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第一章 来訪、欧州の魔法使い
穏やかな一日 その2
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おにいがソフィアさんと話している頃。私と、紗代と、アクセリナさんでぷち女子会をしていた。
「で。思ったけど私この場に居ないほうがいいんじゃ?」
「ええー、どうしてですか」
「ヒント、紗代とアクセリナさんにあって私にないもの」
「あー……」
私がヒントを出すと、紗代が私の胸を見てくる。
「……どこ見てんのよ」
「え、ち、違いました?」
「どう考えても違うでしょ!私だって人並みにはあるわ!あるもん……」
「……考えるならば、私と御崎様は共に従者。静梨様のみが主人、と言ったところでしょうか」
そう、それ。どうしてうちの従者はポンコツなのかしら……家事とかは全部完壁にできるのに。
「アクセリナさんの言う通り。ご主人様の不安とか言い合いたいんじゃないの?」
「私は別に静梨様に不満はありませんよ?結人様にはありますけど」
「分かる。私に不満点なんかあるわけないもんね」
「それは……」
でも正直、私が居ないと二人でどう話すのかは気になるけど、多分話さない。気を使ってアクセリナさんが話しかけてくれるかもしれないけど、紗代の方がアワアワしちゃってすぐ会話が終わっちゃいそう、ってのはある。あれ、じゃあなおさら私が居ないと駄目じゃない?
「ところで、御崎様。一つお聞きしたいことがあるのですが」
「ひゃい!?なんでしょうきゃ!?」
「落ち着きなさいって、そんな緊張するほどでもないでしょ」
「だ、だって……アクセリナさんから私に何を聞くんですか」
たしかに、アクセリナさんはありとあらゆる事を完璧にこなしそうな敏腕メイド、って感じがするし。紗代に何を聞くんだろう。
「それで、聞きたいことってなんですか?」
「本日ご招待に預かりまして、御礼の品を持ってきたのですが……」
そう言ってアクセリナさんはいかにも高級そうな紙袋から箱を出した。
「こちらになります」
「なんか、高そー。さすが外国チョイス、って感じ。開けていいですか?」
「はい」
「それじゃ、紗代。私じゃ荷が重いからよろしく」
日本の高そうなのは見慣れてるけど、外国のは見慣れてないからちょっと躊躇するんだよね。
「じゃあ、開けますね」
恐る恐る紗代が包装を解く。
「……あれ、なんだかこれ、見たことあるような」
「え?」
紗代の顔が少しずつ緊張してくる。
「あの、アクセリナ、さん?」
「いかがいたしましたか、御崎様」
「これ……もしかして、お花が入ってたりします?」
「知っておいででしたか」
私を置いてけぼりで、紗代とアクセリナさんで話している。
「う”わ”ーっ!どーしよー!私が選んだものより遥かに値段が高いよ―っ!」
「ちょっと、落ち着いて、紗代!」
「おおお、落ち着けませんよ!これ、5桁ぐらいはしたはずなんですけど」
なんだ、それぐらいか。てっきり良家のお嬢様だから6桁行くかと思ったけどそれならちょっと安心。
「それと、以前日本茶の方も頂いてしまったので……こちらの方も」
そう言って今度は青い箱を出す。
「こちらは北欧の地で飲まれている紅茶です」
「あら、いいんですか?」
私が紗代の方を見ると、完全にダラダラと冷や汗を流している。
「さ、紗代?」
「は、はい、大丈夫です」
「その言い方は大丈夫じゃない言い方」
おずおずと箱を開ける紗代。中には缶が二つ入っていた。
「缶に刻まれていると思うので判別は出来ると思いますが、一つはセーデルブレンド。オーソドックスな紅茶となっております。もう一つはロイヤルセーデルブレンド。こちらは紅茶ではなく緑茶を選ばせていただきました」
