世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

文字の大きさ
上 下
141 / 181
閑話2

神獣様と一緒にダンジョン攻略! 3

しおりを挟む
 リネとアルが野菜ダンジョンに向かった後、僕は倉庫にある野菜を端から収納してまわった。
 リネがダンジョンに行ったことで、おそらくこの先もたくさん集まるだろうから、今ある分は全て東側に配るように変更になった。

 野菜を収納してしまうと僕にはやることがない。野菜の仕分け作業を手伝おうかと思ったけど、司教様に教会に戻ってほしいと言われて、大人しく従うことにした。

「アルと一緒にダンジョン行けばよかったかな」
『今は人が多いから、やめておけ』
「アル一人で大丈夫かなあ」
『もう慣れているだろう。あやつがいるのだから、心配するな』

 どちらかというと、リネがいるからこそ騒動が心配だけど、リネがいれば怪我をしてもすぐに治してもらえるからそういう意味では心配がない。
 今からだと攻略して帰ってくるのは明日になるだろう。教会の司教様たちもブランと僕を泊める部屋を急いで用意してくれているので、申し訳ない。
 ちなみに、アルは時間停止のマジックバッグを二つ使って、ダンジョン内の食事を入れている。ダンジョンに行くときはその片方を持っていき、もう片方は教会に置いておいて料理長が料理を詰めている。もちろんリネの好きなケーキやクッキーも入っている。リネとアルがいつダンジョンに行っても快適に過ごせるように、教会のサポート体制が整えられているのだ。

「何か協力してくれている冒険者に、お礼としてできることはないかな」
『ユウが気にする必要はない。あやつがダンジョンに行ったので十分だ』
「神獣様と共闘ということで、冒険者たちは満足すると思いますよ」

 共闘と言っても、リネは一緒に戦わないからそんなことでは満足しないだろうと思ったけど、それでも冒険者にとっては十分なのだそうだ。

「神獣様の倒したモンスターからドロップした品を拾った冒険者は、ギルドに買い取ってもらってそれを教会に寄付してくれますが、周りからは羨ましがられるそうですよ」
「そうなんですか」

 ダンジョン内でアルは大きくなったリネに乗って飛んで移動していて、その進路に現れたモンスターを倒しても通り過ぎてしまうのでドロップ品は残され、そのドロップ品を通りがかりの冒険者が拾う。通常ならそういうドロップ品は拾った人のものになるところを、相手が神獣なので買い取り金額分を寄付するそうだ。
 そんなので自慢になるのだろうかと思うけど、きっとそれは自慢するほどのことなのだ。一緒に戦えるかも、という情報だけでたくさんの冒険者がダンジョンに潜るほどの神獣という存在を一番理解していないのは、ブランに慣れすぎている僕なのだろう。

「あの、これ、時間停止の容量大のマジックバッグ、使ってください」
「ユウさん、それは受け取れません。以前に教会の寄付箱に入れてくださいましたよね。それで十分です」
「でも、あのたくさんのお野菜、このままでは配りきれないのでは?」
『ユウの厚意だ。受け取れ』
「ありがとうございます。では、今回の野菜を配る間だけ、お借りいたします」

 そのままずっと使ってもらって構わないけど、面倒なことがあるのなら貸し出しでもいい。いつか必要になるときのためにと、僕のアイテムボックスの中に入れているのだから、今がその必要なときだ。


 アルとリネは二日後、カボチャを手に入れて帰ってきた。

「リネ、すごく時間がかかったんだね。お疲れ様」
『だって、アルが寝ちゃうから』
「人間は寝ないと生きていけないんだ」

 最下層でカボチャがドロップしなかったので、出るまで何度も攻略したらしい。アルが最下層でドロップした野菜を並べて見せてくれているけど、どれも美味しそうだ。つやつやのトマト、鮮やかな色のパプリカ、ずっしりとしたダイコン、実の詰まっていそうなカボチャと、季節関係なく色とりどりで視界がとても健康的だ。
 司教様も一緒に眺めていると、リネが早く帰ろうと催促し始めた。早く帰ってパンプキンパイが食べたい、と羽根をバタバタさせている。そこには神獣の威厳などなくて、わがままで食いしん坊な可愛い鳥だ。

『早くー』
「分かった、分かった。だが、ちょっと待ってくれ」
「リネ、チーズケーキ食べる?」
『食べる!』

 ダンジョンから戻ったばかりでアルも一息つきたいだろうから、チーズケーキでリネの気を紛らわせて、ゆっくり帰ろう。
 そんな中でブランは我関せずと、僕の足元でだらけている。なんだかこの教会の司教様たちの信仰心を揺らがせてしまいそうで、僕のほうが不安になってくる。

 その後リネは、中央教会に帰り着くと、小さくなった鳥の足でカボチャをつかんで、料理場へと飛んでいった。
 後から聞いたら、料理長にパイを頼み、出来上がるまで横でずっと見ていたそうだ。たしかパイ生地って層にするために何度も折り返すんじゃなかったっけ。きっと見張られていた料理長はやりにくかっただろうなあ。
 出来上がったパンプキンパイは僕ももらったけど、甘くてとても美味しかった。

 目的である野菜は、無事に全国の孤児院へと分配され始めている。
 僕たちが帰った後は、日持ちのする根菜を中心に集めて、寄付も続いているそうだ。本当の理由は違うけど、神獣様が対策に乗り出したという噂が広がったので、冒険者たちも協力的なんだとか。それを受けて、今後大規模な炊き出しが必要になったときのためにも、常時根菜を集めておくことも検討されているらしい。今回は水害だったけど、二百年周期に入った今、あふれの影響で収穫量が落ちることも考えられる。僕のアイテムボックスの活用も提案してみよう。


――――――――

ハロウィンなので(?)、かぼちゃのお話でした。
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

処理中です...