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第一章 来訪、欧州の魔法使い
穏やかな一日 その1
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5月30日。ソフィアとアクセリナが家に来る日。この日のために特に何をしたとは言えないけど、まあ紗代がどうにかしてくれるでしょ。男目線から考えるより、女の子目線で考えてくれたほうがいいだろうし。
「よいしょ、っと」
じゃあ僕は何をしていたかと言うと、書庫から魔法に関する本を修行場に運んでいた。こっちの魔法は基本的に無言発動、向こうの魔法は言葉に出して発動するものだから、まずそれに慣れてもらうために、基礎から学ばないと。
「結人様ー、ソフィアさんとアクセリナさんが見えましたよー」
「分かった。じゃあ、ソフィアはここに通して。アクセリナはせっかくだから、二人でお話してあげてよ。あんまりその三人で話した機会なんか無かったし、いい機会でしょ」
「分かりましたー」
僕が言うと紗代はパタパタと出ていった。程なくして、ソフィアがやってくる。
「Halla、結人」
「こんにちは、ソフィア」
なんとなく日々の会話をしてきて、ソフィアの挨拶ぐらいは分かるようになってきた。いずれソフィアの国に行くことになったら本格的に勉強するべきかなあ。
「今日はユイトに魔法を教えてもらえると聞いて楽しみにしてました」
「魔法を教えるのは初めてだからうまく伝わるかどうか分からないけどね」
「そうですか?」
修行場の端から座布団を持ってきて、そこに座るように促す。
「リビングは椅子なのに、ここは座布団なんですね?」
「そりゃあ、普段は床に座るより椅子に座ってる方がいいから。ある意味これも修行だよ。ソフィア」
「なるほど、修行」
すごい適当なこと言ったけど、なんか納得してくれた。昔からみんなこうしてたって父上が言ってたから何も疑問に思ってなかったけど。
「それで、その本は?」
「これ?書庫から持ってきた魔法の本」
僕がそう言うと、ソフィアは一つ本を取って読み始める。
「む、むむ、むむむ……これ、日本語ですか?」
「日本語だよ、残念ながら」
ソフィアが取った本は、僕が持ってきた本の中でも年代が古いもの。僕も最初は読むのに苦労したものだ。字が崩れているのに加えて、今の日本語とは使い方と意味が違うからね。
「ユイトはこれ、読めるんですか?」
「勿論。読んであげようか?だいぶ時間かかるけど」
「じ、じゃあいいです」
ソフィアが本を元の位置に戻す。
「とにかく、今日はよろしくお願いしますね」
「うん」
挨拶をして、ソフィアが正座をする。僕は面倒なので安座で。
「じゃあ、まずは魔法の仕組みからだけど……」
「日本の魔法は言葉に出さずに発動するんですよね?」
「そう。例えば……こう」
僕は『転移』の魔法を発動し、修行場の外に出る。
「あれ、ユイト!?どこへ!?」
「こっちこっち」
もう一度修行場に入ると、ソフィアが驚いた目で僕を見る。
「こんな魔法、初めて見ました」
「これは僕の家に代々伝わる魔法、『転移』の魔法。僕もこれを習得するのに結構時間がかかったんだよね」
「まず私にとっては魔法を声に出さずに発動できるっていうのが凄いです」
僕は座布団に座り直す。
「何か他に無いんですか?私でも出来そうなの」
「うーん、そうだねー……」
一冊の本を開き、パラパラと眺める。基本的には『転移』の魔法と『心』の魔法についてばかり書いてあるけど、たまに普通の魔法についても書かれている。
「例えば……『音』の魔法とかだね。昔は日本で妖怪だーとか幽霊だ―とかなんだとかあったらしいけど、全部とは言わないまでも一部は魔法使いがいたずらをしていた結果だとかなんだとか。全然信じてないけど」
「『音』の魔法ですかー。やってみてください」
「…………」『こうしたら、僕の声が別の方向から聞こえたり』
「Varfor!?」
軽く集中して、魔法を発動した。この魔法を発動するのは久しぶりだけど、しっかり発動できた。
「今、私の後ろからユイトの声がしましたよ!」
「まあ、ざっとこんなもんだね」『言ってることと別の事を言ったりも出来る』
「すごいですねー、日本の魔法……」
僕にとっては普通に使えるものだけど、ソフィアは無駄に目を輝かせて喜んでいる。
「やってみる?」
「まず無言で魔法を発動するのが難しいんですけど……どうやって?」
「それはねー……」
また別の本を開く。こっちはわりかし後世に残すというのを重きに置いているのか、読みやすい字体だった。
「ここに書いてあるのは『魔法とは、周囲の力を使うのではなく、自分が力となるものだ』って書いてあるよ」
「?????」
「そうなるよね、最初は僕もそんな感想だったよ」
