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3. 魔法が発動して王様に謁見したよ

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 相変わらずオレの魔法は発動しない。
 魔法はイメージらしいんだけど、治癒ってイメージがしにくい。じゃあと言ってご主人が自分の手にナイフで傷を作ろうとしたときは、全力で止めた。オレは血が苦手なんだ。
 オレの属性は秘密だから、怪我人を探してこっそり治療を試すようなことも出来ないし、行き詰っている。

 そんなある日、ご主人がキースと一緒に受けた依頼で、キースがご主人を庇って大怪我をした。

 余裕で倒せるはずだったのに、運悪く戦闘中に別の魔物の集団にも出くわしてしまい、大技の魔法の詠唱中で集中していたご主人が狙われたところを、キースが庇って左手を深くかまれてしまった。ちぎれそうになっている腕を庇いながら、魔物は全て片手で斬って倒した。
 ご主人が大急ぎで上級ポーションをかけたが、傷が深すぎて治りきらず、そのことにご主人がパニックになっている。

「ごめんなさい、私のせいで、中級のポーションがまだあったはずだから、」
「フレッド、落ち着け。大丈夫だ。とりあえず血は止まったから大丈夫だ」
「でも、このままだと左手が」
「大丈夫だ、死にはしない」

 ご主人が自分のせいでと取り乱しているのを見て、キースがふっと笑った。

「お前、本当は自分のこと、私って言うんだな」
「な、今はそんなこと!」
「お前の新たな一面を見えて嬉しいよ」

 そんな状況じゃないのに、キース、ご主人のこと口説いてない?

 キースがとりあえず血が止まった左腕を固定してくれとご主人に頼んでいるが、ご主人が動かない。オレもキースもどうしたのかと心配して見ていたら、ご主人がオレをバッグから出して、キースの腕の前に掲げて言った。

「キリ、キースの腕を治してほしい。お願い、キリ」

 ああ、ご主人が泣きそうだ。オレはご主人の使役獣だからね、出来ることはするよ。でも、キースの腕に近づけるのはやめてほしい。グロいのダメなんだよ。
 必死で顔を背けながら、傷よ塞がれーって願ったら、ふわっと身体から何かが抜ける感覚がした。

「おい、いま傷が光ったぞ」
「キリ、出来てるよ。出来てるから、もうちょっと頑張って」

 だから怪我に近づけないでよー!
 オレ超がんばれ。今頑張らないでいつ頑張るの。自慢の毛に血がついてもいいの?もう、お願いだから早く治ってーっ!

 そして、身体から何かがごっそり抜け出す感覚の後、オレの意識はブラックアウトした。



 目が覚めたら、ご主人の実家のオレの部屋だった。あ、エマさんがいる。
 エマさーん、のどか乾いたー。

「キリ様、やっとお目覚めになりましたね。そのポーズはお水ですね。お待ちください」

 ずっとオレの面倒を見てくれたエマさんとはジェスチャーで意思疎通ができる。エマさん優秀。ちなみに水は、後ろ足で立って、片方の前足を腰に、もう片方の前足を顔の前に持ってくる、風呂上がりの牛乳を飲むポーズだ。
 エマさんはオレ専用のお皿にお水を入れてくれた後、奥様にお知らせしてきますね、と部屋を出て行った。
 そういえば、オレいつの間にこの家に帰って来たんだろう。

 なんとオレ、2か月寝てた。寝すぎじゃない?

 エマさんから報告を受けて部屋にやって来たお母さんによると、オレはキースの腕だけじゃなく、その付近の植物や動物にまで治癒をかけて、魔力切れで倒れたらしい。
 そこの周りだけ、植物が青々として、一部花も咲かせて、桃源郷とはこんなところか、という状態になってしまった。
 もちろんそんな派手なことをしたオレの存在がバレないわけもなく、すぐに教会から人が来た。オレは目覚めないし、教会の追及もしつこいしで、ご主人は実家にオレを連れて避難してきた。けれど、あまりに俺が目覚めないので、ずっと家に籠っているのは良くないと説得されて渋々、日帰りか1泊の依頼を受けに行っているそうだ。

