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世界を越えてもその手は 続2章 新たな日々 1

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◆中央教会(1. ブランとの新たな日々)

「チルダム司教様、献上の布がかなり集まりました」
「そうですね、そろそろユウさんの服を仕立てましょうか。こちらの布はアレックス様のマントによさそうですね」
「ユウさんの服は、いつものようにシンプルな形で注文してよろしいですか?」
「ヴィゾーヴニル様のご降臨もありましたので、少し装飾をつけましょう。仕立て職人を呼んでください」
「畏まりました」

「サジェル殿、ユウさんの服を少し華やかにしたいのですが、仕立て職人との話し合いに参加をお願いします」
「畏まりました。ユウ様は背があまりお高くないので、全体的にというよりは、一部の装飾を凝ったほうがよろしいかと思います。アレックス様もあまり派手なものはお好みでありませんので」
「では、華美になりすぎない貴族の普段着を目安としましょうか。ユウさんはせっかくお可愛らしい顔立ちをされているのに、服には無頓着ですよね」
「色合わせが分からないとおっしゃっていつも同じような色を選ばれますが、これからは少し華やかなお衣装をご提案させていただきましょう」

「いつものように、氷花の二人の服の仕立てをお願いします。今回は、ユウさんの黒髪が映えるような色合いで、今までよりは豪華に、ですが派手になりすぎないよう、ポイントに凝ってください」
「あの、神獣の契約者様は……?」
「いつものように動きやすさを最優先でお願いします。アレックス様は剣士ですから」
(アイテムボックス持ちのほうが豪華になるけど、それでいいのかな? 司教様が言うならいいんだよね?)


◆モクリークのとある商会(2. ひとりでのあふれの対応)

「冒険者ギルドから、ライダーズを氷花のテイマーの護衛につけたいので、依頼を打ち切ってほしいと言われているのですが、どうしましょうか」
「ここはギルドに恩を売っておきましょう。ライダーズのお二人には、今後も是非お願いしたいと伝えてください」
「分かりました」
「彼らがいると神獣様がお立ち寄りになるからと、他の商会も狙っていますから、できることなら専属になっていただきたいですが」
「ダンジョンに潜ったり、いろいろな依頼を受けたいそうで、断られてしまいました」
「他に氷花の友人で護衛を受けているパーティーはいませんか?」
「シリウスはテイマーの友人として有名ですが、彼らはフェリア商会が囲い込んでいます」
「ライダーズとの縁を切らさないようにするしかありませんね」


◆中央教会(2. ひとりでのあふれの対応)

「ツェルト助祭、馬に乗れましたよね?」
「はい。馬の産地の育ちですので」
「キバタのダンジョンがあふれました。ユウさんに同行してください」
「私が、ですか? チルダム司教様も一緒ですか?」
「中央教会からは貴方だけです。他の者は後から馬車で追いかけます。ユウさんと面識があって馬で移動できそうな者が他にいませんので」
「え?」
「責任重大です。大変だとは思いますが、お願いします」
「はい……」
「分かっているとは思いますが、外ではブラン様にはただの従魔として接するように」
「はい……」

「あれ、ツェルト助祭様」
「今回、馬の扱いに慣れているということで、わ、私が同行することになりました。よろしく、お願いいたします」
「こちらこそお願いします」(緊張で耳がぺったんこになってるの可愛い)
「教会の外では、ブラン様に従魔として接しますが、その、どうか、お許しを……」
「大丈夫ですよ。ねえブラン、助祭様に大丈夫だって言ってあげてよ」
『そんなに緊張するな。取って食ったりはせん』
「っ!!」(ブラン様が、ブラン様が私の手に触れてくださった! 叫んじゃいけないけど、叫びたい!!)
(ツェルト助祭、そこを代わりなさい!)
(くっ、馬の訓練をして次は私が!)


◆タハウラのギルド(3. 僕への依頼)

「容量大を十個、足りなければまだありますけど」
「これだけあれば十分足りるだろう」(何人が何日いる想定なんだ? 食料と水だけなら二つで十分だろう)

「キバタへ向かうSランクの信用できるパーティーがいたら、依頼を出したいから連れてきてくれ」
「何をさせるんですか?」
「初級ダンジョンに物資を運ばせる。テイマーがマジックバッグを大量に貸してくれた」
「信用度もSランクのパーティーを探してきます」

「教会の物資も出しましょう。寝具なども入れたいですね」
「子どもも避難しているなら、おもちゃとかもあったほうがいんじゃないですか?」
「おもちゃですか?」
「ダンジョンのセーフティーエリアって暇ですよね。僕もいつもやることがなくて」
((いやいや、セーフティーエリアは攻略中に休むところだからな? 今回は違うが……))


◆初級ダンジョン内(4. 避難民の対応)

