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第一章 来訪、欧州の魔法使い
結人の日常 その1
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菫岡伯彦。彼はなにかと僕についてくるやつだ。
「結人さーん、おはよっすー」
「やあ伯彦。今日も元気だね」
僕が登校していると元気そうにやってくる。同い年だけど、僕に対して多少の敬語を使っている。それには訳があって……
「そりゃもう!元気でなきゃ従者なんかやってられませんからね!」
正確には『自称』従者だ。菫岡家は魔法を扱える技量を持ちながら魔法使いとしての道を歩まないことを選択した一族……早い話が霖家の分家筋だ。だから、伯彦にとって僕は本家の偉い人という認識。
で、なんで従者を名乗ってるかというと、紗代は妹と同い年なため、一年は僕と別の場所に居ることになる。それを見てか勝手に伯彦が代わりに一年間は従者を名乗っている……ということだ。
「そういや、あの留学生……名前なんでしたっけ」
「ソフィアだ」
「そうそう、それそれ。その人と最近一緒に居ますけど、やっぱりそういう関係で?」
「今のところ恋人ではないし、ただの同じ役割を持つ者同士ってことだよ」
分家とはいえ、魔法の心得はある。過去にも、菫岡家が霖の名を継いだこともある。だからこんな風に普通に魔法使い関連で話すこともある。
「まず、僕が仮にソフィアのことが好きだとして、彼女は僕のことを好きなわけないだろう?」
「そこは……そう、政略結婚、的な……よく言うじゃないですか、魔法使い同士で結婚すれば力が強まるって」
その理論で言ったら、霖家はとうに力は弱まっている。
「第一ね、伯彦。彼女は北欧の地の生まれ。向こうに許嫁なり居るだろう」
「あー、そっすね……」
そう言って、伯彦は考え始める。
「それでもソフィアさんの気持ちは分からないです!いいんですか?俺だって『心』の魔法、使えなくはないんですよ?ソフィアさんだろうが結人さんだろうが心の中見れちゃいますよ?」
……必死に考えた結果がそれか。『心』の魔法なんて誰でも使えるし、ソフィアなら閉心術も会得してるだろうから、伯彦なんかじゃ到底敵いっこないと思う。
「君が修行してるかどうかは知らないけれど、『心』の魔法は難しい。僕やソフィアみたいに日頃毎日修行しているようなのと、君とじゃ実力の差がありすぎる。発動するだけ無駄だよ」
「あーいや、本当に使うわけじゃなくて、俺はただ単にソフィアさんとの仲を知りたいだけで……あ、もしかしてその従者のアクセリナさんが目当てですか?」
別にどっちもなんとも思っていない。魔法使いのお嬢様とその従者、という認識だ。
「伯彦は僕をどうしたいんだい?」
「そりゃ勿論、世界一の魔法使いですよ!」
「世界一、ね」
伯彦がなぜ日本一でなく世界一と言ったか。あくまで自称でしか無いけど、霖家は日本一の魔法使いの家だとは思う。他の魔法使いの家が一つしか特化していないのに、霖家だけは『心』と『転移』の魔法、二つに特化している。この二つが万能だからと言うのもあるけれど。
「だって、もしソフィアさんと結人さんが婚姻関係になったんなら、『心』と『転移』、そしてソフィアさんの家の魔法も子孫に伝えることが出来て、三つも魔法を自分の家の物に出来るんですよ?」
「そもそも北欧の地の魔法が日本の魔法使いの気質に合うかも分からないのに……それについては今度実験する予定だけど」
僕は昨日の事を思い出す。来る時になったら教えて、とは言ったけれど、まずは先に僕が挨拶をしてから、こちらに来てもらおうと考えている。