「おおー、ありがとうございます」
よくわかんないけど、なんかすごいんだろう。
「最後にはなりますが……」
「まだあるんですか!?」
「こちらはお嬢様からの贈り物になりますが、紅茶を飲む際のティーセットを」
今度は私でも分かるくらいに今までの中で高いものって感じの箱を出される。
「では、一つずつどれが誰のかを。まず初めにそちらの水色のティーカップが御崎様のものとなります」
「え、私のですか!?」
「よかったじゃん、紗代」
箱からティーカップを出して、幸せそうに眺めている紗代。ここまで笑顔なのは久々に見た。
「次に、こちらのクリーム色のティーカップが静梨様のものとなります」
「おおー、なかなかエレガントですね―。でも、私にはなんとなくあってない気がするんですけど」
「いえ、お嬢様の選んだものですから間違いはないかと」
「たしかに、ひと目見たらすっごい気に入っちゃったし……さすがソフィアさん」
紗代のとは違って色味は控えめだけど、ザ・オトナって感じで私好みだ。
「そしてこちらのゴールドのものが結人様のものになります」
「わあ、派手」
「でもこの三つの中でおにいっぽいのはどれかって言われたら、これだよねえ」
よく見るようなティーカップだけど、多分この中で一番高いんだろうな、って感じの洗練されたデザインだ。
「こ、これで最後ですよね?本当に」
「はい、最後です」
もう紗代は半分魂が抜けていた。これ、総額いくらなんだろ……気にしたら負けか。
「とにかく、アクセリナさん。ありがとうございます。こんなお高いもの貰ってしまって」
「いえ、お気遣いなく」
「あ、私、この紅茶入れてきますね……」
「気をつけてねー」
紗代は紙袋に全部一度戻して、キッチンの方に引っ込んでいってしまった。大丈夫かなあ、紗代。まあ大丈夫でしょ、多分。
「ところでー、アクセリナさーん」
「なんでしょうか、静梨様」
「おにいとソフィアさんの仲、どうなの?」
「どうなの、と言われましても」
私の中学にも、おにいとソフィアさんの噂は勿論入ってくるし、なんなら私か紗代にみんなどうなのか聞いてくる。おにいは全然それについて話してくれないし、それだったらアクセリナさんに聞いちゃったほうがいいかなって。
「この前お家に遊びに行ったんですよね?それで、どうなったんですかー?」
「私はお嬢様と結人様が魔法の学習をしている最中は、休息を頂いておりましたので」
「なーんだ、じゃあわからないんですね」
「はい、申し訳ありません」
私個人としても気になるけど……アクセリナさんがわからないなら、いっそのこと自分で聞いてみるのも手かもしれない。
「静梨様はどう思われているのですか?」
「どうって、なんですか?」
「お嬢様と、結人様の仲を、です。身内という立場から見て、応援できるものなのですか?」
おにいの恋を応援、かあ。まあ、アクセリナさんにとってはお世継ぎとか、そう言うので気になると思うんだけど。
「おにいも魔法使いだし、ソフィアさんも魔法使いだし、そういう点ではお似合いじゃないんですかね?それにー、ソフィアさん、美人だし!あの人が義姉ちゃんになるんだったら大歓迎です!」
「そうですか」
それだけで話題は終わってしまう。おにいもソフィアさんも、どうしてこんな淡白な人と会話を続けられるんだろう?紗代ほどじゃないけど、いくら経っても話が長くなることは無いと思う。
「ねえ、アクセ――――」
「……どうしました?」
私がアクセリナさんにまた話題を振ろうとすると、面倒なことが。
『これが聞こえてるなら、ソフィアだけに聞こえるように「音」の魔法をやってあげて』
