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世界を越えてもその手は 続3章 ドロップ品のオークション 4

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◆タゴヤの孤児院(15. 孤児院再訪)

「捕まえろー!」
「そっちだー!」
「みなさん、やめなさい!」
『ちょっとー、逃げても逃げても追いかけてくるんだけど』
「リネ、子どもたちには攻撃するなよ」
『分かってるよ。アルはオレのことなんだと思ってるの。でも逃げてるだけじゃ面白くないよね』
「わあ! 光った!」
「ピカピカ!」
「三つに分かれた!」
「すごーい、分身してる!」
「ブラン、あれってどうやってるの?」
『(虚像を見せているだけだ。本体は屋根の上だ)』
「おおー。リネ、すごいねえ」
『(あれくらい、俺もできる)』
「ブランもすごいね」(拗ねてるブランも可愛い)


◆ドガイ中央教会(16. 世界の越え方)

「アレックス、ユウくんのこと聞いた」
「ユウのこと?」
「出身地」
「そうか。話したのか」
「お前の相談に乗ってやってくれって。ユウくん、いろいろ苦労してんだな」
「ユウは家族のところに戻りたいんだ。今でも諦められないんだろう」
「いや、そうじゃないだろ。なあ、ユウくんがこの前孤児院で、何にショックを受けたか聞いたか?」
「いや、聞いてない」
「お前なあ……。まずちゃんと話を聞いてあげろ」
「ユウが話したくないのに、無理に聞くのはよくないだろう?」
「それですれ違ってどうするんだ。ちゃんと聞いて、問題ないって安心させてやらないと」
「分かった。この後聞いてみる」
「それから、ユウくんにプレゼントあげてないだろう」
「身代わりのブレスレットはあげた」
「それは、シリウスの子たちにもだろう? ユウくんだけに何か特別なもの、あげたことあるのか?」
「……ない」
「ユウくんが不安になっても仕方ないぞ? ちゃんと毎年誕生日にはプレゼントをあげろ」
「毎年……。何をあげればいいんだ?」
「いや、それくらい自分で考えろよ。ドガイで遊んでた奴らに、おねだりされて渡してただろう」
「ユウは何も欲しがらないから」
「定番は花かアクセサリー。っていうか、ユウくんの誕生日、知ってるよな?」
「……」
「はあ。アレックス、愛想をつかされなくてよかったなあ」


◆ドガイの王宮・オークション会場(17. 仲直りの朝)

「内密に、席をずらすことになった」
「今からですか?」
「そうだ」
「こんな直前に、どこの王族がわがまま言ってきたんですか?」
「内密だと言ったはずだ。誰に何を聞かれても答えるな。ここからここの席を少し前に出して、左へずらす。ここから向こうは少し前に出して右だ」
「え、全部ですか?」
「時間がない。急げ」
「お前たちはそこに、天蓋を準備しろ」
「え、ここだと陛下よりも上座に……?!」
(((出席者分かったけど、言ったら首が飛ぶやつだ!)))


◆ドガイの王宮・オークション会場(18. オークション)

「あの席は、もしかして……」
「出席されるのでしょうか?」
「テオリウス殿下、ご存じですか?」
「元の予定では、すでにモクリークにお戻りになっているのですが……」
「昨日は神獣様が孤児院にご降臨になったとか。羨ましいですねえ」
「王宮にもお出まして、宝石をご所望になったとか」
「いらっしゃってもいいように、お席は用意されているのかもしれませんね」
「そういえば、ソント王国の席はどちらでしょう」
「あの端のようですね。ということは、あの契約者様を怒らせたといううわさは本当なのですね」
(アレックス以上に大司教様が怒っていたということは、黙っていたほうがいいんだろうな)
「神獣様を敵に回すかもしれないのに、なんと恐ろしい……」
((これでソントの分のマジックバッグはうちに回ってくるぞ。しめしめ))

「テオリウス殿下、あれはまさか……」
「アレックス様とテイマー殿、それに従魔のシルバーウルフですね」
「神獣様は、いらっしゃらないのですか。残念です」

「あっ」
「ユウ、大丈夫か?」
「え? あ、アル、降ろして」
「このまま席まで行くからじっとしていろ」
((階段につまづいた? 冒険者じゃなかったのか??))


◆ドガイの王宮・オークション会場(19. 呪いの宝石)

「契約者様方は、オークションをとても楽しまれたようですね」
「しかしお二人とも、仲睦まじいご様子でしたねえ」(テイマーだけでも取り込みたかったが、無理か)
「もちろん量もだが、これだけ高品質のドロップ品を手に入れられるということは、神獣様はやはりお強いのでしょうね」(うちのダンジョンを攻略してもらいたい)
「出品された品は、神獣様と契約される前のものですよ」
「ということは、契約者様のご功績か」(Sランク冒険者としても、神獣の契約者としても、ぜひともうちに欲しい)
「テオリウス殿下、あの従魔は強いのですか?」
「カージのギルドではテイマーとして昇格試験を受けたようですが、試合が成立しなかったと聞いています。モクリークではアイテムボックスへの評価でSランクとなっていますので、従魔のランクは分かりません」(災害級だと言われているが、ギルドも明言していないくらいだ。ここで言う必要もないだろう)
「モクリークがうらやましいですなあ」(神獣様とアイテムボックスに強い従魔、一つくらいはくれてもいいだろう)
「あふれの際には本当に助けられています」(こっちはあふれが少ない国のほうがうらやましいのに)
「アイテムボックスがあるのですから、もう少しマジックバッグを我々に融通いただいてもいいのでは?」
「テイマー殿が駆けつけることのできるところだけで、あふれがおきるわけではありませんので」


