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14. 話すと思考が整理される (リヒター視点)
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群生地候補の調査によって、1か所、土の薬剤に使う薬草の群生地が見つかった。
それによって、他のところでも見つかるかもしれない可能性が示されたので、王都から遠い森の調査も現地の冒険者に出すことになった。ただ、今は魔物が増えているらしいので、森の奥への依頼を受けてくれる人がいるかどうかは分からないらしい。
リオのいるグループは群生地の維持のためにはどれだけの薬草を残せばいいかといった知識が豊富だから、彼らには採取を任せたい。
薬剤は今までの半値で売り出すことになっているが、薬草が豊富に手に入るようになり、量産体制が整えば、もう少し値が下げられるかもしれない。
今日は、ヴェルナーにお願いした、領の抱える問題のレクチャーの日だ。
先生は、代官としてこの領の統治に関わってきた父上の部下だ。
ヴェルナーが領主代理に就任したことで、今はヴェルナーの補佐をしているが、補佐と言うよりも仕事を半分ずつ分担しているらしい。外との関係はヴェルナー、内部のことは代官が主となって対応しているそうだ。
「今一番の問題は、魔物が増えていることです。それに伴って、農村部で孤児が増えています」
「農夫が犠牲になっているということですか」
「あとは森で狩りをする者や冒険者だな」
そういえば、BLゲームの最終目標は魔物の発生を防ぐんじゃなかっただろうか。
ファンタジーの定番だから、このゲームだったのか姉が他に遊んでいたゲームだったのかは覚えていないが、魔物の発生を防げなくて、街に魔物が流れ込んできたと言っていた気がする。
この世界に生きているものとして、もし魔物が街に流れ込んで来たら、ゲームオーバーでやり直し、とかそんな気楽な話じゃない。
「街に籠るために対策はされているのですか?」
「籠る?」
「魔物が大量に発生した場合、街が襲撃されるのではないでしょうか」
「まさか、そのようなことは起きないでしょう」
「想定外の事態は起きるものです。万が一に備えて考えておいた方が良いと思います」
「そうだな。襲撃されるかどうかはともかく、魔物が増えて街道の行き来が難しくなったら、辺境の街や村は厳しいかもしれない。検討だけはしておくか」
魔物は、瘴気から生まれる。その瘴気を消せるのは、聖属性の魔法が使えるものだけだ。
ピンクのふわふわくんが主人公なら、実はピンクの髪の毛は聖属性が使える目印だったりするのだろうか。
私が悪役令息としての断罪を回避したせいで、この国が滅びるなんてことにならなければいいのだが。
それから他の問題も聞いたが、優先度が高く、私がすこしでも解決のために役立ちそうなものは、薬師不足くらいだった。
晴天が続いたことによる干ばつなど、私というより人間にはどうすることも出来ないし、そういう時のためにどれくらい備蓄をしておけばよいかなどは担当の人のほうが詳しいだろう。
けれど目の前の魔物のほうが喫緊の課題だ。
「来年は収穫量の増加が見込めますので、魔物の対策のための予算も大きく取れそうです。ありがとうございます」
「領のためになってよかったです」
公爵領は、王都のすぐ西側にあり、領の北側には森が広がる。森は植物や動物の宝庫であるが、同時に魔物もいる。
その森から魔物が農地のほうへ出てきている、ということだ。
森の中に瘴気が溜まっているところがあるのかもしれない。
けれど瘴気については、学園の授業で習った程度しか知らない。
ここはやはり専門家に聞くべきだろう。
「これはご子息様、冒険者ギルドにどのようなご用件でしょうか」
「瘴気について知りたいので、詳しい人を紹介してください」
「魔物が増えている件ですね。冒険者の知ることは私にも分かりますので、僭越ながら私が」
冒険者ギルドのギルド長が教えてくれることになった。
聞けた内容は学園の授業で聞いたものとあまり変わらなかったが、実際に瘴気に触れ、瘴気から生まれた魔物と戦っている人の話は貴重だ。