「冒険者ギルドの依頼で、食料を持ってきた」
「おおーっ、やった! 食料が足りなかったので嬉しいです!」
「どれくらい避難しているんだ?」
「住民が七十人ほど、冒険者は俺たち含めてDランクが三パーティーです。後はあふれの対応に出ていきました。中は司祭さんが取り仕切ってます」
「セーフティーエリアまでの行き方を教えてくれ。武器も持ってきたが、欲しいものはあるか?」
「予備の剣を俺たちには三本あると嬉しい。あとできれば、ポーションも」
「分かった。セーフティーエリアに出しておく」
「こっちのモンスターはいつも通りか?」
「はい。俺たちでも倒せる弱いのばかりです」
「あれふがいつまで続くか分からないから、交代してしっかり休憩は取れよ」

「司祭様、冒険者ギルドの依頼で、教会の支援物資を持ってきました」
「ありがたいのですが、物資はどちらに?」
「まずは、物資を置くセーフティーエリアを無人にしてください。話はそれからです」
「……分かりました。一つ下のセーフティーエリアにも人がいるのですが、分けてもらうことはできますか?」
「できます」
「では、人を出しますので、少々お待ちください。みなさん、物資が届きました。このセーフティーエリアに並べるために、一度外に出てください。冒険者の皆さんは、護衛をお願いします」
「司祭様、邪魔しないから隅っこにいるんじゃだめなんですか?」
「申し訳ありませんが、一度出てください。お願いします」
「仕方ないねえ」
「ありがとうございます。みなさん、これであふれが収まるまで、ここに籠っていられますからね。その準備に少しだけ外に出ていてくださいね」

「司祭様、ここで見たものは、他言無用でお願いしますよ。俺たちも口外できないっていう契約をしてますから」
「もちろんですが、そんなに大ごとなのですか?」
(マジックバッグからマジックバッグを取り出す)
「この二つが水、この三つが食料、こっちはポーション、これは武器、この二つが寝具と服、最後にこれが子ども用の遊び道具です。何がどれくらい必要か、教えてください」
「……氷花のお二人ですね。これは住民には見せられませんね」
「タペラで持ち逃げされそうになっているので、警戒しているようです」
「それでもこうして貸し出してくださったことに、心からの感謝を」


◆街道(5. 王都への帰路)

『ユウ、外に出て平気?』
「うん。心配してくれてありがとう」
『よかった。あの甘いのちょうだい』

(神獣様って本当に人間の言葉を話されるんだな)
(おい、あの神獣様の契約者は剣士なんじゃないのか?)
(剣士の恋人だから、契約者みたいなものとか?)
(甘いのってケーキか。鳥がケーキ……)
(神獣様の食事って人間と一緒なのか? っていうか神獣様って食事が必要なのか?)


◆街道(6. 人のなすべきこと)

「お、おい、あれ」
「生きてる……?」
「テイマーの膝の上にひっくり返ってるだけ、だよな?」
「神獣様だから、滅多なことにはならないだろう」
「だよな。お腹撫でてもらってるだけだ、うん」
「神獣様、剣士よりもテイマーのほうが仲良くないか?」
「やっぱりあのふたりはセットなんだろ」
「絶対王都に帰ったら神獣様のこと聞かれるよな」
「隊長に全部任せようぜ。話していいことと悪いことが分からないから隊長に聞いてください、でいいだろ」
「だな」


◆街道沿い(6. 人のなすべきこと)

「いいなあ。俺も空飛んでみたい」
「あれは憧れるな」
「みんな一度はあれに憧れて、テイマーになりたいって思うよな」
「でも、モンスターがいるところを焼き払うって……」
「キバタの街も全部ってことだよな」
「神獣様ならできるんだろう。そりゃ助祭様も必死で止めるよな」
「人懐っこそうに見えても、神は神ということだな」
「触らぬ神に祟りなし、の典型だろう」


◆モクリーク中央教会(6. 人のなすべきこと)

『はあ。やっぱりこの魔剣、かっこいいよねえ。うっとり』
「リネ、どのあたりがかっこいいの?」
『ユウ、ほら見てみてよ、ここの曲線もだし、光り方もだし、完璧だよね!』
「そ、そうかな……」
『ユウ、もしかしてこの美しさが分からないの?』
「ごめんね。僕は宝石とかよく分からなくて」
『じゃあ今度ユウに似合う宝石を選んであげるよ』
『やめろ。選ぶならアルのものにしろ』
『えー、アルを飾っても面白くないじゃん』
「悪かったな」
「僕を飾っても面白くないと思うよ」
『そうだ、あの鷲の獣人の飾り羽に似合う宝石を探そう』
「リネ、タムジェントは冒険者だから邪魔になる」
『ええー』
「リネ、大司教様に似合うものを探したらどうかな?」
『そうする!』
(大司教様、人身御供にしてごめんなさい!)
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