◆ドガイの王宮(20. 企みの狙い)
※if ブランが犯人を探したら

「ブラン、犯人探せる?」
『もちろんだ。我を誰だと思っている』
「神獣探偵ブラン様」
『そうだ。宝石を持ってこい』
「ブラン様、こちらです」
『ふむ。関係者を全員集めろ。この宝石についた匂いの持ち主が犯人だ』
「え? 匂いで探すの? 神様の特別な力とかじゃないの??」
『一番確実だろう』
「それ、神獣じゃなくてもできるよね?」
『グルルゥゥ!』
((ユウさん、それを言ってはいけません!))


◆ドガイの王宮(20. 企みの狙い)

「呪いの宝石とはどういうことだ」
「なぜオークションにそのようなものが」
「モクリークの出品リストにはなかったので、ドガイにきてからすり替えられたのではないかと疑われているようです」
「誰が気付いたんだ?」
「モクリークの大司教様です」
「中央教会に行くぞ」
「陛下、ですがそれは止められて」
「なんとしても弁明して神罰を回避しなければ。行くぞ」(それに契約者に会えるチャンスだ)


◆ドガイ中央教会(21. おしゃれな宝石)

「テイマー殿を連れてオークションに出るとは、思い切ったことをするね。彼はああいうのは苦手だろう?」
「ユウは俺のものだと見せておきたかっただけだ」
「ソント王国と王女には釘をさしておいたよ。ドガイからも教会からも抗議があったようで、王女は早々に国に返されたそうだ」
「助かる」
「アレックスからの初めてのお願いだからね。まあ、あれだけ見せつければ、君たちの仲を裂くようなことはしないだろう」
「ユウに余計なことを吹き込まないでくれれば、それでいい」
(周りへのけん制もだが、テイマー殿の逃げ道を塞ぎたかったのか?)
「呪いの宝石については、神獣様を害そうとする暴挙だと糾弾しておいたから、ドガイも犯人を本気で探すだろう」
「狙いはリネでなくユウだろう?」
「というよりもモクリークだろうね。神獣様はこの件にお怒りではなかった、よな?」
「リネはあの通りまったく気にもしていないから、安心していい」(宝石についてはブランも気にしていなかったが、あの程度の呪いはどうとでもできるんだろう)
「よかった……。狙いだけど、テイマー殿を派遣してくれという要望は、ずっと断っているのにいまだにあるからね。それが無理でもマジックバッグを要求できると踏んだんだろう。まったく、舐められたものだ」
「ユウに何をさせたいんだ?」
「それこそ、ダンジョン攻略ですべてのドロップ品を運んでもらえば、オークションにかけるほどの品が集まるだろ」
「マジックバッグも数がないのか」
「ここにきて気づいたけど、俺たちは圧倒的に荷物が少ないんだ。他の国が馬車を連ねてきているのを見て、懐かしく思うくらいにね。だけど、料理人に時間停止のマジックバッグを持たせてるなんて、知られたら襲われるぞ?」
「それだけ俺たちにとって食事は重要なんだ。ところで、一つ聞きたいことがあるんだが」
「なんだ?」
「特別なプレゼントとは、何をあげればいいんだ?」
「はあ? プレゼントって、それはテイマー殿にか?」
「そうだ。定番は花かアクセサリーと聞いたんだが、ユウが欲しがると思えない」
「その指輪は?」
「ユウがくれた」
「それこそ、今日の宝石を贈ればよかったんじゃないか?」
「ユウは宝石の違いが分からない」
「だから惜しげもなく寄付してるのか。うーん、テイマー殿は何が好きなんだ?」
「もふもふと温泉だ」
「もふもふ?」
「動物のふわふわの毛のことだ」
「珍しいふわふわの小動物をプレゼントしてはどうだ?」
「従魔が嫌がる」
「だったら、温泉地の別荘でも贈っておけ」
「できれば庶民的なもので」
「いや、俺は王子だからな? 庶民の生活なんて知らないぞ? それにお前ら、国よりも金持ってるだろ」(注文が多いな)
「ユウは仰々しいのは嫌いなんだ」
「風呂が好きなら、オリジナルの入浴剤を作らせるとか?」
「入浴剤か、それにしよう。助かった」
「役に立ててよかったよ」(あれだけいちゃいちゃしておいて、いまさら付き合いたての恋人同士か)
「礼になるか分からないが、魔剣が余っているから使うか?」
「ちょっとまて、余ってるってなんだ。いや、言わなくていい。俺は何も聞かなかった。いいな?」
「? いらないならいいが」
(常識的な奴だと思っていたが、実は非常識なんじゃないのか?)
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