僕はわかりやすくソフィアに説明する。
「つまりは、だよ。周囲と、空気と一体化することで僕達日本の魔法使いは魔法を使ってるってわけ」
「周囲と一体化、ですか……」
「手っ取り早いのは精神統一、いわゆる深呼吸だね。やってみて」
やってみてとは言ったものの、あんまり要領を得ていない様子だった。
「ん、んん……」
「例えば、そうだね。周りの音を目を閉じて、集中して、耳を澄まして聞いてみよう」
「周りの音、ですか……」
一応、僕も精神統一をしてみる。同じ音が聞こえていたほうがわかりやすいしね。
「……何が聞こえる?」
「えーと……外から聞こえる鳥の声とか、風で揺らめく木の音とか……あとは、シズリ達の話し声もかすかに」
「お見事。最初にしては、十分聞こえてる方だよ」
さすが一応魔法使いっていうか、適応が早い。
「外国の魔法は詠唱することで、どんな状態でもすぐに出来るのが羨ましいんだよね。とっさの発動が出来ないのが日本の魔法だから」
「でも、その分無言で発動出来ることによって声を失っても発動できるっていういい点はありますよ」
「まあ、そうだね」
個人的には魔法の詠唱とかしてみたいけど、なんだかそれは気恥ずかしい。
「こんな感じで集中して、魔法を発動する、っていうのが日本の魔法だね」
「勉強になります」
なんか変に気合が入ってるけど、楽しそうなので無視した。
「それじゃ、ちょっと早いけど実践をやってみよっか」
「は、はい!」
「さっきの『音』の魔法を例にするとね……」
もう一度『音』の魔法を発動する。
「感覚的にはその場所で話しかけているのをイメージするんだ」『今これはソフィアの真上から話してる感じだね』
「なるほど、今のはユイトは私の真上をイメージして話していたのですね」
「そうだね、そういう事」『他にもこんな事もできる』
例として、修行場の襖を開けた音を出す。
「あれ、誰か入ってきて……ない?もしかして、今のも『音』の魔法で?」
「原理としてはさっきのと一緒。襖が開いた音をイメージして音を出してるんだ」
「おおー、面白いですね」
僕からしたらなんてことない魔法だけど、こんなに面白がってくれるとちょっと楽しくなってくるし、嬉しくなってくる。
「よし、やってみて」
「はい……」
合図をすると、ソフィアが集中を始める。邪魔しちゃいけないので、僕も黙っておく。
「『えーと……こう、ですか?』」
「そう、そんな感じ。最初は慣れてないから、どこから話しているかというイメージを出来ても、言葉の方は言っている言葉と同じ言葉を繰り返すぐらいしか出来ないだろうけど、まあいい感じじゃないかな」
「ありがとうございます!」
ソフィアが満面の笑みで言った。こうも喜ばれると教え甲斐がある。
「日本の魔法、こんなにも楽しいものだとは」
「僕からしたら今のテンション上がってるソフィアが面白いんだけど」
「そうですか?」
とりあえず、この成功した実感を得ている間にどんどん進めちゃおう。
「じゃあ、次は声じゃなくて音を出してみようか」
「っと、その前に質問なんですけど」
「ん?」
何の質問をされるんだろう。僕の分かる範囲内で質問をしてくれると嬉しいんだけど。
「この『音』の魔法って、どうやっても周囲に聞こえるようになってしまうんですか?」
「えっと、つまり……?」
「例えば、私だけにさっきの襖の音だったりを聞かせたりとか、出来るのかなって」
「出来るよ」
最初は質問の意味が分からなかったけど、例えばと言われて理解できた。さすがソフィア、頭がいいなあ。
「それじゃあ、試しに……」
そう言って、僕は静梨にこう言った。『これが聞こえてるなら、ソフィアだけに聞こえるように「音」の魔法をやってあげて』、と。
「ちょっと待っててね、すぐに来るだろうから」
「一体どういう……あら」
思ったよりも早く静梨はやってくれたようだ。
「なんて?」
「『おにいから面倒な事頼まれました、怒っておいてください』って言われました」
「そんな事を」
なんだかんだやってくれるあたり静梨は優しい。いい妹を持ったものだ。
「と、こんな風に色々出来るんだ、『音』の魔法っていうのは」
「興味深いですね、日本の魔法……」
「まあ、偉そうに僕も言ってるけど、まだまだ色んな魔法があるらしいから、この日本には」
これでも僕が知っているのは一握りだと思う。それも、僕はこれから知っていく。多分……ソフィアと一緒に。
「ねえ、ユイト!他の魔法も見せてください!」
「見せるだけでいいの?」
「ユイトの本気がちょっと見てみたくて……」
「本気かあ」
本気と言われても、どうしたものか。
「とにかく、使える魔法を全部!全部見せてください!」
「全部!?ちょ、さすがにそれは疲れ」
「お願いします!!!」
ソフィアが身を乗り出して頼んでくる。顔、近いし胸当たってるし!
