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続 2章 新たな日々

12-8. アイテムボックスの整理

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 僕のアイテムボックスの中には、ギルドに買い取ってもらえなかったドロップ品が大量にある。
 通常冒険者は、荷物に限りがあるので厳選したドロップ品だけを持って帰る。そのほかのドロップ品はダンジョンに放置され、やがて吸収されてしまうか、場合によっては通りがかった冒険者が拾うこともある。けれど僕のアイテムボックスには多分限りがないので、もったいない精神を発揮して全てのドロップ品を拾ってきた。僕の戦闘訓練をする上層以外では、僕にはドロップ品を拾う以外にすることがないというのも原因の一つだった。

 その、たまりにたまったドロップ品を、教会に寄付することにした。
 僕は一度、もうアイテムボックスは使わないと宣言したことがある。アルが僕のスキルのせいで襲撃されて大怪我をしてしまったので、そのときはもう二度と使いたくないと思っていた。けれど気持ちが落ち着いてくると、中にあるドロップ品がちょっともったいないなあと思ったりもしていた。どこまでいっても庶民感覚は抜けないものらしい。
 タンスの肥やしならぬ、アイテムボックスの肥やしになるくらいなら、活用してほしい。

 教会には一生かかっても返しきれない恩がある。襲撃で心のバランスを崩してしまった僕を、たとえ国と対立することになっても守ろうとしてくれた。それはブランが僕を守ってくれているからで、教会にとってはブランの意向が何よりも重要なことなんだろうけど、一般人である僕には有難くもあり、心苦しくもあった。
 それで、何か教会にお礼が出来ないかなと考えて、アイテムボックスの中身を寄付することを思いついた。と言っても、あのドロップ品はブランとアルが倒したモンスターが落としたものだ。

「教会にお世話になっているお礼に、アイテムボックスの中で眠っているドロップ品を寄付しようと思うんだけど、いいかな?」
「いいと思うが、魔剣もか?」
「魔剣はやめておいたほうがいいよね」
「そうだな。万が一、リネの契約の対価が魔剣だと知られたら、争奪戦が起きそうだ」

 現在魔剣は、リネの契約の魔剣を除いても、使っていないものが二本ある。魔剣はブランがいないと出なかったけれど、多分リネが行っても出るだろうから、今後も増えるかもしれない。売れないものが増えていきそうだ。

「ブランもいい? ほとんどはブランの戦利品だけど」
『旨い肉以外は好きにしろ』

 あいかわらず食いしん坊のもふもふだ。
 僕のアイテムボックスはフォルダ分けができるようになっているので、ブランお気に入りのドロップ品の食材は、ブランのお肉フォルダに入っている。ドロップ品には全く興味を示さないブランも、お気に入りのお肉については在庫をちゃんと覚えているので、油断ならない。

 ドロップ品の本来の所有者であるブランとアルの許可ももらえたので、ドロップ品は寄付することにしよう。


 教会の計算の授業のお手伝いをした帰り、馬車の中でツェルト助祭様に寄付のことを伝えた。

「買い取ってもらえなくて、アイテムボックスの中にあるドロップ品を、教会に寄付したいと思ってます」
「それは大変ありがたいことですが、どれくらいあるんでしょうか?」
「たくさん?」

 全てを数えていないから分からないけれど、武器だけでも何百本とある。一度に市場に流すと値崩れしそうだから、その辺りは良い感じにしてほしい。大変申し訳ないんだけど、僕にはよく分からないので、全てお任せしたい。

 ツェルト助祭様に伝えたその日の夕食前に、チルダム司教様が部屋に来てくれた。行動が早いな。

「ドロップ品を寄付していただけると聞きましたが」
「はい。ずっとアイテムボックスの中で眠っているので、活用してもらえると嬉しいです。でもギルドで買い取ってもらえなかったものが中心なので、役に立ちますか?」
「まずは見てみないことには、なんとも言えません。たくさんあるということですが、どれくらいでしょう?」
「この部屋が三つは必要なくらいでしょうか」

 ドロップ品は、武具を除けば、片手で持ち運びできる小さいものが多い。それでも数がとにかく多いので、きれいに並べようと思ったら複数の部屋が必要になりそうだ。
 予想よりも多かったようで、まずは何がどれだけあるのか、把握することから始めることになった。


