オコジョに転生したので、可愛い飼い主の夜を覗いてます

犬派だんぜん

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ミリアル王国帰還編

1. オレ大ピンチ

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(このお話はシリアスではありません。シリアスではありません。シリアスじゃないからね!)



 痛い痛い痛い。お腹が燃えるように熱い。ご主人助けて。痛いよ。

「キリ?キリ!!」

 痛い。痛くて魔法も上手く使えない。オレ治癒魔法使えるのに、痛いのが治せない。
 どうしよう。このまま死んじゃうのかな。やだよ。もっとご主人といろんなところ行きたいよ。美味しいもの食べたいよ。
 せっかく異世界に生まれ変わったんだから、いるのか知らないけどドラゴンとか会ってみたいし、ご主人ともっともっと冒険したいよ。

「キリ!しっかりしろ!」
「キース、どうしよう。キリ、死なないで!キリ!!」

 ご主人、助けて。痛いよ。死にたくないよ。
 ご主人と出会ってからのことが、走馬燈のように思い出される。


 オレはオコジョに生まれ変わった元日本人だ。
 オレは生まれてすぐおかあさんに見捨てられてしまい、巣穴をはい出たところでトリに捕まった。絶望の飛行中だったところを、冒険者で魔法使いのご主人が素材目当てでトリを撃ち落としてくれて、ご主人と出会った。ちなみにキース、オレを売ろうとしたことは覚えているぞ。
 それからお屋敷に連れて行ってもらって、お母さんとエマさんに可愛がられて、リボンをつけてもらって、美味しいご飯を食べさせてもらって。飼いオコジョとして大切に育てられ、成獣になったところでご主人の使役獣として冒険者の仕事に同行している。
 今はご主人の生まれたミリアル王国の隣国、ガリア王国で、治癒魔法の使える可愛い使役獣として活躍中で、同じパーティーにジルっていうオオカミの使役獣もいて、俺たちはもふもふコンビとして大人気だ。
 治癒魔法が使えるって分かってからは、教会に狙われちゃったり、偉い人に会ったり、ミリアルを出ることになったり、ご主人にたくさん迷惑かけちゃったよね。それなのにキリのせいじゃないよって優しく撫でてくれたご主人が、大好きだった。

 オレ、ご主人と出会えてよかったよ。
 もっとご主人とキースとのいちゃいちゃを見ていたかった。キースがご主人を自由にしていいチケット1枚持ってるのに見れないのが心残りだけど、なんでもっと早くしなかったのかキースに小一時間説教したいけど、オレがいなくてもキースと幸せになってね。

 あまりの痛みに声を出すことも出来ないでいるオレは、かすむ意識の中で、必死でご主人に前足を伸ばした。


 目を覚ますと、ご主人が心配そうにオレを見ている。

「キリ、気付いた?痛みは大丈夫?」
「キィ……」

 ご主人、心配かけてごめんね。まだ痛いけどちょっと落ち着いたよ。オレどうしちゃったの?

「痛みを少しだけ軽くできる魔法を使ってもらったんだ。石ができてて、おしっこと一緒に出るまでは痛いんだって」

 え?石って、もしかして腎結石とか尿路結石ってやつ?!
 同僚で石持ちのヤツがいて、たまに腹痛で休んでたけど、胆石との違いを延々と語ってくれたけど、こんなに痛いの?しかも、出るの待つしかないの?!
 石はもうできちゃってて、あとは出るだけの、その通り道で詰まって痛いだけなので、病気を治す魔法でも治せないらしい。ファンタジーなんだから、それ治す魔法もあっていいんじゃない?なんでないのーーーー!

 それから石が出るまでの2日間、痛みにぐったりしていたオレは、水しか飲めなかった。


「キリ、ダメ。お菓子は禁止」

 えええ、お菓子取り上げられたら、肉しか食べるものがないじゃない。やだよー、食べたいよー。クッキーちょうだい。

「ダーメ。また痛くなっちゃうよ。ほら、このお肉美味しいから食べて」

 ご主人にショコラもクッキーも禁止されてしまった。本来イタチが食べるものじゃない人間のお菓子は食べちゃダメだって。
 今は隣街の宿の食堂で食事中だ。もう普通の食事をしていいからって、ジルと同じ、味付けのされてない柔らかく煮た肉を目の前に出されたけど、食欲がわかない。酷いよ。オレ肉食男子じゃないのに。ぐすん。

 石は貴族に多い病気なので、この世界では贅沢病とされているそうだ。たしか同僚は不規則な食生活と運動不足って言われていた気がするけど、オレもちょっと走ったほうがいいんだろうか。ご主人の肩や、最近はジルの背中で横着してる自覚はある。

「キリくん、フレッドがものすごく取り乱していたから、心配かけちゃダメだよ。ジルも心配してたし、ジルがあんなになったら俺だって取り乱すよ」
「ブノワ、お前もキリくんにお菓子あげるの禁止な」

 リュードに諭されただけでなく、キュリアンがブノワにもお菓子を禁止しちゃった。
 ジルが肉をくれるって、その気持ちは嬉しいけど、オレが食べたいのは肉じゃないんだ。甘いものが食べたいのに。


