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二章 ウサギと帽子と女王
二人だけの任務 その6
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「……ん」
目が覚める。いつの間にかベッドに移動している。きっと類さんが運んでくれたのだろう。耳を澄ませると、水の流れる音がする。多分お風呂かな?
私はむくりと起き上がって、目を擦る。ベッドの傍らに置いていたスマホを確認すると、もう19時だった。部屋には月明かりの光だけが差し込んでいてうっすらと見えるぐらい。
私はさっきまで見ていた夢の内容を思い出そうとする。でも、全く思い出せない。何か嫌な夢だった、というのは思い出せるけど、それ以外は全然ダメだった。でも、悪夢だけ思い出すだけ無駄だし、諦めることにした。
私はベッドにもう一度倒れこみ、天井を見上げる。同じ所に居るのは分かっているのに、少し離れるだけでこんなにも不安になる。自分でも少し、私は依存してしまっているのではないかと思っている。けど、今はそれしか心の拠り所が無いのだから仕方がない、と言い聞かせている。だって、迷惑だったらとっくにこんなこと止めてるだろうし……
色々考えていると、水の音が止まっていたことに気づく。きっと類さんはこの部屋に戻ってくると思う。ので、私はドアの方に背を向け、布団を頭まで被る。しばらくして、やはり類さんはこの部屋に戻ってきた。
「いろはちゃん、起きたのか?」
「あ……はい」
背を向けたまま返事をすると、後ろで椅子に座る音がする。微かに類さんの家とは違うシャンプーの匂いがする……って、そんなこと考えてちゃダメダメ。
「魘されてたんだろ?悪いな、勝手に離れて」
「いえ、大丈夫です」
私が悪夢を見たことと、類さんが離れたこととは多分関係ない……と思う。きっと。
「……その、ごめんなさい」
「何がだ?」
「私のせいで、こんなことに巻き込んでしまって」
「いいんだいいんだ、だって頼られたし、いろはちゃん一人で解決出来る問題でもない。それに、代表だって味方してくれてるしな」
多分、類さんはニッコリと笑って言っているに違いない。その笑顔を見るたび、頼りになると思うし、申し訳なくも思う。この人は少し……お人好しが過ぎる。
……それなら、こんなお願いも、聞いてくれるのかな?
「あのっ……類、さん」
「ん?」
私は唇を一瞬噛んで、唾を飲む。そして、意を決して、反対を向いて言った。
「また、悪夢を見てしまうのは嫌なので……これから、一緒に寝てくれませんか……?」
言ってしまった。心臓がすごくバクバクしている。顔も真っ赤になっているだろう。でも、もう引き返せない。
「だめ……ですか……?」
しばらくしても返事が来なかったので、拒否されたと思ってつい涙が出てしまう。結果的に、泣き脅ししたみたいになってしまった。
息が詰まる。そのせいで、呼吸がだんだん乱れていく。
「わ、分かった分かった。だからそんなに泣かなくても、な?」
「ありがとうございます……」
駄目とは分かっているけど、嬉しくなってしまう。
「あー……ほら、とりあえずこれで拭いてくれ」
私が放りだしていたハンカチを渡される。それで私は涙を拭いた。
「……いっぺん風呂、入ってきてさ。スッキリしてきたらどうだ?俺、自分の部屋で待ってるから」
「いえ、ここでいいです」
「お、おう……」
照れている、というよりは困惑している顔に見える。そんな類さんを置いて、私はベッドから降りてお風呂の準備をする。
「じゃあ、ちょっと待っててください」
そそくさと私はお風呂に入り、髪を洗い、身体を洗い、湯船に浸かる。
そうして息を吐いてから、やっと自分のした行為が恥ずかしく思えてきた。
「うぅ~~~~…………」
一人、悶える。ぴちゃぴちゃと水がはねて、浴室に谺する。
