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世界を越えてもその手は 4章 もう一つのスキル
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◆モクリークの王宮(1. 別荘購入)
「氷花がカザナラの離宮を購入するかもしれません」
「家を買うのか?」
「離宮を?」
「ギルドが氷花の家の候補を作成する際にカザナラの離宮を入れておきましたが、カザナラで家を探しているということで離宮が目に留まったようです」
「あそこを買うとなると、使用人はどうする」
「商業ギルドは執事経験者などを薦めるつもりでいるそうです」
「サジェル」
「はい」
「その時は行ってくれるか」
「かしこまりました」
「父上、サジェルを辞めさせるのですか」
「下手なものに任せるわけにはいかない。貴族との繋がりなどで無理を押し切られると困る」
「しかし、陛下との繋がりを嫌って避けられないでしょうか」
「そのときは、王宮とつながりのない、他の信用できるものを探すしかないな」
「サジェル、氷花と会ってどうだった」
「はい。彼らと契約することとなりました」
「王宮とのつながりについては、氷花は気にしていませんでしたか?」
「ユウ様は乗り気ではありませんでしたが、アレックス様が離宮を買うのであればそういうものだとおっしゃって、契約となりました」
「つまり剣士はこちらの思惑を分かっているということか」
「貴族からの横やりを防ぐために知識を使いたいとのことでした」
「ほかに何か気付いたことはあるか」
「ユウ様は離宮のように大きなお屋敷はご希望ではなかったようです。使用人ですが、ユウ様のご希望で孤児院のものたちを採用いたします」
「貴族が嫌いだからか?」
「身分にこだわりがないように見受けられました」
「サジェル、寂しくなるな」
「もったいないお言葉でございます。今までありがとうございました」
「よろしく頼む」
◆モクリークの王宮(1. 別荘購入)
「ユウ、本当に使用人の希望はないのか?」
「ないよ?なんで??」
「いや、ユウなら獣人のメイドがいいと言うかと思って」
「え、猫耳メイドさん?おかえりにゃん、とか言ってくれるの?!」
「ユウ様、そのような言葉遣いをするメイドは雇いません」
「やっぱりダメだ。サジェル、獣人をユウの目に入るところにはなるべく配置しないでくれ。耳と尻尾を凝視して怖がられる可能性がある。先に説明しておいてほしい。勝手に触ったりはしないが」
「そんなことしないよ!セクハラ反対!」
「ユウ、キリシュが執事の格好をしていたとする」
「絶対カッコいいよね!見てみたいなー。執事服着てくれないかなあ」
「サジェル、獣人の使用人は慎重に頼む」
「畏まりました」(これは初めてのパターンですね)
◆モクリークのダンジョン(2. この世界で生きていく努力)
「家買ったんだってな。近くのダンジョンに行ったら、遊びに行っていいか?」
「……」
「ユウ?」
「家じゃなくて、お屋敷だけど、それでもいいならいいよ」
「は?」
「元王族の別荘で、広いし、調度も落ち着いていていいと思うんだが、ユウには大きすぎたみたいだ」
「アル、お前実は貴族か?」
◆カザナラの別荘(3. 武器への付与のトラウマ)
「この部屋立派すぎて落ち着かないな」
「すげーとこ買ったんだな」
「ギルドが推してきたからな。ユウも初めて来たときは立派すぎて腰が引けていたぞ」
「テイマーは大丈夫か?」
「ブランがついてるが、あまり離れていたくないので、今後は何かあったらサジェルに聞いてくれ。好きなだけ居てくれて構わない」
「馬を借りるときに、ギルドに離脱とここまでの護衛の報告はしておいた。ギルドで今後の対応を検討すると言ってたぞ」
「あのとき何があったんだ?兵士は付与を頼んだら従魔が襲ってきたと報告したらしい」
「兵士がユウに、モンスターに襲われている街に家族がいるからと、領兵の武器への付与を頼んだが、ユウは断った。それで兵士が、後方で守られてそれでも冒険者か、付与くらいやれ、と迫って、掴みかかろうとしたからブランが止めに入った。ユウは多分カイドのことを思い出して取り乱したんだろう」
「あんなに怯えるなんて、カイドは本当に何をやったんだ」
「今の話はギルドに報告してもいいのか?」
「構わない」
「発言の許可を」
「サジェル、なんだ?」
「ギルドはおそらく何かしらの対応をとるでしょうが、発表まではお二人はこちらに滞在していただいたほうが良いと存じます」
「何故だ?」
「発表の内容によっては、お二人から事実を噂の形で流していただくことも必要かと」
「なるほど。ホト領が反論してくる可能性もあるか。このまま護衛として依頼を延長してもいいか?」
「いや、俺たちここに泊めてもらうだけで十分だから」
◆モクリークの冒険者ギルド長会議(3. 武器への付与のトラウマ)
「あふれで何があったんだ」
「同行の冒険者によると、剣士がテイマーの傍を離れた隙に護衛の領軍の一人が領軍の武器への付与を迫ったところ、テイマーが錯乱したと」
「錯乱?いったいどんな迫り方をしたんだ」
「兵士はただ頼んだだけなのに従魔が襲ってきたと言ったそうですが、剣士によると、冒険者なのに後方で守られているのだから付与をしろと強い口調で迫り、掴みかかろうとしたところを従魔が止めたと言っていたと」
「それで錯乱するのか?」
「それが、これは同行の冒険者がテイマーの様子から推測した内容ですが、テイマーは、かつてカイドで剣で脅されていたのではないかと言っていました」
「どういうことだ?」
「アイテムボックス持ちを脅したりするか?」