「では、瘴気は濃ければ魔物の周りに黒い靄として見えて、倒した魔物を燃やせばその靄はなくなるのですね」
「そうです」
「その燃やすのは、魔法の炎ですか?」
「ええ、そうです」
「火を起こして燃やしたのでは消せないのですか?」
「魔法の炎でなければ、燃やし尽くせないのです」
倒した魔物は燃やさないと、また瘴気を発生させ、新たな魔物を発生させる原因になる。
私は授業でこれを聞いた時に、不思議に思ったのだ。瘴気の浄化は聖属性でしかできないのに、なぜ燃やしたら瘴気は消えるのだろう、と。
瘴気が燃焼の熱によって分解あるいは変質される物であるなら、聖属性でなくても浄化できるはずだ。
そうでないなら、魔法の炎のほうに理由があるのだろう。それとも燃やすと、浄化はされずに瘴気が散らされているだけなのか。
空気中の二酸化炭素濃度計のように、瘴気の濃度が測れれば分かるのだが。
「ここは瘴気が濃いと感じたりしますか?」
「特に濃いところは分かります。背筋がぞわぞわするといいますか。瘴気が濃いところは植物も枯れるので、あまり長くいたいとは思えません」
植物が枯れるということは、瘴気には生命活動を阻害する何かがあるということだ。
「瘴気が濃い場所から、土と植物を採取してくる依頼を出した場合、受けてくれる冒険者はいますか?」
「採取ですか?」
「リヒター様、お待ちください。街の中に瘴気に触れたものを持ち込むことは賛成できません」
「魔物の素材は持ち込んでいますよね?」
「瘴気に侵されている魔物の素材は採取しません。ギルドに持ち込まれた場合は、燃やすか、神殿で浄化してもらいます」
魔物は瘴気から生まれるのに、常に瘴気に侵されているわけではないのか。あるいは濃度の問題なのか。分からなくなってきた。
瘴気に侵された植物を見てみたかったが、護衛に止められてしまったし、これは見に行く許可も出ない気がする。
やはり瘴気の濃度を測って数値化したい。
そもそも瘴気ってなんなん。
冒険者ギルド長によると、瘴気自体については神殿のほうが詳しいだろうということなので、次は神殿に取材にきている。
神殿は国からは独立した存在ではあるが、関係は良好だ。ちなみに多神教なので、私も違和感なく信仰できている。
「ご子息様、お待たせしました」
「いえ、魔物が増えてお忙しい中、ご対応ありがとうございます」
「それで、瘴気についてお知りになりたいということでしたが」
「魔物は瘴気から生まれると習いました。その瘴気とは何なのかと思いまして」
神官様の話を総合すると、瘴気とは負の性質を帯びた魔素のようだ。
ということは鑑定できない。
鑑定の魔法陣を覚えて一番最初に鑑定しようとしたのは魔素だ。魔素って何?という疑問を解決してくれると思ったのに、なぜか鑑定できなかった。私のレベルが足りないとかではなく、魔法学の先生にも出来ないらしい。魔法を使うために必要なのが魔素で、人の魔力の素であり、特定の物質には多く含まれる。空気中にもわずかだが漂っていると言われている。
負の性質を帯びた、という言葉がさす状態も広すぎて、さらに謎が深まっただけだ。
「魔物を倒した後、燃やすと瘴気が消えると聞きましたが、聖属性の魔法でなくても浄化できるのですか?」
「効率は悪いですが、燃やすことでも浄化できます。また、放置すると少しずつ空気に溶けていくと言われています」
そして空気中の瘴気が飽和すると、魔物が生れるのか。
瘴気の総量は増減するのか、それとも一定なのか。瘴気の発生源は何なのか。浄化とは瘴気を根本から失くすか別の無害なものに変換しているのか、ただ薄めているだけなのか。
ファンタジーなこの世界を科学の知識で解き明かそうとするのがそもそも無理があるのだと分かっているが、気になるものは気になる。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
こういう時は話すと整理されたりするのだが、生憎私にはちょっと聞いてよー、と言える友達がいない。
勤務時間を伸ばして申し訳ないが、護衛に犠牲になってもらおう。
「領内で森から出てくる魔物が増えている件ですが、森の浅いところに瘴気だまりが出来ているのではないかと考えました。それで、瘴気の濃度を測るのと、聖属性の魔法以外で瘴気が浄化する、というのが実現できないか考えています」