はぁー、めんど。大方おにいのことだから私を実験台にしてるんだろうけど。
「アクセリナさん、ちょっと待ってて」
「はい」
私は軽く集中し、『音』の魔法を発動する。えーと……『おにいから面倒な事頼まれました、怒っておいてください』、と。
「ごめんなさい、アクセリナさん。おにいに面倒事押し付けられて」
「面倒事?結人様はこの部屋に来ておりませんが」
「日本の魔法に、『音』の魔法ってのがあって。それで、テレパシーみたいにおにいが話しかけてきたんです」
「そうだったのですか」
この反応だと、アクセリナさんはあんまり魔法について詳しくなさそう。まあ一般人だしね、仕方ない。紗代も使えないし、誰でも使えるわけじゃないし。
「アクセリナさんはどこまで知ってるの?魔法使いについて」
「そうですね……お嬢様と同じくらいには」
「それって、どれくらい?」
「お嬢様の、正確にはヴェステルマルク家の魔法ですが、それが『記憶』の魔法であること、日本には有数の魔法使いの家があり、その中でも霖家が突出しているということです」
外国から見たら私達の家ってそんな評価高いんだ、いいこと聞いた。褒められて悪い気はしない。
「勿論、うちの家は魔法だけじゃないですよ?」
「はい、存じております。先日、結人様のご案内でナガメジュエリーの方に伺いましたから」
「お、知ってたんですか」
というか、おにいはなんでアクセリナさんをうちの店に?まあ、おにいのことだからなーんもやましいこと無いんだろうけど。
「お、おまたせ、しました~」
「ちょ、紗代!めっちゃガチャガチャいってる!」
二人で話していると、紗代が紅茶を持ってやってきた……んだけど、心配なくらいティーカップをガチャガチャさせながら来た。
「だだだだだ、大丈夫ぅ、ですから」
「御崎様」
それを見かねてか、アクセリナさんが紗代の持っているトレーを支えてくれた。
「従者たるもの、いついかなる時も冷静に、落ち着いて行動しましょう」
「だって、これ、もらったの、おたかいやつじゃないですか……」
「焦りで壊してしまっては、元も子もないでしょう」
「は、はいぃ……」
さすがアクセリナさん、落ち着いてる。
「とりあえず、テーブルに置きましょう。ここからは私にお任せを」
「わ、わかりました」
アクセリナさんが紗代からトレーを受け取る。テーブルまでちょっとの距離しか無かったけど、紗代のときみたいにガチャガチャなんて音は一切なかった。
「どうぞ、静梨様」
「おおー……」
「す、すごい、アクセリナさん……」
その完璧な所作に、二人して感心、いやそれを越えて感動してしまう。
「ここに、御崎様のを置きますね」
「はい……」
紗代の座っていた場所に、ティーカップを置くアクセリナさん。置く時もすごく静かだった。
「……と、このような感じです」
「べ、勉強になります」
「さすがですね、アクセリナさん……」
「勿体なきお言葉です」
ぺこりと、きれいな礼をされた。でも、これを紗代がやるってなると……なんか違う。面白い。
「それでは、紅茶を飲んで一息つきましょうか」
「そうですね。ほら、紗代も座って」
すっかり紗代はしょんもりとしちゃって、椅子に座った途端机に突っ伏してしまう。
「はぁ~~~~…………アクセリナさんには遠く及ばないなぁ…………」
「心配ありません、私も最初はティーカップを割ってしまったこともありますから」
「そうなんですか?全く想像できないです」
なんだか、アクセリナさんは小さい頃からずっと変わらずこのまま、敏腕メイドな気がするけど……そう思いながら、私は紅茶を一口飲む。
「あ、これ美味しい」
「本当ですか?……あら、本当」
「こちらは当家でも出している、お嬢様お気に入りの紅茶なので」
