間、というより伯彦の方がまだアクセリナに苦手意識があるみたいだ。そろそろ慣れればいいのに……
「そんなユイトは、騎馬戦に出るらしいじゃないですか」
「勿論、俺らの大将として出てもらいますよ!」
「だから、まだ決まったわけじゃないんだって」
「そこも話をつけてきました」
「早」
あの短い時間でどうやって納得させたんだ?
「あとは俺のかっこいいところを見せるために今から研究しないとな……」
「……ああ、そういうことですか」
アクセリナが伯彦が言った意味を理解したらしく、呆れた顔になった。
「よし、今のうちに瑠々美さんにメッセ飛ばしとくか……」
伯彦はすぐさまスマホを取り出し、おそらく野薊さんにメッセージを送ろうとスマホを操作し始めた。
「……ねえ、ユイト」
「ん?」
周囲の声で聞こえにくかったけど、ソフィアが小声で話しかけてきた。
「ユイトのかっこいいところ……楽しみにしてますね」
「……どうして皆僕に期待するかなぁ」
そう言って、ソフィアは机の下で僕の右手をきゅっと握ってきた。期待されるのは嬉しいけど、どうせ家に帰って言っても静梨も紗代も同じこと言うだろうし、もっと別のことで、しいて言うなら魔法のことで期待されたいんだけどなぁ。
「アクセリナも、よくアンカーになれたね」
「入学してすぐの体力テストの結果からして、当然の結果です」
僕はそう言われて、4月の入学したばかりの頃にやった体力テストのことを思い出す。アクセリナ、女子で一番早いタイムだったらしいし。男子のタイムと比べても上位の方だし、本番はもっと早くなってくるだろう。
「アクセリナも期待してますよ?」
「ご期待に応えられるよう、尽力致します」
「まあ」
「いいなあ、こんな礼儀正しい従者っていいなぁ」
僕は愚痴ったけど、当の本人には聞こえてないみたいだ。
「……よし、終わり。で、なんか言いましたか結人さん」
「いーや?別に」
「そっすか。あっ、そうそう、瑠々美さん、ここに来てくれるらしいですよ!」
「え?本当?」
やっぱり無茶言って休むんだろうな……それも二日間も。
「てことは……あの執事もやってくるのか」
「?」
僕は先日二人に言われたことを思い出す。ソフィアに敵意を向けているのか、それともアクセリナなのか、どちらにせよあの執事は警戒しなければいけない。考え過ぎと言ったけど、放置して何かあってからじゃ遅い。
「伯彦、アクセリナ。くれぐれも気をつけてね」
「はい」
「ん?よく分かんねえけど分かりました」
雑談していると、どうやら他の競技のメンバーも正式に決まったようだった。僕達は自分の席に戻り、翌日から練習を始めるとのことで、今日はもう帰っていいことになった。ので、四人揃って帰路についた。
「くー、ねみぃ」
「家に帰っても習い事あるんでしょ?」
「ねみぃ、は口癖みたいなもんですから」
「そう」
「ノリヒコの習い事って、なんですか?」
ソフィアが聞いてきた。そういえば言ってなかったな。本人があまり語りたがらないのもあるけど、伝えるタイミングが無かったか。
「……俺の家の習い事、というか開いている道場はですね、武道の道場なんですよ」
「ブドウ……」
「先に言っておきますが、果物のブドウではありませんよ」
「も、もう。分かってますよそれぐらい」
この反応的に、絶対武道じゃなくて葡萄を思い浮かべてたんだろうなぁ……日本語って、同音異義語が多いから難しいよね。
「剣道から柔道、それに空手、合気道……色々やってますよ」
「へぇ、凄いですね!じゃあじゃあ、ノリヒコは強かったり?」
「いや、まだ俺は強くなれますからまだ全然ですよ」
「いつかアクセリナと競ってほしいです」
「やめてください、俺の命が危ないです」
「潜ってきた場数が違うもんね」
なんてことを話していると、後ろから駆けてくる音がした。
「おにいー!」
「待ってください静梨様―!」
ああ、このハイテンションの声。名前を呼ばれなくても静梨って分かる。
「はいどーん!」
僕は直前で避けて伯彦に静梨をぶつけた。まあ、ご褒美だろ。
「痛えっ!?」
「あ、ごめんなさい伯彦さん。ちょうどいい感じにおにいを騙して衝突できると思ったんだけど」
「い、いいんだけどさ……」
ちょっとしてから、息を切らした紗代が合流する。
「ぜえ、ぜえ、ぜえ……もう、静梨様ってば結人様の姿見た瞬間あくどい笑顔して、絶対ろくなこと起きないと思ったんですよ……」
「結果的に僕に何も起こってないから平気」
「俺には起こってるんですけどね!?」
やっぱり静梨と伯彦が揃うとやかましくて面白い。
「そういえば、今日おにいの学校で体育祭の競技決めたんだって?」
「そうだけど、なんで知ってるの?」
「あ、合ってたんだ。だいたい体育祭の競技決めるのってこの時期だからそうかなって思っただけなんだけど」
「そうだね、確かに」
僕は静梨と紗代に今日決まったことを話す。
「へぇ、おにいが司令塔で騎馬戦やるの?面白そうじゃん」
「私達も見たかったですけど、学校がありますから……」
「父上にビデオ撮影を任せればいいさ」
「あー、そうだね」
そもそも別学校だから都合よく体育祭の日が休日とか無いでしょ。
「あ、そうそう。なんだか野薊さんも来るらしいよ?」
「婚約者の勇姿をわざわざ見に来てくれるんだぜ?健気だなぁ……」
「今からでも遅くないし、徹底的に伯彦がカッコ悪くなるようにしようかな」
「慈悲の心をくださいな」
伯彦を立てるとしても、どうしたものかなあ……
「……結人様」
「どうしたの、アクセリナ」
さっきとは違い、今度はアクセリナが小声で話しかけてきた。
「先程から、遠くから何者かの視線を感じます」
「それは確か?誰からの……まではわからないか」
「確実に言えることは、あの執事ではないことです」
「なるほど、ね。じゃあ別の人の可能性もあるけど警戒はしよう。敵意は無いんだね?」
「はい」
じゃあ、監視、ってところか。
「もし襲ってきても、アクセリナが守ってくれるでしょ?」
「当然です」
「じゃあ、とりあえずどっしりと構えてよう。あえて相手に油断をさせてあげよう」
「分かりました」
どうやら、やはり僕達に不穏な影が迫っているのは確からしい。狙われるとして……体育祭か?しかし一体誰を?一番考えられるのはソフィアだから、その方向で考えてもいいけど。
「これは困ったね」
ソフィアの家の事情からして、これからの僕の人生が波乱万丈になることは分かってはいたけれど、いつかはケリをつけないといけないな。
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「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
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図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
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