「おお、それは面白そうっすね。それはいつに?」
「そうだね……流石に今週は無理だし、来週の土曜かな」
「来週の土曜ってーと……23日か」
手帳を出して伯彦が確認する。
「君も来るかい?」
「いえ、お断りします。何卒二人で愛を育んでください」
愛を育む、か……一応跡継ぎのことも考えなきゃだけど、外部から嫁いでもらうより同じ魔法使いと婚姻したほうが身のためかもしれない。そういう意味では伯彦の提案は正しい。
「ああそうだ、今日学校が終わったら君を家に招待しようと思うんだけど」
「えっ!?なんでそんな急に」
「少し興味深い書物を見つけてね、君にも読んでもらいたい」
「そりゃ構わないですけど……俺が何の役に立つんで?」
たしかに、伯彦の主張はもっともだ。家にある書物なんて、大抵は魔法の本。だから、僕のほうが圧倒的に知識量では上だ。しかし歴史面じゃ違う。本家以外の歴史……菫岡家の歴史については何も残っていない。そのはずなのに、一冊だけ菫岡家について細かく書かれている本を見つけたため、伯彦に協力を申し出たわけだ。
「平たく言えば、菫岡家の歴史、かな」
「歴史かぁ、俺はそんな重苦しいの苦手なんですけどねえ」
「伯彦にとっても面白いものだと思うよ」
それを聞いてか、伯彦は態度を変える。
「面白いもんならOK!」
こんな生き方したいよね。能天気に適度に流される生き方。
そんな感じで話し、しばらくして学校に着く。
「Good Mongon、ユイト」
「おはようございます、結人様」
「二人共おはよう」
「お、おはようございます……」
教室には既に二人が居たため、挨拶を交わした。一ヶ月経ったというのに、まだ伯彦は二人に対して緊張している。
「そんなに緊張しなくていいのに。ね、ユイト?」
「僕がおかしいんだよ。外国のご令嬢ときたら誰だって緊張する」
「それとは別に……その……」
そう言って、伯彦が耳打ちをしてくる。
「こえーんすよ、アクセリナさん……」
「らしいけど、アクセリナ?」
「申し訳ありません、幼い頃からお嬢様には何かと付け入る者が多かったもので、警戒は怠らないようにしています」
アクセリナの眼光は初対面の時から変わらない。冷徹で、人を寄せ付けない眼光。最近になって多少僕達関係者には警戒を解いてくれるかな、って感じになってきたところだ。
「ダメだよアクセリナ。あまり人を怖がらせちゃ」
「これもお嬢様のためです、あしからず」
……まあ、本人に怖がらせる意図がないってのもあってか、なおさらなんだけど。
「ところでソフィア。今度家にお邪魔してもいいかい?」
「え!?」
ソフィアの驚く声で一斉に注目を浴びる。と言うか、多分だけど僕達が話している時からずっと注目されていた気もする。
「勉強を教えてもらいたくてね。逆に僕が教えることもあるだろうし、どうだい?」
魔法の、っていうのを抜かしているだけで、別に嘘は言ってない。
「いいですけど……アクセリナ、予定は大丈夫?」
「特にありませんが、相応の準備はしたいです」
僕の予測どおりだった。
「じゃあ、来週の土曜とかどうかな?23日」
「かしこまりました、ではその日に予定を入れさせていただきます」
「今から楽しみです」
ソフィアはあからさまに喜んでいる。
「結人さん、これで付き合ってないって絶対おかしいですって」
「周りが話しかけないからそう見えるだけさ」
「そういうもんですかねえ……」
そんな感じで、僕は来週にソフィアの家に行くことになった。ふと思ったけれど、彼女の家はやはり豪邸なんだろうか?でも、たった長くても三年の留学に、わざわざ豪邸なんか建てるのか……?