向こうの世界で会うだけだったらマシだったけど、現実世界で会ってからは自分の欲が爆発している気がする。まだギリギリ理性が保たれているけど、後少ししたらもうだめかも。
湯船に深く浸かり、息を吐いてぶくぶくと泡を立てる。
きっと、類さんは私のことを妹とか、そんな感じでしか見ていないと思う。どうにかして、私が好きという気持ちを理解して欲しい。
「……っく」
痛い。
この気持ちが理解してくれないと改めて思うと、心臓が痛い。ズキズキする。苦しい。自然と涙が溢れてくる。
きっと、というか確実に、類さんは結阿さんしか見えていない。ずっと引きずっている。
『ハートちゃんになら、任せてもいいよ』。
私はあの時言われた言葉を思い出す。本当かどうかは知らないけれど、結阿さんからの言葉だ。せっかく言われたんだから、その通りにしたい。けど……
「やっぱり私じゃ、類さんの心の支えに成れないのかな……」
思わず、そんな弱気な独り言が出てくる。支えになるどころか、むしろ足枷になってしまっているというのが現状。かと言って、自分でどうすればいいのかも分からない。誰かに相談するにしても……私じゃ思いつかない。だから結局、一人でこうやって抱え込んで……
「……ぅえ」
いけない、頭がボーッとしてきた。多分のぼせる。
私は急いでお風呂を出て、服を着た。
「ふぁ……おっ、いろはちゃんおかえり」
部屋に戻ると、類さんがあくびをして眠そうにしていた。
「あれ、そんなに長く入っちゃってましたか?」
「いや、ただ単に最近はいろはちゃんと一緒に居たから一人がなんか退屈になってな。まだ数日なのに不思議だよな」
これも、私を喜ばせるための言葉で、本心じゃないんだろうな……と思ってしまうのは卑屈なのかな。
「って、髪の毛乾かしきれてないじゃないか」
「え?あ、ごめんなさい、のぼせそうで急いでたので……」
「何も謝るこたぁ……ま、いいか。座りな」
類さんは椅子から立ち上がって、部屋に備え付けだったドライヤーの準備を始める。私は言われるがままに先程まで類さんが座っていた椅子に座る。直後、頭の後ろでドライヤーが動く音がする。
他人に髪を乾かして貰うなんて、あのメイドさんにしかやって貰ったことがない。今思ったけど、名前だけでも聞いておくべきだった……かも。
その人よりは丁寧じゃないけど、思いやりを感じるのは同じだった。
私の髪は長いから、全部が乾ききるまで少し時間はかかった。けど、楽しい時間だったからあっという間だった。
「うし、終わりっと。櫛……は自分でやるか?」
「いえ、それもお願いしてもいいですか?」
「はいよ」
私の要望に、類さんは素直に答えてくれる。
「こうしてると、昔を思い出す」
「昔?」
櫛で私の髪を解かしながら、類さんがしみじみと言う。
「結阿にも、こんな感じでやったんだ。あいつも髪が長かったからな」
その言葉で、少しだけ私は暗い気持ちになってしまう、何から何まで、私は結阿さんの焼き直しでしかない。そう思ってしまうと、悲しみと嫉妬の感情が同時に湧いてきてしまう。
「あー、勿論いろはちゃんはいろはちゃんとして見てるぞ?思い出しちゃうだけで、俺が悪いんだ」
でも、好意的に受け取るなら、私は結阿さんにそっくりってわけで。ちょっとだけ希望は持てる。
「わがまま、かもしれないですけど」
「ん?もう今更だろ」
「むぅ、そうじゃなくて……私と二人きりの時は、私だけを見てほしいです。結阿さんを思い出さないで、私だけ」
私の言葉は類さんに届いたはず。なのに、何も返事をしてくれなかった。むしろ困っている雰囲気が醸し出されていた。自分でもちょっとめんどくさい女の子、みたいな感じをしちゃったかもしれないとは思ったけど、これぐらいは許されてほしい。
「分かったよ……そうだ、俺が引きずりすぎてたのかもしれないな。思い出してみれば、あいつも似たようなこと言ってた」
「ほらもう」
「あっ」
言ったそばから……
「……で、なんて言ってたんですか?」
でも、それとして気になるので聞いてみる。
「たしか、『女の子と一緒に二人で居るのに他の女の子の名前を出すのは厳禁なんだよ』、って」
