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二章 ウサギと帽子と女王
女王は静かに歩む その4
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「っと……?」
「あ、あれ?」
俺達が降り立ったのは『御伽の図書館』ではなく、何故か代表の部屋だった。
「やあ諸君」
目の前で代表が顔色も変えずに言う。
「えーと、どうしてここに?」
俺が聞くと、代表は端末を操作して何かした。
――ガシャン!
「んなっ!?」
俺達の後ろで、物音がする。驚いて後ろを振り返ると、ドアがあったところらしき場所、というか壁にシャッターが降りている。
「代表さん……?これ、どういう……」
横でハートちゃんが怯えている。無意識に裾を掴まれているし、声も震えている。俺はハートちゃんより少し前に出て、後ろ手で手を繋いであげた。
「安心したまえ、私は君達の味方だ」
「……は?」
唐突に言われて頭が混乱した。まずな話、私はってどういうことだよ。
「失礼、話が飛躍したな」
そう言うと代表は制服の上着を脱いでシャツ姿になった。
「あのー、色仕掛けなら間に合ってるんすよ」
「そうではない。一旦今はLoOKs代表としての立場を降りる……まあ、スイッチの切り替えみたいなものだ」
ゴホンと咳払いをしてから、代表は切り出した。割と今、レアなもの見れてたりしないか?
「率直に聞く。君達は今、同じ場所に居るのだな?」
「え?あぁ、はい、まぁそうですけど」
やっぱり何かしら犯罪方面で俺訴えられるのかぁ……
「今すぐそこを離れろ」
と、思っていたら全く意識していない方向から球が飛んできた。
「一体どういうことです?」
握っているハートちゃんの手が、先ほどよりもギュッと握られたように感じた。それに距離も近くなってる……気がする。
「今、鐘戸コーポレーション内では少しばかり騒動が起きている。無論、ハートの女王……鐘戸いろはの失踪についてだ」
「それが何か関係が?」
「水面下で君の指名手配の手続きが進んでいる」
「な」「えっ」
俺とハートちゃんは同時に小さい驚きの声を上げてしまう。俺がのうのうと大学に居る時になんてことをしてくれてんだ……
「現在私の方で私的に厳密な実行犯のメイドを保護している。そのメイドの指名手配がされてから君の、という流れになるだろう」
おいおい、どんだけ壮大なことになってるんだよ……俺のこの先の人生、真っ暗にならね?
「しばらくは……と言っても今から五日ほどしか猶予期間は無いが、その間にどこかに逃げる準備をしておいたほうがいい」
「は?」
「安心しろ、私の直属の部下がサポートする」
代表が言った後、正面のモニターに日本地図が映し出され、各地に赤い点が何個か置かれた。
「これは日本全国に点在しているLoOKs日本支部のセーフハウスの場所だ。言うなれば一般従業員の寮、みたいなものだ」
「ほう。で、俺達はそこを転々として暮らせ、と」
「そういうことになる」
当然のように言い切った代表に、俺は疑問をぶつける。
「別に逃げるのは百歩譲って癪だがギリいいとして、その移動資金とかはどうするんで?」
言うと、LoOKs端末にメッセージが届く。確認すると、見たことのない機能が追加されていた。
「これは私が使っていた、ログアウト場所を各地のセーフハウスに設定できる機能だ。今はほぼ使っていないが、活用しろ」
一覧を見る。北は北海道、南は沖縄……まさに日本全国といった感じだ。つーかこれ、全部の都道府県にあるじゃねぇか。
「もしかして衣服とか代表の置きっぱで……?」
「当然引き払って自宅に移動済みだ、だが最低限の生活雑貨はある。冷蔵庫にエアコンにテレビ、洗濯機に調理器具……流石にゲーム機の類は全ての部屋にはないが、逃亡のストレス発散は各自でどうにかしてくれ」
いや、そこまでしてくれたら万々歳なんだが……
「そうだ、白ウサギ」
「なんです?」
急に悪い顔をして、代表が頬杖をついて言う。
「君も男だ、苦労するだろう。だが……くれぐれも、手を出すんじゃあないぞ?」
一瞬言った意味が分からず、戸惑う。
「ん……?」
よーく考えて、かつ代表の顔の理由も考えて……
「……あぁ」
理解した。
「大丈夫ですって。絶対に無いですし、そんな余裕もきっと無いです」
「っはははは、まぁそうか!見るにハートの女王はよく意味が分かってないらしいからな、いい教育をされているようでなによりだ」
代表が豪快に笑った。真面目な話をしているってのにこの人は……!