「キリ、目覚めてよかった。無理をさせてごめん」

 ご主人のせいじゃないよ。オレはご主人の使役獣だから、ご主人のために働くのはオレの意志だよ。ちょっと加減を間違っちゃったけど。
 それよりご主人痩せたよ?ご飯食べてる?2か月寝てて食べてないオレも痩せちゃったので、ふたりで頑張って身体元に戻さないとね。
 知ってた?ずっと寝てたら歩くだけで足が震えちゃうんだよ。おれ生まれたての小鹿みたいになったよ。

 それから夕食までずっとご主人にまとわりついて、ご主人がうんうんと優しく聞いてくれるので、オレがひとりでずっとしゃべっていた。


 今日はご主人のタイとお揃いのリボンを首にと尻尾の先っぽに巻いておめかしをして、なんと、王様に謁見だ。
 王様にここの家の子でいていいよって言ってもらうために、会いに行くんだそうだ。

 あんまり動くと尻尾のリボンが取れちゃうので慎重に動かないといけないんだけど、オレの先っぽだけ黒くなっている尻尾の切り替わりのところに小さいリボンをすると可愛いと思うんだ。おしゃれは我慢ってテレビで言ってたしね。
 ご主人もいかにも貴族っていう感じの格好をしているけど、隣のお兄さんほどじゃない。やっぱり貴族辞めたからふりふりは控えめなのかな。
 今日はご主人の肩の上で伸びるんじゃなくて、ご主人の腕にいい子で抱かれている。

 謁見の間っていう王様に会うお部屋の隣りの待合室で待っていたら、ご主人と同年代のでっぷり太ったヤツが声をかけてきた。

「フレデリク、久しぶりだな。平民生活はどうだ。お前がどうしてもとお願いするなら、愛人にしてやってもいいぞ」
「……」

 ご主人は頭を下げたまま、何もしゃべらない。お兄さんも軽く下を向いたまま、何も言わない。もしかして、身分が高いのかな。
 愛人って、これは貴族流の挨拶だったりするんだろうか。でもこのでっぷり、デリカシーがなさそうだから、嫌味かもしれない。

「その動物はなんだ。その毛皮、なかなかよさそうだ。私のマフラーにしてやろう。寄越せ」
「恐れながらミカエル様、これはフレデリクの使役獣で、これから謁見ですのでご容赦を」
「それがどうした。オレが欲しいと言っているんだ。寄越せ!」

 無理だと言っているのに、でっぷりが引き下がらずに騒いでいる。周りの謁見の順番を待っている人たちも、またやってるって感じの目で見てるから、こういう身分に物を言わせてわがままを通す常習犯っぽいな。
 それよりもご主人の様子がおかしい。このでっぷりが苦手なのかな。大丈夫だよ。オレがいるよ。ご主人の腕の中で立ち上がって、そっと頬を舐めて、ちょっとだけ治癒の力を流した。オレ胴長だから頬に届くんだ。あのやり過ぎた事件のおかげで、治癒の力の使い方は分かったよ。でも魔力切れで倒れたからまだ本当は使う許可が出てないんだ。
 ご主人がオレを見て、笑ってくれたから、大丈夫そうだ。

「謁見の間の控室で何を騒いでいる!」

 でっぷりが寄越せと騒いでいたら、偉いっぽい人が登場した。部屋の入り口にいた兵隊さんが知らせてくれたらしい。

「これは宰相様、この平民が分不相応な毛皮を持っているので、私が有効活用しようと思っていたところです」
「そうなのか?」
「フレデリクの使役獣だと申し上げたのですが、それがどうした、寄越すようにと」
「ハザン公爵家ミカエル、謹慎を申し付ける。衛兵、連れていけ」
「何故です!高貴な私が身に着けたほうがその毛皮も輝きます」
「この使役獣は陛下がお召しになった。お前はそれを殺して毛皮にすると言ったのだ。処分は免れないと思え」