 オレが痛みでのたうち回っていたのを見つけたご主人は、それはそれは取り乱したらしい。
 キュリアンの指示で、隣の街の教会で司祭様に診てもらうために、ご主人がひとりで馬を飛ばして、今いる街の教会までオレを連れて来てくれた。お母さんが作ってくれたワイバーンの皮で出来たバッグに入れたオレを大切に抱いて、魔物が出た時のためにジルだけを護衛として、街道を駆け抜けたそうだ。緊急事態だと教会に駆け込んだご主人は、司祭様にオレを助けてくれと必死でお願いしてくれた。
 ご主人もジルも、オレのためにありがとう。
 キースたちは馬車を貸し切って後から追いかけてきてくれたので、今は一緒に辺境の隣街にいる。

 治癒魔法の使える使役獣の噂は、当然隣街のこの教会にも聞こえていて、司祭様はいつか会いに行ってみようと思っていたそうだ。そんなオレが連れてこられたので、最優先で見てもらえた。本来だったら獣は診てもらえないのかもしれないけど、オレは治癒魔法が使える、いわば教会のお仲間っていうのもあって、すんなりと診てもらえた。
 その代わり、司祭様からのお願いで、治癒してもらった代金は俺の治癒魔法でお支払いだ。


 はーい、次の人どうぞー。今日はどうされました?キリ先生が診てあげましょうね。

「この子が3日前に怪我をしたところが腫れてきてしまって」
「キリさん、どうでしょう?」
「ねこちゃん!」

 慈悲深いオコジョ先生ですよ。化膿しているねえ。傷口清潔にしてなかったでしょう。まあこれくらいの年齢の子じゃ仕方ないか。

「傷口を清潔にしてなかったから化膿しているそうだ」
「治癒してよろしいですか?」
「はい、お願いします。もしかして、辺境の白いイタチですか?」
「そうですよ。今日だけ教会の手伝いをお願いしているんです。キリさんお願いします」

 はいはーい、キリ先生が治しますよ。痛いの痛いの飛んでけー。

「なおった!」
「まあ、本当に優秀なのね。ありがとうございます」

 どういたしまして。怪我をしたら傷口は清潔にね。ご飯の前には手を洗ってね。

 そんな感じで治療費の代わりに丸一日、オレは主に子どもの治療を担当した。だいたいは傷の治癒で、この可愛いボディが子どもたちに大人気だったよ。


 そんなこんなでお勤めを終えて、痛みに気を失っているうちに離れた辺境の街に戻ってくると、会う人会う人から無事に帰ってきてよかったと声を掛けられた。ご主人の慌てぶりから、オレが倒れちゃったことが噂で広まってしまったらしい。
 こら、キース、いいもの食べ過ぎたせいとか言うな。オレの可愛いイメージが崩れるだろう!

「お、ウィラー、いいところに。キリくん、今後お菓子禁止だから、やらないでくれ」
「キリちゃんのお見舞いにナッツと果物を買ってきたんだが。これなら野生のイタチも少しは食べるだろう。あげてもいいか?」
「果物とナッツなら」
「キリちゃん、どうぞ。元気になって良かったね」

 お、その果物は、まさかの。

「お、おい、それペッシェだろう……」

 わーい、桃だ。食べたい!桃美味しいよね。ミリアルのお屋敷で時々出てきたんだけど、大好き!

「キリはペッシェが好きなんだ。ウィラー、ありがとう。どこの店で売っていたんだ?」
「酒場の向こうの八百屋だが、あと1つしかなかった」
「そうか。仕入れてもらうように交渉してみる」

 いただきます!皮をぺってして、かぷっ。うん、美味しい!
 周りで冒険者が「マジかよ、使役獣がペッシェ食べてるぞ。俺も食べたことないのに」「ウィラー、どんだけ貢いでんだよ」って言ってるけど、聞こえなーい。

「いやいやいや、お前らちょっと待て。フレッド、ペッシェは高級品だ。ショコラなんか目じゃないくらい高いんだ。簡単に手に入るものじゃない」
「そうか。伯爵にお願いして取り寄せてもらうか」
「そうじゃなくて!」

 ご主人、大好き!
 貴族の考えにはついていけない、とキュリアンが天を仰いでいるけど、貴族が魔物の素材が欲しくて冒険者に依頼を出すようなものだよ、多分。
 ちなみにデレマッチョと伯爵は、伯爵が魔の森の視察に来た時に引き合わせたら、重度のもふらー同士で意気投合した。予想通りだ。
 最初は貴族が来たと警戒していた冒険者たちも、伯爵がもふもふについて熱く語りながらデレマッチョと酒を飲んでいるのを見て、最後は一緒に大騒ぎしていたらしい。


 この騒動以降、オレへの貢物は、お菓子から、ナッツとドライフルーツ、ときどき干し肉に変わった。
 お菓子を食べた後、石になる前に解毒の魔法か病気を治す魔法を使えば何とかなるんじゃないかと思ってるんだけど、ご主人の許可が出ないのだ。
 いっぱい心配かけちゃったし、残念だけど仕方がない。
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