俺はハートちゃんの方を見る。頭の上にハテナが浮かんでいるような顔をしていた。
「これはなんとなくだが……もし事が及ぶのだとしたら、白ウサギ。君はきっと襲う方でなくて襲われる方だろうな」
「冗談はほどほどにしてくださいよ」
「八割方本気だがな。まぁいい」
一転して真面目な顔になる代表。笑っている顔よりこっちのほうがなんとなく落ち着いてしまうのはなんなんだろうか。
「とにかく、どこから情報が漏れるか分からない。準備が終わり次第、端末で……いや、こっちの方が良いな」
今度は俺だけにメールアドレスと電話番号が送られてくる。
「私の私用携帯のだ。必要な時は連絡しろ」
「は、はい」
やけに手際が良い。ハートちゃんが来たの、今日の朝だぞ?
「お前の思っていることはもっともだ。だが、私は君達を守る権利ぐらいはある」
今度は上着を着ながら代表は言う。別に切り替えとはいえ脱いだり着たりしなくてもいいんじゃね、とは言わないでおく。
「では、そのように」
後ろでシャッターが上がる音がする。
「上がりきる前にログアウトをおすすめするぞ」
「……へいへい、頑張りますよっと」
俺とハートちゃんはカードを構える。
「『白ウサギ』、ログアウト」「『ハートの女王、ログアウト』」
完全にログアウトする間際に、小さな声で幸運を祈ると聞こえた気がしたが、気のせいということにしておく。
「あ、あれ?」
俺達が降り立ったのは『御伽の図書館』ではなく、何故か代表の部屋だった。
「やあ諸君」
目の前で代表が顔色も変えずに言う。
「えーと、どうしてここに?」
俺が聞くと、代表は端末を操作して何かした。
――ガシャン!
「んなっ!?」
俺達の後ろで、物音がする。驚いて後ろを振り返ると、ドアがあったところらしき場所、というか壁にシャッターが降りている。
「代表さん……?これ、どういう……」
横でハートちゃんが怯えている。無意識に裾を掴まれているし、声も震えている。俺はハートちゃんより少し前に出て、後ろ手で手を繋いであげた。
「安心したまえ、私は君達の味方だ」
「……は?」
唐突に言われて頭が混乱した。まずな話、私はってどういうことだよ。
「失礼、話が飛躍したな」
そう言うと代表は制服の上着を脱いでシャツ姿になった。
「あのー、色仕掛けなら間に合ってるんすよ」
「そうではない。一旦今はLoOKs代表としての立場を降りる……まあ、スイッチの切り替えみたいなものだ」
ゴホンと咳払いをしてから、代表は切り出した。割と今、レアなもの見れてたりしないか?
「率直に聞く。君達は今、同じ場所に居るのだな?」
「え?あぁ、はい、まぁそうですけど」
やっぱり何かしら犯罪方面で俺訴えられるのかぁ……
「今すぐそこを離れろ」
と、思っていたら全く意識していない方向から球が飛んできた。
「一体どういうことです?」
握っているハートちゃんの手が、先ほどよりもギュッと握られたように感じた。それに距離も近くなってる……気がする。
「今、鐘戸コーポレーション内では少しばかり騒動が起きている。無論、ハートの女王……鐘戸いろはの失踪についてだ」
「それが何か関係が?」
「水面下で君の指名手配の手続きが進んでいる」
「な」「えっ」
俺とハートちゃんは同時に小さい驚きの声を上げてしまう。俺がのうのうと大学に居る時になんてことをしてくれてんだ……
「現在私の方で私的に厳密な実行犯のメイドを保護している。そのメイドの指名手配がされてから君の、という流れになるだろう」
おいおい、どんだけ壮大なことになってるんだよ……俺のこの先の人生、真っ暗にならね?