「それで土と植物と仰ったのですね」
「はい。瘴気には植物を枯らす何かがあるのだと思います。それが分かれば瘴気を知る手がかりにならないかと思いました」
「現地調査はヴェルナー様の許可が下りないと思いますよ」
「ですよね……」
護衛の隊長さんは、王都からの付き合いだから、私が現地調査に行きたいのも分かっていて、そしてヴェルナーに止められるのも分かっている。
どの植物がどんなふうに枯れているのか見たいが、無理だろうなあ。瘴気に触れて枯れるのか、根から吸い上げて枯れるのか。
吸収か。負の性質を帯びた魔素なら、普通の魔素と同じように吸収できるんじゃないだろうか。
人の魔力は特殊な素材に溜めることができるが、魔力とは結局のところ魔素だろう。
「空の魔石に瘴気を吸収させられないでしょうか」
「空の魔石ですか?」
「空の魔石には人の魔力を溜めることができますよね。同じように瘴気を溜められないかと思って。どちらも魔素ですよね」
「危険ではありませんか?」
「小さな空の魔石に溜まるまでの時間で、瘴気の濃さを測れる気がします。でも確かにその魔石を放置すると危険ですね」
もし溜められたとして、その瘴気が溜まった魔石をその後どうするのか、瘴気が持ち運べるのはとても危険だ。
もう少し考える必要があるな。
「リヒター」
「ヴェルナー、お仕事はどうしたのですか」
「伝えておきたいことがあってな」
まだ夕食の時間ではないのに、ヴェルナーがお屋敷に来るのは珍しいし、ヴェルナーの歯切れが悪い。何かあったのだろう。
話をするために座っていた護衛たちが立ち上がり、私の後ろへ下がった。
「ラプラス王国に近い辺境で、魔物が大量発生して、街が一つ潰れたそうだ」
「なんてことに」
「それから……、第二王子殿下の婚約者の男爵子息が、浄化能力を持っていることが分かった。明日、神子であると正式に発表される」
「そうですか」
やはりピンクのふわふわくんが浄化能力を持っているということは、ゲームの内容は魔物の発生を抑えるので間違いないのだろう。
けれど、ヴェルナーはなぜこんなに言いにくそうなんだろう。
「もしかして、この領の浄化はしないと言われましたか」
「……この領は最後だと」
それによって、他のところでも見つかるかもしれない可能性が示されたので、王都から遠い森の調査も現地の冒険者に出すことになった。ただ、今は魔物が増えているらしいので、森の奥への依頼を受けてくれる人がいるかどうかは分からないらしい。
リオのいるグループは群生地の維持のためにはどれだけの薬草を残せばいいかといった知識が豊富だから、彼らには採取を任せたい。
薬剤は今までの半値で売り出すことになっているが、薬草が豊富に手に入るようになり、量産体制が整えば、もう少し値が下げられるかもしれない。
今日は、ヴェルナーにお願いした、領の抱える問題のレクチャーの日だ。
先生は、代官としてこの領の統治に関わってきた父上の部下だ。
ヴェルナーが領主代理に就任したことで、今はヴェルナーの補佐をしているが、補佐と言うよりも仕事を半分ずつ分担しているらしい。外との関係はヴェルナー、内部のことは代官が主となって対応しているそうだ。
「今一番の問題は、魔物が増えていることです。それに伴って、農村部で孤児が増えています」
「農夫が犠牲になっているということですか」
「あとは森で狩りをする者や冒険者だな」
そういえば、BLゲームの最終目標は魔物の発生を防ぐんじゃなかっただろうか。
ファンタジーの定番だから、このゲームだったのか姉が他に遊んでいたゲームだったのかは覚えていないが、魔物の発生を防げなくて、街に魔物が流れ込んできたと言っていた気がする。
この世界に生きているものとして、もし魔物が街に流れ込んで来たら、ゲームオーバーでやり直し、とかそんな気楽な話じゃない。
「街に籠るために対策はされているのですか?」
「籠る?」
「魔物が大量に発生した場合、街が襲撃されるのではないでしょうか」
「まさか、そのようなことは起きないでしょう」
「想定外の事態は起きるものです。万が一に備えて考えておいた方が良いと思います」