「わ、分かったから!やって見るからどいてって!」
「やった!」
ふう、どいてくれた。ソフィア、無駄にスキンシップ激しいから困るんだよね、それが悪意なきものだから止めてとも言えず……アクセリナにでも言うかな、一回。
「それじゃあ、知ってる限りの魔法を発動してみるけど」
「解説もお願いしますね?」
「えー……」
魔法を全力で出しながら解説って、なかなか高度なことを要求してくるな……よし、頑張ってみるか。
「うーん……じゃあ、行くよ」
僕は深呼吸をして、集中する。
「わ、これは私でも分かります!あたりの空気が一変して……」
「…………」『ちょっと、静かにしててね』
「これはさっきの『音』の魔法ですね」
それを皮切りに、僕は魔法を次々に発動する。まず最初に、僕があんまり使うことのない魔法、『幻影』の魔法を発動する。使えることなら、自分自身に見えるように幻影を使いたいんだけどね。
「あれ、修行場に居たのに急に宇宙に」
「これが、『幻影』の魔法」
次に、『重力』の魔法。これは使うと結構疲れる上に、地味。
「おお、本が浮きました」
「あんまり効率よくないんだけどね、この『重力』の魔法」
話しつつ、この前知ったばかりの魔法、『空間』の魔法を発動し、浮かせた本を自分の手に瞬間移動させる。
「あ!もうあの魔法マスターしたんですか?」
「これはまた若干違うよ。『空間』の魔法と言って、『転移』の魔法の亜種的なやつらしい」
「ほー」
『空間』の魔法と来たら、『転移』の魔法。僕はそれを発動して、庭に移動する。
「おお、これはさっきの『転移』の魔法ですね」
『霖家と言えば、これだよね』
庭からはちょっとソフィアのところまでは遠いので、『音』の魔法でソフィアに話しかける。
『それじゃあ、次が最後だ』
最後に、『心』の魔法を発動し、ソフィアの今の気持ちを読み取る。
『ソフィア……今君は僕のことを改めて尊敬したようだね』
「え、まあ、そうですけど……もしかして、最後は『心』の魔法ですか?」
「うん、これで終わり」
「わっ、急に隣に来ないでください」
最後とは言ったけど、戻ってこないといちいち『音』の魔法で声を持っていくのも面倒だし、『転移』の魔法でソフィアの隣に戻る。
「どうかな?全力には程遠いだろうけど、知ってる魔法を最大限に面白そうに見せたけど」
「全力じゃないんですかー……まあ、楽しかったのでいいです」
「よかった」
全力を出すときなんて、いつ来るか分からないけど。
「この後、どうする?まだ魔法の勉強を続けてもいいけど」
「うーん、せっかくユイトの家に来たから魔法の勉強をしたいですけど、シズリにも構ってあげないとですよね」
「別にそんな事」
「私がしたいんです!それに、ユイトも今ので多少は疲れたでしょう?」
たしかに、多少は疲れたけど、ゼエゼエ言うような疲れじゃないし……
「まあ、気遣ってくれるならそれに乗っかろうかな」
「ありがとうございます、それじゃあみんなのところに行きましょうか」
「そうだね」
僕達は二人揃って修行場を出る。本は……まあ、ソフィアが帰ってから片せばいいよね。
「よいしょ、っと」
じゃあ僕は何をしていたかと言うと、書庫から魔法に関する本を修行場に運んでいた。こっちの魔法は基本的に無言発動、向こうの魔法は言葉に出して発動するものだから、まずそれに慣れてもらうために、基礎から学ばないと。
「結人様ー、ソフィアさんとアクセリナさんが見えましたよー」
「分かった。じゃあ、ソフィアはここに通して。アクセリナはせっかくだから、二人でお話してあげてよ。あんまりその三人で話した機会なんか無かったし、いい機会でしょ」
「分かりましたー」
僕が言うと紗代はパタパタと出ていった。程なくして、ソフィアがやってくる。
「Halla、結人」
「こんにちは、ソフィア」
なんとなく日々の会話をしてきて、ソフィアの挨拶ぐらいは分かるようになってきた。いずれソフィアの国に行くことになったら本格的に勉強するべきかなあ。
「今日はユイトに魔法を教えてもらえると聞いて楽しみにしてました」
