上 下
14 / 39
ガリア王国魔の森編

5. 使役獣仲間ができたよ

しおりを挟む
 アルディラとは野営地で別れて、別々で街に帰ってくると、先に帰ったアルディラがオレが魔物を回復させたことを吹聴していたようで、オレたちを見た冒険者が「あのイタチが……」「実は魔物なんじゃないか?」と話している。全く、器がちっちゃいねえ。
 クローバーや他のパーティーとは、森の入り口で分かれた。良くしてくれたのに面倒なことに巻き込むのは申し訳ないからね。クローバーは治癒術師という替えのきかない存在だから、少々のことでは周りの対応は変わらないだろうが、他のパーティーはそうじゃない。その辺りはご主人もキースも分かってる。

 冒険者ギルドに顔を出すと、早々にギルドマスターに呼ばれた。なんか言われるのかな。

「無事でよかった。アルディラとのことは聞いている」
「俺たちには魔の森はまだ早かったようだ」
「思ってもないことを言うな。使役獣が誤って魔物も回復させたと聞いたが、それだけか?」
「他に何が?」

 これはギルドにオレの浄化魔法がバレてるのか?とりあえず知らんぷりしとこ。キリくんは、キースを助けるのに必死だったので分かりませーん。
 話す気がないと分かったのか、それ以上は突っ込まれず、今回の魔物の討伐の報酬の話になった。討伐証明部位はないが報酬がもらえるらしい。本来は確認なしには払われないが、今回は利害関係で対立している両方が討伐したと言っているので、それでいいらしい。けっこう適当だな。

「無理は言わんが、この街にいてくれると嬉しい」
「この街最強と言われるパーティーに目をつけられているのに、まともに活動できると思えんが。それに他のパーティーと合同でまた面倒に巻き込まれるのはごめんだ」
「そちらは少し待ってくれ」
「しばらく休むから、その後考える」

 ギルドがどうするのか、静観することにして、それとは関係なくしばらく休むことに決めている。キースはオレが治したとはいえ大怪我をしたし、ご主人も魔法の使い過ぎで倒れたし、休息は必要だ。
 今夜はキースを助けたオレへのご褒美で、お風呂のある高級宿だ。やっほーい!

「よかった。キースが無事で、本当によかった……」

 宿の部屋に入るなり、ご主人がキースに抱き着いた。恥ずかしがり屋さんのご主人が自分から抱き着くことはまずない。

「フレッド、助けてくれてありがとう。愛してる」
「私も、あ……んっ」

 キースがご主人を抱きしめながら、答えようとした唇を塞いだ。舌を絡めて、ご主人に喋らせないようにしている。
 お互いの息があがるほど貪りあった後、キースが抱きしめたご主人の肩に顔を埋めて、不安げな声で問うた。

「フレッド、いや、フレデリク、本当に俺でいいのか?お前はキリと貴族として生きたほうがいいんじゃないのか?そうすれば、こんな面倒に巻き込まれることもないだろう」

 姫と会った時も、ご主人は貴族の生活のほうがいいんじゃないかって言ってたし、キースの中でも迷いがあるんだろう。だけど、そもそもこの国に来ることになった発端は、貴族というか王族とのトラブルだ。オレがいる限り、ご主人がどんな立場でも面倒に巻き込まれる気がする。
 あれ、元凶オレじゃん。でもオレ、ご主人の飼いオコジョ辞める気ないよ。ご主人、ごめんね。大好き!
 元凶のオレが言うのもなんだけど、これからどうするか、ちゃんと話し合いなよ。
 でもその前に、せっかくお風呂のあるいい部屋にしたんだから、お風呂に入ろう!

