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一章 想いの力
楽しいGW その4
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翌日。朝方に敷島家にノックがあった。
「はい……」
「悠兄!お邪魔します!」
ノックの主は慧乃だった。悠善の言葉も無視して、ずんずんと家の中に入ってくる。
「昨日!何があったんですか!お姉ちゃんは暗い顔で帰ってくるし何も話してくれないし、遊楽さんも心配そうな表情で家に来るし、挙げ句あのお姉ちゃんがこの家の合鍵を返したって言うんですよ!何があったんですか!」
「お、落ち着け」
怒り心頭で、リビングの椅子に座る慧乃。昨日帰ってこないと思った遊楽は、狩染家にお邪魔していたようだ。
「で、何があったんですか」
「えーとな……昨日、『孤独な鼓動』を見に行ったんだ」
「ああ、あの恋愛映画ですか」
「そう、そうなんだが……」
悠善はできる限り映画のネタバレをしないように話した。
「で、その登場人物に、それぞれ自分を重ねてしまったというか……それで、普段は言わないような事、言っちゃってな……」
「なーるほど……お姉ちゃん、悠兄のこといつもの呼び方じゃなくて『敷島君』って遊楽さんみたいな呼び方してましたし、相当ショックだったんでしょうね……」
昨日、悠然と別れる直前にも、そんな呼び方をしていた。暮華なりの距離のとり方なのだろう。
「俺は……間違ったんだろうか?」
「お姉ちゃんが悠兄一筋なのは知ってのとおりですけど、だからといってずーーーーーーっと悠兄と一緒に居るのなんて、逆に悠兄が疲れちゃうと思いますよ?だから……言い方悪いですけどちょうどよかったと思います」
そして、慧乃が少し考えた後、こんな提案をした。
「いつまでも閉鎖的空間の中に居たらダメです!遊び行きましょう!」
「は?」
「お姉ちゃんは遊楽さんに任せて、私と悠兄と……あと綾月さんも呼びましょう!」
慧乃に言われて、綾月に電話をかけようとする。が……
「確かアイツ、ゴールデンウィーク中は忙しいとかなんだとか言ってたような……昨日も映画館でバイトしてたし」
「そうなんですか、じゃあ好つ……仕方ないですけど私と二人で遊びに行きましょう」
「気晴らし程度にはいいか」
「都合のいい女で良かったですね。じゃあ、私は準備してきますから、悠兄も準備してくださいね」
言い終わるやいなや、慧乃は家を出ていった。
「遊び行くったって、どこにだよ」
そうつぶやいて、悠善は一応準備をする。と言っても、昨日と同じ持ち物なのだが。準備をしている時に、ふと鏡を見た。クマも無く健康体な顔なのだが、なんとなく覇気というか生気というか、そんなものが感じられない顔だった。これでは悠善を心配するのも普通だろう。
「失ってから気づくもの、ねえ……」
ふと、昨日の夜は食べておらず、今日の朝もまだ食べてないことに気づいた。いつもだったら暮華が作ってくれるはずだが、昨日から居ない。
「別に自分でも作れないわけじゃないんだがな……」
長い間、と言っても一年とちょっとだが、食事といえば暮華の料理だった。最近はたまに遊楽が作ってくれるときもあるが、その遊楽も居ない。
「意外と、俺も俺で暮華に依存してたんだな……」
そんな事を考えながらブツブツつぶやいていると、また玄関からノック。
「おまたせしました。じゃあ行きましょう」
「それで、どこに行くんだ?」
鍵を閉めながら悠善は言う。
「とりあえずは、私にひっついててください」
そう言って慧乃は少し逡巡してから、悠善の手を引いた。昨日は悠善が暮華の手を引き、今日は慧乃が悠善の手を引く。不思議な感じがした。
「慧乃」
「なんですか?悠兄」
「……ごめんな」
「いいんですよ。私としても悠兄が落ち込んでるのは嫌ですし」
慧乃に引っ張られて、バスに乗り、今度は電車に乗った。途中乗り換えもあったが、一時間にも満たない電車旅だった。
「なあ、そろそろ教えてくれてもいいじゃないか」
「仕方ないですね……水族館に行くんですよ水族館」
「あー……だからここか」
二人がやってきたのは、水族館と灯台が有名な場所。慧乃はその水族館に行こうと言うのだ。
「ここぐらいまで離れれば、いつものテリトリーとは違いますから」
相変わらず、慧乃に手を引かれる悠善。
「いつまで手を?」
「お姉ちゃんとは繋げるのに私は嫌なんですか?」