「魔法を教えるのは初めてだからうまく伝わるかどうか分からないけどね」
「そうですか?」
修行場の端から座布団を持ってきて、そこに座るように促す。
「リビングは椅子なのに、ここは座布団なんですね?」
「そりゃあ、普段は床に座るより椅子に座ってる方がいいから。ある意味これも修行だよ。ソフィア」
「なるほど、修行」
すごい適当なこと言ったけど、なんか納得してくれた。昔からみんなこうしてたって父上が言ってたから何も疑問に思ってなかったけど。
「それで、その本は?」
「これ?書庫から持ってきた魔法の本」
僕がそう言うと、ソフィアは一つ本を取って読み始める。
「む、むむ、むむむ……これ、日本語ですか?」
「日本語だよ、残念ながら」
ソフィアが取った本は、僕が持ってきた本の中でも年代が古いもの。僕も最初は読むのに苦労したものだ。字が崩れているのに加えて、今の日本語とは使い方と意味が違うからね。
「ユイトはこれ、読めるんですか?」
「勿論。読んであげようか?だいぶ時間かかるけど」
「じ、じゃあいいです」
ソフィアが本を元の位置に戻す。
「とにかく、今日はよろしくお願いしますね」
「うん」
挨拶をして、ソフィアが正座をする。僕は面倒なので安座で。
「じゃあ、まずは魔法の仕組みからだけど……」
「日本の魔法は言葉に出さずに発動するんですよね?」
「そう。例えば……こう」
僕は『転移』の魔法を発動し、修行場の外に出る。
「あれ、ユイト!?どこへ!?」
「こっちこっち」
もう一度修行場に入ると、ソフィアが驚いた目で僕を見る。
「こんな魔法、初めて見ました」
「これは僕の家に代々伝わる魔法、『転移』の魔法。僕もこれを習得するのに結構時間がかかったんだよね」
「まず私にとっては魔法を声に出さずに発動できるっていうのが凄いです」
僕は座布団に座り直す。
「何か他に無いんですか?私でも出来そうなの」
「うーん、そうだねー……」
一冊の本を開き、パラパラと眺める。基本的には『転移』の魔法と『心』の魔法についてばかり書いてあるけど、たまに普通の魔法についても書かれている。
「例えば……『音』の魔法とかだね。昔は日本で妖怪だーとか幽霊だ―とかなんだとかあったらしいけど、全部とは言わないまでも一部は魔法使いがいたずらをしていた結果だとかなんだとか。全然信じてないけど」
「『音』の魔法ですかー。やってみてください」
「…………」『こうしたら、僕の声が別の方向から聞こえたり』
「Varfor!?」
軽く集中して、魔法を発動した。この魔法を発動するのは久しぶりだけど、しっかり発動できた。
「今、私の後ろからユイトの声がしましたよ!」
「まあ、ざっとこんなもんだね」『言ってることと別の事を言ったりも出来る』
「すごいですねー、日本の魔法……」
僕にとっては普通に使えるものだけど、ソフィアは無駄に目を輝かせて喜んでいる。
「やってみる?」
「まず無言で魔法を発動するのが難しいんですけど……どうやって?」
「それはねー……」
また別の本を開く。こっちはわりかし後世に残すというのを重きに置いているのか、読みやすい字体だった。
「ここに書いてあるのは『魔法とは、周囲の力を使うのではなく、自分が力となるものだ』って書いてあるよ」
「?????」
「そうなるよね、最初は僕もそんな感想だったよ」
僕はわかりやすくソフィアに説明する。
「つまりは、だよ。周囲と、空気と一体化することで僕達日本の魔法使いは魔法を使ってるってわけ」
「周囲と一体化、ですか……」
「手っ取り早いのは精神統一、いわゆる深呼吸だね。やってみて」
やってみてとは言ったものの、あんまり要領を得ていない様子だった。
「ん、んん……」
「例えば、そうだね。周りの音を目を閉じて、集中して、耳を澄まして聞いてみよう」
「周りの音、ですか……」
一応、僕も精神統一をしてみる。同じ音が聞こえていたほうがわかりやすいしね。
「……何が聞こえる?」
「えーと……外から聞こえる鳥の声とか、風で揺らめく木の音とか……あとは、シズリ達の話し声もかすかに」