「ねえ、ソフィア」
「なんですか?」
「ソフィアの家って、やっぱり豪邸なのかい?」
なので、聞いてみることにした。
「ゴウテイ?ってなんですか?」
「お嬢様、豪邸と言うのはですね……」
僕の質問に疑問を持ったソフィア、それを見てかアクセリナがソフィアに教える。まあ、お嬢様だから豪邸なんか言われてもピンとこないか……
「……ということです」
「なるほど、それなら、うーん、豪邸ではないですね」
「えっ!?お嬢様だからてっきりそうなのかと」
「うるさっ」
横で伯彦が驚く。すごく耳にキーンと来た。
「お嬢様と私が今住んでいる家は、ヴェステルマルク家が用意した一軒家です。ですので、結人様のような家よりは小さい家になります」
「不便とかないの?」
「いえ、全部アクセリナがやってくれるので、何も不便はないですよ」
それならば、結構疲れてるとかもあるんだと思ったけど、アクセリナの顔からはいつも疲れは見えない。流石と言うべきか……
「でも、ユイトの家もサヨが全部やってくれるんでしょう?」
「まあ、そうだけど……紗代はあの一人の時間を楽しんでるから大変そうだなとは思ったこと無いよ」
「ああ、この身分の方達は……洗濯とか、食器洗いとか、掃除とか、大変なんですよ!?」
「だからうるさいって、ここ教室だよ」
また伯彦が叫ぶ。紗代が家事をやっているのは見ているし、僕や静梨が手伝おうとすると決まって断られる。だから二人してこっそり家事をやって後で怒られる、なんてことも。
「とは言ってもなあ……アクセリナがどうかは知らないけど、紗代は意外とモノを言う子だよ?怒る時は怒るし」
「サヨが怒る、ですか……あんまり想像できませんね。アクセリナはいつも怒ってる気がします」
まあ、たしかにこの表情じゃいつも怒ってるように見えかねないかも。
「では、いつも笑顔で過ごしましょうか?」
「逆にブキミです」
そう言ってアクセリナが口の端を人差し指で持ち上げて笑顔を作る。目が笑ってない分余計不気味だった。
「どうでしょうか」
「あー……うん、いいと思うよ」
「らしいですが、お嬢様」
「ユイト!面白がってないで!」
バレた。でも、アクセリナの本当の笑顔はいつか見てみたい。この鉄面皮がどういう風に笑顔を見せるのか……それがとても、実に興味深い。
「じゃあ、伯彦。笑顔のお手本でも見せてもらおうか」
「え?俺ですか?」
僕が伯彦に言うと、ソフィアもアクセリナも伯彦を見る。ほら、美女に注目されてるんだから笑顔の一つでもやってみなよ。
「えーと……こう、ですかね」
伯彦の笑顔は引きつっている。
「違います、こう、ですよ」
それに対抗するように、今度はソフィアが笑顔を見せる。うん、これだ。
「うわぁっ、俺には眩しい……くっ……」
その眩しい笑顔に、伯彦は顔を手で覆う。
「どう?アクセリナ。笑顔は」
「やはり……私には難しいですね」
「駄目かぁ」
そんな感じのことをしていると、担任が入ってきたので、僕達はそれぞれ席に座る。
「それじゃ、昼休みにでも」
「はい、また後で」
席に座った後に、僕は登校中に話していた事を思い出した。
……ソフィアとの関係、か。伯彦はあんな感じで冗談っぽく言ってたけど、やっぱり僕達の関係は事情を知らない人達からは恋人のように見えるのだろうか?
まあ、考えてても仕方ないか。
「結人さーん、おはよっすー」
「やあ伯彦。今日も元気だね」
僕が登校していると元気そうにやってくる。同い年だけど、僕に対して多少の敬語を使っている。それには訳があって……
「そりゃもう!元気でなきゃ従者なんかやってられませんからね!」
正確には『自称』従者だ。菫岡家は魔法を扱える技量を持ちながら魔法使いとしての道を歩まないことを選択した一族……早い話が霖家の分家筋だ。だから、伯彦にとって僕は本家の偉い人という認識。
で、なんで従者を名乗ってるかというと、紗代は妹と同い年なため、一年は僕と別の場所に居ることになる。それを見てか勝手に伯彦が代わりに一年間は従者を名乗っている……ということだ。
「そういや、あの留学生……名前なんでしたっけ」
「ソフィアだ」
「そうそう、それそれ。その人と最近一緒に居ますけど、やっぱりそういう関係で?」
「今のところ恋人ではないし、ただの同じ役割を持つ者同士ってことだよ」
分家とはいえ、魔法の心得はある。過去にも、菫岡家が霖の名を継いだこともある。だからこんな風に普通に魔法使い関連で話すこともある。
「まず、僕が仮にソフィアのことが好きだとして、彼女は僕のことを好きなわけないだろう?」
「そこは……そう、政略結婚、的な……よく言うじゃないですか、魔法使い同士で結婚すれば力が強まるって」
その理論で言ったら、霖家はとうに力は弱まっている。
「第一ね、伯彦。彼女は北欧の地の生まれ。向こうに許嫁なり居るだろう」
「あー、そっすね……」
そう言って、伯彦は考え始める。
「それでもソフィアさんの気持ちは分からないです!いいんですか?俺だって『心』の魔法、使えなくはないんですよ?ソフィアさんだろうが結人さんだろうが心の中見れちゃいますよ?」