「兵士は剣を構えたりはしていなかったのに、かなり怯えて必死で逃げようとしていたそうです。宥めている剣士のことも分からないくらい取り乱していたと」
「カイドのギルドでのテイマーへの扱いが悪く、高ランクがギルドを見限ったというのは聞いたことがある」
「それほどのトラウマか」
「スキルの資料を渡した時も、カイドでの経験から付与には良い思いがないから使うかどうかわからないと言っていました。今後ホトの領であふれがあってもテイマーは派遣しないと、これはギルドの決定であると発表したいと思いますが、いかがでしょうか」
「それはさすがに厳しすぎないか?領民に罪はないだろう」
「だが、今後あの領へ行けと言われて行くか?」
「しかし国が納得するか?」
「テイマーには接触しないという約束を破ったのです。ここで対応を誤れば、今後も同じように要求するものが出てきます」
「向こう5年、としてはどうだろう。その後は、その時本人が嫌だと言えば延長するとして」
「そうだな。その辺りが落としどころか」
「国へは事前に伝えるのか?」
「事後報告は良くないでしょうから、発表の1時間前にでも知らせておきます。カイドの件は他言無用で。機会があれば剣士に確認します。同行の冒険者にも口止めをお願いします」
「はい」
◆モクリークの王宮(3. 武器への付与のトラウマ)
「氷花をホトには向こう5年派遣しないとはどういう言ことだ。何があった!」
「分かりません。ギルドが急に通知してきました。1時間後には国中のギルドで発表すると」
「宰相、現地に行っている国軍から連絡はないのか」
「今将軍に問い合わせています」
「陛下、失礼します。氷花について、ホト領にいる国軍から連絡が入りましたのでご報告に参りました」
「将軍、何があった」
「領軍の兵士が、武器への付与を迫り、従魔が兵士を攻撃したそうです」
「何だと!それで、氷花は」
「野営地にて物資は受け取りましたが、その際、以前のあふれで顔見知りだった隊長以外のものが近づくのを断りました」
「その隊長は何か言っていたか」
「テイマーはかなりショックを受けているようで、従魔から降りず、目も合わせなかったそうです。また、従魔がかなり怒っているようで馬が落ち着かなかったそうです」
「そうか。ギルドはホトへの派遣のみをやめる言っているんだな」
「はい。向こう5年、その後はその時の状況次第ということです」
「国はギルドの決定を支持する」
「それではホトの領民を見捨てることになりませんか」
「ホトには今まで通り国軍と周りの領の友軍で対応を行う。氷花は冒険者であり、その地方にいないのであれば協力の義務はない。彼らの善意を勘違いするなと、すべての領に伝えよ」
「かしこまりました」
◆モクリークの王宮(3. 武器への付与のトラウマ)
「失礼いたします。前侍従長のサジェル様より急ぎの書状が私宛に届きましたが、陛下への内容でございました」
「サジェルが。ふむ。そなた、これを読んだか」
「はい。私宛でしたので、申し訳ございません」
「構わぬ。どう思う」
「サジェル様が真実と異なることを書く理由はないかと思います」
「にわかには信じがたいがな。宰相と、軍で氷花と行動を共にしたものを呼べ」
「陛下、お呼びと伺いましたが」
「氷花のところにいる前侍従長のサジェルから書状が届いた。読め」
「これは、真実でしょうか」
「そう思って、実際に氷花と会ったものに来てもらったのだ。そなたも読め」
「確か貴方は護衛隊の隊長として同行しましたね。どう思いますか」
「事実だと思います。彼は、あのようなスキルを持つには優しすぎると感じました」
「だからと言って、自分を追い詰めた兵士の助命を求めるとは」
「籠城戦になっていた街を見て、そこにいる民の心配をしていました。街の人たちを見捨てて王都に帰るのかと。彼にとっては皆等しく救うべき命なのだと思います」
「そうか。ご苦労だった、下がってよい」
「しかしこの状況で兵士の処罰を緩めると、ホトの民からの反発を招きかねませんね」
「陛下、サジェルから書状が届いたと聞きましたが」
「これだ。そなたの子飼いの冒険者からは何か情報はあったか」
「これは、事実ですか?」
「以前氷花と同行した部隊長が、おそらく事実だと」
「そうですか。真偽のほどは定かではありませんが気分の良くない噂が2つ。カイドのギルドではかなり扱いが悪かったようで、上級ポーションが使われていたという噂があったと。見かねてギルドに対して抗議した冒険者もいたようですが、ギルドを見限って移動したそうです。またギルドが自分たちの選んだ冒険者の武器への付与をさせているという噂もあったそうです。ガイドのギルド職員はほとんどが奴隷落ちしているため、確かめようがありませんでした」
「それで付与に従魔が反応したのか」
「許す気はないが、本人は命まで取るのは反対ということでしょうか。落としどころが難しいですね」
「彼らに絡んだ冒険者と同じく、奴隷にしてあふれの対応に使うというのでよいのでしょうが、奴隷は軍に入れませんし。子飼いの冒険者のパーティーに戦闘奴隷として入れましょうか」
「冒険者だとダンジョンで出会う可能性があるだろう」
「ではいっそ隠密部隊に入れては」
「それなら奴隷契約も問題ないですね」
◆カザナラのダンジョン(3. 武器への付与のトラウマ)
「ハザコアのシリウスだよな?」
「そうですが……?」
「ちょっと頼まれてな。お前らになんかあったら、坊ちゃんが悲しむからって」
「アルさんですか」
「過保護だよな」
「俺らはキトキガが拠点なんだ。護衛で同行してたんだが、あのお屋敷で別れて、せっかくなんでここのダンジョンに潜ってる」
「俺たちは、家に遊びに来ないかって言われて来たらあのお屋敷でびっくりしました」