「お見事。最初にしては、十分聞こえてる方だよ」
さすが一応魔法使いっていうか、適応が早い。
「外国の魔法は詠唱することで、どんな状態でもすぐに出来るのが羨ましいんだよね。とっさの発動が出来ないのが日本の魔法だから」
「でも、その分無言で発動出来ることによって声を失っても発動できるっていういい点はありますよ」
「まあ、そうだね」
個人的には魔法の詠唱とかしてみたいけど、なんだかそれは気恥ずかしい。
「こんな感じで集中して、魔法を発動する、っていうのが日本の魔法だね」
「勉強になります」
なんか変に気合が入ってるけど、楽しそうなので無視した。
「それじゃ、ちょっと早いけど実践をやってみよっか」
「は、はい!」
「さっきの『音』の魔法を例にするとね……」
もう一度『音』の魔法を発動する。
「感覚的にはその場所で話しかけているのをイメージするんだ」『今これはソフィアの真上から話してる感じだね』
「なるほど、今のはユイトは私の真上をイメージして話していたのですね」
「そうだね、そういう事」『他にもこんな事もできる』
例として、修行場の襖を開けた音を出す。
「あれ、誰か入ってきて……ない?もしかして、今のも『音』の魔法で?」
「原理としてはさっきのと一緒。襖が開いた音をイメージして音を出してるんだ」
「おおー、面白いですね」
僕からしたらなんてことない魔法だけど、こんなに面白がってくれるとちょっと楽しくなってくるし、嬉しくなってくる。
「よし、やってみて」
「はい……」
合図をすると、ソフィアが集中を始める。邪魔しちゃいけないので、僕も黙っておく。
「『えーと……こう、ですか?』」
「そう、そんな感じ。最初は慣れてないから、どこから話しているかというイメージを出来ても、言葉の方は言っている言葉と同じ言葉を繰り返すぐらいしか出来ないだろうけど、まあいい感じじゃないかな」
「ありがとうございます!」
ソフィアが満面の笑みで言った。こうも喜ばれると教え甲斐がある。
「日本の魔法、こんなにも楽しいものだとは」
「僕からしたら今のテンション上がってるソフィアが面白いんだけど」
「そうですか?」
とりあえず、この成功した実感を得ている間にどんどん進めちゃおう。
「じゃあ、次は声じゃなくて音を出してみようか」
「っと、その前に質問なんですけど」
「ん?」
何の質問をされるんだろう。僕の分かる範囲内で質問をしてくれると嬉しいんだけど。
「この『音』の魔法って、どうやっても周囲に聞こえるようになってしまうんですか?」
「えっと、つまり……?」
「例えば、私だけにさっきの襖の音だったりを聞かせたりとか、出来るのかなって」
「出来るよ」
最初は質問の意味が分からなかったけど、例えばと言われて理解できた。さすがソフィア、頭がいいなあ。
「それじゃあ、試しに……」
そう言って、僕は静梨にこう言った。『これが聞こえてるなら、ソフィアだけに聞こえるように「音」の魔法をやってあげて』、と。
「ちょっと待っててね、すぐに来るだろうから」
「一体どういう……あら」
思ったよりも早く静梨はやってくれたようだ。
「なんて?」
「『おにいから面倒な事頼まれました、怒っておいてください』って言われました」
「そんな事を」
なんだかんだやってくれるあたり静梨は優しい。いい妹を持ったものだ。
「と、こんな風に色々出来るんだ、『音』の魔法っていうのは」
「興味深いですね、日本の魔法……」
「まあ、偉そうに僕も言ってるけど、まだまだ色んな魔法があるらしいから、この日本には」
これでも僕が知っているのは一握りだと思う。それも、僕はこれから知っていく。多分……ソフィアと一緒に。
「ねえ、ユイト!他の魔法も見せてください!」
「見せるだけでいいの?」
「ユイトの本気がちょっと見てみたくて……」
「本気かあ」
本気と言われても、どうしたものか。
「とにかく、使える魔法を全部!全部見せてください!」
「全部!?ちょ、さすがにそれは疲れ」
「お願いします!!!」
ソフィアが身を乗り出して頼んでくる。顔、近いし胸当たってるし!
