オコジョに転生したので、可愛い飼い主の夜を覗いてます

犬派だんぜん

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ガリア王国魔の森編

6. ファンクラブふたたび

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 ジルの飼い主さんのパーティーであるロビンバルと合同で、魔の森の討伐中だ。

 前回のオレの秘密がバレそうになった反省から、単独で森に行こうとしていたんだけど、ギルドから止められてしまった。
 ギルドがこの街最強と言われるアルディラよりもオレたちを優先したことで、オレの治癒能力が知られるようになったので、もし単独で森の中に入った場合、オレを奪おうとするパーティーに襲撃される恐れがあるそうだ。もっと広まって認知されてしまえば、ご主人じゃない人がオレを連れていたら奪ったのだと明らかにわかるので周りが助けてくれるだろうが、今はまだそこまで知られていないので周りの協力も得られない。
 これは、オレのファンクラブをもう一度作り直すしかないね。

 で、森の中に来てるんだけど、ジルがオレを離さない。

 昼休憩中にジルがダッシュでどこかに行ったと思ったら、ウサギを咥えて帰って来て、オレの目の前に置いた。いやーーーーー!ご主人助けてーーーー!!
 白い毛皮で、オレよりも丸々しているけど大きさもそう変わらない、白目剥いて首があらぬ方向に曲がってるウサギ。その様子に悲鳴をあげてしまったけど、オレ悪くないよね?このウサギ、オレの未来の姿じゃないよね?!
 ご主人の首に巻き付いて震えるオレの姿に、喜んでもらえると思っていたジルがシュンとしちゃった。オレへの貢物って分かるんだけど、ちょっと無理。そのウサギを早くバッグに入れてください。ガクブル。

「ジル、キリくんは治癒を使うから、ビックリしちゃったみたいだね。このウサギは俺がもらってもいい?」
「キュウーン」
「せっかく狩ってきてくれたのに悪いな」

 ジルが飼い主さんに悲しそうに甘えてる。ごめん、ほんとごめん。ご主人が代わりに謝ってくれるけど、ほんとごめん。
 ジルの好意に対して、酷い態度をとった自覚はあるので、ウサギが視界から消えてすぐ、ジルに謝ろうとジルに近づいたら、捕まった。べろんべろん舐められるけど、やっぱりいやーー。その牙でウサギをぽきっとやっちゃったと思うとやっぱり怖いよ。ご主人助けて!

「キリ、ジルはキリを傷つけたりしないから」

 知ってるけど、分かってるけど、怖いんだってば。
 大丈夫、オレは治癒魔法が使えるんだから、大丈夫。ジルはペットだ、大丈夫。必死に自己暗示をかけて、ジルのべろんべろんをやり過ごす。
 あ、まって、首のとこ咥えられたら身体に力が入らないからやめてっ。

「ジルはキリをこどもだと思ってるのかな」
「まんま子犬の世話を焼くお父さん犬だな」

 ジルはオレを咥えて飼い主さんの足元まで移動して寝ころんで、また念入りにオレの毛繕いを始めた。
 みんな微笑ましいなあって見てないで助けてよ。しくしく。

 そんな感じで森を出るまで、戦闘中以外はずっと、オレはジルに世話をされていた。
 オレってデレマッチョといい、ジルといい、なんか厳ついヤツに気に入られる運命にあるらしい。この可愛いボディがヤツらを惹きつけてしまうんだろうか。可愛いって時には困ったことになるんだな。


 それから何度も一緒に森へ行ったが、肝心の討伐はというと順調だ。ロビンバルは名前を知られている有力パーティーで、今はオレの治癒魔法がある。
 ご主人とキースも、今まで魔の森のような強い魔物がうようよいるところで戦った経験がないだけで、二つ名がつくくらいの実力はあるのだ。けれどやはり経験不足は否めず、それがあの熊にキースが捕まるという事態に繋がった訳で、ふたりとも戦闘も訓練も積極的に行っている。

「フレッドは剣も使えるんだな。その剣筋、騎士に習ったのか?」
「ああ」

 野良の剣士であるキースに言わせると、ご主人の剣筋はきれいなんだそうだ。実践で身についたものではなく、正統派の師について習ったというのが分かるらしいが、ロビンバルの剣士にも言い当てられている。人と戦うのはまだいいが、魔物に対するとなると少し厳しいらしい。
 ご主人は魔力が切れた時のために剣でも戦えるようにと、最近は前衛の訓練もしている。オレがいる限り、魔力切れになることはないだろうけど、この前みたいに限界を超えることはあるかもしれない。ロビンバルに断って、戦力に余裕がある時は、前衛で戦って経験を積んでいる。