「あれはすげーよな」
「なんかあったら頼ってくれ。ここを拠点にしている奴らとも少し仲良くなったしな」
「その時はよろしくお願いします」
◆カザナラの別荘(5. 立ち直りの一歩)
「ギルドマスターさんは冒険者だったんですね。事務の方かと思っていました」
「これでも風魔法でそれなりに活躍したんですよ」
「ギルドの職員に転職したんですか?」
「ええ、魔法よりも、言葉で狸どもを屈服させるほうが楽しくて」
(真性のドSだ……)
◆カザナラの別荘(5. 立ち直りの一歩)
「王宮にクリーンの付与がいるのってやっぱりお掃除が大変だから?」
「だが、クリーンを付与した魔石でいいだろう?」
「王宮には魔法的な防御が施されているため、魔石同士が干渉する可能性があるクリーンの魔石は使用されていません」
「えっと、それは言ってもいいこと?」
「言ってはならないことは契約で言えないようになっています。ギルドマスターもご存じのようでしたし」
「へえ」
「それに魔法的な防御は突破されそうですしね」(ブランをちらっと見る)
「多分僕にもできるよ」
「ユウ?」
「王城潰しちゃえば、魔法も無効になるでしょう。だったら、上空から岩落とせばいいし。粉塵爆発とかも使えるのかなあ、ドラマで見ただけで詳しい条件知らないけど」
「ユウ?どうした?」
「王城から人を追い出すっていう意味では、上空から水落とせばいけそう」
「王城を潰したいのか?」
「違うよ。人的被害を考えなければ僕にもできるってこと。やらないけど」
「やる前には言ってくれ」
「やらないって。やろうと思ったときには、ブランが更地にしてるよ」
『任せろ』
(いや、それよりも前に言ってくれ、頼むから)
◆モクリークの王宮(5. 立ち直りの一歩)
「陛下、この度は、」
「挨拶はいい。本題を」
「はい。カザナラにて氷花に面会し、ホトの顛末を聞いて参りました。」
「ニザナのギルドマスターが何故にカザナラまで?」
「宰相様、私が一番氷花と関わりが長いからです。彼らは王都を出てからは各地を転々としていますので」
「それで、実際はなにがあったのだ」
「道中で付与の練習をしているユウさんを見て、最前線に家族が取り残されている領兵が武器への付与を迫ったので、従魔が制止した、というのが実際に起きたことです」
「それだけではここまでの事態にならないだろう」
「彼がカイドのギルドの粛清の原因になったのはご存じですか?」
「王宮でもその情報は掴んでいます。彼のスキルを知り協力を強要していたとか。かなり扱いが悪かったと」
「武器への付与を強制されていました。そして、付与の成果の確認として、本人が斬られたことが何度かあります」
「なんだと……」
「アイテムボックススキル保持者にそんなことを……」
「彼にとって、武器への付与を迫ることは、カイドでの出来事を思い出させることです」
「それが今回の騒動の本質か」
「彼は今後、生活に根付いたところでの付与の商品化を考えています。ですが、戦闘に関することに関しては一切行わないでしょう」
「生活に根付いたとは?」
「最初はテントへのクリーンになるかと」
「なるほど。付与ができるのだから武器へもと言わせないよう軍を抑えろと、とおっしゃりたいのですね」
「私はただ今回ホトで何が起きたかを報告に参っただけです」
「ご苦労だった」
「そういえば、サジェル殿は二人と上手くやっているようでしたよ。では、失礼いたします」
◆カザナラの別荘(7. 僕の独占欲)
「今日はユウが休んでいるのでブランもこない。悪いな」
「昨日の外出で無理をさせちゃいました?」
(でもアルさん、なんとなくごきげん?)
「違う、気にするな。俺がちょっと無理をさせた」
「ああ……」
(((心配して損した)))
◆カザナラからキトキガの途中(8. シリウスの目標)
「お前らってどうやって坊ちゃんの友人になったんだ?」
「テシコユダハの槍の新人講習で一緒になったんですよ。ペアであぶれてて、入るか?って声かけたら、最初にいた奴が逃げて、2人になったんです」
「お前チャレンジャーだな」
「絡むなって通達があったのでみんなユウくんを遠巻きにしてて、ちょっと可哀そうだったんですよ。俺より年下だと思ってたし」
「え、坊ちゃんのほうが上なの?」
「1つ上らしいです」
「俺たち以外に同年代の知り合いいないみたいです」
「あのスキルだと、普通に友達作るのも大変そうだよな」
「ユウくん、アルさんと従魔以外とは話さなかったですし」
「ハザコアで再会したときに、アルさんが機会を作ってくれて、食事したり、一緒にダンジョン潜ったりして、友達になったのはその時ですね」
「兄さん、めちゃめちゃ過保護だもんなあ」
「今回もそれで呼ばれたんですよ。往復の馬車代は持つし、家に泊めるから、よかったら来てくれないかって」
「俺たちもユウくんのこと心配だったし、他の街に行くのもいいかなあと思って。まさかあんな家だと思ってませんでした」
「お前ら、ハザコアに帰って、他の冒険者から絡まれたり大丈夫か?」
「それは多分大丈夫です。前に一緒にダンジョン潜ったときもちょっとありましたけど、SランクとAランクのパーティーも一緒だったんで、そこまでじゃなかったんで」
「兄さん、フォローも完璧だな」
「やっておいたほうがいいことってありますか?」
「最初は隊商の護衛に入れてもらって、護衛に着いて学べ。隊商の場合は、護衛を専門にしているパーティーがリーダーをやってることが多い。ギルドに相談すればいいところ紹介してくれるだろう」
「お前ら馬に乗れるか?」
「スリナザルが少しなら」
「余裕があったら乗れるようになるといいぞ。冒険者でも街から街への移動で乗れる奴はそんなにいない。今回の氷花の護衛の条件の1つだったし、軍の依頼とかは必須だったりする」