「たしかに、この味はお気に入りになりそう」
今まで紅茶は何種類か飲んだことあるけど、それとは段違いに美味しい。
「ひとえに、御崎様の淹れ方が上手かったのもあるでしょう」
「あ、ありがとうございます……?」
急にアクセリナさんに紗代が褒められて、照れている。面白いので、頬を横からツンツンしてやる。
「ちょ、やめてくださいって静梨様」
「うりうり~」
「微笑ましいものです」
そんな事をしながら、三人で談笑する。
「そうだ、アクセリナさんは興味ありますか?」
「何にですか?」
「アクセサリーですよ、アクセサリー」
アクセサリー、アクセリナ。なんか語感が似てて、言っててちょっと笑いそうになる。
「まあ、興味が無いわけではないですが」
「やった、じゃあおにい達が戻ってきたら工房に行きませんか?」
「工房、と言いますと……話の内容からするに、アクセサリー工房でしょうか」
「そうです、そのアクセサリー工房です」
おにいが魔法を教えるなら、私と紗代でアクセサリーの作り方を教えてあげよう。私はそう思ったので、こんな提案をしたわけだ。
「どうでしょう、アクセリナさん。私達と一緒に、アクセッ、サリーをっ……」
「どうしました、静梨様」
こ、堪えなきゃ……堪えろ、私……やっぱ無理。
「あっははははははは!あー面白い、無理無理、堪えろって無理だよ、あっははははは」
「し、静梨様、どうしたんですか、急に笑い始めて」
「ごめ、紗代、もう無理だって、あはははははははは!」
多分、二人からしたら急に笑い出した私はだいぶ頭がおかしい子だと思われてる。せ、説明しなきゃ。
「えっとね、アクセサリーと、アクセリナさんって、似てて……それで、あっはははは!笑ってたってわけですよ!」
「「…………」」
うん、まあ、そりゃ二人とも引くよね。知ってた。
「はー面白かった、やっと笑い収まってきた、あーしんどかった、紅茶紅茶」
笑い疲れて喉が渇いたのか、紅茶が凄い美味しかった。
「ふう……とにかく、一緒にアクセサリー作り、しませんか?」
「え、ええと。それは、いいのですが」
「よし、決まり!じゃあおにいとソフィアさんが戻って来るまで……って、戻ってきましたね」
ナイスタイミング、おにい。
「なんか、静梨の凄い笑い声が聞こえたけど……どうしたの?」
「シズリ、あんな大声で笑うんですね」
「あの……結人様、ソフィアさん。すっごくしょうもないことなので、聞かなくていいですよ……」
「しょうもないとは何よ、しょうもないって」
そんなこんなで、私達のぷち女子会は終わったのだった。
「で。思ったけど私この場に居ないほうがいいんじゃ?」
「ええー、どうしてですか」
「ヒント、紗代とアクセリナさんにあって私にないもの」
「あー……」
私がヒントを出すと、紗代が私の胸を見てくる。
「……どこ見てんのよ」
「え、ち、違いました?」
「どう考えても違うでしょ!私だって人並みにはあるわ!あるもん……」
「……考えるならば、私と御崎様は共に従者。静梨様のみが主人、と言ったところでしょうか」
そう、それ。どうしてうちの従者はポンコツなのかしら……家事とかは全部完壁にできるのに。
「アクセリナさんの言う通り。ご主人様の不安とか言い合いたいんじゃないの?」
「私は別に静梨様に不満はありませんよ?結人様にはありますけど」
「分かる。私に不満点なんかあるわけないもんね」
「それは……」
でも正直、私が居ないと二人でどう話すのかは気になるけど、多分話さない。気を使ってアクセリナさんが話しかけてくれるかもしれないけど、紗代の方がアワアワしちゃってすぐ会話が終わっちゃいそう、ってのはある。あれ、じゃあなおさら私が居ないと駄目じゃない?