 ということで、なんとオレ史上初、3人というか、2人と1匹で入浴中です。オレは湯船じゃなくて桶の中だけど。
 ここは、命の危機を脱してお風呂でいちゃいちゃの場面じゃないの、と思ったそこの貴方、オレも思ったよ。だからオレは遠慮しようとしたんだけど、何故かキースが誘ってきたんだよ。ご主人もちょっと戸惑ってたから、実は期待してたんじゃないかな。

「キリが、なんで一緒なんだって言ってるけど……」
「2人で入ると、フレッドに無理をさせそうだからな。期待してたのか?」
「ち、ちがっ」

 違わないね、ひゅう!あんなに初心だったご主人が、今やこんなにエロくなって、キリくんは嬉しいよ。
 お互い倒れたんだから、今日はゆっくり休もう、と珍しくキースが鬼畜じゃないことを言ってる。まあ、オレがいなければキースは命も危なかったから仕方ないね。

「フレッドはこれからどうしたい?」
「私はキリを手放す気はない。でも、キースとも離れたくない」
「侯爵家に戻りたくはないのか?」
「家族には会いたいけど、私には貴族の生活は合わないから。キースは、私でいいのか?」

 キースがふっと笑って、両手でご主人の頬を撫で、額を合わせた。

「お前がいいんだ。じゃなかったら、お前の父親に詰め寄られた時にさっさと逃げ出してる。怒らせたら、一冒険者なんか消されてもおかしくない相手だぞ」
「キース……どうしたんだ」
「さすがにあの状況は覚悟したよ。ここで終わるといろいろ心残りがあるなと思ったさ」

 ご主人が快楽で訳分からなくなってるときくらいしか愛の言葉を囁かないキースが、珍しく何でもないときに告白してる。熊の魔物にガッチリ掴まれちゃってたもんね。オレだって焦って盛大に浄化魔法を飛ばしたわけで。
 そういえば、熊を回復させちゃったことにみんな気を取られてるけど、実は前衛の瘴気も浄化しちゃってるんだよね。気付いてないっぽいからいいけどさ。
 別のパーティーと合同で行動すると、今後も同じような状況になりかねない。だからキースは、合同の依頼は受けないと予防線を張ったんだろう。浄化魔法が使えることをバラしちゃったほうが楽だけど、そうするとこの国の王様とか教会が出てきそうだしなあ。

 そんな風にぼんやり考えていたら、キースがご主人の頭の後ろに手を回して逃げられないようにした上で、口付けて舌を絡めた。

「ん……、まって、んっ、キリが、いるから」
「見てないさ」

 いやいや見てますよ。めっちゃ見てますよ。特等席でガン見ですよ。キースさん、今目が合いましたよね。
 オレに構わず続けてるけど、あんまりやってると我慢ができなくなるんじゃないかなー。ほどほどにしといたほうがいいんじゃないかなー。ご主人のこぼれる声が、だんだん艶っぽくなってるよー。むふふ。

「まって、これ以上は、んぅ、だめだ」
「ん?どうした?我慢できないのか?今日はしないぞ」

 キースさん、今日は優しいのかと思いきや、やっぱり安定のドSですな。ヤラシイ手つきで身体を撫でまわしておきながら、今日はお預けなんて。ご主人かわいそー。

 風呂の中でも、あがってからも、さんざんご主人を際どい感じで期待させるように触っておきながら、何もせずにご主人を抱き込んで眠りについた。
 これは焦らされたおかげで、明日盛り上がるヤツだ。うひひ。


 それから3日間、ご主人とキースは部屋から一歩も出ずに、十二分に回復に努めた。心も身体もね。


 え、お預け後のご主人のむふふの中継がなんでないのかって?
 もうねえ、聞いてよ。キースの命の危機と告白の後、1日焦らされたご主人が我慢できなくなって、自分からおねだりしてるのが可愛くて可愛くて、期待度MAXだったの。なのに、オレは寝室に入れてもらえなかっただけじゃなく、ご主人が寝室に防音の魔法をかけちゃったから、何にも聞こえなかったんだよ。ひどくない?
 命を助けてやったのになんて仕打ちをするんだ、キース!こっそりオレを寝室に入れるくらいの気遣いを見せろ!ちぇっ。


