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続 3章 ドロップ品のオークション
13-6. 引退後の計画
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僕たちのやりたいことを、整理しよう。
「アルは、世界を見てみたくて、冒険者になったんだよね」
「そうだ」
「じゃあ、アルの一番やりたいことは、旅かな?」
「そうなるが、モクリークの外は難しいだろう」
「どうだろう。リネがいたら行けるかも? 方法は今後考えるとして、他には? 他にやりたいことはないの?」
「思いつかない」
アルは昔、望むことが苦手なのだと言っていた。問題のある孤児院で育って、何かを望んでも手に入れることはできなかった。だから、諦めることに慣れて、それが普通だと思っている。
「何かやりたいことができたら教えて」
「特にない。ユウのそばにいられれば、それでいい」
「やりたいことは、新しくできてもいいし、変わってもいいんだよ。だから、何かやりたいことができたら教えてね」
分かったと言いながらも、アルはあまり興味がないようだ。僕はやりたいことがたくさんあるから、アルが現状に不満を持っていないことに安心していいのかどうかがよく分からない。でもあまり聞くのも問い詰めているみたいで気が引けるから、いつかアルから言ってくれるまで待つしかない。
僕たちを取り巻く環境が特殊すぎて、ソマロさんとキリシュくんのように将来はこうしようという具体的な約束はできそうにないけれど、ずっと一緒にいたいという想いは変わらない。アルもそう願ってくれていて、でも僕たちがそれぞれ別のことをするようになったことで不安に感じていたと分かっただけで、僕の気持ちも少し落ち着いた。
そうすると、現実的にできることじゃなくても、やりたいことに想像が膨らむ。
「じゃあさ、できるかどうかは置いておいて、冒険者を引退したら他の国へ旅に出ようよ。リネの訪問を歓迎してくれる教会に限定されちゃうかもしれないけど、それでも十分楽しそうだよ」
「引退したら、リネとの契約はどうなるのか分からないが」
そういえば、リネとはアルがダンジョンに潜っている間の安全を確保するという契約だった。ということは引退したら契約は終わるかもしれない。そうなっても、美味しいものが食べられるなら、今アルが教会にいるときにどこかに出かけては帰ってくるように、リネはどこかへふらっと行っても、僕たちの周りに帰ってくる気がするけど。大司教様にも懐いているし、きっと教会をいくつかある定宿の一つくらいには思ってくれそうだ。
「馬車での遠出も楽しそう。僕たちも行商人をしてみる?」
「ユウのアイテムボックスがあれば、可能だな」
うきうきと将来の話を始めた僕と違って、アルは冷静だけど、でも優しい目で見守ってくれている。
モクリークとドガイ以外の国へ行くことができるかは、分からない。二百年周期が落ち着いていなければ、僕がモクリークを出ることは現実的には不可能かもしれない。今はリネがいるから、神獣の契約者としてアルの機嫌を損ねるようなことはされないと思うけど、神獣を手に入れたいと目論む国があれば、アルに何かされる可能性だってある。それでも、アルと将来の話をしているということ自体がとても楽しい。
思い出してみると、アルが襲撃される前は、ダンジョンのセーフティーエリアでゆっくり時間があったから、他愛もない話をたくさんしていた。でも今はお互い離れていた間に何をしていたかの報告がメインになって、必要のないことをあまり話していなかったように思う。
そうなるとやっぱり、ダンジョンに復帰したい。
「来年の春からは、アルと一緒にダンジョンに行きたい」
「ずっとか? 教会の手伝いはやめるのか?」
『最初はときどきにしておけ』
体力のない僕が、いきなりフルタイムで復帰するのは無理だと、ブランだけでなくアルにも止められてしまった。
「でも前のように一緒に行動して、セーフティーエリアで話をしたりしたいよ」
「ユウ、寂しいならそばにいるから、無理はするな」
「してないよ」
「焦るな。少しずつにしよう」
僕はそんなに無理をしているように見えるんだろうか。去年の冬季合宿のカークトゥルスも問題なく終わったし、リネが来なければ少しずつダンジョンに復帰していく予定だったのだから、大丈夫だと思うんだけどなあ。
『また熱を出すぞ』
「そんなことは……、ないとは言えないけど、あるかもしれないけど、でも行きたい」
「ティガーの奴らが王都を訪ねてきたら、一緒にダンジョンに行くか」
「行く!」
アルがモクリークのダンジョンで会ったときに中央教会を訪ねてほしいとお願いしてくれたらしいから、そのうち会いに来てくれるはずだ。僕がティグリス君と一緒のダンジョン攻略に前のめりになったので、ブランがため息をついている。尻尾がびたびたと床を叩いているけど、それはどういう主張なのかな? 加護をあげたティグリス君と会えるのが嬉しいってことでいいよね?