「ところで、御崎様。一つお聞きしたいことがあるのですが」
「ひゃい!?なんでしょうきゃ!?」
「落ち着きなさいって、そんな緊張するほどでもないでしょ」
「だ、だって……アクセリナさんから私に何を聞くんですか」
たしかに、アクセリナさんはありとあらゆる事を完璧にこなしそうな敏腕メイド、って感じがするし。紗代に何を聞くんだろう。
「それで、聞きたいことってなんですか?」
「本日ご招待に預かりまして、御礼の品を持ってきたのですが……」
そう言ってアクセリナさんはいかにも高級そうな紙袋から箱を出した。
「こちらになります」
「なんか、高そー。さすが外国チョイス、って感じ。開けていいですか?」
「はい」
「それじゃ、紗代。私じゃ荷が重いからよろしく」
日本の高そうなのは見慣れてるけど、外国のは見慣れてないからちょっと躊躇するんだよね。
「じゃあ、開けますね」
恐る恐る紗代が包装を解く。
「……あれ、なんだかこれ、見たことあるような」
「え?」
紗代の顔が少しずつ緊張してくる。
「あの、アクセリナ、さん?」
「いかがいたしましたか、御崎様」
「これ……もしかして、お花が入ってたりします?」
「知っておいででしたか」
私を置いてけぼりで、紗代とアクセリナさんで話している。
「う”わ”ーっ!どーしよー!私が選んだものより遥かに値段が高いよ―っ!」
「ちょっと、落ち着いて、紗代!」
「おおお、落ち着けませんよ!これ、5桁ぐらいはしたはずなんですけど」
なんだ、それぐらいか。てっきり良家のお嬢様だから6桁行くかと思ったけどそれならちょっと安心。
「それと、以前日本茶の方も頂いてしまったので……こちらの方も」
そう言って今度は青い箱を出す。
「こちらは北欧の地で飲まれている紅茶です」
「あら、いいんですか?」
私が紗代の方を見ると、完全にダラダラと冷や汗を流している。
「さ、紗代?」
「は、はい、大丈夫です」
「その言い方は大丈夫じゃない言い方」
おずおずと箱を開ける紗代。中には缶が二つ入っていた。
「缶に刻まれていると思うので判別は出来ると思いますが、一つはセーデルブレンド。オーソドックスな紅茶となっております。もう一つはロイヤルセーデルブレンド。こちらは紅茶ではなく緑茶を選ばせていただきました」
「おおー、ありがとうございます」
よくわかんないけど、なんかすごいんだろう。
「最後にはなりますが……」
「まだあるんですか!?」
「こちらはお嬢様からの贈り物になりますが、紅茶を飲む際のティーセットを」
今度は私でも分かるくらいに今までの中で高いものって感じの箱を出される。
「では、一つずつどれが誰のかを。まず初めにそちらの水色のティーカップが御崎様のものとなります」
「え、私のですか!?」
「よかったじゃん、紗代」
箱からティーカップを出して、幸せそうに眺めている紗代。ここまで笑顔なのは久々に見た。
「次に、こちらのクリーム色のティーカップが静梨様のものとなります」
「おおー、なかなかエレガントですね―。でも、私にはなんとなくあってない気がするんですけど」
「いえ、お嬢様の選んだものですから間違いはないかと」
「たしかに、ひと目見たらすっごい気に入っちゃったし……さすがソフィアさん」
紗代のとは違って色味は控えめだけど、ザ・オトナって感じで私好みだ。
「そしてこちらのゴールドのものが結人様のものになります」
「わあ、派手」
「でもこの三つの中でおにいっぽいのはどれかって言われたら、これだよねえ」
よく見るようなティーカップだけど、多分この中で一番高いんだろうな、って感じの洗練されたデザインだ。
「こ、これで最後ですよね?本当に」
「はい、最後です」
もう紗代は半分魂が抜けていた。これ、総額いくらなんだろ……気にしたら負けか。
「とにかく、アクセリナさん。ありがとうございます。こんなお高いもの貰ってしまって」
「いえ、お気遣いなく」
「あ、私、この紅茶入れてきますね……」
「気をつけてねー」
紗代は紙袋に全部一度戻して、キッチンの方に引っ込んでいってしまった。大丈夫かなあ、紗代。まあ大丈夫でしょ、多分。
「ところでー、アクセリナさーん」
「なんでしょうか、静梨様」
「おにいとソフィアさんの仲、どうなの?」
「どうなの、と言われましても」