 ご主人たちはらぶいちゃな、オレは暇な3日間を過ごした後、買い物に外出したら、オレたちに関する噂がアルディラに関する噂に変わっていた。
 曰く、魔物に負けそうになってたところに、オレたちとクローバーと他3パーティーが助けに入ったのに、感謝するどころか治癒魔法が未熟だといちゃもんをつけたせいで、治癒術師がこの街を出ようとしている、そうだ。
 噂っていうか事実だよね。だからちょっと怖い。人は事実を指摘されると逆上するんだよ。オレたち報復されたりしないよね?
 けれど心配は無用だった。アルディラはすでにこの街を離れたらしい。長年この街で最強と言われて来たのにあっさり街を離れるなんて、ギルドが追放したっぽいが、ずいぶん思い切った対応だなあ。

「もしかしたら、いちゃもんつけてその使役獣取り上げるつもりだったのかもな。マナー違反ギリギリのことをするんだが、この街最強って言われてるから、だれも何も言えなかったんだよ」
「つまり俺たちはギルドに利用されたってことか」
「誰が見ても治癒術師のほうが大事だから、チャンスをギルドが見逃さなかったってだけだろ。最初から計画してお前らの機嫌損ねたら、ギルドは大損だ」

 調子に乗ってる彼らに釘をさす理由を探していたところに、ちょうどいい餌が転がり込んで来たってとこか。

 話している相手は、ギルドが紹介してくれた使役獣のいるパーティー『ロビンバル』で、使役獣はオオカミだ。
 3日間過ごしたお風呂付のいい宿を出て、最初に泊ったご飯の美味しい宿に戻って来たんだけど、ちょうど使役獣のいるパーティーが泊まっていて、声をかけてくれた。
 オオカミは、転生するならこういうカッコいい動物も良かったなって思うくらいカッコいいんだけど、ちょっと怖い。本能がこの相手はヤバいと警鐘をならしている。もしかしてオオカミはオコジョの天敵なのかな。でも、他の使役獣に会う機会なんてめったにないんだから、頑張れオレ。

「キキッキキッ」
「ウォウオウウォッフ」

 オレ、オコジョのキリ。どうやって使役獣になったの?生まれた時のこと覚えてる?
 ジルはね、リューのことが好きなの。だから一緒にいるよ。気付いたらリューに捕まってたの。キリ、ちっちゃくて可愛い。

 うわあああ。オオカミのジルに捕まって、べろんべろん舐められてるんだけど、ご主人助けて―。

「ジルはキリのことが気に入ったみたいだな」
「キリ、大丈夫だ。ジル、優しくしてあげてくれな」
「ウォフッ!」

 やだー。分かってても怖いんだってば。2, 3口で食べられちゃいそうなくらい、オレちっちゃいんだから。それに、スペシャルな毛皮がジルのヨダレでぐっしょりしてるじゃないか。それ、オレのこと美味しそうと思ってのヨダレじゃないよね?

 ジルはまだ子どものころに飼い主さんが森で一匹でいるところを見つけて、魔法が使えるから使役獣にしたらしい。
 飼い主さんには、オレみたいにはっきり文章での意思疎通は出来なくて、だいたいこんな感じのこと考えてるっていうのが伝わるそうだ。でもジルは飼い主さんの言ってることはちゃんと理解しているから、やっぱりオレが転生者特典で言葉を伝えられる説が有力だな。よかった。これでちゃんと意思疎通できなかったらストレスが溜まっちゃうところだったよ。

 それにしても、オオカミってもっと賢いのかと思ってたけど、そうでもないのかな。犬が確かに人間の3歳くらいって聞いた気がするけど、このオオカミもそんな感じじゃない?それともジルがそうなのかなあ。
 見た目はキリっとしてちょっと怖いのに、中身はペットにしたい感じというか、うん、バ可愛い。失礼なことを言っている自覚はあるが、オオカミってもっと孤高の存在っていうオレの勝手なイメージがあってね。ジルはまんまハスキー犬なんだよ。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

処理中です...