「御者ができると、隊商から声がかかりやすい。御者に何かあったときに代わりになってもらえるからだ。個人の商人の護衛は、隊商で慣れてからのほうが楽だ」
「とりあえず冬はダンジョンで、護衛は春になってからだな」
「じゃあまずは、この馬車で御者の練習だ」
「2人はずっと2人で活動してきたんですか?」
「いや、途中で抜けたやつもいた」
「俺たちずっと3人で、本当はもう1人か2人増やしたいんですけど、合うやつがいなくて」
「お前らと合わないってなんでだ?」
「慎重すぎるって、臆病だって」
「休憩も結構とるし、余裕をもって引き返すのがダメみたいです」
「ああ、若いな。怪我してなんぼみたいなのだな」
「まあ、それで成長するのは確かなんだが、死んだら元も子もないからな」
「俺たち、死にそうって思ったの、カザナラのあのときが初めてですよ。キリシュは1回モンスターの目の前に飛ばされるっていうのはあったんですけど」
「あれは兄さんスパルタだったよな。大丈夫だって分かってても、ちょっと引いたわ」
「ユウくんと友達って分かってからは、それ目当てで入りたいっていう人がたくさんきて、それで今は募集してないって言ってるんですけど」
「人数ほしいときは臨時で組んだりして何とかなるから、今のままで大丈夫だろ。どうしてもSランクになりたいとかでもないんだし」
「妥協して増やすと、後でもめるから辞めとけ。特にお前ら坊ちゃんとの関係があるからな」
◆カザナラから護衛依頼中(8. シリウスの目標 の後)
「次の野営地で野営するから止まるぞ。どうだ、護衛は慣れたか?」
「盗賊の対応がちょっとまだ。あと対人戦はモンスターとだいぶ違いますね」
「まあ慣れるしかないな。お、野営地に先客がいるな。あれは、従魔、か?」
「あれ?キリシュ、ちょっと来い」
「どうした?あ、ユウくんたち」
「やっぱりそうか。あの先客、氷花です」
「は?あ、お前たち知り合いか。隊商長に伝えてくる。お前も一緒に来てくれ」
「氷花が野営地にいます。場所をずれてもらわないと、隊商全部が入れそうにありませんが、どうしましょうか」
「次の野営地までは日没に間に合いませんよね。お願いするしかありませんね。聞いていただけるといいのですが」
「コーチェロ、お願いしてくれるか?」
「はい。どこに避けてもらえばいいですか?」
「奥側の角のどっちかだが……」
「分かりました」
「彼は確かCランクのシリウスのリーダーですね」
「彼は氷花と知り合いですので」
「ああ、彼らが、ハザコアにいるというアイテムボックス持ちの友人ですか」
「隊商が来るから、場所をあけたほうがいいな」
「そうなの?」
「隊商は馬車が大きいから、小回りが利かないんだ。入り口辺りを大きく開けてないと、出入りが難しい」
「へえ、じゃあ奥に行けばいいのかな?」
『シリウスがいるぞ。向こうもこっちに気づいているな』
「護衛依頼中か。しばらく待とう。どこに避けてほしいか言いに来るだろう」
「あ、コーチェロくんだ。コーチェロくーーーん!」
「ユウくーーーん!久しぶり!隊商の護衛の冒険者です。大変申し訳ないのですが、ここの野営地を使いたいので、馬車を奥の角に移動していただけますか?」
「了解した。ユウ、あそこの角に動かしてくれ。久しぶりだな。護衛頑張ってるんだな」
「2回目なんですが、前もこの隊商で、冒険者のリーダーも一緒なので、やりやすいです。じゃあ、報告に戻ります」
「ああ、依頼頑張れ」
「あいつら、手を振ってないか?」
「知り合いってホントだったんだな」
「あ、馬車が消えた。あ、移動した。収納したのか。すげえな」
「ご飯一緒に食べられるかな?」
「依頼中だから無理だろ。他の冒険者の手前もある」
「やっぱりだめかあ」
「順番で見張りをするだろうから、その時だな」
「ユウ、起きられるか?シリウスが見張りをしているぞ」
「ん、あ、さ?」
「日の出前だ」
「おきぅ……」
「ほら、頑張れ」
「あ、ユウくん、アルさん」
「おあよう」
「ユウくん、半分寝てない?」
「おきてりゅ」
「お前たちの見張りに合わせて起こしてくれって言われたんだが、目覚めが悪くてな」
「そうだったんですか」
「ユウ、水を出して。それは石だからしまうんだ。水の樽だ。そうだ。コップも出して」
(((ユウくん、寝ぼけ方が危険)))
「ブラン、樽の中の一部を凍らせてくれ。みんな飲んでくれ。ほら、ユウ飲んで」
「っつめた!」
「目が覚めたか?」
「あれ?」
「おはよう。すごい寝ぼけてたよ」
「どこまで行くんだ?」
「ヒョエツに行って、そこからハザコアに戻ります」
「けっこう移動するんだな」
「ニザナとヒョエツの間を行き来しているんです。俺たちはハザコアからヒョエツの間の護衛です」
「ヒョエツで時間あるの?」
「そこで荷を降ろしたり、買い付けたり、積んだりで、10日間休み」
「予定はあるのか?」
「いえ、前回は初めてだったので、街をうろうろするくらいで休みにしたんですけど、今回は近くのダンジョンの上層を覗いてみようかと話しているくらいです」
「アル!お願い!」
「分かった分かった。悪いが5日ほどユウに付き合ってもらえるか」
「いいですよ」
「ヒョエツのギルドに伝言をしておく」
「やった!」
「俺たち見張りしてないな」
「ブランがいる限り魔物は来ないぞ。盗賊もこの近くにはいない」
「アルさんって、ユウくんだけじゃなく、俺たちにも過保護ですよね」
「悪いな。ユウの友達だと思うと、どうしても同じ感じで接してしまってな。お前らしっかりしてるのにな」
「ひどい、それって僕がしっかりしてないって言ってる!」
(((自分がしっかりしてると思ってるの?!)))
