世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

文字の大きさ
上 下
175 / 181
続 4章 この世界の一人として

14-11. 運送屋さん

しおりを挟む
 さて、今日は僕の教会の一員としての初めての仕事だ。
 辺境の村に、魔物の襲撃にも耐えられるような頑丈な教会を作る、そのお手伝いだ。僕の役割は、切り出した石をその建設予定地まで運ぶ、運送屋さんである。サネバの街を作るときにも行ったので、要領は分かっている。ただあのときと違うのは、採石場まで石を取りに行くことだ。前は街の近くに集められたものを運んだ。
 教会の場所の選定はすでに終わり、石の切り出しも行われている。

 今回スケジュールに一番影響があるのは、僕の移動時間のはずだった。まずは採石場へ出向き、切り出した石を収納してから建設予定地まで移動する、その時間だ。当初は、王都の中央教会から、担当の司教様や護衛の人と一緒に馬車で移動して、採石場と建設予定地を回る予定になっていた。
 けれど、僕の長時間の移動を心配したアルのお願いで、採石場まではリネに連れていってもらえることになった。採石場の近くのダンジョンに行くことを条件に。
 そのために、今度は石の切り出しの進み具合がボトルネックになってしまい、今急ピッチで作業が進められているらしい。

 まず最初はモクリークの北部、ユラカヒからそう遠くはないセヒカラの採石場で石を収納して、近くの村へと運ぶ。そしてその後、リネとアルがユラカヒのタペラを攻略している間、僕はユラカヒの教会で帰りを待つ。
 僕もタペラに一緒に潜ると言ったけど、それはアルからもブランからも許可が出なかった。ティガーのみんなとのダンジョン攻略の後に熱も出さなかったので、体力的には問題ない。けれど、タペラはかつて僕たちが潜っている最中にあふれたダンジョンだ。そしてそこから他の冒険者と脱出する最中に、マジックバッグを持ち逃げされたところでもある。そういうよくない思い出があるダンジョンなので、僕は近づかせてもらえないらしい。ここで僕が強硬にダンジョン攻略に参加して体調を崩せば、教会に迷惑をかけるし、この運送の仕事自体が頓挫しかねないと言われて諦めた。今回の目的は、あくまでも石の運送で、ダンジョンはオマケだ。

 中央教会で大司教様に見送られ、リネに乗って飛び立ち、海岸線を北上していく。
 ユラカヒの街は海に近いが、今回行く採石場は山の中で、山を越えればノーホーク王国の南部だ。アルがリネに連れていってくれるようにお願いしたのは、多分僕がノーホークに近づくことで不安定にならないか心配してくれたのもあるのだろう。僕が辛い思いをしたカイドはノーホークの北の端でユラカヒからはかなり遠いので、僕は今回のことを不安に感じてはいないけれど、アルの過保護が発動中なのだ。
 まずはユラカヒの教会に降りて、採石場の場所を聞こう。

「ユラカヒまでご足労いただきまして感謝いたします」
『次はどこに行けばいいの? 早くダンジョンに行きたいんだけど』

 リネの言葉に、すぐ近くにあったベンチへと誘導されて、簡単な地図を見せられた。司祭様たちが慌てて走り回っているので、多分一度教会の中でお茶でもしながらこの先の予定を説明してくれるつもりだったんだろう。

「ここが採石場になります。まずここで石を収納してから、この三か所の村に運んでいただきます」
『四回飛んだら、ダンジョンね』
「ユウをここまで連れて帰ってきて、ダンジョンは明日だ」

 リネの心はすでにタペラに飛んでいるけど、アルが必死に宥めている。

「ヴィゾーヴニル様、美味しいお料理を用意してお戻りをお待ちしております」
『ご飯なに?』
「この地の名産の魚料理と、甘い果物を予定しております」
「リネ、ここのお魚は美味しいよ」

 ユラカヒのお魚はブランも気に入っている。僕たちはタペラ脱出後、すぐに王都に戻ってしまったので、この地でお魚を食べるのは初めてだから、楽しみだ。
 リネはダンジョンにすぐに行きたそうにしながらも、僕たちが美味しいと言うお魚を食べてからでもいいかと納得してくれたようだ。

 まずは石を運ぼう。それぞれの場所には目印で、上空からも見える大きな旗が立てられている。現地には担当の司祭様が待っていてくれているそうなので、行って指示に従えばいい。
 再びリネに乗って飛び上がると、地上から大きく手を振る人たちが見えた。ユラカヒはタペラのあふれで街の中まで影響を受けたらしいけど、上空からはその痕跡は見当たらない。順調に復興が進んでいるようで、安心した。

 地図で示された方角へ向かっていくと、山肌がむき出しになっているところが見えてきた。あれが採石場だろう。大きな白い旗が見えたので、リネはそのそばに降りた。
 周りを見回すと、採石場なのに人がいない。石の周りにいるのは、司祭様と、この領の領兵だけのようだ。

「ユウさん、どうしました?」
「人が少ないなと思いまして」
「採石場で働くのは、ほとんどが犯罪奴隷ですので、神獣様のお目に触れぬよう下げています」

 こういうきついところで働くのは、犯罪で奴隷になった人が多いらしい。お給料がいいので、それを目当てに自分から働いている人もいるが、事故で命を落とす可能性も高いので、敬遠されるそうだ。
 でも、ダンジョンには戦闘奴隷もいるし、教会はそういう身分に関係なく接する組織だし、そんなことをリネもブランも気にしなさそうなのに、と考えていて、ある可能性に思い当たった。もしかしたら、僕たちに関わって奴隷にされた人がいるのかもしれない。
 僕がこの国に来てすぐ、ギルドと国は、僕に手を出せば、犯罪奴隷にしてあふれの対応で使うと宣言した。ただ、あふれは常に起きているわけではない。その間にこういう危険なところで働いているのかもしれない。だから、間違っても僕に文句を言えないように、ここにいないのかもしれない。
 そう考えると、アルの過保護に説明がつくのだ。アルを見ると、少し心配そうに僕を見ている。これは、当たりだろうな。
 どうしようか少し悩んだけれど、僕の想像が間違っている可能性もあるし、切り出し方も分からないし、伝えたところで何かが変わるわけでもないので、結局気づかないフリをすることにした。
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...