「それは結阿さんが正しいです」
ようやく分かって貰えたので、わざとらしく怒ってみる。
「そうだな、ああ、そうだったな……」
少し、悲しい空気になる。櫛は止まり、互いの息遣いだけが聴こえる。
「せめて、もう少しだけ会話していればよかったな」
類さんがそう言って、また髪解きが再開される。
私が持っているあの秘密、はたして類さんに話すべきか、話さないべきか……今度もし会えたら、話してみることにしよう。
「よし、こんなもんか?」
再開したとはいえ、ほとんど終わりかけだったみたい。
「ありがとうございます、髪を結ぶのは流石に自分でやりますね」
手首に付けていたヘアゴムで軽く髪を一つ結びにする。
「……はい、大丈夫です」
言いながら、私はベッドに寝転がる。
「え、と……どう、ぞ?」
「ん」
私が言うと、素直に類さんは隣に背中を向けて寝転がった。
「ん、わりとこっちは違うんだな」
「?」
「ベッドの寝心地だよ。向こうの方は固い」
「そうなんですか?」
「俺はこっちの柔らかい方が好みだ」
類さんの家のベッドを思い出す。言われてみれば、今寝ているベッドの感触に近い気がする。
と、言うか。
隣に寝ているから、類さんの匂いがすごく感じられる。
「ふぁ……わりぃ、結構疲れてるみたいだ。先に寝たら……すま……ん……」
言い切らないうちに、類さんは寝息を立て始めてしまった。
もうちょっとお話したかったけど、それ自体はいつでも出来るし……と思う。
「……」
もう最近何度見たか分からない類さんの背中を見る。いつもは頼もしく大きく見えるけど、今はなんだか……寂しそうで、小さく見える。
私は無言で、類さんに近づいて背中をぎゅっと抱きしめた。
「類さんが寂しくても……ちょっと頼りないですけど、私が隣に居ますよ」
それだけ言って、そのまま私も眠りについたのだった。
目が覚める。いつの間にかベッドに移動している。きっと類さんが運んでくれたのだろう。耳を澄ませると、水の流れる音がする。多分お風呂かな?
私はむくりと起き上がって、目を擦る。ベッドの傍らに置いていたスマホを確認すると、もう19時だった。部屋には月明かりの光だけが差し込んでいてうっすらと見えるぐらい。
私はさっきまで見ていた夢の内容を思い出そうとする。でも、全く思い出せない。何か嫌な夢だった、というのは思い出せるけど、それ以外は全然ダメだった。でも、悪夢だけ思い出すだけ無駄だし、諦めることにした。
私はベッドにもう一度倒れこみ、天井を見上げる。同じ所に居るのは分かっているのに、少し離れるだけでこんなにも不安になる。自分でも少し、私は依存してしまっているのではないかと思っている。けど、今はそれしか心の拠り所が無いのだから仕方がない、と言い聞かせている。だって、迷惑だったらとっくにこんなこと止めてるだろうし……
色々考えていると、水の音が止まっていたことに気づく。きっと類さんはこの部屋に戻ってくると思う。ので、私はドアの方に背を向け、布団を頭まで被る。しばらくして、やはり類さんはこの部屋に戻ってきた。
「いろはちゃん、起きたのか?」
「あ……はい」
背を向けたまま返事をすると、後ろで椅子に座る音がする。微かに類さんの家とは違うシャンプーの匂いがする……って、そんなこと考えてちゃダメダメ。
「魘されてたんだろ?悪いな、勝手に離れて」
「いえ、大丈夫です」
私が悪夢を見たことと、類さんが離れたこととは多分関係ない……と思う。きっと。
「……その、ごめんなさい」
「何がだ?」
「私のせいで、こんなことに巻き込んでしまって」
「いいんだいいんだ、だって頼られたし、いろはちゃん一人で解決出来る問題でもない。それに、代表だって味方してくれてるしな」
多分、類さんはニッコリと笑って言っているに違いない。その笑顔を見るたび、頼りになると思うし、申し訳なくも思う。この人は少し……お人好しが過ぎる。
……それなら、こんなお願いも、聞いてくれるのかな?