「3人とも護衛の依頼を頑張ってるだろう?ユウ、その頑張りに、甘いものか果物をあげたらどうだ?」
「そうだね!甘いものあるよ。果物もお肉もあるよ。何がいい?」
(((ユウくん、ちょろい)))
「氷花がカザナラの離宮を購入するかもしれません」
「家を買うのか?」
「離宮を?」
「ギルドが氷花の家の候補を作成する際にカザナラの離宮を入れておきましたが、カザナラで家を探しているということで離宮が目に留まったようです」
「あそこを買うとなると、使用人はどうする」
「商業ギルドは執事経験者などを薦めるつもりでいるそうです」
「サジェル」
「はい」
「その時は行ってくれるか」
「かしこまりました」
「父上、サジェルを辞めさせるのですか」
「下手なものに任せるわけにはいかない。貴族との繋がりなどで無理を押し切られると困る」
「しかし、陛下との繋がりを嫌って避けられないでしょうか」
「そのときは、王宮とつながりのない、他の信用できるものを探すしかないな」
「サジェル、氷花と会ってどうだった」
「はい。彼らと契約することとなりました」
「王宮とのつながりについては、氷花は気にしていませんでしたか?」
「ユウ様は乗り気ではありませんでしたが、アレックス様が離宮を買うのであればそういうものだとおっしゃって、契約となりました」
「つまり剣士はこちらの思惑を分かっているということか」
「貴族からの横やりを防ぐために知識を使いたいとのことでした」
「ほかに何か気付いたことはあるか」
「ユウ様は離宮のように大きなお屋敷はご希望ではなかったようです。使用人ですが、ユウ様のご希望で孤児院のものたちを採用いたします」
「貴族が嫌いだからか?」
「身分にこだわりがないように見受けられました」
「サジェル、寂しくなるな」
「もったいないお言葉でございます。今までありがとうございました」
「よろしく頼む」
◆モクリークの王宮(1. 別荘購入)
「ユウ、本当に使用人の希望はないのか?」
「ないよ?なんで??」
「いや、ユウなら獣人のメイドがいいと言うかと思って」
「え、猫耳メイドさん?おかえりにゃん、とか言ってくれるの?!」
「ユウ様、そのような言葉遣いをするメイドは雇いません」
「やっぱりダメだ。サジェル、獣人をユウの目に入るところにはなるべく配置しないでくれ。耳と尻尾を凝視して怖がられる可能性がある。先に説明しておいてほしい。勝手に触ったりはしないが」
「そんなことしないよ!セクハラ反対!」
「ユウ、キリシュが執事の格好をしていたとする」
「絶対カッコいいよね!見てみたいなー。執事服着てくれないかなあ」
「サジェル、獣人の使用人は慎重に頼む」
「畏まりました」(これは初めてのパターンですね)
◆モクリークのダンジョン(2. この世界で生きていく努力)
「家買ったんだってな。近くのダンジョンに行ったら、遊びに行っていいか?」
「……」
「ユウ?」
「家じゃなくて、お屋敷だけど、それでもいいならいいよ」
「は?」
「元王族の別荘で、広いし、調度も落ち着いていていいと思うんだが、ユウには大きすぎたみたいだ」
「アル、お前実は貴族か?」
◆カザナラの別荘(3. 武器への付与のトラウマ)
「この部屋立派すぎて落ち着かないな」
「すげーとこ買ったんだな」
「ギルドが推してきたからな。ユウも初めて来たときは立派すぎて腰が引けていたぞ」
「テイマーは大丈夫か?」
「ブランがついてるが、あまり離れていたくないので、今後は何かあったらサジェルに聞いてくれ。好きなだけ居てくれて構わない」
「馬を借りるときに、ギルドに離脱とここまでの護衛の報告はしておいた。ギルドで今後の対応を検討すると言ってたぞ」
「あのとき何があったんだ?兵士は付与を頼んだら従魔が襲ってきたと報告したらしい」
「兵士がユウに、モンスターに襲われている街に家族がいるからと、領兵の武器への付与を頼んだが、ユウは断った。それで兵士が、後方で守られてそれでも冒険者か、付与くらいやれ、と迫って、掴みかかろうとしたからブランが止めに入った。ユウは多分カイドのことを思い出して取り乱したんだろう」
「あんなに怯えるなんて、カイドは本当に何をやったんだ」
「今の話はギルドに報告してもいいのか?」
「構わない」
「発言の許可を」
「サジェル、なんだ?」
「ギルドはおそらく何かしらの対応をとるでしょうが、発表まではお二人はこちらに滞在していただいたほうが良いと存じます」
「何故だ?」
「発表の内容によっては、お二人から事実を噂の形で流していただくことも必要かと」
「なるほど。ホト領が反論してくる可能性もあるか。このまま護衛として依頼を延長してもいいか?」
「いや、俺たちここに泊めてもらうだけで十分だから」
◆モクリークの冒険者ギルド長会議(3. 武器への付与のトラウマ)
「あふれで何があったんだ」
「同行の冒険者によると、剣士がテイマーの傍を離れた隙に護衛の領軍の一人が領軍の武器への付与を迫ったところ、テイマーが錯乱したと」
「錯乱?いったいどんな迫り方をしたんだ」
「兵士はただ頼んだだけなのに従魔が襲ってきたと言ったそうですが、剣士によると、冒険者なのに後方で守られているのだから付与をしろと強い口調で迫り、掴みかかろうとしたところを従魔が止めたと言っていたと」
「それで錯乱するのか?」
「それが、これは同行の冒険者がテイマーの様子から推測した内容ですが、テイマーは、かつてカイドで剣で脅されていたのではないかと言っていました」
「どういうことだ?」
「アイテムボックス持ちを脅したりするか?」
「兵士は剣を構えたりはしていなかったのに、かなり怯えて必死で逃げようとしていたそうです。宥めている剣士のことも分からないくらい取り乱していたと」