 数日後、案内された向かった会議室には、おなじみのギルドマスターがいた。ドロップ品ということで、専門家であるギルドに来てもらったらしい。冒険者たちの買取料金に影響が出ないような方法も考えないといけない。
 そのギルドマスターは、挨拶の後、当然のようにブランに貢物を出している。このやり取りにもお互い慣れてしまったので、もはや僕を通さず直接やり取りしているのが、ちょっと面白い。

「お気に入りの屋台で新作の味が出ていましたので、買ってみました」
『(こやつ、気が利くな)』
「ちょっと、ブラン、お礼を言う前に食べないでよ。いつもありがとうございます」

 司教様たちが苦笑しているけど、神獣としての威厳はどこに行ってしまったんだろう。
 リネが現れたことで、ギルドマスターはブランの正体に気づいたんじゃないかとアルが言っていたけど、変わらず従魔として接してくれるようだ。本来なら神獣であるブランやリネへの個別の貢物は受け取ってはいけないけど、司教様たちも以前からのやり取りだと知っているので見逃してくれているんだろう。

「それで、ドロップ品を寄付されると聞きましたが、何がどれくらいあるのでしょうか?」
「武器や防具が多いです。あとは宝石などの装飾品、それからポーションとか、日用品も少しは」

 アイテムボックスの中を見ながら、籠手が何個、胸当てが何個、と読み上げていく。今日のために、寄付に出すものを整理して、寄付フォルダにまとめたのだ。そうすると、自動的に同じ種類のものはまとめて数を見ることができる。
 ちなみに、日本での生活でなじみがなかったものの数え方は分からない。武具なんて特にどう数えていいのか分からないけど、問題なく通じているようなので、翻訳機能が上手いこと訳してくれているのかもしれない。
 もしものときのためにと売らずにいろいろため込んだものも、この機会に手放す。きっとそのもしものときが来るまでに、また手に入れることができるとアルとブランに説得されたのだ。
 怪我を治すとか、魔力を回復させるようなポーションは全てアルのマジックバッグに入っているけれど、病気を治すようなポーションは僕のアイテムボックスに入っている。でもリネがいる今、ポーションはいらないから必要な人に活用してもらうことになった。

「装飾品や良い武具は、他国の商人も集めてオークションにしてはどうでしょうか。ブロキオン下層の剣であれば、大量に出品されても、冒険者の買い取りに影響はありません」
「他国に剣が流れることになりますので、事前に国に許可は取ったほうがいいでしょうね」

 話し合いの結果、あまり価値のない武具以外は行き先が決まった。
 価値の高いものは全てオークションへ、それ以外の、日用品や食材は各地の孤児院へ、ポーション類は研究のために薬師ギルドへ。
 問題は大量にある剣を含めた武具だ。自分は使わないのに、せっせと拾ってしまったブロキオンの剣が大量にある。特に上層の剣は僕が大量に市場に出すと、駆け出しの冒険者の稼ぎがなくなってしまうので、最初からギルドは買い取ってくれなかった。それでもドロップ品として転がっていると拾ってしまうので、大量にアイテムボックスの中に眠ることになった。

「孤児院の子たちが冒険者になるときに、装備としてあげることは出来ますか?」
「教会としては有難いですが、ギルドマスター、問題はありませんか?」
「そうですね……。ギルドで初心者講習から半年は無料で貸し出す、というのはいかがですか? 孤児院の子ども以外にも、武器を用意できない子がいますので」

 それはいいかも。僕もテシコユダハで受けた初心者講習だけど、自分専用の武器を持っている人は少数派だった。キリシュくんたちも、初心者講習の先生にアドバイスをもらって武器を買っていたけど、そのお金は親からもらったものだと言っていた。最初は登録料も必要だし、テントや寝袋も買わないといけないし、それなりにお金がかかる。その全てを用意できる家ばかりではないだろう。
 持ち逃げ等の対策は必要だろうけど、この国でギルドを敵に回して冒険者として生きていくのはとても大変だろうし、他国へ逃げようとしても魔物に襲われる。

 残ったのは、中堅どころの冒険者や軍の兵士が使いそうな質の武具だ。
 これも冒険者の大事な稼ぎの種なので、まだ当分僕のアイテムボックスで眠ることになった。大規模なあふれが起きた場合に、武器が足りなくなる可能性もあるから、その時には提供してほしいそうだ。今回の趣旨には反するけど、そんな事態が来ないでずっとアイテムボックスの肥やしになっていてくれることを祈ろう。
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