……必死に考えた結果がそれか。『心』の魔法なんて誰でも使えるし、ソフィアなら閉心術も会得してるだろうから、伯彦なんかじゃ到底敵いっこないと思う。
「君が修行してるかどうかは知らないけれど、『心』の魔法は難しい。僕やソフィアみたいに日頃毎日修行しているようなのと、君とじゃ実力の差がありすぎる。発動するだけ無駄だよ」
「あーいや、本当に使うわけじゃなくて、俺はただ単にソフィアさんとの仲を知りたいだけで……あ、もしかしてその従者のアクセリナさんが目当てですか?」
別にどっちもなんとも思っていない。魔法使いのお嬢様とその従者、という認識だ。
「伯彦は僕をどうしたいんだい?」
「そりゃ勿論、世界一の魔法使いですよ!」
「世界一、ね」
伯彦がなぜ日本一でなく世界一と言ったか。あくまで自称でしか無いけど、霖家は日本一の魔法使いの家だとは思う。他の魔法使いの家が一つしか特化していないのに、霖家だけは『心』と『転移』の魔法、二つに特化している。この二つが万能だからと言うのもあるけれど。
「だって、もしソフィアさんと結人さんが婚姻関係になったんなら、『心』と『転移』、そしてソフィアさんの家の魔法も子孫に伝えることが出来て、三つも魔法を自分の家の物に出来るんですよ?」
「そもそも北欧の地の魔法が日本の魔法使いの気質に合うかも分からないのに……それについては今度実験する予定だけど」
僕は昨日の事を思い出す。来る時になったら教えて、とは言ったけれど、まずは先に僕が挨拶をしてから、こちらに来てもらおうと考えている。
「おお、それは面白そうっすね。それはいつに?」
「そうだね……流石に今週は無理だし、来週の土曜かな」
「来週の土曜ってーと……23日か」
手帳を出して伯彦が確認する。
「君も来るかい?」
「いえ、お断りします。何卒二人で愛を育んでください」
愛を育む、か……一応跡継ぎのことも考えなきゃだけど、外部から嫁いでもらうより同じ魔法使いと婚姻したほうが身のためかもしれない。そういう意味では伯彦の提案は正しい。
「ああそうだ、今日学校が終わったら君を家に招待しようと思うんだけど」
「えっ!?なんでそんな急に」
「少し興味深い書物を見つけてね、君にも読んでもらいたい」
「そりゃ構わないですけど……俺が何の役に立つんで?」
たしかに、伯彦の主張はもっともだ。家にある書物なんて、大抵は魔法の本。だから、僕のほうが圧倒的に知識量では上だ。しかし歴史面じゃ違う。本家以外の歴史……菫岡家の歴史については何も残っていない。そのはずなのに、一冊だけ菫岡家について細かく書かれている本を見つけたため、伯彦に協力を申し出たわけだ。
「平たく言えば、菫岡家の歴史、かな」
「歴史かぁ、俺はそんな重苦しいの苦手なんですけどねえ」
「伯彦にとっても面白いものだと思うよ」
それを聞いてか、伯彦は態度を変える。
「面白いもんならOK!」
こんな生き方したいよね。能天気に適度に流される生き方。
そんな感じで話し、しばらくして学校に着く。
「Good Mongon、ユイト」
「おはようございます、結人様」
「二人共おはよう」
「お、おはようございます……」
教室には既に二人が居たため、挨拶を交わした。一ヶ月経ったというのに、まだ伯彦は二人に対して緊張している。
「そんなに緊張しなくていいのに。ね、ユイト?」
「僕がおかしいんだよ。外国のご令嬢ときたら誰だって緊張する」
「それとは別に……その……」
そう言って、伯彦が耳打ちをしてくる。
「こえーんすよ、アクセリナさん……」
「らしいけど、アクセリナ?」
「申し訳ありません、幼い頃からお嬢様には何かと付け入る者が多かったもので、警戒は怠らないようにしています」
アクセリナの眼光は初対面の時から変わらない。冷徹で、人を寄せ付けない眼光。最近になって多少僕達関係者には警戒を解いてくれるかな、って感じになってきたところだ。
「ダメだよアクセリナ。あまり人を怖がらせちゃ」
「これもお嬢様のためです、あしからず」
……まあ、本人に怖がらせる意図がないってのもあってか、なおさらなんだけど。
「ところでソフィア。今度家にお邪魔してもいいかい?」
「え!?」
ソフィアの驚く声で一斉に注目を浴びる。と言うか、多分だけど僕達が話している時からずっと注目されていた気もする。
「勉強を教えてもらいたくてね。逆に僕が教えることもあるだろうし、どうだい?」
魔法の、っていうのを抜かしているだけで、別に嘘は言ってない。
「いいですけど……アクセリナ、予定は大丈夫?」
「特にありませんが、相応の準備はしたいです」
僕の予測どおりだった。
「じゃあ、来週の土曜とかどうかな?23日」
「かしこまりました、ではその日に予定を入れさせていただきます」
「今から楽しみです」
ソフィアはあからさまに喜んでいる。
「結人さん、これで付き合ってないって絶対おかしいですって」
「周りが話しかけないからそう見えるだけさ」
「そういうもんですかねえ……」
そんな感じで、僕は来週にソフィアの家に行くことになった。ふと思ったけれど、彼女の家はやはり豪邸なんだろうか?でも、たった長くても三年の留学に、わざわざ豪邸なんか建てるのか……?