「カイドのギルドでのテイマーへの扱いが悪く、高ランクがギルドを見限ったというのは聞いたことがある」
「それほどのトラウマか」
「スキルの資料を渡した時も、カイドでの経験から付与には良い思いがないから使うかどうかわからないと言っていました。今後ホトの領であふれがあってもテイマーは派遣しないと、これはギルドの決定であると発表したいと思いますが、いかがでしょうか」
「それはさすがに厳しすぎないか?領民に罪はないだろう」
「だが、今後あの領へ行けと言われて行くか?」
「しかし国が納得するか?」
「テイマーには接触しないという約束を破ったのです。ここで対応を誤れば、今後も同じように要求するものが出てきます」
「向こう5年、としてはどうだろう。その後は、その時本人が嫌だと言えば延長するとして」
「そうだな。その辺りが落としどころか」
「国へは事前に伝えるのか?」
「事後報告は良くないでしょうから、発表の1時間前にでも知らせておきます。カイドの件は他言無用で。機会があれば剣士に確認します。同行の冒険者にも口止めをお願いします」
「はい」
◆モクリークの王宮(3. 武器への付与のトラウマ)
「氷花をホトには向こう5年派遣しないとはどういう言ことだ。何があった!」
「分かりません。ギルドが急に通知してきました。1時間後には国中のギルドで発表すると」
「宰相、現地に行っている国軍から連絡はないのか」
「今将軍に問い合わせています」
「陛下、失礼します。氷花について、ホト領にいる国軍から連絡が入りましたのでご報告に参りました」
「将軍、何があった」
「領軍の兵士が、武器への付与を迫り、従魔が兵士を攻撃したそうです」
「何だと!それで、氷花は」
「野営地にて物資は受け取りましたが、その際、以前のあふれで顔見知りだった隊長以外のものが近づくのを断りました」
「その隊長は何か言っていたか」
「テイマーはかなりショックを受けているようで、従魔から降りず、目も合わせなかったそうです。また、従魔がかなり怒っているようで馬が落ち着かなかったそうです」
「そうか。ギルドはホトへの派遣のみをやめる言っているんだな」
「はい。向こう5年、その後はその時の状況次第ということです」
「国はギルドの決定を支持する」
「それではホトの領民を見捨てることになりませんか」
「ホトには今まで通り国軍と周りの領の友軍で対応を行う。氷花は冒険者であり、その地方にいないのであれば協力の義務はない。彼らの善意を勘違いするなと、すべての領に伝えよ」
「かしこまりました」
◆モクリークの王宮(3. 武器への付与のトラウマ)
「失礼いたします。前侍従長のサジェル様より急ぎの書状が私宛に届きましたが、陛下への内容でございました」
「サジェルが。ふむ。そなた、これを読んだか」
「はい。私宛でしたので、申し訳ございません」
「構わぬ。どう思う」
「サジェル様が真実と異なることを書く理由はないかと思います」
「にわかには信じがたいがな。宰相と、軍で氷花と行動を共にしたものを呼べ」
「陛下、お呼びと伺いましたが」
「氷花のところにいる前侍従長のサジェルから書状が届いた。読め」
「これは、真実でしょうか」
「そう思って、実際に氷花と会ったものに来てもらったのだ。そなたも読め」
「確か貴方は護衛隊の隊長として同行しましたね。どう思いますか」
「事実だと思います。彼は、あのようなスキルを持つには優しすぎると感じました」
「だからと言って、自分を追い詰めた兵士の助命を求めるとは」
「籠城戦になっていた街を見て、そこにいる民の心配をしていました。街の人たちを見捨てて王都に帰るのかと。彼にとっては皆等しく救うべき命なのだと思います」
「そうか。ご苦労だった、下がってよい」
「しかしこの状況で兵士の処罰を緩めると、ホトの民からの反発を招きかねませんね」
「陛下、サジェルから書状が届いたと聞きましたが」
「これだ。そなたの子飼いの冒険者からは何か情報はあったか」
「これは、事実ですか?」
「以前氷花と同行した部隊長が、おそらく事実だと」
「そうですか。真偽のほどは定かではありませんが気分の良くない噂が2つ。カイドのギルドではかなり扱いが悪かったようで、上級ポーションが使われていたという噂があったと。見かねてギルドに対して抗議した冒険者もいたようですが、ギルドを見限って移動したそうです。またギルドが自分たちの選んだ冒険者の武器への付与をさせているという噂もあったそうです。ガイドのギルド職員はほとんどが奴隷落ちしているため、確かめようがありませんでした」
「それで付与に従魔が反応したのか」
「許す気はないが、本人は命まで取るのは反対ということでしょうか。落としどころが難しいですね」
「彼らに絡んだ冒険者と同じく、奴隷にしてあふれの対応に使うというのでよいのでしょうが、奴隷は軍に入れませんし。子飼いの冒険者のパーティーに戦闘奴隷として入れましょうか」
「冒険者だとダンジョンで出会う可能性があるだろう」
「ではいっそ隠密部隊に入れては」
「それなら奴隷契約も問題ないですね」
◆カザナラのダンジョン(3. 武器への付与のトラウマ)
「ハザコアのシリウスだよな?」
「そうですが……?」
「ちょっと頼まれてな。お前らになんかあったら、坊ちゃんが悲しむからって」
「アルさんですか」
「過保護だよな」
「俺らはキトキガが拠点なんだ。護衛で同行してたんだが、あのお屋敷で別れて、せっかくなんでここのダンジョンに潜ってる」
「俺たちは、家に遊びに来ないかって言われて来たらあのお屋敷でびっくりしました」
「あれはすげーよな」
「なんかあったら頼ってくれ。ここを拠点にしている奴らとも少し仲良くなったしな」
「その時はよろしくお願いします」
◆カザナラの別荘(5. 立ち直りの一歩)