私の中学にも、おにいとソフィアさんの噂は勿論入ってくるし、なんなら私か紗代にみんなどうなのか聞いてくる。おにいは全然それについて話してくれないし、それだったらアクセリナさんに聞いちゃったほうがいいかなって。
「この前お家に遊びに行ったんですよね?それで、どうなったんですかー?」
「私はお嬢様と結人様が魔法の学習をしている最中は、休息を頂いておりましたので」
「なーんだ、じゃあわからないんですね」
「はい、申し訳ありません」
私個人としても気になるけど……アクセリナさんがわからないなら、いっそのこと自分で聞いてみるのも手かもしれない。
「静梨様はどう思われているのですか?」
「どうって、なんですか?」
「お嬢様と、結人様の仲を、です。身内という立場から見て、応援できるものなのですか?」
おにいの恋を応援、かあ。まあ、アクセリナさんにとってはお世継ぎとか、そう言うので気になると思うんだけど。
「おにいも魔法使いだし、ソフィアさんも魔法使いだし、そういう点ではお似合いじゃないんですかね?それにー、ソフィアさん、美人だし!あの人が義姉ちゃんになるんだったら大歓迎です!」
「そうですか」
それだけで話題は終わってしまう。おにいもソフィアさんも、どうしてこんな淡白な人と会話を続けられるんだろう?紗代ほどじゃないけど、いくら経っても話が長くなることは無いと思う。
「ねえ、アクセ――――」
「……どうしました?」
私がアクセリナさんにまた話題を振ろうとすると、面倒なことが。
『これが聞こえてるなら、ソフィアだけに聞こえるように「音」の魔法をやってあげて』
はぁー、めんど。大方おにいのことだから私を実験台にしてるんだろうけど。
「アクセリナさん、ちょっと待ってて」
「はい」
私は軽く集中し、『音』の魔法を発動する。えーと……『おにいから面倒な事頼まれました、怒っておいてください』、と。
「ごめんなさい、アクセリナさん。おにいに面倒事押し付けられて」
「面倒事?結人様はこの部屋に来ておりませんが」
「日本の魔法に、『音』の魔法ってのがあって。それで、テレパシーみたいにおにいが話しかけてきたんです」
「そうだったのですか」
この反応だと、アクセリナさんはあんまり魔法について詳しくなさそう。まあ一般人だしね、仕方ない。紗代も使えないし、誰でも使えるわけじゃないし。
「アクセリナさんはどこまで知ってるの?魔法使いについて」
「そうですね……お嬢様と同じくらいには」
「それって、どれくらい?」
「お嬢様の、正確にはヴェステルマルク家の魔法ですが、それが『記憶』の魔法であること、日本には有数の魔法使いの家があり、その中でも霖家が突出しているということです」
外国から見たら私達の家ってそんな評価高いんだ、いいこと聞いた。褒められて悪い気はしない。
「勿論、うちの家は魔法だけじゃないですよ?」
「はい、存じております。先日、結人様のご案内でナガメジュエリーの方に伺いましたから」
「お、知ってたんですか」
というか、おにいはなんでアクセリナさんをうちの店に?まあ、おにいのことだからなーんもやましいこと無いんだろうけど。
「お、おまたせ、しました~」
「ちょ、紗代!めっちゃガチャガチャいってる!」
二人で話していると、紗代が紅茶を持ってやってきた……んだけど、心配なくらいティーカップをガチャガチャさせながら来た。
「だだだだだ、大丈夫ぅ、ですから」
「御崎様」
それを見かねてか、アクセリナさんが紗代の持っているトレーを支えてくれた。
「従者たるもの、いついかなる時も冷静に、落ち着いて行動しましょう」
「だって、これ、もらったの、おたかいやつじゃないですか……」
「焦りで壊してしまっては、元も子もないでしょう」
「は、はいぃ……」
さすがアクセリナさん、落ち着いてる。
「とりあえず、テーブルに置きましょう。ここからは私にお任せを」
「わ、わかりました」
アクセリナさんが紗代からトレーを受け取る。テーブルまでちょっとの距離しか無かったけど、紗代のときみたいにガチャガチャなんて音は一切なかった。
「どうぞ、静梨様」
「おおー……」
「す、すごい、アクセリナさん……」
その完璧な所作に、二人して感心、いやそれを越えて感動してしまう。
「ここに、御崎様のを置きますね」
「はい……」
紗代の座っていた場所に、ティーカップを置くアクセリナさん。置く時もすごく静かだった。