「わ、分かったから!やって見るからどいてって!」
「やった!」
ふう、どいてくれた。ソフィア、無駄にスキンシップ激しいから困るんだよね、それが悪意なきものだから止めてとも言えず……アクセリナにでも言うかな、一回。
「それじゃあ、知ってる限りの魔法を発動してみるけど」
「解説もお願いしますね?」
「えー……」
魔法を全力で出しながら解説って、なかなか高度なことを要求してくるな……よし、頑張ってみるか。
「うーん……じゃあ、行くよ」
僕は深呼吸をして、集中する。
「わ、これは私でも分かります!あたりの空気が一変して……」
「…………」『ちょっと、静かにしててね』
「これはさっきの『音』の魔法ですね」
それを皮切りに、僕は魔法を次々に発動する。まず最初に、僕があんまり使うことのない魔法、『幻影』の魔法を発動する。使えることなら、自分自身に見えるように幻影を使いたいんだけどね。
「あれ、修行場に居たのに急に宇宙に」
「これが、『幻影』の魔法」
次に、『重力』の魔法。これは使うと結構疲れる上に、地味。
「おお、本が浮きました」
「あんまり効率よくないんだけどね、この『重力』の魔法」
話しつつ、この前知ったばかりの魔法、『空間』の魔法を発動し、浮かせた本を自分の手に瞬間移動させる。
「あ!もうあの魔法マスターしたんですか?」
「これはまた若干違うよ。『空間』の魔法と言って、『転移』の魔法の亜種的なやつらしい」
「ほー」
『空間』の魔法と来たら、『転移』の魔法。僕はそれを発動して、庭に移動する。
「おお、これはさっきの『転移』の魔法ですね」
『霖家と言えば、これだよね』
庭からはちょっとソフィアのところまでは遠いので、『音』の魔法でソフィアに話しかける。
『それじゃあ、次が最後だ』
最後に、『心』の魔法を発動し、ソフィアの今の気持ちを読み取る。
『ソフィア……今君は僕のことを改めて尊敬したようだね』
「え、まあ、そうですけど……もしかして、最後は『心』の魔法ですか?」
「うん、これで終わり」
「わっ、急に隣に来ないでください」
最後とは言ったけど、戻ってこないといちいち『音』の魔法で声を持っていくのも面倒だし、『転移』の魔法でソフィアの隣に戻る。
「どうかな?全力には程遠いだろうけど、知ってる魔法を最大限に面白そうに見せたけど」
「全力じゃないんですかー……まあ、楽しかったのでいいです」
「よかった」
全力を出すときなんて、いつ来るか分からないけど。
「この後、どうする?まだ魔法の勉強を続けてもいいけど」
「うーん、せっかくユイトの家に来たから魔法の勉強をしたいですけど、シズリにも構ってあげないとですよね」
「別にそんな事」
「私がしたいんです!それに、ユイトも今ので多少は疲れたでしょう?」
たしかに、多少は疲れたけど、ゼエゼエ言うような疲れじゃないし……
「まあ、気遣ってくれるならそれに乗っかろうかな」
「ありがとうございます、それじゃあみんなのところに行きましょうか」
「そうだね」
僕達は二人揃って修行場を出る。本は……まあ、ソフィアが帰ってから片せばいいよね。
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