「しばらくは……と言っても今から五日ほどしか猶予期間は無いが、その間にどこかに逃げる準備をしておいたほうがいい」
「は?」
「安心しろ、私の直属の部下がサポートする」
代表が言った後、正面のモニターに日本地図が映し出され、各地に赤い点が何個か置かれた。
「これは日本全国に点在しているLoOKs日本支部のセーフハウスの場所だ。言うなれば一般従業員の寮、みたいなものだ」
「ほう。で、俺達はそこを転々として暮らせ、と」
「そういうことになる」
当然のように言い切った代表に、俺は疑問をぶつける。
「別に逃げるのは百歩譲って癪だがギリいいとして、その移動資金とかはどうするんで?」
言うと、LoOKs端末にメッセージが届く。確認すると、見たことのない機能が追加されていた。
「これは私が使っていた、ログアウト場所を各地のセーフハウスに設定できる機能だ。今はほぼ使っていないが、活用しろ」
一覧を見る。北は北海道、南は沖縄……まさに日本全国といった感じだ。つーかこれ、全部の都道府県にあるじゃねぇか。
「もしかして衣服とか代表の置きっぱで……?」
「当然引き払って自宅に移動済みだ、だが最低限の生活雑貨はある。冷蔵庫にエアコンにテレビ、洗濯機に調理器具……流石にゲーム機の類は全ての部屋にはないが、逃亡のストレス発散は各自でどうにかしてくれ」
いや、そこまでしてくれたら万々歳なんだが……
「そうだ、白ウサギ」
「なんです?」
急に悪い顔をして、代表が頬杖をついて言う。
「君も男だ、苦労するだろう。だが……くれぐれも、手を出すんじゃあないぞ?」
一瞬言った意味が分からず、戸惑う。
「ん……?」
よーく考えて、かつ代表の顔の理由も考えて……
「……あぁ」
理解した。
「大丈夫ですって。絶対に無いですし、そんな余裕もきっと無いです」
「っはははは、まぁそうか!見るにハートの女王はよく意味が分かってないらしいからな、いい教育をされているようでなによりだ」
代表が豪快に笑った。真面目な話をしているってのにこの人は……!
俺はハートちゃんの方を見る。頭の上にハテナが浮かんでいるような顔をしていた。
「これはなんとなくだが……もし事が及ぶのだとしたら、白ウサギ。君はきっと襲う方でなくて襲われる方だろうな」
「冗談はほどほどにしてくださいよ」
「八割方本気だがな。まぁいい」
一転して真面目な顔になる代表。笑っている顔よりこっちのほうがなんとなく落ち着いてしまうのはなんなんだろうか。
「とにかく、どこから情報が漏れるか分からない。準備が終わり次第、端末で……いや、こっちの方が良いな」
今度は俺だけにメールアドレスと電話番号が送られてくる。
「私の私用携帯のだ。必要な時は連絡しろ」
「は、はい」
やけに手際が良い。ハートちゃんが来たの、今日の朝だぞ?
「お前の思っていることはもっともだ。だが、私は君達を守る権利ぐらいはある」
今度は上着を着ながら代表は言う。別に切り替えとはいえ脱いだり着たりしなくてもいいんじゃね、とは言わないでおく。
「では、そのように」
後ろでシャッターが上がる音がする。
「上がりきる前にログアウトをおすすめするぞ」
「……へいへい、頑張りますよっと」
俺とハートちゃんはカードを構える。
「『白ウサギ』、ログアウト」「『ハートの女王、ログアウト』」
完全にログアウトする間際に、小さな声で幸運を祈ると聞こえた気がしたが、気のせいということにしておく。
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