「そうだな。襲撃されるかどうかはともかく、魔物が増えて街道の行き来が難しくなったら、辺境の街や村は厳しいかもしれない。検討だけはしておくか」
魔物は、瘴気から生まれる。その瘴気を消せるのは、聖属性の魔法が使えるものだけだ。
ピンクのふわふわくんが主人公なら、実はピンクの髪の毛は聖属性が使える目印だったりするのだろうか。
私が悪役令息としての断罪を回避したせいで、この国が滅びるなんてことにならなければいいのだが。
それから他の問題も聞いたが、優先度が高く、私がすこしでも解決のために役立ちそうなものは、薬師不足くらいだった。
晴天が続いたことによる干ばつなど、私というより人間にはどうすることも出来ないし、そういう時のためにどれくらい備蓄をしておけばよいかなどは担当の人のほうが詳しいだろう。
けれど目の前の魔物のほうが喫緊の課題だ。
「来年は収穫量の増加が見込めますので、魔物の対策のための予算も大きく取れそうです。ありがとうございます」
「領のためになってよかったです」
公爵領は、王都のすぐ西側にあり、領の北側には森が広がる。森は植物や動物の宝庫であるが、同時に魔物もいる。
その森から魔物が農地のほうへ出てきている、ということだ。
森の中に瘴気が溜まっているところがあるのかもしれない。
けれど瘴気については、学園の授業で習った程度しか知らない。
ここはやはり専門家に聞くべきだろう。
「これはご子息様、冒険者ギルドにどのようなご用件でしょうか」
「瘴気について知りたいので、詳しい人を紹介してください」
「魔物が増えている件ですね。冒険者の知ることは私にも分かりますので、僭越ながら私が」
冒険者ギルドのギルド長が教えてくれることになった。
聞けた内容は学園の授業で聞いたものとあまり変わらなかったが、実際に瘴気に触れ、瘴気から生まれた魔物と戦っている人の話は貴重だ。
「では、瘴気は濃ければ魔物の周りに黒い靄として見えて、倒した魔物を燃やせばその靄はなくなるのですね」
「そうです」
「その燃やすのは、魔法の炎ですか?」
「ええ、そうです」
「火を起こして燃やしたのでは消せないのですか?」
「魔法の炎でなければ、燃やし尽くせないのです」
倒した魔物は燃やさないと、また瘴気を発生させ、新たな魔物を発生させる原因になる。
私は授業でこれを聞いた時に、不思議に思ったのだ。瘴気の浄化は聖属性でしかできないのに、なぜ燃やしたら瘴気は消えるのだろう、と。
瘴気が燃焼の熱によって分解あるいは変質される物であるなら、聖属性でなくても浄化できるはずだ。
そうでないなら、魔法の炎のほうに理由があるのだろう。それとも燃やすと、浄化はされずに瘴気が散らされているだけなのか。
空気中の二酸化炭素濃度計のように、瘴気の濃度が測れれば分かるのだが。
「ここは瘴気が濃いと感じたりしますか?」
「特に濃いところは分かります。背筋がぞわぞわするといいますか。瘴気が濃いところは植物も枯れるので、あまり長くいたいとは思えません」
植物が枯れるということは、瘴気には生命活動を阻害する何かがあるということだ。
「瘴気が濃い場所から、土と植物を採取してくる依頼を出した場合、受けてくれる冒険者はいますか?」
「採取ですか?」
「リヒター様、お待ちください。街の中に瘴気に触れたものを持ち込むことは賛成できません」
「魔物の素材は持ち込んでいますよね?」
「瘴気に侵されている魔物の素材は採取しません。ギルドに持ち込まれた場合は、燃やすか、神殿で浄化してもらいます」
魔物は瘴気から生まれるのに、常に瘴気に侵されているわけではないのか。あるいは濃度の問題なのか。分からなくなってきた。
瘴気に侵された植物を見てみたかったが、護衛に止められてしまったし、これは見に行く許可も出ない気がする。
やはり瘴気の濃度を測って数値化したい。
そもそも瘴気ってなんなん。
冒険者ギルド長によると、瘴気自体については神殿のほうが詳しいだろうということなので、次は神殿に取材にきている。
神殿は国からは独立した存在ではあるが、関係は良好だ。ちなみに多神教なので、私も違和感なく信仰できている。
「ご子息様、お待たせしました」
「いえ、魔物が増えてお忙しい中、ご対応ありがとうございます」
「それで、瘴気についてお知りになりたいということでしたが」