「ねえ、ソフィア」
「なんですか?」
「ソフィアの家って、やっぱり豪邸なのかい?」
なので、聞いてみることにした。
「ゴウテイ?ってなんですか?」
「お嬢様、豪邸と言うのはですね……」
僕の質問に疑問を持ったソフィア、それを見てかアクセリナがソフィアに教える。まあ、お嬢様だから豪邸なんか言われてもピンとこないか……
「……ということです」
「なるほど、それなら、うーん、豪邸ではないですね」
「えっ!?お嬢様だからてっきりそうなのかと」
「うるさっ」
横で伯彦が驚く。すごく耳にキーンと来た。
「お嬢様と私が今住んでいる家は、ヴェステルマルク家が用意した一軒家です。ですので、結人様のような家よりは小さい家になります」
「不便とかないの?」
「いえ、全部アクセリナがやってくれるので、何も不便はないですよ」
それならば、結構疲れてるとかもあるんだと思ったけど、アクセリナの顔からはいつも疲れは見えない。流石と言うべきか……
「でも、ユイトの家もサヨが全部やってくれるんでしょう?」
「まあ、そうだけど……紗代はあの一人の時間を楽しんでるから大変そうだなとは思ったこと無いよ」
「ああ、この身分の方達は……洗濯とか、食器洗いとか、掃除とか、大変なんですよ!?」
「だからうるさいって、ここ教室だよ」
また伯彦が叫ぶ。紗代が家事をやっているのは見ているし、僕や静梨が手伝おうとすると決まって断られる。だから二人してこっそり家事をやって後で怒られる、なんてことも。
「とは言ってもなあ……アクセリナがどうかは知らないけど、紗代は意外とモノを言う子だよ?怒る時は怒るし」
「サヨが怒る、ですか……あんまり想像できませんね。アクセリナはいつも怒ってる気がします」
まあ、たしかにこの表情じゃいつも怒ってるように見えかねないかも。
「では、いつも笑顔で過ごしましょうか?」
「逆にブキミです」
そう言ってアクセリナが口の端を人差し指で持ち上げて笑顔を作る。目が笑ってない分余計不気味だった。
「どうでしょうか」
「あー……うん、いいと思うよ」
「らしいですが、お嬢様」
「ユイト!面白がってないで!」
バレた。でも、アクセリナの本当の笑顔はいつか見てみたい。この鉄面皮がどういう風に笑顔を見せるのか……それがとても、実に興味深い。
「じゃあ、伯彦。笑顔のお手本でも見せてもらおうか」
「え?俺ですか?」
僕が伯彦に言うと、ソフィアもアクセリナも伯彦を見る。ほら、美女に注目されてるんだから笑顔の一つでもやってみなよ。
「えーと……こう、ですかね」
伯彦の笑顔は引きつっている。
「違います、こう、ですよ」
それに対抗するように、今度はソフィアが笑顔を見せる。うん、これだ。
「うわぁっ、俺には眩しい……くっ……」
その眩しい笑顔に、伯彦は顔を手で覆う。
「どう?アクセリナ。笑顔は」
「やはり……私には難しいですね」
「駄目かぁ」
そんな感じのことをしていると、担任が入ってきたので、僕達はそれぞれ席に座る。
「それじゃ、昼休みにでも」
「はい、また後で」
席に座った後に、僕は登校中に話していた事を思い出した。
……ソフィアとの関係、か。伯彦はあんな感じで冗談っぽく言ってたけど、やっぱり僕達の関係は事情を知らない人達からは恋人のように見えるのだろうか?
まあ、考えてても仕方ないか。
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