「あのっ……類、さん」
「ん?」
私は唇を一瞬噛んで、唾を飲む。そして、意を決して、反対を向いて言った。
「また、悪夢を見てしまうのは嫌なので……これから、一緒に寝てくれませんか……?」
言ってしまった。心臓がすごくバクバクしている。顔も真っ赤になっているだろう。でも、もう引き返せない。
「だめ……ですか……?」
しばらくしても返事が来なかったので、拒否されたと思ってつい涙が出てしまう。結果的に、泣き脅ししたみたいになってしまった。
息が詰まる。そのせいで、呼吸がだんだん乱れていく。
「わ、分かった分かった。だからそんなに泣かなくても、な?」
「ありがとうございます……」
駄目とは分かっているけど、嬉しくなってしまう。
「あー……ほら、とりあえずこれで拭いてくれ」
私が放りだしていたハンカチを渡される。それで私は涙を拭いた。
「……いっぺん風呂、入ってきてさ。スッキリしてきたらどうだ?俺、自分の部屋で待ってるから」
「いえ、ここでいいです」
「お、おう……」
照れている、というよりは困惑している顔に見える。そんな類さんを置いて、私はベッドから降りてお風呂の準備をする。
「じゃあ、ちょっと待っててください」
そそくさと私はお風呂に入り、髪を洗い、身体を洗い、湯船に浸かる。
そうして息を吐いてから、やっと自分のした行為が恥ずかしく思えてきた。
「うぅ~~~~…………」
一人、悶える。ぴちゃぴちゃと水がはねて、浴室に谺する。
向こうの世界で会うだけだったらマシだったけど、現実世界で会ってからは自分の欲が爆発している気がする。まだギリギリ理性が保たれているけど、後少ししたらもうだめかも。
湯船に深く浸かり、息を吐いてぶくぶくと泡を立てる。
きっと、類さんは私のことを妹とか、そんな感じでしか見ていないと思う。どうにかして、私が好きという気持ちを理解して欲しい。
「……っく」
痛い。
この気持ちが理解してくれないと改めて思うと、心臓が痛い。ズキズキする。苦しい。自然と涙が溢れてくる。
きっと、というか確実に、類さんは結阿さんしか見えていない。ずっと引きずっている。
『ハートちゃんになら、任せてもいいよ』。
私はあの時言われた言葉を思い出す。本当かどうかは知らないけれど、結阿さんからの言葉だ。せっかく言われたんだから、その通りにしたい。けど……
「やっぱり私じゃ、類さんの心の支えに成れないのかな……」
思わず、そんな弱気な独り言が出てくる。支えになるどころか、むしろ足枷になってしまっているというのが現状。かと言って、自分でどうすればいいのかも分からない。誰かに相談するにしても……私じゃ思いつかない。だから結局、一人でこうやって抱え込んで……
「……ぅえ」
いけない、頭がボーッとしてきた。多分のぼせる。
私は急いでお風呂を出て、服を着た。
「ふぁ……おっ、いろはちゃんおかえり」
部屋に戻ると、類さんがあくびをして眠そうにしていた。
「あれ、そんなに長く入っちゃってましたか?」
「いや、ただ単に最近はいろはちゃんと一緒に居たから一人がなんか退屈になってな。まだ数日なのに不思議だよな」
これも、私を喜ばせるための言葉で、本心じゃないんだろうな……と思ってしまうのは卑屈なのかな。
「って、髪の毛乾かしきれてないじゃないか」
「え?あ、ごめんなさい、のぼせそうで急いでたので……」
「何も謝るこたぁ……ま、いいか。座りな」
類さんは椅子から立ち上がって、部屋に備え付けだったドライヤーの準備を始める。私は言われるがままに先程まで類さんが座っていた椅子に座る。直後、頭の後ろでドライヤーが動く音がする。
他人に髪を乾かして貰うなんて、あのメイドさんにしかやって貰ったことがない。今思ったけど、名前だけでも聞いておくべきだった……かも。