 ご主人が頑張ってるんだからと、俺もジルを師匠として訓練だ。

 人間が4人?
 あたり。じゃあ木の上にいる鳥は?
 えーっと、そこの木に2羽。
 おしい。向こうの木にもいるよ。

 戦えないオレに出来るのは、音を聞き分けることくらいだ。オオカミには負けるけど、それでも人間の耳よりはいいので、ご主人たちが気付く前に敵の接近に気付ける。森の中は木があって、音が複雑に反射するので分かりづらいが、ジルに正解を聞きながら訓練している。
 正解するとジルに偉いってべろんべろんされるし、外すともうちょっと頑張ってってやっぱりべろんべろんされるけど、だいぶ慣れてきて、不意打ちで牙を見たりしなければ怖いと思わなくなってきた。

 ジルは、戦闘の時はカッコいい。普段のバ可愛い感じはどこに行ったんだというくらいカッコいい。風魔法が使えるので、自分の周りの風をまとって、すごいスピードで魔物に突っ込んでいく。
 自分自身の加速にも風魔法を使っているし、自分の周りの風で魔物を切り裂いているようだが、どうやっているのか本人はよく分かっていないそうだ。大好きなご主人さまに褒めてほしくて頑張ったら出来たらしい。
 それをオレからご主人経由で伝えたら、ジルの飼い主さんが感激してジルを褒めまくり、喜んだジルはお腹を見せてわしゃわしゃ撫でられていた。まんまハスキーだけど、オオカミって人に懐かないんじゃなかったっけ。

「もうこのまま5人でパーティー組もうぜ」
「お前はキリくんに通訳してほしいだけだろうが」
「ガリアにずっといるとは決めていないんだ。キリを連れて帰らないと、俺の家族に怒られる」
「ミリアルだっけ。ジルがキリくんのこと離さなさそうだよなあ」

 確かにね。ミリアルまでついてきそうだ。
 ロビンバルは、ジルの飼い主である魔法使いと、剣士2人の3人パーティーだ。ご主人とキースが入ると5人で、剣士3人と魔法使い2人でバランスもちょうどいい。性格も相性も悪くなく、他のパーティーの勧誘を断れるが、オレの治癒魔法の秘密もあるし、ご主人が元貴族って言うのもあるし、簡単には決められない。
 でも、この魔の森にいる限りは一緒に活動することになった。


 オレのファンクラブは、会員番号1番のデレマッチョと、2番のジルのほかにも、少しずつ増えている。
 ロビンバルがこの街のパーティーの力関係や裏事情にも詳しいので、彼らのアドバイスを聞きながら通りがかりに治癒をして恩を売っている最中だ。オレって魔力が豊富にあるから、残量とか気にせずに治癒出来るからね。
 クローバーは、知り合いのパーティーにオレのことを凄腕の治癒術師として紹介してくれているようで、ときどきクローバーに聞いたんだけど治癒してくれ、と言ってくるパーティーもいる。
 でも中には新参者のオレたちに、まずは治癒をしてその能力を見せてみろと、と上から目線で行ってくるヤツもいる。そういうヤツは、キリをいじめるなーと言いながら、ジルが張り切って撃退している。厳つい顔でガウガウ言っていると迫力があるので、大抵のヤツらは怯む。過保護な保護者が増えたね。

 そして最近オレは、街の中ではご主人の肩ではなく、ジルの背に乗ってる。なぜなら、そのほうが周りのウケがいいからだ。
 もふもふ on もふもふ。
 かなり好評で、厳つい顔のジルに遠巻きにしていた隠れもふらーの冒険者たちも、ジルに近づいてくるようになった。ブランドイメージ大切。
 デレマッチョはオレに甘いもの、ジルに干し肉を用意しているくらいだ。最初はデレマッチョのあまりの変わりように3度見くらいしていた冒険者たちも、最近は会うとオレたちの目撃情報を教えてやっているらしい。デレマッチョはもう自分で使役獣探したらいいんじゃないかな。


 そんな風に過ごしていたある日、ジルの飼い主であるリュードがこぼした。

「そろそろ貴族の季節だな。めんどくせえ」
「今回はキリくんがいるから、余計めんどくさいだろ」
「貴族の季節?」
「ああ、ミリアルから来て初めてか」

 ガリアでは、貴族の子どもの通う学園が休みになる夏、社会経験として学園の最終学年の子どもたちが魔の森に来るらしい。文武両道を証明するための風習だが、世間知らずのお坊ちゃんたちなので、トラブルが多発する。
 冒険者を護衛につけて森の浅いところで討伐に参加するらしいが、まともに戦える学生は、騎士を目指しているものなどほんの一握りだ。無理な注文をしてきたり、中には使役獣を寄越せと言うヤツが毎年1人はいるらしい。

「この時期、姫は絶対この街に寄り付かない。お前らも移動するか?」
「従う必要はないんだろう?」
「ああ。お坊ちゃんたちの言うことは全部無視して構わん。ここでのことに親は出てこない。つきまとわれてうっとおしいだけだ」
「俺たちにも貴族の後見はいるから、大丈夫だろ」

 ご主人のお母さんの親戚にお願いしているから、親が出て来ても大丈夫。
 その判断を早々に後悔することになるとは、見通しが甘かったみたいだ。
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