「……と、このような感じです」
「べ、勉強になります」
「さすがですね、アクセリナさん……」
「勿体なきお言葉です」
ぺこりと、きれいな礼をされた。でも、これを紗代がやるってなると……なんか違う。面白い。
「それでは、紅茶を飲んで一息つきましょうか」
「そうですね。ほら、紗代も座って」
すっかり紗代はしょんもりとしちゃって、椅子に座った途端机に突っ伏してしまう。
「はぁ~~~~…………アクセリナさんには遠く及ばないなぁ…………」
「心配ありません、私も最初はティーカップを割ってしまったこともありますから」
「そうなんですか?全く想像できないです」
なんだか、アクセリナさんは小さい頃からずっと変わらずこのまま、敏腕メイドな気がするけど……そう思いながら、私は紅茶を一口飲む。
「あ、これ美味しい」
「本当ですか?……あら、本当」
「こちらは当家でも出している、お嬢様お気に入りの紅茶なので」
「たしかに、この味はお気に入りになりそう」
今まで紅茶は何種類か飲んだことあるけど、それとは段違いに美味しい。
「ひとえに、御崎様の淹れ方が上手かったのもあるでしょう」
「あ、ありがとうございます……?」
急にアクセリナさんに紗代が褒められて、照れている。面白いので、頬を横からツンツンしてやる。
「ちょ、やめてくださいって静梨様」
「うりうり~」
「微笑ましいものです」
そんな事をしながら、三人で談笑する。
「そうだ、アクセリナさんは興味ありますか?」
「何にですか?」
「アクセサリーですよ、アクセサリー」
アクセサリー、アクセリナ。なんか語感が似てて、言っててちょっと笑いそうになる。
「まあ、興味が無いわけではないですが」
「やった、じゃあおにい達が戻ってきたら工房に行きませんか?」
「工房、と言いますと……話の内容からするに、アクセサリー工房でしょうか」
「そうです、そのアクセサリー工房です」
おにいが魔法を教えるなら、私と紗代でアクセサリーの作り方を教えてあげよう。私はそう思ったので、こんな提案をしたわけだ。
「どうでしょう、アクセリナさん。私達と一緒に、アクセッ、サリーをっ……」
「どうしました、静梨様」
こ、堪えなきゃ……堪えろ、私……やっぱ無理。
「あっははははははは!あー面白い、無理無理、堪えろって無理だよ、あっははははは」
「し、静梨様、どうしたんですか、急に笑い始めて」
「ごめ、紗代、もう無理だって、あはははははははは!」
多分、二人からしたら急に笑い出した私はだいぶ頭がおかしい子だと思われてる。せ、説明しなきゃ。
「えっとね、アクセサリーと、アクセリナさんって、似てて……それで、あっはははは!笑ってたってわけですよ!」
「「…………」」
うん、まあ、そりゃ二人とも引くよね。知ってた。
「はー面白かった、やっと笑い収まってきた、あーしんどかった、紅茶紅茶」
笑い疲れて喉が渇いたのか、紅茶が凄い美味しかった。
「ふう……とにかく、一緒にアクセサリー作り、しませんか?」
「え、ええと。それは、いいのですが」
「よし、決まり!じゃあおにいとソフィアさんが戻って来るまで……って、戻ってきましたね」
ナイスタイミング、おにい。
「なんか、静梨の凄い笑い声が聞こえたけど……どうしたの?」
「シズリ、あんな大声で笑うんですね」
「あの……結人様、ソフィアさん。すっごくしょうもないことなので、聞かなくていいですよ……」
「しょうもないとは何よ、しょうもないって」
そんなこんなで、私達のぷち女子会は終わったのだった。
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ファンタジー
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その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。
更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。
果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!?
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