その人よりは丁寧じゃないけど、思いやりを感じるのは同じだった。
私の髪は長いから、全部が乾ききるまで少し時間はかかった。けど、楽しい時間だったからあっという間だった。
「うし、終わりっと。櫛……は自分でやるか?」
「いえ、それもお願いしてもいいですか?」
「はいよ」
私の要望に、類さんは素直に答えてくれる。
「こうしてると、昔を思い出す」
「昔?」
櫛で私の髪を解かしながら、類さんがしみじみと言う。
「結阿にも、こんな感じでやったんだ。あいつも髪が長かったからな」
その言葉で、少しだけ私は暗い気持ちになってしまう、何から何まで、私は結阿さんの焼き直しでしかない。そう思ってしまうと、悲しみと嫉妬の感情が同時に湧いてきてしまう。
「あー、勿論いろはちゃんはいろはちゃんとして見てるぞ?思い出しちゃうだけで、俺が悪いんだ」
でも、好意的に受け取るなら、私は結阿さんにそっくりってわけで。ちょっとだけ希望は持てる。
「わがまま、かもしれないですけど」
「ん?もう今更だろ」
「むぅ、そうじゃなくて……私と二人きりの時は、私だけを見てほしいです。結阿さんを思い出さないで、私だけ」
私の言葉は類さんに届いたはず。なのに、何も返事をしてくれなかった。むしろ困っている雰囲気が醸し出されていた。自分でもちょっとめんどくさい女の子、みたいな感じをしちゃったかもしれないとは思ったけど、これぐらいは許されてほしい。
「分かったよ……そうだ、俺が引きずりすぎてたのかもしれないな。思い出してみれば、あいつも似たようなこと言ってた」
「ほらもう」
「あっ」
言ったそばから……
「……で、なんて言ってたんですか?」
でも、それとして気になるので聞いてみる。
「たしか、『女の子と一緒に二人で居るのに他の女の子の名前を出すのは厳禁なんだよ』、って」
「それは結阿さんが正しいです」
ようやく分かって貰えたので、わざとらしく怒ってみる。
「そうだな、ああ、そうだったな……」
少し、悲しい空気になる。櫛は止まり、互いの息遣いだけが聴こえる。
「せめて、もう少しだけ会話していればよかったな」
類さんがそう言って、また髪解きが再開される。
私が持っているあの秘密、はたして類さんに話すべきか、話さないべきか……今度もし会えたら、話してみることにしよう。
「よし、こんなもんか?」
再開したとはいえ、ほとんど終わりかけだったみたい。
「ありがとうございます、髪を結ぶのは流石に自分でやりますね」
手首に付けていたヘアゴムで軽く髪を一つ結びにする。
「……はい、大丈夫です」
言いながら、私はベッドに寝転がる。
「え、と……どう、ぞ?」
「ん」
私が言うと、素直に類さんは隣に背中を向けて寝転がった。
「ん、わりとこっちは違うんだな」
「?」
「ベッドの寝心地だよ。向こうの方は固い」
「そうなんですか?」
「俺はこっちの柔らかい方が好みだ」
類さんの家のベッドを思い出す。言われてみれば、今寝ているベッドの感触に近い気がする。
と、言うか。
隣に寝ているから、類さんの匂いがすごく感じられる。
「ふぁ……わりぃ、結構疲れてるみたいだ。先に寝たら……すま……ん……」
言い切らないうちに、類さんは寝息を立て始めてしまった。
もうちょっとお話したかったけど、それ自体はいつでも出来るし……と思う。
「……」
もう最近何度見たか分からない類さんの背中を見る。いつもは頼もしく大きく見えるけど、今はなんだか……寂しそうで、小さく見える。
私は無言で、類さんに近づいて背中をぎゅっと抱きしめた。
「類さんが寂しくても……ちょっと頼りないですけど、私が隣に居ますよ」
それだけ言って、そのまま私も眠りについたのだった。
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