「ギルドマスターさんは冒険者だったんですね。事務の方かと思っていました」
「これでも風魔法でそれなりに活躍したんですよ」
「ギルドの職員に転職したんですか?」
「ええ、魔法よりも、言葉で狸どもを屈服させるほうが楽しくて」
(真性のドSだ……)
◆カザナラの別荘(5. 立ち直りの一歩)
「王宮にクリーンの付与がいるのってやっぱりお掃除が大変だから?」
「だが、クリーンを付与した魔石でいいだろう?」
「王宮には魔法的な防御が施されているため、魔石同士が干渉する可能性があるクリーンの魔石は使用されていません」
「えっと、それは言ってもいいこと?」
「言ってはならないことは契約で言えないようになっています。ギルドマスターもご存じのようでしたし」
「へえ」
「それに魔法的な防御は突破されそうですしね」(ブランをちらっと見る)
「多分僕にもできるよ」
「ユウ?」
「王城潰しちゃえば、魔法も無効になるでしょう。だったら、上空から岩落とせばいいし。粉塵爆発とかも使えるのかなあ、ドラマで見ただけで詳しい条件知らないけど」
「ユウ?どうした?」
「王城から人を追い出すっていう意味では、上空から水落とせばいけそう」
「王城を潰したいのか?」
「違うよ。人的被害を考えなければ僕にもできるってこと。やらないけど」
「やる前には言ってくれ」
「やらないって。やろうと思ったときには、ブランが更地にしてるよ」
『任せろ』
(いや、それよりも前に言ってくれ、頼むから)
◆モクリークの王宮(5. 立ち直りの一歩)
「陛下、この度は、」
「挨拶はいい。本題を」
「はい。カザナラにて氷花に面会し、ホトの顛末を聞いて参りました。」
「ニザナのギルドマスターが何故にカザナラまで?」
「宰相様、私が一番氷花と関わりが長いからです。彼らは王都を出てからは各地を転々としていますので」
「それで、実際はなにがあったのだ」
「道中で付与の練習をしているユウさんを見て、最前線に家族が取り残されている領兵が武器への付与を迫ったので、従魔が制止した、というのが実際に起きたことです」
「それだけではここまでの事態にならないだろう」
「彼がカイドのギルドの粛清の原因になったのはご存じですか?」
「王宮でもその情報は掴んでいます。彼のスキルを知り協力を強要していたとか。かなり扱いが悪かったと」
「武器への付与を強制されていました。そして、付与の成果の確認として、本人が斬られたことが何度かあります」
「なんだと……」
「アイテムボックススキル保持者にそんなことを……」
「彼にとって、武器への付与を迫ることは、カイドでの出来事を思い出させることです」
「それが今回の騒動の本質か」
「彼は今後、生活に根付いたところでの付与の商品化を考えています。ですが、戦闘に関することに関しては一切行わないでしょう」
「生活に根付いたとは?」
「最初はテントへのクリーンになるかと」
「なるほど。付与ができるのだから武器へもと言わせないよう軍を抑えろと、とおっしゃりたいのですね」
「私はただ今回ホトで何が起きたかを報告に参っただけです」
「ご苦労だった」
「そういえば、サジェル殿は二人と上手くやっているようでしたよ。では、失礼いたします」
◆カザナラの別荘(7. 僕の独占欲)
「今日はユウが休んでいるのでブランもこない。悪いな」
「昨日の外出で無理をさせちゃいました?」
(でもアルさん、なんとなくごきげん?)
「違う、気にするな。俺がちょっと無理をさせた」
「ああ……」
(((心配して損した)))
◆カザナラからキトキガの途中(8. シリウスの目標)
「お前らってどうやって坊ちゃんの友人になったんだ?」
「テシコユダハの槍の新人講習で一緒になったんですよ。ペアであぶれてて、入るか?って声かけたら、最初にいた奴が逃げて、2人になったんです」
「お前チャレンジャーだな」
「絡むなって通達があったのでみんなユウくんを遠巻きにしてて、ちょっと可哀そうだったんですよ。俺より年下だと思ってたし」
「え、坊ちゃんのほうが上なの?」
「1つ上らしいです」
「俺たち以外に同年代の知り合いいないみたいです」
「あのスキルだと、普通に友達作るのも大変そうだよな」
「ユウくん、アルさんと従魔以外とは話さなかったですし」
「ハザコアで再会したときに、アルさんが機会を作ってくれて、食事したり、一緒にダンジョン潜ったりして、友達になったのはその時ですね」
「兄さん、めちゃめちゃ過保護だもんなあ」
「今回もそれで呼ばれたんですよ。往復の馬車代は持つし、家に泊めるから、よかったら来てくれないかって」
「俺たちもユウくんのこと心配だったし、他の街に行くのもいいかなあと思って。まさかあんな家だと思ってませんでした」
「お前ら、ハザコアに帰って、他の冒険者から絡まれたり大丈夫か?」
「それは多分大丈夫です。前に一緒にダンジョン潜ったときもちょっとありましたけど、SランクとAランクのパーティーも一緒だったんで、そこまでじゃなかったんで」
「兄さん、フォローも完璧だな」
「やっておいたほうがいいことってありますか?」
「最初は隊商の護衛に入れてもらって、護衛に着いて学べ。隊商の場合は、護衛を専門にしているパーティーがリーダーをやってることが多い。ギルドに相談すればいいところ紹介してくれるだろう」
「お前ら馬に乗れるか?」
「スリナザルが少しなら」
「余裕があったら乗れるようになるといいぞ。冒険者でも街から街への移動で乗れる奴はそんなにいない。今回の氷花の護衛の条件の1つだったし、軍の依頼とかは必須だったりする」
「御者ができると、隊商から声がかかりやすい。御者に何かあったときに代わりになってもらえるからだ。個人の商人の護衛は、隊商で慣れてからのほうが楽だ」
「とりあえず冬はダンジョンで、護衛は春になってからだな」