 あらら、でっぷり、やらかしちゃったね。
 もしかして、こいつやらかしすぎてて、偉い人はこういう機会を待っていたのかもしれない。バイバイ。

 次はオレたちの番だったようで、偉い人と一緒に、謁見の間に入ったら、壁際に並んでいる貴族の人たちの中にお父さんもいた。
 部屋の真ん中あたりまで進んで膝をついたお兄さんの少し後ろにご主人も膝をついたので、オレはその横でお座りをする。

「ヒラリク侯爵家が第一子ハルキス・フォン・ヒラリク、お召しにより、当家の冒険者フレデリクとその使役獣とともに参上いたしました」
「ふむ。して、その白いのが、治癒魔法を使うのか」
「はい。と申しましても、つい先日まで魔力切れで眠っておりましたので、治癒魔法を使ったのはまだ1度だけでございます」

 お兄さんが王様の質問に答えていく。ご主人は貴族を辞めたから答えちゃいけないのかな。

「どこで見つけたのだ」
「フレデリクが依頼で討伐したファイアーバードが爪で捕まえていました。あまりにも小さく、また巣も分からないことから、当家で育てておりました。1年経ちまして成獣になったと思われたので、フレデリクの使役獣として依頼に同行しております」
「冒険者ギルドによると、当初はネコと登録されていたようですね。その後イタチと修正され、特技は、……、『お手とおかわりと木登り』とありますが」
「当初は握りこぶしよりも小さく、種族も特定できませんでしたので、見た目が一番近かったネコとして登録しました。またイタチと修正した際も、魔法も使えず、他にできることがありませんでしたので、特技がそのように登録されたのかと存じます」

 え、オレそんな風に登録されてたの。何ができるって聞かれて、ご主人がたしかにお手とおかわりって答えてたよね。木登りも得意だよ!って胸を張って答えたのに。あの何ができるって、火の魔法が使えるとかそういうことだったのか。受付のお姉さんに賢いねって褒められて喜んでたのがちょっと恥ずかしい。
 壁際にいる貴族の人もクスクス笑っているけど、嘲笑ってるのではなくて、微笑ましいなあって感じだから、まあいっか。オレ、可愛いのが特技だもん。

 それから、治癒魔法を見せてみるように言われて、事前にお兄さんと打ち合わせたように、浅い傷の治癒をすることになった。
 魔力切れから時間が経っていないので、深い傷はまた倒れる可能性があると断ることにしていたのだ。
 さっきから教会の人の視線が痛い。オレが本当に治癒を使えるのか、見極めたいんだろう。

 訓練で軽い怪我をしたという兵隊さんの傷を、サクッと治した。傷に魔力を流して、傷なくなれ、と思えばいいのだ。
 治癒前と後をお医者さんが確認して、確かに治っていると保証してくれた。

「して、司教よ、どうだった」
「はい。治癒魔法です。そのイタチは教会で引き取ります」
「司教よ、言ったはずだ。冒険者の使役獣を取り上げることは許さん」
「治癒魔法は教会の管轄です」
「魔法に管轄などございませんよ、司教様」
「魔術師長、治癒魔法は神の奇跡です。貴方方の魔法とは異なります」
「フレデリクとその使役獣よ、そなたたちがこの国で自由に活動することを国は認めよう。国のためにその力を貸してほしいが、無理は言わん」
「陛下!」
「司教、冒険者ギルドを敵に回したくなければ、あの者たちからは手を引け」

 なんか偉い人が仲間割れしてるんだけど、オレどうすればいいんだろう。傷を治した兵隊さんと一緒に部屋の隅の方に来ちゃったんだけど。
 きょろきょろしてたら、お父さんと目が合った。笑っているので、これは行っていいヤツ。
 たたたっと駆けて、お父さんの腕に飛び上がったつもりだったけど、微妙に高さが足りなくて、お父さんがすくい上げてくれた。やっぱりまだ身体が思ったほど動かないや。
 それから、終わらないかなーと仲間割れを聞いていたら、眠ってしまった。お父さんの腕の中が気持ち良すぎるのがいけないんだ。
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