「……めんどくさい返しだな」
「そうでもしないと、悠兄は着いてきませんから」
「はい……」
「悠兄!お邪魔します!」
ノックの主は慧乃だった。悠善の言葉も無視して、ずんずんと家の中に入ってくる。
「昨日!何があったんですか!お姉ちゃんは暗い顔で帰ってくるし何も話してくれないし、遊楽さんも心配そうな表情で家に来るし、挙げ句あのお姉ちゃんがこの家の合鍵を返したって言うんですよ!何があったんですか!」
「お、落ち着け」
怒り心頭で、リビングの椅子に座る慧乃。昨日帰ってこないと思った遊楽は、狩染家にお邪魔していたようだ。
「で、何があったんですか」
「えーとな……昨日、『孤独な鼓動』を見に行ったんだ」
「ああ、あの恋愛映画ですか」
「そう、そうなんだが……」
悠善はできる限り映画のネタバレをしないように話した。
「で、その登場人物に、それぞれ自分を重ねてしまったというか……それで、普段は言わないような事、言っちゃってな……」
「なーるほど……お姉ちゃん、悠兄のこといつもの呼び方じゃなくて『敷島君』って遊楽さんみたいな呼び方してましたし、相当ショックだったんでしょうね……」
昨日、悠然と別れる直前にも、そんな呼び方をしていた。暮華なりの距離のとり方なのだろう。
「俺は……間違ったんだろうか?」
「お姉ちゃんが悠兄一筋なのは知ってのとおりですけど、だからといってずーーーーーーっと悠兄と一緒に居るのなんて、逆に悠兄が疲れちゃうと思いますよ?だから……言い方悪いですけどちょうどよかったと思います」
そして、慧乃が少し考えた後、こんな提案をした。
「いつまでも閉鎖的空間の中に居たらダメです!遊び行きましょう!」
「は?」
「お姉ちゃんは遊楽さんに任せて、私と悠兄と……あと綾月さんも呼びましょう!」
慧乃に言われて、綾月に電話をかけようとする。が……
「確かアイツ、ゴールデンウィーク中は忙しいとかなんだとか言ってたような……昨日も映画館でバイトしてたし」
「そうなんですか、じゃあ好つ……仕方ないですけど私と二人で遊びに行きましょう」
「気晴らし程度にはいいか」
「都合のいい女で良かったですね。じゃあ、私は準備してきますから、悠兄も準備してくださいね」
言い終わるやいなや、慧乃は家を出ていった。
「遊び行くったって、どこにだよ」
そうつぶやいて、悠善は一応準備をする。と言っても、昨日と同じ持ち物なのだが。準備をしている時に、ふと鏡を見た。クマも無く健康体な顔なのだが、なんとなく覇気というか生気というか、そんなものが感じられない顔だった。これでは悠善を心配するのも普通だろう。
「失ってから気づくもの、ねえ……」
ふと、昨日の夜は食べておらず、今日の朝もまだ食べてないことに気づいた。いつもだったら暮華が作ってくれるはずだが、昨日から居ない。
「別に自分でも作れないわけじゃないんだがな……」
長い間、と言っても一年とちょっとだが、食事といえば暮華の料理だった。最近はたまに遊楽が作ってくれるときもあるが、その遊楽も居ない。
「意外と、俺も俺で暮華に依存してたんだな……」
そんな事を考えながらブツブツつぶやいていると、また玄関からノック。
「おまたせしました。じゃあ行きましょう」
「それで、どこに行くんだ?」
鍵を閉めながら悠善は言う。
「とりあえずは、私にひっついててください」
そう言って慧乃は少し逡巡してから、悠善の手を引いた。昨日は悠善が暮華の手を引き、今日は慧乃が悠善の手を引く。不思議な感じがした。
「慧乃」
「なんですか?悠兄」
「……ごめんな」
「いいんですよ。私としても悠兄が落ち込んでるのは嫌ですし」
慧乃に引っ張られて、バスに乗り、今度は電車に乗った。途中乗り換えもあったが、一時間にも満たない電車旅だった。
「なあ、そろそろ教えてくれてもいいじゃないか」
「仕方ないですね……水族館に行くんですよ水族館」
「あー……だからここか」
二人がやってきたのは、水族館と灯台が有名な場所。慧乃はその水族館に行こうと言うのだ。
「ここぐらいまで離れれば、いつものテリトリーとは違いますから」
相変わらず、慧乃に手を引かれる悠善。
「いつまで手を?」
「お姉ちゃんとは繋げるのに私は嫌なんですか?」
「……めんどくさい返しだな」
「そうでもしないと、悠兄は着いてきませんから」
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