「じゃあまずは、この馬車で御者の練習だ」
「2人はずっと2人で活動してきたんですか?」
「いや、途中で抜けたやつもいた」
「俺たちずっと3人で、本当はもう1人か2人増やしたいんですけど、合うやつがいなくて」
「お前らと合わないってなんでだ?」
「慎重すぎるって、臆病だって」
「休憩も結構とるし、余裕をもって引き返すのがダメみたいです」
「ああ、若いな。怪我してなんぼみたいなのだな」
「まあ、それで成長するのは確かなんだが、死んだら元も子もないからな」
「俺たち、死にそうって思ったの、カザナラのあのときが初めてですよ。キリシュは1回モンスターの目の前に飛ばされるっていうのはあったんですけど」
「あれは兄さんスパルタだったよな。大丈夫だって分かってても、ちょっと引いたわ」
「ユウくんと友達って分かってからは、それ目当てで入りたいっていう人がたくさんきて、それで今は募集してないって言ってるんですけど」
「人数ほしいときは臨時で組んだりして何とかなるから、今のままで大丈夫だろ。どうしてもSランクになりたいとかでもないんだし」
「妥協して増やすと、後でもめるから辞めとけ。特にお前ら坊ちゃんとの関係があるからな」
◆カザナラから護衛依頼中(8. シリウスの目標 の後)
「次の野営地で野営するから止まるぞ。どうだ、護衛は慣れたか?」
「盗賊の対応がちょっとまだ。あと対人戦はモンスターとだいぶ違いますね」
「まあ慣れるしかないな。お、野営地に先客がいるな。あれは、従魔、か?」
「あれ?キリシュ、ちょっと来い」
「どうした?あ、ユウくんたち」
「やっぱりそうか。あの先客、氷花です」
「は?あ、お前たち知り合いか。隊商長に伝えてくる。お前も一緒に来てくれ」
「氷花が野営地にいます。場所をずれてもらわないと、隊商全部が入れそうにありませんが、どうしましょうか」
「次の野営地までは日没に間に合いませんよね。お願いするしかありませんね。聞いていただけるといいのですが」
「コーチェロ、お願いしてくれるか?」
「はい。どこに避けてもらえばいいですか?」
「奥側の角のどっちかだが……」
「分かりました」
「彼は確かCランクのシリウスのリーダーですね」
「彼は氷花と知り合いですので」
「ああ、彼らが、ハザコアにいるというアイテムボックス持ちの友人ですか」
「隊商が来るから、場所をあけたほうがいいな」
「そうなの?」
「隊商は馬車が大きいから、小回りが利かないんだ。入り口辺りを大きく開けてないと、出入りが難しい」
「へえ、じゃあ奥に行けばいいのかな?」
『シリウスがいるぞ。向こうもこっちに気づいているな』
「護衛依頼中か。しばらく待とう。どこに避けてほしいか言いに来るだろう」
「あ、コーチェロくんだ。コーチェロくーーーん!」
「ユウくーーーん!久しぶり!隊商の護衛の冒険者です。大変申し訳ないのですが、ここの野営地を使いたいので、馬車を奥の角に移動していただけますか?」
「了解した。ユウ、あそこの角に動かしてくれ。久しぶりだな。護衛頑張ってるんだな」
「2回目なんですが、前もこの隊商で、冒険者のリーダーも一緒なので、やりやすいです。じゃあ、報告に戻ります」
「ああ、依頼頑張れ」
「あいつら、手を振ってないか?」
「知り合いってホントだったんだな」
「あ、馬車が消えた。あ、移動した。収納したのか。すげえな」
「ご飯一緒に食べられるかな?」
「依頼中だから無理だろ。他の冒険者の手前もある」
「やっぱりだめかあ」
「順番で見張りをするだろうから、その時だな」
「ユウ、起きられるか?シリウスが見張りをしているぞ」
「ん、あ、さ?」
「日の出前だ」
「おきぅ……」
「ほら、頑張れ」
「あ、ユウくん、アルさん」
「おあよう」
「ユウくん、半分寝てない?」
「おきてりゅ」
「お前たちの見張りに合わせて起こしてくれって言われたんだが、目覚めが悪くてな」
「そうだったんですか」
「ユウ、水を出して。それは石だからしまうんだ。水の樽だ。そうだ。コップも出して」
(((ユウくん、寝ぼけ方が危険)))
「ブラン、樽の中の一部を凍らせてくれ。みんな飲んでくれ。ほら、ユウ飲んで」
「っつめた!」
「目が覚めたか?」
「あれ?」
「おはよう。すごい寝ぼけてたよ」
「どこまで行くんだ?」
「ヒョエツに行って、そこからハザコアに戻ります」
「けっこう移動するんだな」
「ニザナとヒョエツの間を行き来しているんです。俺たちはハザコアからヒョエツの間の護衛です」
「ヒョエツで時間あるの?」
「そこで荷を降ろしたり、買い付けたり、積んだりで、10日間休み」
「予定はあるのか?」
「いえ、前回は初めてだったので、街をうろうろするくらいで休みにしたんですけど、今回は近くのダンジョンの上層を覗いてみようかと話しているくらいです」
「アル!お願い!」
「分かった分かった。悪いが5日ほどユウに付き合ってもらえるか」
「いいですよ」
「ヒョエツのギルドに伝言をしておく」
「やった!」
「俺たち見張りしてないな」
「ブランがいる限り魔物は来ないぞ。盗賊もこの近くにはいない」
「アルさんって、ユウくんだけじゃなく、俺たちにも過保護ですよね」
「悪いな。ユウの友達だと思うと、どうしても同じ感じで接してしまってな。お前らしっかりしてるのにな」
「ひどい、それって僕がしっかりしてないって言ってる!」
(((自分がしっかりしてると思ってるの?!)))
「3人とも護衛の依頼を頑張ってるだろう?ユウ、その頑張りに、甘いものか果物をあげたらどうだ?」
「そうだね!甘いものあるよ。果物もお肉もあるよ。何がいい?」
(((ユウくん、ちょろい)))
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