ブランとリネとティグリス君のもふもふパラダイスを想像して胸を躍らせている僕は、ブランの機嫌が悪くなったことには気づかないふりをした。その一方で、ダンジョン復帰について、アルにうやむやにされたことには気づけなかった。
「アルは、世界を見てみたくて、冒険者になったんだよね」
「そうだ」
「じゃあ、アルの一番やりたいことは、旅かな?」
「そうなるが、モクリークの外は難しいだろう」
「どうだろう。リネがいたら行けるかも? 方法は今後考えるとして、他には? 他にやりたいことはないの?」
「思いつかない」
アルは昔、望むことが苦手なのだと言っていた。問題のある孤児院で育って、何かを望んでも手に入れることはできなかった。だから、諦めることに慣れて、それが普通だと思っている。
「何かやりたいことができたら教えて」
「特にない。ユウのそばにいられれば、それでいい」
「やりたいことは、新しくできてもいいし、変わってもいいんだよ。だから、何かやりたいことができたら教えてね」
分かったと言いながらも、アルはあまり興味がないようだ。僕はやりたいことがたくさんあるから、アルが現状に不満を持っていないことに安心していいのかどうかがよく分からない。でもあまり聞くのも問い詰めているみたいで気が引けるから、いつかアルから言ってくれるまで待つしかない。
僕たちを取り巻く環境が特殊すぎて、ソマロさんとキリシュくんのように将来はこうしようという具体的な約束はできそうにないけれど、ずっと一緒にいたいという想いは変わらない。アルもそう願ってくれていて、でも僕たちがそれぞれ別のことをするようになったことで不安に感じていたと分かっただけで、僕の気持ちも少し落ち着いた。
そうすると、現実的にできることじゃなくても、やりたいことに想像が膨らむ。
「じゃあさ、できるかどうかは置いておいて、冒険者を引退したら他の国へ旅に出ようよ。リネの訪問を歓迎してくれる教会に限定されちゃうかもしれないけど、それでも十分楽しそうだよ」
「引退したら、リネとの契約はどうなるのか分からないが」
そういえば、リネとはアルがダンジョンに潜っている間の安全を確保するという契約だった。ということは引退したら契約は終わるかもしれない。そうなっても、美味しいものが食べられるなら、今アルが教会にいるときにどこかに出かけては帰ってくるように、リネはどこかへふらっと行っても、僕たちの周りに帰ってくる気がするけど。大司教様にも懐いているし、きっと教会をいくつかある定宿の一つくらいには思ってくれそうだ。
「馬車での遠出も楽しそう。僕たちも行商人をしてみる?」
「ユウのアイテムボックスがあれば、可能だな」
うきうきと将来の話を始めた僕と違って、アルは冷静だけど、でも優しい目で見守ってくれている。
モクリークとドガイ以外の国へ行くことができるかは、分からない。二百年周期が落ち着いていなければ、僕がモクリークを出ることは現実的には不可能かもしれない。今はリネがいるから、神獣の契約者としてアルの機嫌を損ねるようなことはされないと思うけど、神獣を手に入れたいと目論む国があれば、アルに何かされる可能性だってある。それでも、アルと将来の話をしているということ自体がとても楽しい。
思い出してみると、アルが襲撃される前は、ダンジョンのセーフティーエリアでゆっくり時間があったから、他愛もない話をたくさんしていた。でも今はお互い離れていた間に何をしていたかの報告がメインになって、必要のないことをあまり話していなかったように思う。
そうなるとやっぱり、ダンジョンに復帰したい。
「来年の春からは、アルと一緒にダンジョンに行きたい」
「ずっとか? 教会の手伝いはやめるのか?」
『最初はときどきにしておけ』
体力のない僕が、いきなりフルタイムで復帰するのは無理だと、ブランだけでなくアルにも止められてしまった。
「でも前のように一緒に行動して、セーフティーエリアで話をしたりしたいよ」
「ユウ、寂しいならそばにいるから、無理はするな」
「してないよ」
「焦るな。少しずつにしよう」
僕はそんなに無理をしているように見えるんだろうか。去年の冬季合宿のカークトゥルスも問題なく終わったし、リネが来なければ少しずつダンジョンに復帰していく予定だったのだから、大丈夫だと思うんだけどなあ。
『また熱を出すぞ』
「そんなことは……、ないとは言えないけど、あるかもしれないけど、でも行きたい」
「ティガーの奴らが王都を訪ねてきたら、一緒にダンジョンに行くか」
「行く!」
アルがモクリークのダンジョンで会ったときに中央教会を訪ねてほしいとお願いしてくれたらしいから、そのうち会いに来てくれるはずだ。僕がティグリス君と一緒のダンジョン攻略に前のめりになったので、ブランがため息をついている。尻尾がびたびたと床を叩いているけど、それはどういう主張なのかな? 加護をあげたティグリス君と会えるのが嬉しいってことでいいよね?
ブランとリネとティグリス君のもふもふパラダイスを想像して胸を躍らせている僕は、ブランの機嫌が悪くなったことには気づかないふりをした。その一方で、ダンジョン復帰について、アルにうやむやにされたことには気づけなかった。
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