「魔物は瘴気から生まれると習いました。その瘴気とは何なのかと思いまして」
神官様の話を総合すると、瘴気とは負の性質を帯びた魔素のようだ。
ということは鑑定できない。
鑑定の魔法陣を覚えて一番最初に鑑定しようとしたのは魔素だ。魔素って何?という疑問を解決してくれると思ったのに、なぜか鑑定できなかった。私のレベルが足りないとかではなく、魔法学の先生にも出来ないらしい。魔法を使うために必要なのが魔素で、人の魔力の素であり、特定の物質には多く含まれる。空気中にもわずかだが漂っていると言われている。
負の性質を帯びた、という言葉がさす状態も広すぎて、さらに謎が深まっただけだ。
「魔物を倒した後、燃やすと瘴気が消えると聞きましたが、聖属性の魔法でなくても浄化できるのですか?」
「効率は悪いですが、燃やすことでも浄化できます。また、放置すると少しずつ空気に溶けていくと言われています」
そして空気中の瘴気が飽和すると、魔物が生れるのか。
瘴気の総量は増減するのか、それとも一定なのか。瘴気の発生源は何なのか。浄化とは瘴気を根本から失くすか別の無害なものに変換しているのか、ただ薄めているだけなのか。
ファンタジーなこの世界を科学の知識で解き明かそうとするのがそもそも無理があるのだと分かっているが、気になるものは気になる。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
こういう時は話すと整理されたりするのだが、生憎私にはちょっと聞いてよー、と言える友達がいない。
勤務時間を伸ばして申し訳ないが、護衛に犠牲になってもらおう。
「領内で森から出てくる魔物が増えている件ですが、森の浅いところに瘴気だまりが出来ているのではないかと考えました。それで、瘴気の濃度を測るのと、聖属性の魔法以外で瘴気が浄化する、というのが実現できないか考えています」
「それで土と植物と仰ったのですね」
「はい。瘴気には植物を枯らす何かがあるのだと思います。それが分かれば瘴気を知る手がかりにならないかと思いました」
「現地調査はヴェルナー様の許可が下りないと思いますよ」
「ですよね……」
護衛の隊長さんは、王都からの付き合いだから、私が現地調査に行きたいのも分かっていて、そしてヴェルナーに止められるのも分かっている。
どの植物がどんなふうに枯れているのか見たいが、無理だろうなあ。瘴気に触れて枯れるのか、根から吸い上げて枯れるのか。
吸収か。負の性質を帯びた魔素なら、普通の魔素と同じように吸収できるんじゃないだろうか。
人の魔力は特殊な素材に溜めることができるが、魔力とは結局のところ魔素だろう。
「空の魔石に瘴気を吸収させられないでしょうか」
「空の魔石ですか?」
「空の魔石には人の魔力を溜めることができますよね。同じように瘴気を溜められないかと思って。どちらも魔素ですよね」
「危険ではありませんか?」
「小さな空の魔石に溜まるまでの時間で、瘴気の濃さを測れる気がします。でも確かにその魔石を放置すると危険ですね」
もし溜められたとして、その瘴気が溜まった魔石をその後どうするのか、瘴気が持ち運べるのはとても危険だ。
もう少し考える必要があるな。
「リヒター」
「ヴェルナー、お仕事はどうしたのですか」
「伝えておきたいことがあってな」
まだ夕食の時間ではないのに、ヴェルナーがお屋敷に来るのは珍しいし、ヴェルナーの歯切れが悪い。何かあったのだろう。
話をするために座っていた護衛たちが立ち上がり、私の後ろへ下がった。
「ラプラス王国に近い辺境で、魔物が大量発生して、街が一つ潰れたそうだ」
「なんてことに」
「それから……、第二王子殿下の婚約者の男爵子息が、浄化能力を持っていることが分かった。明日、神子であると正式に発表される」
「そうですか」
やはりピンクのふわふわくんが浄化能力を持っているということは、ゲームの内容は魔物の発生を抑えるので間違いないのだろう。
けれど、ヴェルナーはなぜこんなに言いにくそうなんだろう。
「もしかして、この領の浄化はしないと言われましたか」
「……この領は最後だと」
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